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017「カノコ、朝の湿気と格闘する」

 学生時代、登校前の三十分は、いつも時間との勝負だった。

 そんな忙しい朝に、呪文を唱えたら素敵に変身出来るコンパクトかジュエリーボックスがあれば便利だろうなぁと思ったことは。一度や二度では済まない。詠唱ワードは、テクマクマヤコンでも、ピリカピリララでも可とするところ。さすがに、マハリクマハリタは古過ぎるかな。白黒だし。


「あうー。雨の日だから、癖毛がうねって一段と酷いな」


 三面鏡に、三十路越えの女の顔が三つ。どの角度から見ても、毛先を遊ばせすぎて遊ばれている感が否めない。ケープでもキープ出来なくなってしまっては、もうお手上げである。やれやれ。換気扇の油汚れ並みに、頑固なうねりである。それでいて、欲しいところにボリュームが無いのだから、ままならないものである。

 そういえば、摂津本山駅のすぐ北側にある焼き鳥屋の二階に、カット専門の美容室があったはずだ。店名は、たしかENJOBだったかな。仕事の多忙さを言い訳にして伸ばし放題になってるから、前髪だけカットしてもらおう。

 スタッフが入れ替わってるかもしれないから、誰に切ってもらうかは、お任せで良いだろう。お付き合いしてる異性でも居れば、シャンプーにブローも付けた上で「これからデートなんで、可愛くしてください」とでも言えるのだろうが、浮いた話ができる状態ではないのが悲しいな。キャッキャウフフするのは、生活基盤を整えてからになるだろう。


「髪型、変えようかなぁ」

「あら。丸刈りにでもするの?」

「坊主にはしない。謹慎になった訳でも、出家するつもりも無いもの。それより、ノックしてよ」


 通りすがりに独り言へ返事をしてきたお姉ちゃんに対し、私は冷静にツッコミを返し、加えて苦言も呈した。

 

「ノックして欲しいなら、こんな暖簾を下げるんじゃないわよ。これ、お母さんが買ってきたお土産でしょ?」

 

 ドアを開けると部屋が丸見えになる問題の解決策として、ひとまず掃除中に出てきた暖簾を下げてみたのだが、早速の不評である。

 まぁ、無理もない。回紋の上に丸みを帯びたフォントで福と書かれている上に、それを取り囲む二頭の龍が「爇烈歡迎」という火焔を放射している。台湾で買ったというが、南京町でも売ってそうなデザインであり、中華料理の店先に吊るされていそうな代物でもある。


「結局、お母さんは今朝まで帰ってきてないの?」

「たぶんね。食パンを予約したから、てっきり朝には戻るのかと思ってたのに」


 それは、私も同意だ。まぁ、一度に食べ切ることは無いだろうから、残った分はスライスして冷凍しておいてあげよう。


「お姉ちゃんはヘアスプレー、何を使ってる?」

「話題が行ったり来たりするわね。いま使ってるのは、マシェリよ」


 系統が違うスプレーなら、ワンチャンあるかと思った私が馬鹿だった。普段と違う私になったにはなったが、スプレーしたお姉ちゃんも肩を震わせて笑うほど、似合わない髪形になってしまった。元に戻れ! ラミパスラミパス、ルル三錠!

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