042
煽り耐性が無い人で遊びたいというのは愉悦部としては仕方ないと思うのです。むしろ、そういう愉悦心があるから愉悦部を名乗れるのだと思います。私は昔運動部に所属していましたが、心の中では愉悦部でした。まぁ、非常にどうでもいいのですが……。
要は、遊ぶオモチャが欲しいのです!
なんかこう……主人公みたいな人いませんかね!?
「……え? これどういう状況?」
《影歩》を使って家に戻ると、あの子と戦うエレボス、シャル、それと横たわるルディの体があった。二人はあの子からの攻撃を受け流すように戦っている。見たところ、あの子を倒そうという気概は感じられない。
ルディをみても、肉体的な損傷は一つもないし、呼吸も正常だ。
「あ、兄さんですか、エマとは会いませんでした?」
「帰ったか、今はルディ君が頑張ってるところだ。」
「エマは見なかったよ。急いできたからね。……で、あれは浸食だよね? そんでルディが邪神を殺そうとしてる、と?」
「左様、余らは家に被害が出ないよう、適当に相手をしている。」
「ほほぅ、んで? エレボスは神権使ったせいで色々戻ってると。その顔面には合わないから微妙だよね。」
「今する話ですか?」
「ごめんなさい。」
何かこう、世界すらも破壊しそうな圧を感じたので謝る。
気のせいなのかもしれないが、邪神の体もビクッと動いた。
さて、ちょっと解説を入れるとするならば、エレボスの正体は邪神王……というより、元は最高神の一柱だ。それも実力を得たことで神になる者ではなく、信仰により生まれた生粋の神。だからこそ、神権を使うということは一時的に時間遡行をするというのに似たようなことだし、エレボスの口調が偉そうでも仕方がない。
神は基本的に偉そうなのだ。実際に偉いし。
「あと、エレボスは少し黙っててください。その口調昔思い出して苛つくんで。なんなら永久に黙っててもいいですよ。というか死んでください」
「……パンナコッタ」
「え? 最期の言葉それでいいの?」
「まだ兄さんのほうがまともでしたね。」
「いや、死んでないからね。ピンピンしてるよ?」
「ナニがですか?」
「極めて何か、僕に対する侮辱を感じるよ。下の話ならビンビンじゃない? エロ本コレクター藤堂もそう言ってた」
「藤堂さんに対する熱い風評被害お疲れ様です。」
いや、これが風評被害ではないのだ。
昔、両親が外国に入っていて家には誰もいなかった高校一年生の頃の藤堂は言っていたのだ。『あぁビン? ビンなら下の方においといてくれ』と。
あれは確か、大掃除の時だったか。
「それで? 僕は邪神が現れたから此処に戻されたけど……何するべき?」
「正直、何もすることはありませんよ。この馬車馬が働いてくれてますし。」
「エレボスはキレてもいいと思います。」
「駄目です」
「そっか、なら仕方ない。……で、割と大変だと思うんだけどこんなふざけてていいのかね? なんか、ルディに悪い」
「大丈夫ですよ。ルディならどうにかします。誰かの為という点において、ルディほど力を発揮する人はいませんから。」
「人じゃなくてスライムだけどね。」
「ギルティ」
「……なんでやねん。」
どうやら、ここで僕がすることは無いらしい。エマも危ないところにはいないように逃がしているようだし、特に危険は無いだろう。
となれば……ふむ、何をしようか。
あちらの邪神に関してはフィリップが頑張ってくれてるだろうから特にやることはない。親友の復讐相手でもないからどうなっても基本はかまわない。というか、あの二人がいる時点でただの邪神に負けるとか有り得ない。
トラウマを無理やりかき消すためにフィリップが色々仕込んでいるだろうから、僕から手を出すことは無い。
そして、こちらもやることは無い。
「シャルさんや。」
「なんですか? 頭でも痛いんですか? 寝ててもいいですよ?」
「いや、特に不調は無いけど……暇です。もう今回の事ってほぼほぼ解決なんだよね。まぁ、まだ心配事はあるけどさ……」
「なら、その心配事とやらを解決してくればいいじゃないですか。」
「あ、うん。そうします。」
僕の心配事、それは柏木貞夫のその後だ。奴は邪神と別れた後、どこかへと飛んでいった。表情から考えて嬉しそうなそれではなかったが、何かは残していると思う。
というか、奴の行動はかなり不自然だったのだ。
あの一週間のうちに知り合いに聞いたところ、魔力によって誰かを探知することは不可能と聞いたのだ。さらに、あの子が着ていた服からはGPSの類の物は発見されなかったし、あの子の肉体自体にも仕込まれてはいなかった。
なら、どうやってあの子が家にいるのを知ったのかということになる。
「邪神と元から繋がっていたと考えるべきか……んー」
「意見いります?」
「じゃあお願い。探知する手段を想像出来ないのに柏木貞夫は僕らの家にたどり着きました。柏木貞夫が何者かとつながっているとしたらそれは何者でしょうか。」
「柏木貞夫ってこの前来た魔術師ですか?」
「うん、別にあの男自体はどうでもいいんだけどね。あれと何かが繋がっていたら面倒だなぁ、と思いまして」
「魔術師協会の人でしたっけ?」
「アジアのね。ヨーロッパと張り合うぐらいにはデカい協会だよ」
「一度その会議を覗いたんですよね? その話から何か拾うことって出来ませんか? まだ時間もあるのですからゆっくり考えてみてはどうです?」
「とても現在戦ってる人のセリフとは思えないなぁ。」
「まぁ、働いてるのは主にエレボスですから。」
あの時の会議では、現況の報告会のようなものでしかなかったと記憶している。
とても、結びつきがあるとは思えない。
……だが、どのような発言があったのかは確認しておこう。
うむ、だめだ。やはりそれらの発言と結びつきそうにはない。
「やっぱ分かんないや。ちょっくら捜してくる。」
「はいはい、ついでにエマを見つけたら帰ってくるように言っておいてくださいね。たぶん、もう終わりますから」
「あーうん、了解。見かけたら呼んでおくよ」
「はい、お願いします」
手がかりがないのなら、探してしまえば問題あるまい。
わざわざ単独で行動するのは今のような場合では危険かもしれないが、一つミスれば厄介なことになる可能性が高いので切り札は多い方がいい。
まぁ、今が厄介な状況じゃないのかと問われれば頷くことは出来ないのだがね。
「ほな、もっかい行って来ます」
「気をつけてくださいね。油断は禁物です。」
「善処します。」
現在、柏木貞夫の位置に関してはまったくもって当てが無い。
だが、日本からいなくなるほど遠くにはいないだろう。
この事実かどうかしらないザ・適当な推測を超脳筋思考で考え、さらに吸血鬼的な力でどうこうすることを考えれば……。
--《分身》
これが一番手っ取り早いだろう。吸血鬼とは概念に近い存在だ。故に、擬似的な肉体を増やすことぐらいならば造作もない。僕はそんなに個体として優秀ではないから五体ぐらいにしか増えないが、もっと才能ある吸血鬼ならば百はいける。
なお、こらは藤原流基本技能の一つだ。他の一族のものが使うことは見ない。まぁ、訓練をすれば誰にでも扱える類の技能なわけで、そんなすごいものではない。
「……よし、行きますか」
生み出した四つの分身には、ほんの少しの思考能力が備わっている。だから、何かしらの共通思考を持たすことで簡単なことをさせることが出来る。
むろん、今回やらせるのは柏木貞夫の捜索である。今まで行ったことのあるところに《影歩》にて移動し、そこを基点として散らせればいい。
別に思考が繋がっているわけでもないので見つけた瞬間捜索が終わるというわけでもない。柏木貞夫に対して行動を起こすのは見つかってすぐということにはならない。
「行動開始、柏木貞夫を見つけ次第天空に向かって魔法を放つ。」
先ほどいた位置はかつて数十万の人が住んでいた場所だ。
魔物の進行……というよりかは巨大な魔物が来ることで起きた自然災害で住むことが出来なくなった地である。いや、住むこと自体は可能なのだ。実際に住む者もいる。しかし、魔物を駆除仕切れていない故に街を復興することが難しい。
しかも、リベリオンはそういうのでは動かないから国任せである。また、国自体もそこまでの戦力と費用がないからどうしようも出来ない。
そんな場所が先ほどいた位置であり、また其処は土地が広い。
僕が担当するのはそこだ。最も見つかる可能性が高い場所であるのは間違いない。
「魔法って妙なところで不便なんだよねぇ……」
誰でもいいから探知の魔法を作って貰いたいものだ。親友なんて才能あるのだから頑張って作ってほしい。もし作ってくれたら少しは感謝しよう。
さて、信じられるものはこの身一つ。それが今のミッションだ。
求められるのは高速な動き、柏木貞夫に悟られない隠密移動、探し忘れが無いかという集中力、何より、面倒くさがらないやる気。
……まぁ、なんでもいい。これも自分のためだ。
--さぁ僕、ここからは休みは無しだぞ。
脚に力を込め、僕は適当な方向に走り出した。
◇
「さて邪神よ、貴様はこれからどうなると思う?」
「……離せ下郎、余を捕縛するとは不敬なるぞ」
「ハッ、惨めなものだな。あれほど格好つけた癖に槍で貫かれた上四肢の切断、さらにはその下郎とやらに捕まっている。三下のような無様な格好だぞ。」
「なっ!?」
「ふむ、間違っていたか? ならば今の状況を簡潔且つ丁寧に説明してみせよ。小学生低学年でも分かる簡単な言葉と表情でなぁ! ほれ、言ってみ言ってみ!」
フィリップは邪神を自室に連れて行ってから、邪神を煽っていた。
その行動は、彼の本来持つ性格の悪さからではない。龍牙と詩季の意図を読み取ってのものだった。
彼もまた、異様な才能を持つものである。
そして、その異様な才能の中に察知能力がある。
これまであった出来事、これから起こすであろうことを的確に察知し、また必要なことを効率よく進めているのだ。
だからこそ、この煽りには明確な意味がある。
「……では、これからの貴様がどうなるのか教えてやろう。よかったな、私がいたのは幸い以外の何者でもないぞ。……クク、貴様を解放してやろう。」
「……何?」
故に、この行いは裏切り行為でもなんでもない。
友人ポジが……私の夢だったんです!
夢ッ! だったんですよぉ!
あ ほ く さ




