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元勇者の吸血鬼、教師となる  作者: 妄想少年
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もうだめだ……おしまいだ……

 号泣して十数分、今日一日分どころか数ヶ月ぶりを一気に泣いた私はスッキリしました。そしてようやく、異常なほどに母性を感じるこの少年の名を知ることが出来ました。

 少年の名はキャルディア、ルディと呼ばれているそうです。本名で呼ばれたのはもうすっかり昔のことで、ルディと呼んでほしいと言われましたから、ルディ君と呼ぶことにしました。なんならお母さんでも良かった気がします。……冗談です。

 なんでも、この家に住んでいる人は家主を除いたら全員外国人らしいです。その唯一の日本人の家主さんも四分の一は外国人の血が混じったクォーターと呼ばれる人種のようで、その瞳が特徴的なのだとか。

 しかも、この家に住んでいるのは家主の妹さんを除けば全員血の繋がりが無いみたいです。本人達は大切な家族だと思っているのだとか……いいですよね、そういう関係。私も家族と呼べるのは実の兄だけなので、それぐらい大切な友達とかが欲しかったです。

 高望みはしてはいけませんね。上辺だけでも対等に扱ってくれる人間がいれば生きていけます。就職先ぐらいは欲しいですが。

 

 「ひとまず、その長ったらしい髪の毛を切りましょう。なに、シャンプーとリンスならルディお手製のものがあります。直ぐに直りますよ。」

 

 この人はシャルドネさん。この人も愛称があるようで、シャルさんと呼ぶことになりました。ルディ君の優しさは溢れ出すものだったのですが、シャルさんの優しさは瞳の奥に眠るものでした。あまり優しさ言葉は喋らない人らしいですが、心配症の症状でならこの家で二番目らしいです。もちろん、ぶっちぎりの一位はルディ君です。

 食事を終えると、ルディ君はここに住んでいる人を集めて紹介してくれました。家主さんこそ見ることが出来ませんでしたが、夜には帰ってくるらしいです。

 それはさてこき、皆さん全員が綺麗な顔つきで驚きました。今や水準なんてものは分かりませんが、あの男や女達よりかは数段綺麗です。類は友を呼ぶと聞きましたが、このことなんでしょうか。……家主さんは会えば分かるでしょう。

 

 「ではいきますよ。痛かったら言ってくださいね。」

 

 紹介が終わるとシャルさんがこのような提案をしてきました。当然、私はすることも思い浮かばなかったので従います。その際ルディ君が心配そうに見てきましたが、流石に座っているだけなので大丈夫です。

 私はコクリと頷いて目を閉じます。痛みが兄に庇われているということは伝えていません。声は出るのですが、会話をしようとすると言葉が出ないのです。コミュ症という精神的な病気と聞きました。誰一人心配するどころか微笑ましく見てきたので、大した病気ではないのでしょう。きっと直ぐに治ります。

 

 「ふんふふんふ~ん。」

 

 チョキチョキと、ハサミが使われる音、パサパサと髪が落ちる音、それとシャルさんの綺麗な歌声が響いて、お風呂場は心地いい空間になりました。

 ここは浴室です。髪は切った瞬間に燃やせばいいとのことで、長さは気にされませんでした。直ぐに洗えるからここにしたようです。浴室も広くていいですね。大人二人が入っても余裕がありそうなぐらい大きいです。

 ここをチョイスしたのも頷けますね。

 

 「よし、まぁまぁ落ちましたね。これから形を整えていきますがどうしますか? 何か希望はありますか? あったら本を取ってきますので。」

 

 首を横に振って否定の意を唱えます。髪型の知識なんてものはとうの昔に消え失せているので、見せられてもどうすればいいのか分かりません。好きなものと問われれば、たぶん興味ないというのが本音のところです。

 でも、せっかく綺麗にしてくれるのならとお願いしています。好意をむげにするにも罪悪感がありますし、私の為に何かをしようとしてくれるのはとても嬉しいですから。

 まったく興味が無いものでも輝いて見えます。……予備知識が無さ過ぎて髪型の名前すらわからないので、あまり意味はありませんが。

 

 「それでは、ある程度の長さを残して色々な髪型が作れるようにしますね。もしも興味が生まれたとき、短い髪だったら困るでしょうからね」

 「……ぅ」

 

 シャルさんは器用な手付きで私の髪を切り落としました。とても素人とは思えません。美容師でもしているのではないでしょうか。

 とりあえず、凄いことは分かります。

 切り終えると私の髪は背中の……肩甲骨でしたか、そのあたりまで無くなりました。いい感じにスッキリとしています。

 

 「終わりました。……じゃあ、洗いましょうか?」

 

 あれ、おかしいですね。さっきまで優しい瞳だったのに、シャンプーを持った瞬間に怖くなりました。まるで肉食獣のような……いえ、そんなことはないでしょう。シャルさんはきっと、することは優しさ筈です。

 

 「ふふふふふ、何回で綺麗になりますかね? 五……いえ、六は必要ですね。二十分ほどお付き合いしてもらいますよ?」

 「……ぅぇ?」

 「ここのシャンプーとリンスは特性品です。使えば使うほど髪質が良くなるのは保証されています。というわけで、時間がかかりますよ?」

 

 それからおよそ三十分の間、シャルさんは私の髪を弄びました。

 気持ちよかったです。気持ちよかったですよ。けれども、時間が十分も伸びているのですが、そこはどうなんですか?

 え? 念入りにすればするだけ綺麗になるから構わない? そうですね。

 髪はとても綺麗になりました。あまり覚えていませんが、ショッピングモールにいた若い人達よりも綺麗になったと思います。


 「ご飯、散髪、お風呂ときたら、次は勿論服だよね?」

 

 浴室から出たら私と同じぐらいの身長をしたエマちゃんが待っていました。天真爛漫というのを表すに相応しいような少女で、笑顔が可愛いです。家主の義理の娘さんとのことで、溺愛されているとききました。

 私は下着だけをつけた半裸です。同性ですが少し恥ずかしいですね、こう、自分の醜いところを見られているような気がします。まぁ、実際には貧相な半裸を見られているだけなので、羞恥心は少しだけです。

 

 「買うまで私の服で辛抱してね。ってことでマイルームカモン!」

 「エマ、あまり動かしてはいけませんよ。ゆっくり歩いてあげてください。」

 「うん。分かってるよ」

 

 エマちゃんは私の手を取って歩いていきます。辛くないぐらいの速度なのでうれしいですね。なんだかリハビリをしている気分です。

 連れてこられたのはエマちゃんの部屋です。とても綺麗な部屋ですね。私はかまり掃除が出来ないので素直に凄いと思います。

 

 「最初は普通の服にしとこっか。好みも分からないだろうし、私も知らないからね。無理が無さそうなものを持ってくるよ」

 「……ぅぅ」

 「んー、ジャージ……は流石に無いか。……短パンと、パーカーぐらい? サイズはこれで構わないよね。うん、こっち来て。」

 

 エマちゃんは短パンと長袖のパーカーを持ってきて私に着せました。

 あの家は年中クーラーがついていなくて常に蒸し暑さがありましたがこの家はとても涼しいです。長袖でも辛くないですね。肌触りもよくて着心地がいいです。泥や虫がついていない服は久しぶりです。

 それだけするとエマちゃんは好きにしていいと言いました。今は真昼らしく、夜になれば家主が帰ってくるから自由にしていいとのことです。

 やることもないので、廊下でもふらつかせていただきましょう。早く動けるようにリハビリをしたいと思います

 

 「--あ、ちょうど良かった。君、魔法は使えるかい?」

 

 廊下を歩くというリハビリをしていると、エレボスさんに話しかけられました。エレボスさんはこの家に住んでいる家主さん以外の最後の人です。ルディ君とは別方向ですが、優しそうな顔つきをしています。高校二年生なので、年上ですね。兄と同級生です。

 ルディ君曰く頭のネジが外れた人らしいので、積極的には近付かないようにしていました。今回は話しかけられたので別です。

 ……魔法というと、私の家で言う魔術ですね。兄ほどの才能はありませんが、使えるには使えるので首を縦に振ります。

 

 「なら水魔法で文字は書けるかい? 肯定と否定だけなら会話が難しいだろう? 僕なりにだけどコミュニケーションをとる手段を考えてみたんだ。いちいち筆談をするのは時間がかかってしまうからね、何が効率的か考えるとさ、これな頭に浮かんできたんだ。とりあえず、真似出来るかどうか試してみておくれ」

 

 『こんな感じでね。水魔法の形を弄れば発動出来るんだ。出来るかな?』

 

 エレボスさんは一つの水球から文字を作り出しました。精密な魔力操作があってようやく可能なものだと思います。難易度は高いでしょう。

 ですが、私はこれでも魔術師の一族です。幼い頃からしていましたし、エレボスさんに魔法で負けたいとは思いません。

 

 『こうですか?』

 「おお、凄いね。まさか一回で成功するとな思えなかったよ。発動時間は筆記より早くできるでしょ? みんなとはしっかり話せるようになるまでそうすればいいと思うよ。それじゃあ、僕はいくから」

 『はい、ありがとうございます』

 「気にしなくていいよ。……ただの自己満足だからね。」

 

 エレボスさんは少し言いよどんでいました。エレボスさんはエレボスさんでトラウマでも抱えているのでしょうか。あの笑い方には自虐的なものが感じられました。

 私の兄がしていた笑みです。もっとも間近で見ていたのでよく覚えています。

 ……辛いのは私だけではありません。あたりまえのことですが、これはずっと忘れないようにしないといつか破滅しますね。

 

 「……時雨兄さん、大丈夫かなぁ」

 

 ポツリと大好きな兄の名前を出します。

 どうか、兄にも救世主が現れますように。

 願わくばその人物が、兄の異能を止めさせますように。

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