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012「カノコ、おつかいを頼まれる」

 レジは、店員さんが精算した後、カゴを会計機に置いて精算するというセミセルフ方式になっていた。さすが、令和は違うな。

 トートバッグからエコバッグを二つ取り出し、アイスを入れた方をトウマくんに持たせると、トウマくんは急ぎ足で歩き出した。


「はやくはやく! とけるまえに、かえらなきゃ」

「待って、トウマくん。歩くの、早い」


 スニーカーでは蒸れると考えてサンダルで来たせいで、思うように走れなかった。スリッポンでタッタカタッタカ歩くトウマくんは、角を曲がる前に振り返っては、石畳の坂道を転ばないようにモタモタ歩いている私に対し、もっと早く歩くよう手招きしたり、その場でジャンプして急かしたりしていた。

 そんなこんなで十分ほど歩き続け、ようやく家に帰ることができた。家に到着するやいなや、トウマくんは靴を脱ぎ捨ててキッチンへ直行し、アイスの箱を冷蔵庫の一番下の段に入れたようだった。靴を端に並べ、遅れてキッチンへ向かうと、二階へ行くトウマくんとすれ違った。


「アイス、れいとうしたよ」

「ありがとう。三時になったら呼ぶわね」

「はーい」


 それから、豆腐や卵を冷蔵庫に入れたり、洗剤やティッシュを、キッチンと洗面所のあいだにある消耗品の棚にストックしたりしてから、トートバッグを持って二階へと上がった。

 部屋の片付けを再開しようと思ったら、スマホにお母さんからメッセージが届いた。


セツコ:虹に風呂イン同で食パン予約してマス

カノコ:フロイン堂ね? 二時に取りに行けば良いの?

セツコ:オフコースよろしき


 お母さんからのメッセージは、いつもこの調子だ。誤字脱字は多いし、改行や句読点は無い。私は、無事に暗号を解読できた喜びと、また暑い思いをして岡本坂を上らなければならないのかという面倒くささが一緒になって、言葉にできない気持ちになった。

 取りに行くあいだ、トウマくんには少しお留守番してもらおうかと考えていたら、底の空いた段ボールの中に入り、両手で縁を持ちながら歩くトウマくんが、私の部屋の前へとやってきた。


「うおざき~、うおざき~。ろっこうライナーは、おのりかえです」


 何かと思ったら、阪神電車だったか。よく見れば、有田みかんの田の字の中に、鉛筆で描いた棒人間の姿がある。きっと、窓にしたのだろう。


「ねぇ、トウマくん」

「ごじょうしゃ、ありがとうございます。PiTaPaは、おもちですか? らくやんカードも、つかえます」


 トウマくんは、たどたどしい平仮名で「ぴたぱ」と「らくやんかーど」と書かれた二枚の画用紙を見せてきた。


「ごめんね。遊んでるところ悪いんだけど、お姉さん、二時前になったら出掛けなきゃいけなくなったの」

「にじってことは、みじかいはりが2にきたとき?」


 私の部屋に掛けてある時計を指差しながら、トウマくんは確認するように言った。


「そうそう。すぐに戻るから、ちょっとのあいだ、お留守番しててもらえるかな? ピンポンが鳴っても、出なくていいから」

「いいよ。おりこうさんしてるね」

「ありがとう。じゃあ、お願いね」

「はーい。――しゅっぱーつ、しんこーう!」

 

 段ボールの中で身体の向きを反転させ、トウマくんは自分の部屋へと戻って行った。

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