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元勇者の吸血鬼、教師となる  作者: 妄想少年
20/46

019

本日は夏休みの最終日ですね。

これまで、様々なことがありました。

寝て起きた毎日……イカ焼きがなくてブチ切れた祭り……友達に会えば星五報告をされてブチ切れた補習の日……スマホが動かなくなりブチ切れた日……あれ?ブチ切れてばっかですね。

 「まぁ、大体こんな感じです。」

 「……フン!」

 

 パリィン! と音を立て僕の生成した氷壁が破壊された。阿久津が数発殴って壊したようである。素手では痛いと思うのだがそこのところどうなのだろう。痛みに耐性があるにしろ痛みはあるのだから……まぁいい。考えても意味の無いことだ。そんなことよりも優先するべきは生徒たちへの説明である。

 

 「すみません。言い忘れていましたが、勝利条件は相手の無力化を十秒ほどです。今のは軽く見せるためにしませんでしたが、本来なら氷壁を数倍の厚さにして動けないようにします。まぁ、気絶させるというのも当然の策ですが。」

 

 もっと魔法を教えていったら悪質且つ精神を抉るような戦い方もしていくが、基本の攻めと守りを教えた今でするつもりはない。こういうのは段取りが大事だと思う。仮に魔物が攻めてきても僕と藤堂がいればなんとかなりそうだから変に教えないほうがいいだろう。

 

 「では、作った二人組で戦ってみましょう。ただ、体育館は広いですが危ないので半分ずつにします。今あるのは16ペアですから8ペアですね。じゃあ……そこからそこまでが前半で残りが後半です。あぁ、実戦ならば流れ弾とかも気にしなくてはならないので慣れてきたら前半後半には分けませんよ。」

 

 乱戦とは恐ろしいもので、何時刃や魔法が飛んでくるのか分かったものではない。実際の戦争において気を配らなくていい時間など存在しないのだ。

 後に、生徒には座学で危険性と対処を教えるつもりである。

 

 「距離を取ってください。それと、後半組の皆さんも流れ弾が飛んでくる可能性はありますからいつでも《魔力障壁》を展開出来るようにしておいてください。傷は治せますが痛みは治るまで無くなりませんよ」

 

 痛みは危険信号、痛覚を無くすなどという都合のいいことは現実では恐らく不可能だ。魔法や異能ならばどうかは分からないが、僕はその手段は持っていない。戦闘は我流にしろ、

 一応祖父さんと手合わせしていたから色々確かめているが、祖父さんも苦痛はあるように見えたから多分無いのだろう。

 

 「痛覚遮断なんていう魔法は今のところありません。痛覚が嫌ならば頑張って開発してください。……ということで、始めます。始めッ!」

 

 僕が声を響かせると同時、あらゆるところから魔法が出陣し、見たこともないような異能がいくつも発動され、武器を構える男女が動き出すという構図が作り出された。こうしてみると、かなり猟奇的というか、獰猛な生徒たちだ。

 ……この子たち、上手く制御できるかなぁ。

 

 「《槍火》、《槍水》ッ!」

 「うわぁ! 分かりづらい名前止めろやお前ェ!」

 「はっ! 魔法名で誤解を与えて何が悪いッ!」

 「逆に清々しいな! 死ね!」

 

 最初に目に留まったのは富樫と田中のアホコンビ。田中が頭を使って富樫を翻弄している様だ。富樫は魔力障壁を展開することなく交わし、よけいな魔力消費を抑えているように見える。賢さで言えば田中だが、長期戦となると分からない。

 一つ言えることとして、多対多ではないこの戦いでは元々のポテンシャルから考えて田中が有利だ。田中は戦闘はそこまでだが、富樫よりかは上に見える。

 

 「制限時間は10分ぐらいにしとこうかね? 阿久津はどう思いますか?」

 「……ちょうどいい。」

 「さいですか。」

 

 先生に問われれば無視は出来ないという生徒の理を利用して問い掛ける。即答しなかったということは、阿久津も考えて賛成してくれたということだろう。

 そう、決して面倒だから適当に頷いたとかではない筈なのだ。

 

 「ふふ、こうすればいいのですわね! 参考になりますわ!」

 「ちょ、ちょっとイネスさん!? それ死ねる! 死ねるから止めて!?」

 「大丈夫ですわ! 先生がいますもの!」

 「やだぁこの人ォー!」

 

 イネスさんは圧縮した氷を手裏剣のような形にすることで殺傷力マシマシの遠距離武器を作っていた。工夫された戦い方でいいと思います。

 そして西野さん、死んでもこの学園は責任とりませんよ? 

 僕は責任取って辞職または牢獄行きになるだろうが、そんなことをしても精々数年いないだけなので問題は特にない。我ながら糞野郎である。

 ところで、イネスさんの戦い方はどうなのだろう。戦法としては良いと言えるのだが、文化的におかしい気がする。日本語はペラペラといっても外国人、しかも手裏剣なんてものは過去の産物だ。普通手を出すとは思えない。……いや、それを言ってしまえば刀を使うこともおかしいので変なことではないのか?

 よくよく考えてみれば手裏剣や刀という武器は長所があるから使われているのだ。それも日本の武器である。手裏剣については詳しく知らないか合理的な武器なのだろう。

 

 「阿久津、あの手裏剣を阿久津ならどう対処しますか?」

 「氷限定の話ならば炎、他は物による」

 「ふむ、風は本から殺傷力が高いですから……水なら厄介ですかね?」

 「--《ウォーター》……維持が難しい」

 「お、実戦ありがとうございます。」

 

 魔法初心者からすれば圧縮された水の維持は難しいようだ。恐らく、氷の場合は一度形が固定されているから分かりやすいのだろう。それに対して水は液体、操作が難しい。なるほど、納得の出来る話である。

 イネスさんはそれを理解してのことなのか。もしそうだったら、予め試していたということになる。素晴らしい生徒だ。

 

 「《クリエーション》、《ファイア》!」

 「あ、富樫てめぇ! パクりやがったな!?」

 「そつなくなんでもってのが俺の特技だからなッ」

 

 声が聞こえてまたアホコンビの方を見ると、二人の右手には拳銃が握られていた。口振りから察するに、田中が使っていたのを富樫が真似したということだろう。

 《クリエーション》は土魔法のうちの創造と呼ばれる類の魔法で、《ファイア》は爆発を代名しているようだ。こういう利用の仕方は面白い。

 人の考えたことを盗んで我がモノにする。これも非常に面白い。真似されやすいということは複雑に作り上げるモチベーションが上がるし、真似する側はより努力しようとする。人間の文化が成長する循環だ。

 ちなみに、土魔法というのは陸上に存在する非生物を操るというものだ。鉄などの想像しやすい物体ならば簡単に作り出すことが出来る。まぁ、仮に作り出せたとしても武器を作り出すのは中の精巧な作りを知らなければならないので武器をその場で、というのはなかなか難しい。知識が何よりも必要なのだ。

 それと、僕の即席武器の作り方は土魔法ではない。

 

 「こっから先は銃の撃ち合いだぜ?」

 「はっ! 今のでお前の癖ぐらい見極めてんだよ!」

 「なん……だと……?」

 「第一、俺の動体視力なめんな。実際の銃より遅いんだからどこに発射されるかぐらい簡単に分かるんだよ。こと目、という限定されたことで俺に勝てると思うなよ?」

 「……ハハ、なら--これでどうだ?」

 

 富樫の放った銃弾が田中へと襲いかかる。田中はそれを見切ったらしく、簡単な足裁きだけで避けてしまった。先の僕と同じような感じである。

 そう、阿久津から放たれた投げナイフを足裁きで避けた時の僕と同じなのだ。

 ……つまり、銃弾を見切って警戒していない田中はいい獲物なのだ。

 

 「--《ファイア》」

 「ドンマイ、それぐらいなら覚えてるんだなぁこれが。」

 「……だろうな、信じてたぜ」

 「ん? なん--グハッ」

 

 田中は銃弾の爆発までを見通していた。しかし、それ故に富樫の次の攻撃を避けることが無かった。富樫は爆発から身を守るため後ろを向いていた田中の振り向き際に蹴りを放ったのである。前蹴り、初歩的な攻撃だ。

 何故前蹴りを用いたかというと、恐らく溝を狙ったからだろう。

 ちなみに、みぞおちというのは水月とも呼ばれる。人の急所というのは護身術に必要不可欠だから覚えておかなければならない。

 

 「……ゲホッ! ゲホッ!」

 「おらぁ! 関節技じゃごらぁ!」

 「イテェゲホッ! ゲホッ! イッテェ!」

 

 富樫は更に肘と肩を押さえることで動きを封じている。魔法を使われたらどうなるか分からないが、見たところ富樫の勝利だろう。まだ幻術系の魔法は教えていないのだから分身でしたなんてことはあるまい。

 田中は呼吸困難+骨の軋む痛みだ。相当な精神力でも無い限りこの状態から動こうとは出来ないだろう。いくら力があっても体の向きによっては力が出ないのだ。

 例えば相手が数倍の力を持つとしても、力を入れさせない使い方をすれば完封することが出来る。それが所謂、柔よく剛を制す、というものだ。……まぁ、本当に力の差があったら押さえ込む前にやられてるのだがね。

 よって、柔よく剛を制す等という言葉は眉唾ものだ。

 

 「秘技、首トン……!」

 「……グアァ! ……ただの……打撃……じゃ……ねぇ……か」

 「ふっ、物理的に無理だからな!」

 

 容赦無いトドメではない。四肢をもぎ取ったり首の骨をへし折ったりしていないだけ優しい攻撃だ。訓練なのにトドメを差そうという気概は寧ろ良いと感じる。友に容赦無くトドメを差すというのはどうかと少し思ったりするが。

 さて、こういうことがあるから僕の仕事がある。

 

 「富樫、田中を連れてきてください。一応の治療をします」

 「へ~い。引きずって問題ないですよねこれ」

 「ちょっと痛めてるだけだと思います。心配なら背負ってもいいですが、引きずっても特に問題はありませんよ。」

 「んじゃ、ヒャッハー!」

 

 おおっと富樫選手、田中選手が無事なのを確認したら喜んで引きずり始めました。もしかすると、鬱憤が溜まっていたのかもしれません。

 これはいけませんね。友好は大事ですから田中には事実を伝えておきましょう。

 ……よく見れば、田中は苦悶の表情をしながら唸っている……?

 

 「連れてきました。治療お願いしますっ!」

 「物凄く嬉しそうですね。そんなに楽しかったですか?」

 「はい、先生もやりますか?」

 「……どうしましょうか。ちょっと迷いますね」

 「……体罰で捕縛」

 「おっと、駄目に決まっていますね。--《ヒール》」

 

 これから戦闘訓練は、沢山の怪我人を出しながらも無事に進んでいった。体育館が少し血塗れたものの、特に問題は無かったと言えよう。

 なお、富樫と田中は笑いながらもう一戦した模様。

 さて、明日はエマに付き合ってショッピングモールに行く予定である。女の子のショッピングに付き合うのは骨が折れるかもしれないが、エマはそこまで興味が無さそうなので大丈夫だろう。……疲れるには疲れるだろうけどね。

ま、土日の休みがありますがね。(鼻水垂らしながらの白目)

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