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015「カノコ、セツコに訊いてみる」

 在りし日を懐古しているうちに、時計は三時を回っていた。


「かのこおねえさん、アイスのじかんだよ!」

「あら、もうそんな時間なの? それじゃあ、おやつにしよっか」

「やったー!」


 パタパタと元気よく階段を駆け下りるトウマくんに続き、私もドタドタと階段を下りる。足音を表現するオノマトペの違いを気にしてはいけない。乙女の体重は、トップシークレットだからだ。


「バナナオレと、イチゴオレと、りんごヨーグルトがあるよ。どれがいい?」


 トウマくんがペリペリッと景気よく開けた箱の口をチラッと覗くと、りんごヨーグルトだけ二本しかないのに気付いた。稀少価値に弱い私は、りんごヨーグルトにしようと思ったが、いかんせんパピコは二本一組だ。ここは、トウマくんの好みに合わせるのがベターだろう。


「トウマくんは、どれが好き?」

「どれもオイシイよ。カノコおねえさんのすきなのえらんでよ」


 こう言われては、第一希望を選ぶしかないではないか。この歳でレディーファーストを実践するとは、トウマくんは、なかなか将来有望だな。

 まぁ、そういうわけで、無事にりんごヨーグルトをゲットできたのですが、子供の優しさに触れて、自分がいかに欲の皮が厚いかというのをまざまざと実感させられたのは、いい歳をした大人として痛いなぁ。


「ねぇ、カノコおねえさん」

「なぁに、トウマくん」

「おねえさんのおへやに、しろくてしかくいのがあったよね? あれ、なぁに?」


 あれは加湿器だと説明しているうちに、頭の中で、トウマくんが知らないということは、ここ二年か三年ほどは使ってないのだろうという予想が出来た。故障しているなら粗大ごみに出すべきだし、使えるけど必要無くなったのなら、ネットオークションに出品するなり、ネットレンタルに登録するなりすべきであろう。

 とはいえ、所有権は私に無いので、どちらにしても持ち主の帰宅を待たねばならないが。


「たっだいまぁー! セツコ大佐、忘れ物を取りに戻ったであります!」


 どこにいても目立ちそうな真っ赤なパンツスーツを着たお母さんが、バタバタと慌ただしく玄関からリビングへと雪崩れ込んできた。このタイミングで帰ってくるとは、なんとも鼻が利くキャプテンだこと。


「おかえり、おばあちゃん」

「ただいま、トウマくん。あらら? 二人揃って、何をイイ事してるのよ。ズルいじゃない。私にも寄こしなさい」


 こうなると、アイスを食べるまで帰りそうにないので、私は冷凍庫にしまいかけた箱を差し出した。


「バナナとイチゴが残ってるわ」

「箱には、りんごヨーグルトの文字があるけど?」

「ごこうひょうにつき、ソールドアウトしました」

「まぁ、それは残念だわ。じゃあ、イチゴで我慢しようかしら。トウマくん、イチゴは好き?」

「だいすき。でも、アイスはいちにちいっこにしないと、おなかいたいいたいなるから、カノコおねえさんにあげて」

「優しいわねぇ。――ということだから、ありがたく受け取りなさい、カノコ兵長」


 ずいぶん階級が下なんだな。二本目、ゲットだぜという喜びよりも、母娘揃って子供に気を遣われるという事態に、私は恥ずかしいやら、情けないやらといったところだった。が、ひとまず羞恥心は横に置いておいて、せっかくなので加湿器について訊いてみた。

 

「加湿器? あぁ、あのボネコちゃんね。あれなら、すひにひていいはよ?」


 好きにして良いのね。それは結構だけど、頼むから、食べるか喋るか、どっちかにしてほしい。

 孫息子が、まだ横で見てるでしょうが! と心の中で激しくツッコミを入れつつ、友達の誰かにあげられないか考えてみることにした。

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