九花-Queen of desert I
今回に戦闘パートはありません。
『ここ最近のあなたの戦いっぷり、なかなかよろしかったですわ。おかげで私の力をあなたに多少はあなたに分配できます。存分に使ってよろしくてよ。感謝なさい!』
目の前にいた少女は腕を組んで怒った様な口調で俺にそう言った。
またここか…
何も無い白い空間。たしか前回ここに来た時に会ったネモによれば俺のソウルの中、だったかな。流石に一ヶ月も経つと記憶が曖昧になってくる。
『黙ってないで何か言ったらどうですの』
カールした美しいブロンドの髪に、翡翠色の美しい目に整った顔立ち。背は小さく俺よりも年下に見えるが、腕を組んでキッとこちらを睨みながらの話し方から威厳を感じられる。
――うーん…ありが…とう?
『な、なんで疑問系⁉︎私の伝え方が良くなかったのかしら…よくお聞きなさい!このドンレミアムス・レキシントン・ミロクレミシアが直々に私の力を行使して良いと言いに来たんですよ!これはほぼ交際を申し込んでることと彩色が無いほどの事なのですよ!」
――そ、そうなのか…わざわざそんな事までしてくれるとはありがたいな…てか凄い名前長いな
『えぇそうでしょう。とても立派な名前でしょう。あまりにも綺麗な言葉の連続で『あぁ――何故君の名前はそんなに美しいんだい?』と思わず聞きたくなったことでしょう』
ドなんとかは腕を組んでとても楽しように聞いてもいない事をペラペラと喋り始める。どうやら何かのスイッチを入れてしまった様だ。
『いいでしょう、あなたのその質問に答えましょう。私のこのドンレミアムス・レキシントン・ミロクレミシアの由来は遥か昔ユリウス・カエサルの時代から――』
パリンッ
突然ガラスの割れる音が響いたと思うと、次の瞬間には白い空間に何本もの亀裂が入っていく。
どうやらこの空間ともお別れのようだ。前回は名残惜しかったが今回は壊れてくれた事に感謝しよう。この少女の話を聞いていたら日が暮れてしまいそうだ。もっとも、この空間に太陽はないからわからないのだけれど。
『も、もうお別れなのですか!まだ私の大叔母様の話もしていないのに…ま、まぁいいですわ!とりあえずアカリ!あなたちゃんと私を使ってくださいね!とても豪勢で優雅な槍をイメージすれば私は現界します!良いですね!槍ですよ!や・り!私を一度使えばもう剣なんて使えなくなりますわ!だから絶対槍使ってください!一度だけでも…いざとなったら触ってくれるだけでも良いですから!』
最後の方は少女は泣きそうになりながら、そう俺に懇願した。
――わかったわかった、槍な。覚えとくよドレミ
『ド…ドレミ⁉︎私の名前はドンレミ――』
少女がそう自分の名を叫ぶ途中で、俺の意識は山へと再び呑まれた――
xxx
「あかり、そろそろ時間」
華蓮に体を揺すられ、燈利は意識を覚醒させる。
「ん…あぁごめん、いつのまにか寝てた」
目を覚ました燈利は戦闘服を着たまま自室の布団で横になっていた。壁に掛けてある時計は夜中の二時を指しており、燈利が眠ってしまってから6時間程経っていた。
「じゃあ、いこう、カイねぇが、まってる」
そう言って華蓮は燈利の手を握る。
「あぁ」
手を繋ぎながら部屋を出てエレベーターへと向かう。
この部屋からエレベーターへの道は特殊なグラナを使っているせいで正しい手順を踏まない限り進めないようになっている。
だけど流石に一ヶ月も通い続ければ嫌でも頭に入ってくる。だから俺はもう華輦の案内がなくても一人でエレベーターへたどり着くことはできるだろう。
けれど、それを華輦に言うつもりはない。華蓮がせっかく先導してくれているんだ、その気持ちを無下になんて出来ない――いや、それは建前だ。俺はただ華輦に連れられて歩くこの時間を幸せだと感じている、一人で歩くよりも、ずっと良い。
xxx
チンというベルの音と共にエレベーターが『B22』で止まる。
このフロアは相変わらずアイルにゲートを開いてもらう人でごった返していた。
その人混みの中でも目立つ肌を露出させた赤髪の女性がいるので、燈利は九条の事をすぐに見つけられる。
「どう?午前の疲れは取れたかしら?」
「はい、充分寝たので俺は大丈夫です。華蓮は大丈夫か?」
燈利がそう言うと「うん、私も、ねてたから」と華蓮は返答する。
「そう、二人とも元気なら良かったわ。なんといっても次のこの任務が私のいない、あなた達の正式なパートナーとしての任務だものね」
九条はそう上ずった声で言った直後、すぐに暗い顔になる。
「でも…やっぱり心配だわ…どうかしら、明日に延長という案もあるのよ」
その誘いを華輦は少しムッとした表情で断る。
「カイねぇ、だいじょうぶ、あかりがあぶなくなったら、私がまもる、から」
「華蓮もこう言ってくれてるし心配しなくても大丈夫ですよ九条さん。それに、俺もパートナーとしてちゃんと華蓮を守ってみせます!」
その言葉を聞いて九条は瞳を潤ませる。
「二人とも――そうよね!ごめんなさい。いつも近くで見ていてあなた達の強さは誰よりもわかってたはずなのに、少し弱気になってしまっていたわ」
言って九条は自分の頬をパチンと叩くと深呼吸をする。
「では改めて!門音くん、華蓮、今回あなた達二人には七地区に向かって《バジリスク》と呼ばれるルクシアの討伐に向かってもらいます」
「はい!」
燈利と華蓮が返事をする。
「現在この七地区はバジリスクのソウルによる《天界》の発動により、あなた達のソウルの波動を感知することが難しく即時の救援が困難であるため、危険を察知した場合はすぐに退避し、生きて帰ること!これは私の部下である以上絶対に守ってもらいます」
九条は最後にそうやさしく二人に微笑む。
「ん、がんばる」
そう言う華蓮の口調はゆっくりではあったが、いつもより熱の入った口調だった。
「うん〜うんうんたんうん!いいねー若いじゃんね!私がどこでもゲーム繋いでやんよって感じが出てくるわ!こんな華蓮を見てるだけであたしのサイコーの報酬だよ!もうクッキーなんていらないよ!いやほんとかな?嘘だよね?そう嘘だ!本当だ!クッキーはやっばいる〜‼︎」
人混みから飛んできたアイルが華蓮達の眼の前で壊れたロケット花火のようにジグザグに飛び回りながらそう話しかける。
「アイル、今日は真面目に」
九条は高速で飛び回るアイルをしっかりと目で追い、ヒョイと羽をつまみ捕まえる。
「わ、わーてるよ〜…ちょっとテンション上がっちまってさ。なんか、ほら?感動みたいなの?そんな感じん」
ちゃんとやりますよ〜、と言うアイルに九条は頷くとナルメアを指から離した。九条の手から離れたアイルは燈利達へ向き直る。
「やあ諸君!今日は絶好のゲートチャンスだ!なんといっても超絶掛ける三倍いつもよりここいら辺一体に飛ぶ魔素が素直な形をしてるからな。七地区以外だったら寸分変わらず送り届けられる。アイルプライムさ!はーはっはっは!」
「今日、ななちく」
華蓮のその言葉にアイルは青ざめガクガクと体を震わせる。
「な…七地区なのかぁ!じゃあもう知らんわ!テキトー!運任せルーレット!あそこ今《天界》発生してんだぜ!流石の私でも無理っちゅーやつやで」
「ちゃんと、つないでくれたら、明日、特別な、クッキーあげます」
その華蓮の言葉にアイルはゴクリと息を飲む。
「と、特別とおっしゃいますと。あ…あの…コンソメってやつくれるの?」
うん、と華蓮は頷く。
「ヒャッハー!ヒャハヒャハ‼︎それならお話は別パックですよお客さん!待ってて下さい、あたし、空間、繋ぎます!」
アイルがパチンと指を鳴らすと、キィィンと高音が辺りに響き、一瞬で二人の前に白い渦を巻いたゲートが出現した。
本当に空間を繋げるのは難しいのだろうか…。
燈利は顔をしかめながらそう心で呟いた。
「じゃあ、気をつけて…」
「がんばってこいよな!」
心配そうに見つめる九条に燈利は笑みを浮かべると、大きく手を振る。
「はい、行ってきます!」
今回で戦闘パートまで書ききるつもりでいたので日常パートしかないにも関わらず始終三人称視点になっており申し訳ありません。時間に余裕が出来た時に手直しします。
あと、一花の方を変える予定ですのでその時はお知らせします。
今回も読んでくださり本当にありがとうございます。