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元勇者の吸血鬼、教師となる  作者: 妄想少年
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デデーン!(石か砕けた音)

僕はね……王の臣下になりたかったんだ。

 「……ったく、なんでこうなったかねぇ」

 --さぁね。でも、落ちているのは言ったけど助けてあげなとは言ってないよ? 助けるって決めたのはマスターだからね。

 --分かってるよ。……あいつが助けた子供みたいだからね。老衰までは生きてもらわなくちゃ助けた意味が無いんだよね。

 

 今僕の腕の中で眠りこける一人の少女を見ながら精霊と会話をする。この少女、言っちゃあれだが薄汚れていて、身体中傷だらけ火傷だらけ、左腕には感覚もないだろう。おまけに貧相な体つきで身長も低い。

 見たとおり、虐待を受けているのだろう。

 年齢は知らないが、あの時親友が助けた少女で間違い無いだろう。僕の記憶の中での話だが、なんとなく顔が似ているような気がする。しっかりした食事が与えられていないように見えるから成長していない。そのせいで五年経ってもあまり変わっていないのだろう。

 ちなみに、精霊が目覚めたのはついさっきだ。今日は目が覚める五日に一度の日であり、我が娘と買い物を楽しんでいるところで目を覚ました。

 

 --急に屋上に行けって言われたからなんだと思ったよ……。

 --ごめん。マスターは危険には敏感だけど自殺とかそういうものには疎いからね。何か起こっても大丈夫なように探知はかけておいたんだ。

 --その結果一人の命が助かったから構わないけどさ。

 

 僕は先ほどまでシャルの買い歩きに付き合っていたのだ。緊急だからと言われて屋上には来たが、結構急がされたのだ。正直、この少女のように僕や親友が助けた者でなかったら、完全に無駄骨であった。関係のない自殺志願者如きに興味など無いし、僕の知らないところで死ぬのなら勝手にしろというところだ。虐待なんかが起こっていたとして、僕の知る話ではない。そんな正義感があるのは親友と藤堂だけで十分だ。

 

 --相変わらず冷めた考え方だよねぇ。

 --いや、怒ってるよ? 僕が助けた奴なら失望するだけで一生許さないだろうけど、あいつが助けた奴が死ぬのは無茶苦茶むかつく。ましてや自殺だよ? 有り得ないね。あいつに助けられたらのなら幸せになる義務があるんだ。

 --えぇぇ……重いなぁ。一生許さない時点で来世まで呪われてるよそれ。

 --失敬な。呪いってのは末代までがスタートラインだよ?

 --あっはい、そっすね。

 

 呪術なんて習ったこと無い、研究したこともないから知らない。僕の知らないような田舎にだったらあるかもしれないが、興味も無い。仮に呪われていたとしても精霊がどうにかしてくれるだろうから気にしない。

 まぁ、調べてみるのも面白いかもしれないのだがね。

 それはそうとして、この子はどうしようか。とりあえず自宅には戻さないとして……多分、戻したらこれより悪化していずれ死ぬだろう。栄養失調からの病気、衰弱までが目に見えるようだ。痩せかたが自然ではない。

 年齢が分からないからには孤児院に連れて行くことも出来ない。家で匿うことなら可能だが、学園に通わせることは出来ないだろう。そもそもとして、ここらに住んでいるのなら手続きが面倒くさい。

 

 --既に世話することは決定なんだね。

 --違う。また死なれようとしても後味が悪いだけだ。何抱えているとか毛ほどの興味もない。……あいつのところに匿ってもらえばいいのかな……?

 --ちょっときついんじゃないかなぁ。勇者ディランの夫婦って忙しいんでしょ? 今確かロシアに行ってるんだったよね?

 --そういやそうだった。

 

 これであいつの所に預けるという選択肢は消えた。帰ってきてからならいけるかもしれないが、それまでどうするかが問題である。

 フィリップ……は、恐らく無理だ。優しいけど話し方が怖いし顔も怖い。忙しいからあまり一緒にいられないだろう。他の勇者パーティーの仲間……はそもそも所在が分からない。どこに住んでいるかも知らないのだ。

 はてさて、どうするべきなのか。

 

 --はぁ、御託はいいからさっさと決めたら? なんやかんや言ってもどうせ助けるんでしょ? 子供大好きなくせに変に意地張るんじゃないよもう。

 --意地なんかじゃないよ。後子供大好きとか誤解生みそうだから止めなさい。僕がロリコンみたいじゃないか。

 --べ、別にそんなつもりじゃないんだからね!

 

 精霊のアホな発言はスルーするとして、真面目にどうしようか。明日は仕事があるから保留には出来ない。警察に連れて行けば飛行能力を知られるから面倒くさい。というか、恐らく自宅に戻されるだろう。あいつに聞いた話では魔術師の家がいくつもある町だったらしいし、記憶を弄る魔法ぐらい使えるだろう。

 ……いや、魔術師の家だから魔術なのだろうか。祖父さん曰く大した違いは無いものらしいが、そこのところどうなのだろう。知らない方法があるのなら是非とも知って新たな戦い方を模索したい。もし魔力増強のアイテムとかがあるのなら作り方を教わりたい。

 思考が脱線してしまった。

 

 「……兄さん、何してるんですか……?」

 「ん、シャルか。簡単に言えば自殺志願者捕まえた」

 「ざっくりしすぎです。詳しい説明と鯛焼きのために216円を要求します。216円のほうを優先してくれると有り難いです。」

 「あ、あれ? さっき2000円ぐらい渡さなかった?」

 「ふっ、2000円程度で治まるわけないじゃないですか。ジュースとかアイスとか饅頭とか食べてたら直ぐに無くなりましたよ?」

 「なんでどや顔なのか知らないけど……まぁいいや。5000円渡すから今日はもう要求しないでね? 一回一回出すの面倒だからさ。」

 「はい。鯛焼き買ってくるまでに説明する内容の整理と怪我の治療ぐらい済ませてくださいね。その子をどうするのか考えているのでしょうが、見ていて苦しいですよ。」 

 「……あっ、それもそうだね。ありがとうシャル」 

 「どういたしまして。待っていてください鯛焼きィ!」

 

 食いしん坊な妹ちゃんは僕から一葉さんを受け取るとダッシュで買い物に行ってしまった。そんでもって気遣いが出来る子だから扱いに困る。

 ……腹ぺこなのが全面に出過ぎているような気がしないでもない。

 さて、それでは妹ちゃんに言われた通り治療でもしておこう。本来ならば綺麗な場所でしておきたいが、今回は仕方が無い。

 --《ライト》

 とりあえず光の反射方向を魔法で弄り、外部から僕らの姿が見えないようにする。擬似的な透明人間だと考えてくれれば構わない。というか、ただの透明人間になれば自分の視界すら無くなってしまうのでこうする他無い。

 

 --なんか、今にも犯罪が起きそうだよね。

 --今日の君はあれなのかな。何が何でも僕を犯罪者に仕立て上げたいのかな。やるならやるぞ? 神権解放しちゃうぞ?

 --許してくださいなんにもしませんから。

 

 何もしないのかよというツッコミはさておき、骨がどのようにねじ曲がっているのか、神経がどうなっているのかを知りたい。何時か言った気がするが、そうしなければ変に治ることによってこれから治らなくなる可能性があるのだ。

 一番手っ取り早いのは肉を開くことなのだが……やるか。

 

 --ストップ。なんで治すのは魔法でやるくせに調べるために物理なのさ。

 --肉の解体とか解剖とか慣れてるし……メスなら何時でも作れるし……

 --よぉし、魔眼を使おうか。こういうときいいものがあったよね?

 --なる程、腕だけ石化させてぶち壊し、新しいのを早すんだね?

 --違う、そうじゃない。今日のマスターは何時にもまして発想がぶっ飛んでるよ……。何、そんなにこの子が自殺しようとしたの怒ってるの?

 --そんなことないよ。……あぁうん、一旦落ち着けばいいんでしょ? わかったわかった。暴力的にじゃなくて平和的にだね……

 

 石化やらが駄目だというのなら他の魔眼を使うしかないだろう。

 ちなみに魔眼というのは魔法の一種である。基本属性魔法とは違って強力な能力しかなく、使用者も誤れば多大なダメージを負うから注意が必要だ。教えるのは二年生に上がってからになるだろう。

 で、こういう時に使える魔眼は……あれになるか。

 --《魔眼:開示》

 開示、知りたい情報のみを知ることが出来る魔眼。相手が魔力などで防御していないと発動しない上に魔力消費が凄いから燃費の悪い魔眼だ。

 出来るだけ魔力消費を抑えたいので腕の情報のみを調べる。

 

 『左腕』、腕神経叢損傷、骨折、火傷

 

 魔眼を使った結果、主にこの三つのことを知れた。まぁ、最後の一つに関しては見れば分かるものだし、骨折も曲がる方向さえ分かればそれでいい。

 面倒なのは一つ目の腕神経叢損傷だ。これはざっくりいけば神経が伸びたり断ち切れたりすることで損傷する病気であり、酷いものとなると自然回復は見込めなかったり、外傷後に多量出血して死ぬ場合もある。

 生命力があがっている今なら良かったものの、昔の日本だったら死んでいるぞこれ。というか、肉の損傷すらあるのだ。激痛などで死んでもおかしくない。

 いやまぁ、腕神経叢損傷だけなら怖いには怖いが、プラスで色々されているから恐ろしい。僕は回復能力が高い肉体だったから良かったが……

 

 --で、助けられるの?

 --あまり神経系は得意じゃないけど……魔法があれば問題ないね。

 

 僕の医術的な腕前なら間違いなく治療出来ない。現代医学でも移植をしなければならないのに、軍の発達していただけのあの世界で過ごしていた僕が出来るわけがない。そもそも移植するための道具も本体もないのだ。

 というわけで、魔法を利用した治療を行う。恐らく筋力は著しく低下することになるだろうが、そこは鍛えてもらえば……まぁ、いけるだろう。

 

 --さぁさぁ、犯罪とか気にしないでやってしまいなさい。暗殺とかもっと酷い事ずっとやってんだから大丈夫だよ。今更死刑は免れないって!

 --殺しても死なないから実質拷問ですね分かります。それ以前に僕が捕まるか分からないけど。少なくとも政府と警察は大丈夫かな。

 --わぁお、発想が逃亡犯のそれだ。

 --不愉快過ぎる風評被害だね。君、僕の契約精霊じゃなかったら今頃ひどい目に遭ってたよ? 具体的にはホモしかいない部屋にぶち込む。

 --おー怖い怖い。緊張はほぐれた?

 

 「……メンタリストかよ」

 

 ちゃかして気分を楽にするメンタリスト、嫌な奴である。

 ……別に、久しぶりに大怪我の治療をするから緊張していたわけではない。

 ああそうだ。うん、問題なんて何一つ無い。

 --《ヒール》

 まぁ、あれだ。精霊には感謝しておこう。

 

 

 

軍師の雇い主でもいいのよ?

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