038「カノコ、迷子を助けることにする」
支払方法やら、工事の段取りやら、保証の内容やら。購入後に必要なアレコレはお義兄さんが引き受けてくれることになったので、私とトウマくんは、先に一階へと降りてきた。
ここへ到着した時は、あれほど有難かった冷房も、長時間当たっていると気化熱で体温が奪われ、身体が冷えすぎてしまうものだ。大人でさえ、そうなのだから、いわんや子供をや。トウマくんは、店内で二度三度くしゃみをしていた。
「カノコおねえさん、こっち、こっち!」
「待って、トウマくん」
一階には海を望める広場があり、噴水や遊具もあるので、子供を遊ばせておくには、ちょうど良い。他にも、長さが世界一だという、うんていもあるが、この暑さで鉄に掴まる気になれないせいか、そちらは誰も遊んでいない。いい天気だから、バスタオルを大量に干して乾かせそうだ。
カンカン照りというわけではなく、オーシャンサイドなので、潮風が吹いて気持ちよい。ただ、南側に日差しを遮るものが無いので、あまり長居していると、クリームが汗で流れてしまわないか心配になってくる。夏の過ごし方というものは、なかなか難しい。化けの皮が剥げそうになったら、びっくりドンキーへ移動しよう。
「じゅってんれい! ――あれ? ねぇ、カノコおねえさん」
「どうしたの、トウマくん」
「あのおんなのこ、なにしてるのかな?」
すべり台を滑り降り、最後に体操選手のような決めポーズをとったトウマくんが発見したのは、パンダのぬいぐるみを持った、トウマくんと同い年くらいの女の子だった。両手でギュッとぬいぐるみを抱えながら、不安そうに誰かを探している。
その姿を見て、私は直感的に迷子だと気付いたのだが、声を掛けるのをためらってしまった。それというのも、このご時世、もし、百パーセント親切心で迷子に声を掛けたとしても、それを見掛けた保護者に、誘拐だと誤解されるおそれがあるからだ。
だから、早く保護者に見付かってほしいと遠巻きに祈るしかなかったのだが、トウマくんは違った。
「たぶん、お父さんかお母さんと、はぐれちゃったんじゃないかな」
「じゃあ、早く見付けてあげなくちゃね! おーい!」
「あっ、ちょっと。トウマくん!」
私が止める間もなく、トウマくんは迷子の女の子に近付き、フランクにやぁと話し掛けた。女の子は人見知りをするタイプのようで、最初のうちはトウマくんの登場に驚いていたが、そのうちポツポツと言葉を返すようになってきた。
しばらく二人を眺めていると、トウマくんは、何度か質問をしたのち、女の子の手を引いて私の方へやってきた。
「ヒマリちゃん。このひとは、カノコおねえさん」
「こんにちは、ヒマリちゃん。今日は、お買い物かな?」
「うーんと、あのねぇ……」
目を泳がせながら口篭もってしまったヒマリちゃんに、すかさずトウマくんは助け舟を出した。
「ヒマリちゃん、おばあちゃんといっしょにきたんだって」
「へぇー、そうなんだ。おばあちゃんは、どんな人かな?」
「えーっとね。あたまが、はんぶんくらいむらさきで、キラキラしたゆびわをしてるの」
なるほど。白髪をパープルに染めていて、綺麗なリングをはめている人か。目立ちそうだから、居たらすぐ見つかるだろう。
そう思って再び二階へ上がると、テラスの向こうからド派手な女性が走ってきた。こちらも子供連れだったことから、あらぬ誤解をされることも無く、それどころか、御礼にと言ってジュースとウーロン茶までごちそうになった。
それから、お義兄さんがやって来るまで少しだけ話したのだが、どうやら、ダイソーでの買い物中に、飽きてしまったヒマリちゃんが勝手に店の外へ出て行ってしまったのが、迷子になった原因だったようだ。
「いっしょにいなきゃ、だめだよ。おばあちゃん、しんぱいしちゃうから」
「うん。もう、しない」
大人になると、色々と考え込んでしまい、誰かに手を差し伸べるのを躊躇ってしまいがちだ。でも、それではいけないんだということを、今日のトウマくんの行動で教えられた気がする。




