020「カノコ、コテ名人に称される」
トウマくんが、もしかめを三往復半させるのに成功したところで、昼前の涼しいうちに買い物を済ませることにした。
向かった先は、摂津本山駅の南口から国道二号線へ向かって下りて行く途中にある、フレッシュフード・モーリ。店名の通り、お肉や野菜などの生鮮食品を扱うスーパーマーケットである。
「きょうは、なにかうの?」
「豚の薄切りとキャベツ、それから、削り節もあった方が良いかな」
「わかった。じゃあ、キャベツもってくるね」
駐車場が併設されていることもあり、いつも多くの買い物客で賑わっている。トウマくんは、時おり英語や中国語で会話するお客さんたちの隙間をすり抜け、野菜売り場の方へ向かって行った。
五分ほど後、パック詰めされた豚肉から新鮮そうな物を選んでいると、トウマくんが戻ってきた。バランスを取りながらキャベツを頭に載せていたのは、予想外だったけど。
「はっはっは。われわれは、キャベツせいじんであーる」
「はいはい。危ないから、食べ物で遊ばないでね」
それからレジに並んで精算を済ませて家に戻ると、時計は十二時を回ろうとしていた。キッチンでエプロンを着け、小麦粉やボウル、ホットプレートなどを用意して調理を開始しようとすると、ミッフィーのエプロンをしたトウマくんがやってきた。
「さぁ、せんせい。きょうのおりょうりは、なんですか?」
なるほど。今度は、お昼の料理番組の真似か。なんとも芸達者な子である。
「今日は、お好み焼きを作りたいと思います」
「ほぉ、おこのみやきですか。カノコせんせいは、コテめいじんですからね」
コテ名人とは? ヨイショにしても、よく分からない称号を与えるものだ。
「まず、半分に切ったキャベツを千切りにします」
「キャベツ、はんぶんです」
「千切りにしたキャベツをボウルに移し、小麦粉、卵、粉末のだしスープを加え、軽く混ぜ合わせます」
「たまごは、さんこ、だしは、ヒガシマルです」
ボウルを持ってホットプレートの前へと移動すると、トウマくんもついてきた。菜箸をお玉に持ち替え、調理を続ける。
「ホットプレートが温まったら、油を引き、お玉で生地を掬い、具材を潰さないように丸く広げます」
「せんせい。ホットプレートがない、ごかていは?」
「その場合は、フライパンで代用してください。生地を広げたら、その上に豚肉を載せます。熱が通ってきたら、ひっくり返します。ここで、コテの登場です」
「よっ。まってました!」
両面を焼き上げたら、あとは仕上げに、お好みでオタフクソース、青海苔、削り節を掛ければ完成だ。難しいのはコテでひっくり返すところくらいなので、このあと、トウマくんでも簡単に作ることが出来た。
格子状に切って食べていると、途中で「ごはんがないね」と言われた。そのとき、私は「そういえば、お好み焼きはおかずだったな」と思い出し、慌てて買い置きしてあるサトウのごはんを開封し、レンジでチンしたのだった。