044
一旦、すべて練り直そうと思います
趣味ぐらい全力で取り組むべきだと感じました。
「ふ~ん、それで詩季くん、これからどうするつもりなんだい?」
「どうすっかねぇ~。あの子のほうの邪神はエレボスにまかせたからいいけど、不良君のほうがなぁ~。うん、とりあえずは鍛えるよ。最悪鍛えときゃいいでしょ。」
あれから、僕は柏木貞夫を探して飛び回った。
が、柏木貞夫はおろかその痕跡すら見つけられなかった。いかにスピードがあるからといって、バラバラに探すのは無謀にも程があったのだろう。二時間ぐらいは頑張っていたのだがなんだか惨めになってやめた。
そして今、僕はイスに座って変態と話をしている。今回の報告のようなものだ。一応、同僚なのだから伝えておこうと思った。
「ほほぅ? なら私たちの仕事を手伝わせるのなんてどうだい? ゆくゆくは、君の後継者とかにするのも面白そうだ」
「面白そうなってだけで決めるのは酷いんじゃあないかな……うん、乗った。不良君には僕らの後継者になってもらおう。そろそろクロノスにもあったほうがいいだろ。」
「これは趣味みたいなものだからね。やめる気は無いかな。君がもっと面白いことを提供してくれるのなら話は別だけどね。」
「そうかい。--なら、学校に来てみるのも面白いかもよ。一応コネはあるわけだから生徒として登録する事ぐらい出来る」
「--詩季君、職権を使って……私にナニをするつもりだい?」
と、尻の下から聞こえてきたので自分ごと重力をかける。
僕とクロノスは共に既婚者且つ相手をなくした者たちだ。それでも相手のことは愛しているから、性的にはどちらとも興味が無い。
容姿はいいのに口は残念な女だ。下ネタがたまに酷い
「アホ、そもそも教師にそんな職権ないわ」
「え? そうなのかい? ……おかしいな、この前見たビデオだと確か……」
「何AV見てんだエロ神。」
変態に日本のエロ文化を見せてはいけない。絶対に。
なまじ力がある神なだけ被害を想像するだけで恐ろしい。
というか、どっからAVなんぞみる手段を得た。
「……やれやれ、これだからエロに興味の無い吸血鬼はつまらないね。想像させるのがとっても愉悦だというのに。」
「お前は結局ドMなのかドSなのかどっちなん?」
「どっちにも成りきれるのが真の変態だよッッッ! ……アフン」
二時間の間に聞こえてきた地響きよりも大きな音を今聞いた。思わず尻の一部に氷を作って踏んだが……なんだこれは。
悲鳴も気持ち悪いなこのやろう。
「……ハァ、まぁいいさ。で、真面目な話だけど、今邪神ってどれぐらい残ってんの? ここ最近新しいのは生まれてなかったよね?」
「それを教えるには更なる快楽を……きゃん!」
「で、何体?」
「およそ七十ってところだね。父様がこの前仰っていたから間違いないよ。」
「自然に尊敬語になるあたりよっぽど爺さんが怖いんだね。」
「……無理、ほんとう、父様だけは無理」
なんだったか、苦痛に耐えるためにドMに覚醒したのだったか。そんなアホくさい過去を持っていた筈。となれば、本質はドSなのだろう。
さて、邪神についてなのだが、やはり神に聞くのがてっとり早い。地上にも神は溢れているが、一番信用出来る筋はこいつだ。神についての情報量と正確性において、この変態よりも優れた者はいないと僕は思っている。
要は、ハイスペックな変態なのだ。
……こいつが優れているということぐらいは認めている。
「そりゃご愁傷様」
「詩季君からの労いは気持ち悪いね」
「は? 素直に悦べよ雑種」
「ありがとうございます。」
「……邪神と人間に関わりが無いか調べるのを手伝ってもらいたいんだ。その数なら数人借りれればいけそうだからね。どう?」
「構わないけど、邪神について調べるのは厄介だよ。……調べるってことはついに動き出すわけかい? 龍牙君の復讐相手も見つけるのかい?」
「うんにゃ、それはあいつ自身でやらなきゃ意味ないさね。」
ひさしぶりに、本気で調査をしなければならなくなった。
まぁ、あれだ。クロノスの力を借りられるというのなら特に不安は無い。
……邪神には後悔をしていただこう。
◇
「美雨ちゃん、無事かい?」
「……ぅん」
「そっか、なら良かった」
精神世界から邪神を追い出し、現実世界に戻ってきたキャルディは美雨を心配していた。質問の答えを聞いて微笑みを浮かべるが、その表情は怒気に溢れている。
無論、美雨ではなく邪神に対するものだ。
美雨は魔法を用いて無事を伝えることも忘れ、身振り手振りで無事をアピールする。その動作は小動物の様であった。
「どうしたの?」
「……なにも、でき、なくて……」
「おや。文字で伝えてくれればいいんだよ?」
「……ん、しゃべる」
「さいですか。」
美雨が喋ろうとした理由、それは些細なことだ。
ただ、文字では上手く表せないと感じたから。
要は、キャルディに対して思いを伝えようとしているのだ。
キャルディは突然喋ろうとしだしたことに困惑はするものの、持ち前の心の大らかさで気にせずに聞く。
「……けっきょく、たすけて、もらった」
「やりたいからやっただけだよ」
「……なにも、かえせそうに、ない。」
「……」
キャルディとしては、美雨が無事に生き延びればそれでいいという感覚だった。見返りを求めての行動では決して無いし、彼は見返りを求めるような事はあまりしない。
何か言うべきとは思うものの、よい言葉が思いつかずに言いよどむ。
『そんなものはいらない』と突っぱねるべきだったか。
『生存していることが見返り』だと格好つけるべきだったか。
なにも言わずにただ抱きしめるべきだったか。それは彼には分からない。
「……美雨ちゃ……」
「--けど、ありがとう、ございます。」
辿々しい言葉遣いで--でも、しっかりとした発音で、美雨は感謝の言葉をキャルディに伝えた。今まででもっとも力の籠もったものであった。
面と面を向かって放つ言葉は、感謝の気持ちを伝えやすい。
感謝の気持ちを伝えるためだけに、水魔法で代用できる言葉を美雨は使った。未だ喋るのも嫌な状態だというのに、だ。
「--たすけて……いえ、すくって、もらって。ほんとうに、ありがとう」
「……どういたしまして。」
一言、たった一言だけ、キャルディは美雨に言葉を返した。キャルディの気持ちを伝えるのはその一言と--慈しみに溢れた、柔和な笑みだけで十分であった。
◇
「くそ……なぜだ。何故スライム如きに……!」
キャルディに敗北し、器から逃げ出した邪神は新たなる器を見つけ、現世へとすがりつくことに成功していた。邪神は器が必要という性質上、現世においては高速で器に入らなければ滅びてしまう。
だが、この邪神は器を見つけた。
世界のどこかにいる銀狼……狡知神、ロキの末裔である。器としての性能も、適応度も極端に低いが、生き延びるという一点においては問題ない。そんな器である。
この邪神の敗因は、軽々しくキャルディの煽りに釣られたということにある。精神的耐久力が脆かったことによる自業自得である。
「また器を探さねば……この個体は脆すぎる……!」
「ほぅ? その矮小な肉体から強力な器に乗り換えることが出来ると? 汝、その程度の知能であまり偉ぶるでない。醜いぞ」
「誰だ!? ヒィ!」
「ククク、よくも余の保護下にある人間に手を出したな? その罪、万死に値する。それぐらいのことは理解出来るであろうな。よもや、それすらも理解できぬほど知能が低いわけでもあるまい。」
「……お……お許しを! 王の保護下とは知らず……!」
有象無象の邪神にとって、エレボスの存在は偉大である。邪神王から神に戻ろうが、エレボスの威光が衰えることはありえないのだ。
それほどまでにエレボスの王であった期間は長い。
なにしろ、この世界線で初めて『悪』という性質を手に入れたのがエレボスなのだ。邪神王とは、言い換えれば概念ともとれる。
故に、ただの邪神が跪くのは当然の摂理である。
「赦しを乞うか? この余に? 未だ名すら無きただの邪神如きが? その額を無様にもこすりつけ、その姿を余に見せつけるというのか?」
「はい……何卒、何卒お許しを……!」
「ふむ……よい、赦す」
「はっ、有り難き幸--」
--せ。そう言い切る前に、エレボスは邪神の首を……否、器の、銀狼の首を切り落とした。ただ切り落としただけではなく、邪神の本体を消滅させた。
これが邪神王の、エレボスの赦しである。
『命を簡単に失う事を赦す』、苦しみは与えずに一瞬にて滅ぼすという赦しである。彼の赦しとして、最も優しいものだった。
「--楽に死なせるぐらいは赦してやろうではないか。」
その夜、一つの遠吠えが夜の山に響いたという。
◇
「おや柏木さん、どうだったんすか?」
「失敗だ。たかが邪神では無駄だったようだな……やれやれ、せっかく五年前から布石をおいておいたというのに無駄になってしまった。」
とある部屋で、二人の男が話をしていた。
一人は柏木貞夫、邪神を間接的に呼び出した柏木貞夫は男に会いに来た。
それがもう一人の男、黒いスーツ姿に身を包んだ褐色肌で白髪の男だ。愉しげに笑っており、その姿は柏木貞夫に対して友好的に見える。
「しゃあないっすね。なにしろ勇者っすから。下手に仕掛けても無駄っすよ。次はもっとせこくいくべきっすね。」
「……ふむ、君はこちら側の勇者なのだろう? 君自身が奴らを殺りに行けば済む話なのではないか?」
「無理っす。こっちはどちらかといえば間接的に攻める人間っすから。あんな脳筋どもに正面からとか自殺行為以外の何者でもねえっすね。」
「なるほど? では、次はどうする?」
「今は検討中っすよ。当分は何もするつもりは無いっす。あ、そちらは自由に動いてもらって構わないっすよ。リア充爆殺するなりおでん食うなり好きにしてくださいっす」
「……前者においては考えておくとしよう。」
その返答に、男は微笑むのだった。




