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016「カノコ、片付けは先延ばしにする」  

 アイスを食べるだけ食べ、お母さんはハンドバッグに縦長の何かを入れ、職場へと戻って行った。結局、忘れ物は何だったのだろうか。

 洗濯物を取り込んだり、トウマくんをお風呂に入れたりしているうちに、今日もまた、部屋は片付かないままになってしまった。正直、一向に捗らない部屋の整理に飽きてしまっているので、このままで良いかとも思い始めている。


「まっ、誰か部屋に呼ぶことは、当分のあいだは無いだろうし、寝るスペースは確保できてる」


 下では、トウマくんがお義兄さんを手伝っており、二人の愉快に笑う声がしている。それを楽しそうだなぁと思いつつ、私は次のステップへ進もうと考え始めた。生き急いでるだの、ゆっくり休めだの言われても、そんなにボヤボヤしていられない。


「ひとまず、求人情報を集めるか」


 充電コードを手繰ってスマホを手にすると、厳しい現実と向き合おうと気合を入れ、画面をタップしようとした。


「カノコ! ヤスエちゃんから電話よ」

 

 一階から、お姉ちゃんの声がした。

 まったく。今やろうと思ったのに、というタイミングで出鼻を挫くのが、家族という生き物なのだろうか。やる気スイッチを切らないでいただきたい。

 そう思いながらも、親機を取ったお姉ちゃんにも、固定電話に掛けてきたヤスエにも罪は無いので、速やかに廊下へ出て子機を充電器から取り、保留ボタンを押した。

 

「もしもし、ヤスエ? カノコだけど」

『もしもし、カノコ? ヤスエよ。久しぶりね。元気にしてた?』


 ヤスエの苗字は、結婚していなければ遠藤のままだ。中学時代の同級生で、偶然にも三年間同じクラスだったこともあり、卒業後も神戸に居るあいだは、親しく付き合っていた。


「まぁ、ボチボチやってるわ。何年ぶりだろう」

『数えるのも嫌になるくらいよ。あっ、そうそう。カノコのお母さんから、三時半くらいに電話があって色々近況を教えてもらったんだけど、あんた、東京での仕事を辞めたんだって?』


 なんちゅうことを教えてくれとるんじゃ、あの赤い大佐め。

 内心で怒りが湧いてこみ上げてくる直前、母がおやつタイムに取りに帰ってきた物は、ひょっとして電話帳か住所録なのではないかという推理を閃いた。サイズ的にも、探していた場所的にも、当たってそうな気がする。


「そうなのよねぇ。これからどうしようか、この夏いっぱい考えてみようかと」

『それなら、試しに一日だけでも働いてみない? ちょっと前にマアヤから、良さそうな人材を紹介してって頼まれててね』

「へぇ。どんな仕事なの?」

『家事の延長線上にあるものだと思ってくれたら良いわ。興味があるなら、会って詳しい説明をするけど、どう?』

「聞くだけ聞いてみたい気もするけど、いま、甥っ子の面倒も看ないといけなくて」

『それも知ってる。トウマくんだっけ? 大人しくて、可愛い盛りなんでしょ? 一緒に連れてらっしゃいよ。明日は水曜だから、明後日の三時前に珈琲館で待ち合わせましょ。いけそう?』

「明後日の三時に、珈琲館ね。トウマくんにも言っておくわ」

『よろしく! それじゃあ、また明後日に』

「うん。またね」


 子機を充電スタンドに置き、通話終了。どんな仕事か知らないが、今は少しでも前に進みたいところだから、非常に助かる。ただ、お母さんのお節介がキッカケなのが、腑に落ちないところだけど。

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