041
別に、主人公が活躍しなくてもいいと思います。
個人的には、主人公にはあまり活躍してほしくないです。
……こう、無駄に動き回る道化でいてもらいたいといいますか……。
なんでしょうね。
……ハッ! これが……殺意……!?
「う……うぁぁああぁぁぁ!」
「美雨ちゃん!? どうした!?」
一方の藤原家では、一人の絶叫と、一人の驚愕の声が響いていた。苦しみながら叫ぶのは時雨の妹であるとともに、邪神の器である美海。その美海の突然の変化に声を荒げたのはキャルディである。
シャルロットとエレボス、エマの三人は途端に離れていた。
そして、エレボスのみが瞬時に理解する。
「ルディ君……あれは邪神の仕業だよ。」
「邪神!? なんでまた!? 唐突すぎるだろ!」
「--器は共鳴する。まだ完全に意識を飲み込まれてないってことは、美器ちゃん自身の心が折れたんじゃない。他の……血縁がやられたって考えるのが妥当だね。」
「あぁぁああぁぁぁぁ!」
「……ちっ! とりあえず説明を!」
キャルディはどうすればいいのかを簡潔に要求した。
当然エレボスは邪神の王だった者、少ない言葉から正しい情報を抜き出すことは出来る。普段からではなく、こういう危険な場合しか役に立たない穀潰しであったが。
シャルロットは何時でも応戦出来るように愛用している弓を魔法を使い手に取った。そして弦を引き、攻撃の準備のみをしておく。彼女は邪神の危険性をよくしっているのだ。
エマはどうすればよいのか解らず、狼狽えている。
「器の精神力が邪神の心をへし折るか生命活動を止めさせる。……それか、外部から精神のみを消し去るのかどれかになる。成功確率は分からない」
「最後しか選べないねちくしょう!」
「……ぅぁ……ぇあッ!」
美雨の絶叫は終わったが、彼女はキャルディに向かい拳を振り抜こうとした。が、彼女自身の意識が微かに残っていたため、その一撃は鈍くキャルディに当たることは無かった。
ここでキャルディは、どのようにするか考えつつ、美雨から防衛を開始した。
美雨の一撃一撃が鋭さをましてゆく。……まだ、キャルディに対応は出来る。
「エマ! 逃げるか兄さんを呼んできてください!」
「え……え? どういうこと?」
「いいから! 一旦逃げて考えてください! 早く!」
「う、うん。分かった!」
シャルロットが軽い牽制をしつつ、エマを逃がそうと指示を出す。
エマは邪神の脅威をしらなかった。藤原家の者たちに鍛えられているため実力はただの少女のそれとはほど遠いが、それでも邪神には届かない。
今は動揺しているため、直ぐに逃がしておいたほうが良いのは分かり切っている。まず、唐突な戦闘で冷静さを欠いているようでは、邪神とは戦えない。
「エレボス……知っておくべきことはなんですか」
「邪神の浸食はそんなに早くないことぐらいだね。かなりの労働にはなるけど……まぁ、ただの邪神なら簡単に潰せる。」
「その方法は?」
「僕とシャルちゃんが現実世界で器に被害を与えないように戦いつつ、精神世界にルディ君の精神を送りつけて邪神の排除。失敗すればルディ君は魂失って死ぬ」
「なるほど……どうしましょうか」
「--やるよ。二人は美雨ちゃんにそこまで興味はないんだろ。」
「うん、大変な子だなってぐらい?」
「えぇ、まぁ、死んだら悲しいでしょうがそれだけですね。」
彼ら二人にとって、何よりも大事なのは家族である。逆に言えば、家族以外がどうなろうとそこまで興味はないのだ。非情に思えるが、護るべき者と切り捨てるものの区別はつけられているということである。
そうしなければ、生き残れない世の中が彼らの過ごした場所であった。特に、最前線で戦い続けたシャルロットは一段と違った。
しかし、キャルディは可哀想と思った人は助けたい心を持った者である。今でこそ手段と目的が入れ替わっているが、キャルディの元々の目標は貧しい者にも飯が渡るようにすることであったのだ。
そんな彼が美雨をきりすてることはとても出来ないことである。
「なら、僕がやるしかないな。いいよエレボス、やってくれ」
「うん。無事に戻っておくことを祈っておくぜ--《神権・幻想》」
エレボスはキャルディと美雨の精神に干渉し、キャルディを精神世界に送りつけた。これからは持久戦である。
残ったのはシャルロットとエレボスだ。
二人のコンビネーション、相性は完璧である。これまで幾千の共闘を繰り返し、二人では凄まじい化け物となっていた。
「さて、あとは僕らの頑張りだね。」
「そうですね……正直、防衛はあまり好きではないのですが……」
「攻めて潰すのが僕らだからねぇ。ま、やるのであろう?」
「口調、もとに戻ってますよ。」
「……気にするな。神権を行使した影響だ」
--故に、美雨の命運は、キャルディへと託されたのだ。
◇
場所は美雨の精神世界。その場は美雨の望みであろう太陽の下にある公園だった。願望の具現化された場所といっても問題はない。
時雨のそれとはまったくの別物である。あちらは見させられたものであり、こちらはあくまでも美雨の精神なのだ。さらに、この干渉は魔法ではなくエレボスの神権によるものである。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「ふむ、その程度の力しか出ぬのか? 此度の器は脆いのだな。」
キャルディが精神世界へたどり着くと、邪神と思われる女形の影と、美雨が戦いを繰り広げていた。見ればわかるとおり優勢なのは邪神である。
遊ぶように邪神が攻撃を行い、美雨はなんとか防いでいた。息は切れ、既にボロボロである。それでも戦う姿勢は、生き残りたいという本能から来るものなのだろう。
その姿にキャルディは怒り、声を荒げる。
「お前が邪神か!? とりあえずくたばってくれるかなぁ!」
「ぬぐぉ! なんだ貴様は!--ぐほぁ!」
「--ルディ君!?」
キャルディの拳が邪神の腹にのめり込み、そのまま後方へと吹き飛ばす。
一瞬で邪神から距離を取り、キャルディは美雨を抱きしめる。安心感からくるただの抱擁であった。明らかに身にまとう雰囲気は安堵のものだ。
美雨は戸惑っていたが、やがて何をされているのか理解し赤面する。
「あぁ……よかった。まだ大丈夫みたいだね。」
「……ぇ?」
「……直接会話はまだ駄目か。……まぁいい、とりあえずあの邪神ぶっ殺すから待ってて。話はそれからだよ。」
キャルディは美雨に背を向け、体からは鬼の如き覇気が溢れ出した。
まるで鬼子母神のように膨大な力である。種族を考えれば鬼とは何の関係もないのだが、彷彿とさせるものはそれであった。
後ろから見る美雨の心情は戸惑い半分と、安堵が半分だった。
「--下郎、この我を何と心得る」
「え、ス--中学生如きに殴り飛ばされた雑魚だろ?」
「ほう? 愚弄するか?」
「……いや、ごめん。そのまま言っただけなんだけど。あ、もしかして邪神って言って貰いたかった? 中学生如きに殴り飛ばされた邪神……フフ……なんでもない。邪神って言われたかったんだ?」
煽る煽る。キャルディは精神的な攻撃を行い、相手を怒らせ判断力を鈍らせるという戦いに出た。その表情、声色、セリフはともに怒らせるのにちょうどよく、邪神は簡単に釣られた。表情が分からない存在であるのに怒りを滲ませているのが直ぐにわかる。
もし詩季がいるのならば、更にチョロいと煽るだろう。
もっとも、それは詩季の煽りだが。
「よいよい、貴様には死をくれてやるッ! 器は貴様を滅ぼした後にしようッ!」
「へぇ……いいんだ? 相手の情報も分からないのに攻撃とかすんの? いやいいんだぜ? 僕は邪神についてある程度は知識があるしね。このままだとそっちが明らかに不利だと思うけど?」
「……何故そのような忠告をする?」
「え? 図星? ……マジカヨ。ちょっとぐらいは対策あるのかと思ってたのに……うわぁ、……ププッ」
キャルディはキャルディなりの方法で煽っていく。完全にキレるか、一周回って冷静になるか、その境目が重要だ。前者ならばカモでしかないが、後者となるとやっかいだ。完全に冷めた者は平常時よりも数倍ほど危険である。
その様子を、美雨はハラハラと見ている。キャルディの後ろ姿は頼もしくもあるが、それとは別に心配であるのだ。彼女は生きたいという強い意思を持つことは出来たが、親しい人が失われてまで生きようとは思っていないのだ。もしもキャルディが水からのせいで死にそうになれば、彼女は直ぐに自分を使うであろう。
「貴様……結局何がいいたい?」
「別に? ただ、『間抜け』な奴だなって思っただけだぜ?」
「ハアッ!」
「--おぉっと、考えなしに突っ込んでいいのかな? 罠が仕掛けられてたらどうすんのお前、今ので下手すりゃ死んでんだよ?」
「貴様が罠を仕掛けられる筈がなかろう!」
邪神が美雨の体へと侵略を開始してからおよそ数分しか経っていない。さらに魔法の使えない空間であるため、超常的な方法を用いて罠を仕掛けることは出来ない。それぐらいのことは考えての行動であった。
だからこそ、今までの常識に捕らわれた邪神の考えが命取りとなるのだ。
「--そっか、それじゃあ……熱い抱擁を交わそうか。」
「--は? 貴様何を--」
刹那、キャルディと邪神を囲むところからグレーの粘液が広がった。
その粘液は二人の体を包み込み、首から上以外の自由を奪う。ただ、これを仕掛けたのはキャルディであるため彼自身の行動は束縛されていない。
「な、なんだこれは……!?」
「スライムだよ。簡単にいえば、僕の体をもぎ取ったものだ。あ、逃げ出そうとしても無駄。ここは精神世界だから魔法は使えないだろ?」
「は! 無理やり逃げればよかろう。」
「体の固定の仕方を考えてから吐け。その状態で力が入るのか?」
「……ッ!?」
キャルディは脇を開けさせ、内股になるように固定している。無論、人体の構造上力が入る筈もなく、邪神は動くことが出来ない。これが軟体へと帰られる種族ならば脱出は容易だが、邪神はそうではない。一部の最高神を除き、邪神はヒトガタなのだ。
何故なら、神とは人の信仰により生まれる存在だからである。
「さて、窒息か爆散か、どちらか選んでもらおうか?」
「--くそが!」
邪神は吠えると、精神世界から逃げ出した。器がなければ力を出せない霊的な存在であるが故に、精神世界からの脱出は容易なのだ。限りなく少ない器という存在から離れるというのは愚行以外の何者でもないが、物理的に脱出不可能であるため邪神からすれば仕方のないことだ。
「あぁあ、逃げられたか。」
「……ディ君」
「まぁいいか。うん、美雨ちゃん。またあっちで会おうね」
「……んぅ」
キャルディと邪神との戦いは、呆気なく幕を閉じることとなった。
この物語において、邪神は基本的にかませ犬の予定です。
犬といえば、モフモフですよね。私が中学生の頃、通学路に散歩している犬がいたんですよ。その犬の種類の名前は知りませんが、体中モッフモフで柔らかそうでした。まぁまぁなサイズでしたし、外来種ですね。
一度、モフリたいとは思っていたんですがねぇ……
あいにく私、犬アレルギーなのです。残念☆




