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021「カノコ、ノックを忘れる」

 昼食を食べ終わり、リビングでトウマくんと全国区のお昼のバラエティー番組を見ていると、司会者のコメントに対して「このおじちゃん、かしゅだったの?」と訊かれた。そのおじちゃんは、その昔、コンビでゴールデンタイムに冠番組を持ち、コントをやったり、裸で踊ったりしたかと思えば、落語や狂言に挑戦するという、とにかく、色んな意味で凄い芸能人なのだ。そう言ってやりたい気持ちは山々だったが、五歳児には理解できないのだろうと思ってやめた。

 カメラが報道フロアに切り替わり、ニュースで五輪での日本人の活躍ぶりを伝え始めた頃、お母さんからメッセージが届いた。


セツコ:コーンフレークやないか

カノコ:ミルクボーイ?

セツコ:コーンフレークとちやうがな

カノコ:用件は何? 話の筋がさっぱり読めないんだけど

セツコ:しばらくかえれないからパンたべていいゆ


 なんだ、食パンのことを気にしてたのか。せっかく買ったのに、もったいないなぁ。


「カノコおねえさん。おへやであそんでてもいい?」

「いいわよ。私も部屋に戻るから、一緒に行きましょう」


 トウマくんと私はソファーから立ち上がり、仲良く二階へと移動した。

 部屋に戻った私は、明日の予定をトウマくんに伝え忘れていることに気付き、慌ててトウマくんの部屋に入った。


「わっ。どうしたの? ノックしてよ」


 図書館で借りたであろう本を開きながら、トウマくんは太めの毛糸を指に掛けた状態で手を止め、顔だけこちらに向けた。


「ごめんごめん。明日のことを言ってなかったと思って」

「あした、なにかあるの?」

「明日、お姉さんは珈琲館へ行くの。そこで、お友達と大事なお話をするんだけど、帰りが何時になるか分からないから、一緒に来てほしくて。珈琲館へ行ったことはある?」

「ある。でも、いくとき、うみのほうからにしてね」

「海の方って?」


 なんてことはない話だ。阪神間は、北に六甲山が聳え、南は瀬戸内海に面している。その関係で、北を山側、南を海側と呼ぶのだが、海の方からというのは、家から珈琲館へ向かう際に、川沿いに南から北上するルートにして欲しいという意味だった。

 わざわざ北から南下するルートを取るのは遠回りなので、断らなくても良さそうなものなのだが、何かメリットがあるのだろうか? 


「だって、うみのほうからだと、でんしゃがみえるでしょ?」


 理由を訊いてみると、単純明快だった。トウマくんは、電車が好きなのか。覚えておこう。

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