049「カノコ、気持ちを整理する」
カラオケが終わった後、私たち五人はカラオケ店の前で解散した。
ハイヤーを呼んだというマアヤに、帰る方向が同じだというヤスエとレオナが便乗し、三人が元町駅の方へ行くのを見送ったあと、私と木村くんは、少しだけ寄り道をすることにした。
「ハイ、豚まん六個と焼売二つのお客さん!」
「あっ、私です!」
「豚まん二つと、餃子のお客さんは?」
「僕です。ありがとう」
せっかく元町界隈まで足を延ばしたということで、三宮一貫楼本店で、家族へのお土産を買って帰ることにしたのだ。本店以外にも、三宮駅前や神戸空港にも店舗があるんだけど、一貫楼と聞くと、私は、元町駅に程近いこのお店をイメージする。きっと小さい頃から、旧正月だ、ルミナリエだといってお母さんに連れ回され、ヘトヘトになった挙句に、最後に夕食のおかずに買って帰るというのが、一種のルーティーンになっていたからだろう。
ショーウィンドウ越しに実演販売しているところは変わらないが、豚まんの中にタケノコや椎茸がゴロゴロ入っていた気がするし、看板はオレンジ色で、ポップなローマ字とイラストに変わっていた。以前は、いかにも昭和の中華料理店って感じだったのに。
「なんだか、ずいぶん可愛くなった気がする」
「僕も、同じことを考えてました。前は、蒸篭を持った子豚が、目を回してませんでしたか?」
「あっ、そうそう。そんな絵があった」
「若い女性客を取り込もうという戦略なんですかね。立ち寄りやすくなったのは、良いことだと思いますけど」
そのまま元町駅へ行くとハイヤー待ちの三人に合流してしまうかもしれないので、私たちは、そこから三宮センター街を抜け、ひと駅分、歩くことにした。
神戸に来るのも十年ぶりなら、センター街に来るのも十年以上前だ。当たり前だが、商店街の様子も、十年前とは大きく変化している。輸入雑貨の古いお店があると思ったら、隣に、新しくタピオカドリンクのバーがオープンしているといった具合だ。ちぐはぐで統一感がなくガチャガチャしているが、こういうところが商店街の良さだと思う。大型ショッピングモールをくさすわけではないけど、キレイに整い過ぎていないカオスなムードが、奥にどんなお店があるのだろうという気にさせ、ちょっと寄り道してみようかという好奇心を誘うのだ。
「あっ、そうだ。レオナが居ない隙に、カフェで言ってたスピーチ動画と、ユーチューブのチャンネルを教えたいんですけど」
「えーっと、どうすれば良いのかな?」
「あとで両方のURLを送るので、今は、動画ファイルを開くカギをメモしてもらえますか?」
「メモね。ちょっと待って」
神戸三宮駅に着いた私たちは、四号線で柱の上から吹き付ける冷風に当たりながら、列車が来るのを待っていた。メモを取ったのはホームの上で、私がリングメモをボールペンを取り出した瞬間、木村くんは片手の甲を口元に当ててプッと吹き出した。どうやら、スマホを出すと思っていたようだ。
メモを取り終えたタイミングで、落ち着いたマルーン色の列車が入線してきた。学校は夏休みだが、夕方ということもあって、会社勤めの人たちで少しだけ混雑していた。
「動画が開かなかったら、連絡ください。今日は、楽しかったです」
「私も、なんだかモヤモヤがスッキリしちゃった。またね」
岡本駅で降りた私は、そのまま十三まで乗っていくという木村くんとドア越しに別れを告げた。
今日一日、かつての同級生と歓談したことで、忘れていた過去の自分を思い出すことが出来たし、未来の自分の理想像というものも、朧気に見えてきた気がする。きっと今なら、迷いなく新たな仕事を探せるんじゃないかな。
「でも、その前に部屋を片付けよう」
心の中に乱雑に積み重なっていた想い出が整理されたことで、要る物と要らない物を分類しやすくなり、この日の深夜には、見違えるほど部屋がスッキリした。




