004「カノコ、季節外れの大掃除をする」
神戸市ごみ指定袋、家庭用、燃えるごみ45L。
目つきの悪い豚とともに赤文字でそう書かれた水色の袋は、部屋の掃除開始から二時間あまりで、三つもいっぱいになった。
この他にも、使わなくなった美容用品や健康器具を燃えないごみの袋に入れたり、読まなくなった本や雑誌ビニール紐で十字に縛っては、庭の物干し場の横に据え付けてある物置へと移動させていった。
すると、まだまだ邪魔な物は多いものの、なんとか折り畳んだベッドを広げるスペースが出来た。
「あとは、掃除機を掛けて、布団を運び込めば寝られるな。あぁ、あっつ!」
大掃除は、やはり冬にやるべきだ。七月も下旬に入ったこの蒸し暑い時期にすると、バンダナや軍手は汗でぐっしょりと湿り、エプロンの下のTシャツは肌に張り付き、なんとも不快極まりない。
「トントントン。どなたですか。ピチピチプルプルな美人のママです。お入りください。ありがとう」
「何の小芝居なのよ。ノックまで口で言ったりして」
振り返ると、千鳥屋宗家の紙袋を持ったお母さんが立っていた。いつの間に、駅前まで行ってきたのだろうか。
「だって、ドアどころか窓まで開けっぱなしじゃない。部屋のお掃除は、まだ掛かるでしょう? ひと息入れなさい。アキコとトウマちゃんもいるんだから」
「分かったわ」
階段を下りながら、お母さんに紙袋の中身を訊ねたところ、さぶれだという答えが返って来た。箱の大きさを予想するに、きっと十枚入りだろう。
「早く何とかしたい気持ちは分かるけど、あんたは生き急ぎ過ぎよ。少しは上手に休むことを覚えなさい」
「うるさいなぁ。仕事中毒は、お母さんの遺伝よ」
「そんなことないわ」
「いいや、そんなことある」
下らない言い争いをしながら階段を降り、一階の廊下に着く頃には別の話にすり替わっていた。
「揚げせんべいといえば、ぼんち揚よ」
「いいえ、断然、満月ポンです」
「おにぎりせんべいも、おいしいよ?」
梅野家階段論争は、トウマくんの第三者意見によって休戦した。
そういえば、高校時代にお母さんとの仲がギスギスしてた時は、よくお父さんが調停役になってたっけ。
あれから倍近く歳を取ったというのに、中身はあんまり変わってないなぁ。