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042「カノコ、常識を疑う」

 JR線で西へ向かうこと九つ目。神戸市営地下鉄線との連絡地点でもある新長田駅へ到着した。ここから伯母さんのスナックがある大正筋商店街までは、傘を差さずに行ける距離にある。アーケードを歩けば、オシャレなカフェがオープンする一方で、昭和レトロな呉服店や茶園、タバコ屋さんもあるという、バラエティーに富んだ商店街であることが容易にうかがい知れる。

 だが、今日は直行せずに、若松公園に立ち寄っている。両足で力強く踏ん張り、天に向かって拳を突き出すポーズの鉄人28号の周りを、トウマくんは興味津々でグルグルと見て回っている。足の周りで歩幅を揃えて数えたり、影がどこまで伸びているか確かめ、頭の部分の影に立ってみたりしているトウマくんを見ていると、きっとお姉ちゃんからの理系の血が流れているのだろうなぁという予想が立ってきた。

 

「トウマくん! そろそろお店に行くわよ」

「はーい! じゃあね、てつじん。しょうたろうくんに、よろしく!」


 いい塩梅で待ち時間が消化できたので、そろそろスナックへ移動することに。

 もしも区の都市整備課が配置したならば、絶対に隣り合わせにしないだろうといえるお店の並びに、トウマくんは大いに好奇心を刺激されたようで、店先に並ぶ売り物や立て看板を指差しては、次から次へと疑問を投げかけてきた。学習意欲を削いではいけないので、なるべく私は、少ない知識と知恵を絞り、答えや考えを伝えるようにした。まぁ、仏具を見て、アレは何に使うのと訊かれた時は、さすがに答えに窮したけれども。アレが何だったのかは、私が知りたいくらいだ。

 

「あっ、またくつやさんだ!」


 長田は靴の街として栄えた歴史があり、長年、神戸市民の足元を支えてきた。ここから北へ上がったところには、大きなハイヒールが目印のシューズプラザという場所もあり、どこかケミカルシューズ発祥の地としての誇りを感じることができる。

 伯母さん曰く、震災前の長田界隈は今とは比べ物にならないくらいに人が溢れ、大いに賑わっていたそうだ。まぁ、想い出補整も多分に含まれているだろうけど、高度成長期もバブル期も経験のない右肩下がり世代にとっては、なんとも羨ましい話だ。

 現在は、決して閑散としているとは言わないが、日曜日なら、もうちょっと人影があっても良いのになぁと感じなくもない程度の混み具合だ。これはこれで、消費者としては都合が良い気がしなくもないが、商店街としては、もっと活性化してほしいと思っていることだろう。

 なんてことをツラツラ考えていると、伯母さんの店へ辿り着いた。トウマくんは、店前に置いてあるピンクと紫の看板を見て、首を捻った。


「ここは、おかしのおみせなの?」


 あっ、そうか。スナックとは何かを説明するのを、すっかり忘れていた。

 大人にとっては常識として知っていることでも、子供にとっては未知の世界であることが少なくない。常識の穴を教えてくれるのは、いつだって子供なのだ。

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