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010「カノコ、流行り廃りを感じる」

 JRの摂津本山駅から山手幹線を越えると、阪急の岡本駅へ続く石畳の商店街に行き着く。

 二つの駅に挟まれた一画は、厳しい競争下にあるようだ。ビルの三階にあったイタリアンレストランはテナント募集中になっていたり、岡本坂を降りたところにあったクリームパン屋が美容院に変わっていたり。学生街ということもあってか、流行に乗ってタピオカ専門店までオープンしているのには、驚いてしまった。時の移り変わりの早さを感じざるを得ない。

 そんな中でも、長く続く店というものはあるもので、昼食に選んだ甲南そばも、地元民に愛されている店の一つ。ただ、ここは和食のお店であるためか、学生より会社員やシニア層が多いのが特徴かな。


「美味しい、トウマくん?」

「おいしいよ」


 私はにしんそば、トウマくんはきつねうどんを注文した。非関西圏の方に説明しておくけれど、にしんそばとは、かけそばの上ににしんの甘露煮を載せたもの、きつねうどんとは、かけうどんの上に甘く炊いた油揚げを載せたものだ。

 関東との明らかな違いは、つゆが醤油ではなく鰹や昆布がベースであることで、全体に淡く透明感のある色合いになっているところだろうか。あと、関東でいうきつねそばは、関西ではたぬきそばであり、揚げ玉が載ったものは、関西ではハイカラうどん、またはハイカラそばと呼ばれる。

 これは単純な好き嫌いだろうが、私には関東風の醤油ベースのつゆは、塩辛いだけで美味しいとは思えなかった。

 

「ごちそうさま!」

「はい、よく食べました。さて。そろそろ出よっか。お勘定するから、お店の前で待ってて」

「はーい!」


 トウマくんが店の外へ向かったのを横目で確かめつつ、私はトートバッグを肩にかけ、スマホを取り出して支払いに備えた。こんなレトロなお店でも電子決済が使えるのだから、時代は進んだものだ。

 店内は、十二時を回ったところというのもあり、テーブル席も小上がりも満員に近くなっている。

 伝票を持って小上がりの側を通過したら、この暑い最中にブレザーを着ている年配男性に声を掛けられた。


「梅野くんじゃないか」

「はぁ、梅野ですが」


 どちらさまかしら、という考えが顔に出ていたのか、男性は長押にブレザーを掛けつつ、私のリアクションに違和感を持ちながら話を続けた。


「忘れたかい? 大学時代、よく僕の研究室へ来たと記憶してるんだがねぇ」

「あぁ! それなら、おそらく私の姉です」


 道理で見覚えが無いと思った。私がアキコではなく妹のカノコだと釈明すると、男性は自分は薬科大学の教授だとし弁解し、なぜか昼食代を奢ってもらう流れになった。


「いいですよ、そんなことしていただかなくて」

「いや、僕の気持ちの問題だから。いきなり声を掛けて済まなかったという意味で、奢らせてほしい」

「そうですか。では、ごちそうになります」


 なんともスッキリしないが、この場に姉が居ない以上、押し問答を繰り返したところで無駄だと思い、私はスマホをトートバッグに戻し、再度御礼を言って店を出た。

  

「おそかったね、カノコおねえさん」

「ごめんね、トウマくん。待たせちゃって」


 日陰で待っていたトウマくんのもとへ、私は小走りで駆け寄った。

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