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018「カノコ、幼き日の朝を想う」

 トリケラトプスは、トリ、ケラト、プス。ヘリコプターは、ヘリコ、プター。日本語の感覚で、外来語の切り方を間違えている単語は多い。特に海外の地名は、馴染みがないだけに難しい。クアラルンプールは、クアラ、ルンプールだし、プエルトリコは、プエルト、リコ。ウラジオストクは、ウラジ、オストクで、キリマンジャロに至っては、なんとキリマ、ンジャロだ。

 

「キリマンジャロって、キリンさんのあじがするの?」


 トーストをお皿に載せてテーブルへ持って行くと、ピーターラビットが描かれたコップに牛乳を注いでいたトウマくんに、斜め上の質問をされた。テーブルの上にはコーヒーメーカーがあり、その横に、サバンナに立つキリンの写真がプリントされたレギュラーコーヒーの袋が置いてある。キリンの背後には積雪したキリマンジャロの写真もあるが、圧倒的にキリンの存在感がデカイ。

 

「コーヒーはコーヒー豆を焙煎したものだから、キリンの味はしないわ」

「じゃあ、なんでキリンさんのしゃしんなの? キリンさんが、バイセンしてるの?」


 そう言われると、一瞬、大釜でコーヒー豆を焙煎する作業服姿のキリンが目に浮かぶ。昨夜、一緒にズートピアを観た影響かもしれない。不思議と美味しいコーヒーを淹れてくれそうな気がしてくる。


「ただのイメージよ。キャロット風味のお菓子に、ウサギが描かれてことがあるけど、ウサギの味はしないでしょ?」

「そっか。カッパまきも、きゅうりのあじしかしないもんね。――いただきまーす!」


 トウマくんは、ひとまず納得した様子で、トーストにマーマレードを塗って食べ始めた。

 河童の味って何だ? 蛙か亀にでも近いのか? などとしょうもないことを考えつつ、トウマくんの隣に座り、私もマーマレードを塗ったトーストに齧り付いた。


 フロイン堂のパンの味は、幼い頃の記憶とまったく同じで、遠い昔の日々が懐かしくなった。どのくらい懐かしいかといえば、三途の川の彼岸で手を振る祖母の姿が浮かぶくらいに。ひょっとしたら、視覚や聴覚による記憶より、嗅覚や味覚、触覚による記憶の方が、のちのちまで改竄されずに長く残るものかもしれない。


「ムムムッ。こいつは、てごわいぞ」

「開けてあげるから、ちょっと貸して」

「はい」

 

 想い出に浸っているあいだに、トウマくんが牛乳パックと格闘していたので、代わりに開けてあげることにした。よく見たら、トウマくんが開けようとしてたのは、開封口と反対側だった。


「よく見て、トウマくん。ここに、矢印が書いてあるでしょ? こっちから開けるのよ」

「ホントだ。あけろって書いてある」

 

 矢印の横に書いてある文字は「あけ口」だ。漢字と仮名を混淆させるから、こういう読み間違いが起こる。日本語って難しい。

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