八花-Angel of the flame
今回は戦闘メインです。
『B22』――ステーションにつくとチンというベルを鳴らし、エレベーターの扉が開く。
「時間ぴったりね!どう?何か面白いものはあったかしら?」
そう尋ねられた燈利は腰につけた細長いホルダーを見せる。
「華蓮に札を売ってるお店を教えてもらって何枚か買ってきました!これで戦闘もバッチリですよ!」
そう言うと次は華蓮は
「私は、アイルにあげるビスケット、あかりに、買ってもらった」
「あら、それは助かったわ。じゃあ今日はゲート代は華輦に任せようかしら」
「おうおううお!ビスケットのハナシィが出てたんだがどうしたんだ!くれんのか?くれないのか?フィフティーフィフティー」
アイルは遠方から高速で飛んでくると、高速でそう燈利たちに喋りかけた。
「あらアイル、ちょうどゲートを開いてもらおうと思っていたところだったから呼ぶ手間が省けたわ」
「おっほう、そうであったのか!では呼ぶ手間が省けた代を貰うことにするかなぁなは!」
「あいる、そういうのは、よくない」
華輦にそう言われアイルは「およよ…」と腕をダランと下げた。
「ごめんよぅ…グスン…ただの出来心だったんだよ…グスン…でっグスン…今日グスン、どこに繋がればいいグスン?」
「今日は《二十地区》でお願いできるかしら」
華輦の口から発せられたその言葉にアイルは目を丸くして驚く。
「じょえぇー!まじか二十地区か⁉︎あそこは今《天界》になっちまってるぜ⁉︎安全に繋げられる保証ができねぇよ!」
天界?訊いたことの無い言葉だな。
そう小首を傾げる燈利に対して九条さんが口を開く。
「強力なルクシアというのは大量のグラナを操ることによって周りの空間を怪異的な場所へと変えることが出来るのよ。そうやって歪められてしまった空間の事をコキュートスでは《天界》と呼んでいるの」
「周りの空間を、歪める――」
ということは今回の場所にはそれ相応の強力なルクシアがいるというわけか…。
「そう思い詰めることはないわ、今回のルクシアはソウルは強いけれど戦闘能力自体は大したことがないと調査班が先に行って連絡してもらっているからね」
「そうなんですか、それなら少し安心しました」
「まぁ流石に入隊三日目の子にそんな酷な任務を与えるほどブラックじゃないわ」
ふふっとそう言って九条は笑う。
「んじゃあ本トゥに行くってのか?」
「えぇ、お願いするわアイル」
「しゃ〜ねぇ〜な〜、でもマジで今回だけはあんま出口に期待すんなよ。こんだけグラナの歪みが激しいと私も流石に完璧に繋げられるとは言い切れない」
滅多にしない真剣な顔つきでアイルはそう告げると、指をパチンと鳴らすと、キィィンと高周波の音を立てゲートが出現した。
それでも繋げるのは一瞬なんだな…。と燈利は心の中で静かにツッコミをいれる。
「あいる、これ、おれい」
言うと華輦はアイルにビスケットを一枚手渡した。
「おっ!今日は華輦からかー!ありがとうな、あとで美味しくいただくぜ!」
アイルはもらったビスケットを頭に乗せてとても嬉しそうにしていた。
「じゃあ行きましょうか」
九条のその言葉に「はい」と燈利は返事をすると、ゲートへと体を預けた。
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……。
「なんだ?ここ…」
ゲートを抜けると、燈利は人一人が立っているのがやっとなほど小さな四角い部屋へと出た。起き上がり周りを見渡す。
「これだけ、か…」
燈利の目の前には、余りにも長く先の見えない階段があるのみで、他は高い壁に塞がれていた。
「完璧に繋げられるわけじゃない、ってアイルが言ってたもんな…ようするに九条さん達とは逸れちまったわけか…」
はぁ…と燈利は大きくため息をつく。
「ま、ここに居ても仕方ないし、取り敢えず登ってみるしかないか」
燈利が階段に足をかけると、今まで燈利の立っていた部屋は光に包まれ消えてしまい、階段だけが何もない真っ暗闇の空間に浮いてる状態になった。
「これが九条さんの言っていた《天界》ってヤツなのか。なるほどなんでもありだな」
前を見ると長く続く階段だけが視界に映る。
「はぁ…これを登ってけってか…」
大きなため息をつきながら燈利はゆっくりと階段を登り始める。
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何時間この階段を登った――いや、降りた…どっちだったっけな…なんも景色がない空間を永遠に歩き続けたせいで自分が何処にいるのかも、上下の感覚もなくなっちまったよ。
「はぁ…でも、これはやっと着いたってこと、だよな?」
燈利は目の前に、大きな鉄の扉を遂に見つけた。
その扉を開けると、中には学校の教室程のスペースの部屋が見えた。
「実は入ったら下に落ちたり…とかないよな…」
燈利は扉を横から覗き込む。薄い扉の後ろには何もない。他と同じ様に闇が広がっているだけだった。だが扉の中には、たしかに景色が存在している。
「ほんと何でもありかよ…」
燈利はゆっくり右足だけを扉の中に広がる空間の地面につける。体重を掛けるとギシッと床の木材が軋む音がした。どうやらこの部屋は幻影ではないらしい。
安心した燈利は、その空間に入ると、ガチャ、という鍵がかかる音が後ろから聞こえた瞬間、扉はその姿を霞ませ、消えていった。
「閉じ込められたってわけか…」
辺りを見渡すが、この空間には何も無い。ただ白い床と、白い壁が佇むだけだ。
こうなったら助けが来るのを待つしかないか、と地べたに座ろうとした燈利の耳にバチバチと電撃が走る音が訊こえた。
電撃音は次第に大きくなっていくと、光り輝く輪っかが出現し、白い羽根と共にルクシアが二体産み落とされる。
ルクシアはサッカーボールの様な丸い身体をしていて、その身体には小さな翼が生えていた。
「サボる暇なんて与えないってことか、随分と厳しいルクシアだな」
そう軽口を叩くと、燈利は共鳴を起こし、灰色の剣を出現させるとルクシアに向かって斬りかかる。
「Dyyyy‼︎」
ルクシアは翼をバタつかせ天井へと飛ぶと、ギイィィと唸り銀色に輝く光線を燈利へと放つ。
燈利は横に転がりそれを避けた。シュウウと煙を立ててて光線の当たった地面は焦げていた。
ギイィィ‼︎横から二体目のルクシアから放たれる攻撃をすんでの所で横に転がり避ける。だが、またさっきのルクシアから光線が放たれ、燈利の頬を霞める。
ツーっと温かい血液が傷口から滴る。
「くそ!これじゃ防戦一方だ!」
燈利はホルダーから札を取り出し、その中に封じられているグラナを自身の体に吸収する。
「焼き尽くせ‼︎」
ルクシアに向けて放たれた炎の玉は、ルクシアに命中すると爆発し、ルクシアのソウルごと消し炭にした。
「Dey‼︎Dee‼︎」
もう一方のルクシアが高速で飛行しながら光線を四方八方に放つ。
燈利は札を吸収し何度も炎の玉を放ち応戦するが、高速で飛び回るルクシアには小さな炎の玉では簡単に避けられてしまう。
更に滅茶苦茶に放たれるルクシアの光線は幾つかが燈利の体を霞め、体力を奪っていく。
「厄介なヤツだな…」
燈利はホルダーに手をいれて顔が青ざめる。
「そんな――」
ホルダーの中には一枚の札しか残っていなかった。これを外してしまえば、上空を飛び回るルクシアに対抗する手段はない。
何か、何かあいつに必ず攻撃を命中させる方法は…
飛んでくる光線を避けながら必死に思考を巡らながら、燈利は昨日のクリルの事を思い出した。
そういえばクリルは周りのグラナを剣に纏わせて、それを斬撃として放ちルクシアに攻撃していた。
「あの範囲の広い攻撃なら、飛び回るあいつにも当たるはずだ!」
燈利は手にした札からグラナを吸収すると、両手で剣を構える。
「はああぁ‼︎」
燈利は自分の身体に吸収してある炎のグラナが剣へと流れるイメージをすることに集中する。
「Dhyy‼︎」
立ち止まった燈利にルクシアは容赦無く光線を放つ。
「――っ‼︎」
高熱の光線が、特殊な繊維で作られた戦闘服を貫き、燈利の皮膚を裂く。
だがその痛みに耐え燈利は意識を集中させる。
「……きたっ‼︎」
瞬間、燈利の手元が光ると、風を切りながら勢いよく炎の字が灰色の剣を包み込む。
「くらえぇ‼︎」
燈利が剣を振るうと、斬撃は羽ばたく鳥のような形を形成し飛んでいくとルクシアへと命中した。
「Dyy‼︎」
ルクシアは斬撃の衝撃で壁へと追突すると、ソウルが砕け消滅した。
「なんとか倒せたか…」
ソウルを失い崩れるルクシアの体からボトッと何かが地面に落ちる。
「なんだこれ?」
燈利は近づき、その落下物を拾う。落下物の正体は何か獣の皮で分厚い本だった。表紙には『狂い熊の記憶』と文字が刻まれていた。
「ルクシアでも本を読むのか?」
そう燈利が言葉を漏らした刹那、部屋の中央に煙と共に座り心地の良さそうなロッキングチェアが出現する。
「……なるほどな、俺が読む側か」
ちょうどいい、さっきの戦闘で疲れてたところだ。
燈利は椅子に腰掛けると本を開く。
ザラザラとした最初のページには細い筆で『一章・母』と書かれていた。ペラペラとページをめくると二十章のところでこの本は終わっていた。
どうやらしばらくはこの部屋からは出られそうにない――
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何時間経っただろうか――白い壁に囲まれたこの部屋には日の光は当たらず、時間の感覚がなくなってしまう。
ただ、この辞書ぐらいの分厚さの本を読み終えたというんだから、もしかしたら丸一日経過していたりするのかもしれない。
「こんな本を長く読み続けられたのなんて初めてな気がするな」
内容としては、母親を狩人に殺された小熊が少女に拾われ、その少女の愛を受けて育った子熊はいつのまにか獣ながらその少女を愛するようになっていった。
だが最後は″熊″という存在を危険視する様になった少女に殺されてしまう。という悲しい物語だった。
最期の熊の『私が、いつのまにか彼女を殺してしまっていた。だから』と少女を恨まずに死んでいった熊の心情がとても胸を締め付けた。
「余韻にでも浸かってるか――」
そう言ってパタンッと燈利が本を閉じると、突然目の前の壁にキラキラと光が集まると錆び付いた扉が出現した。
「随分と用意の良いルクシアだな」
そう零すと、燈利はロッキングチェアを揺らして勢いよく立ち上がる。
「あの札のグラナを吸収しといて正解だったな」
破れたズボンから見える太腿の傷はいつの間にか綺麗になくなっていた。コキュートスから出発する前に治癒力を活性化させるグラナを札から吸収したおかげだった。
燈利は本をポケットへと蔵い、扉を開く。
ギィィと軋みながらその重い鉄の扉を開けると、今度は広いスペースに出た。
「おっと、パートナーの方が先に来たか。外れちまったな〜残念残念」
広い部屋の中央で、赤いコートに身を包んだ男は、椅子から立ち上がるとそう言って言葉とは裏腹にニヤニヤと楽しそうに笑う。
「誰だよ、お前」
赤いコートの男から発せられるただならぬ気を感じとった燈利は剣を構えながらそう問う。
「俺か?俺はラファエル。イエス様に仕える《七天使》だ!そうそう会うことのできない超々レアもんだぜ‼︎」
そういって男は足をクロスさせ、両手を広げながら反り返ると静止する。これがラファエルなりの格好のいいポーズだ。
やっぱりルクシアか、セツみたいに尻尾とかが付いてるわけじゃないから分かりづらくはあったが妙に人間離れした感じでなんとなくわかってはいたが。
「というかガキンチョ、お前随分とくせぇな…。昔どっかで嗅いだことあるくせぇ匂いだ。えぇと…たしか…」
ラファエルは元の体勢に戻ると、燈利をまじまじと観察しながら顎に手を当てて考え込む。
「な――なんだよ、俺はお前になんか会った思い出はないぞ」
燈利の言葉をラファエルは無視して思考を続ける。
「えぇ〜っと……っ!あぁ!思い出した!」
ラファエルはパチンッと指を鳴らす。
「″あいつ″だ″あいつ″のソウルと全く一緒じゃねぇか!すっかり忘れてたぜ」
ラファエルは首を縦に降ってえらく満足そうな表情を浮かべる。
「にしても″ルシフェル″の野郎こんな面白い事隠してたのかよ。サプライズのつもりだったのか?いや、どうせルシフェルの事だ、面倒クセェから言わなかっただけか…」
ま!そんな事はどうでもいい、と言って燈利へ向き直る。
「なぁ随分とご無沙汰だったじゃねぇか。一体何してたんだよ」
ラファエルは久し振りに会った友人と話す様に声を弾ませる。
「誰と話してんのか知らなねぇが、生憎俺はお前の頭に浮かべてる奴とは別人だと思うぜ、少なくとも俺は臭くねぇ!」
そう叫ぶ燈利の姿を見てラファエルは思わず吹き出す。
「はっ!なるほどな、記憶でも弄られてコキュートスの新しいおもちゃに成り下がったってか!まぁ単細胞のいい末路ではあるな!」
「さっきからゴチャゴチャと!人をおちょくるのもいい加減にしろよ!」
燈利がそう叫ぶと、男はニヤニヤと笑う。
「″人″…ねぇ…まぁ、いいか――おかげでやっと借りが返せるんだ」
突然、男の目の前に炎の塊が出現すると、男はその炎を巧みに操り剣を形成し、一気に燈利へ突っ込んでくる。
「くそ!いきなりかよ!」
燈利は咄嗟に灰色の剣を盾にしてその攻撃を受け止める。
「なっ――」
剣同士がつばぜり合うと、激しい衝撃音と共に爆発し、燈利は後方に吹き飛ばされた。
「はっ!イイね、取り敢えず一撃耐えただけでも評価だ。腐っちゃいるがやっぱ″あいつ″と同じだけある」
男は剣を宙に投げてお手玉の様に遊びながらそう言う。
「なんなんだよ、こいつ…」
強すぎる――今の爆発が無くともどのみち力負けしていて俺は吹き飛ばされていたはずだ。こいつには少なくともパワーでは勝てない。
「なら、どうしろってんだ」
燈利は剣をついてフラフラと立ち上がる。その様子を見てラファエルはまた顎に手を当てて考え込む。
「ふむ、だがこんな弱いコイツを倒して、それは″あいつ″への復讐になるか……。いや、ならないだろう」
ラファエルは燈利には目もくれずブツブツとそう呟く。
「なら俺がすべきことは一つだ!」
突然、ラファエルは手にしている剣で自分の左腕を切り落とした。切口から黒いソウルが大量に噴出する。
「な…何を」
あまりのことに燈利は思考が追いつかず、呆気にとられる。
「ほら、受け取れ」
ラファエルは痛みなど何もない様に自分の左腕を拾い上げると、燈利の目の前へとそれを投げ飛ばした。
「たしかお前にはソウルをグラナに変換して吸収するクソみたいな能力があったよな、それは俺からのハンデだ。存分に使え」
はやくしろ、とラファエルは燈利に促す。
「なんなんだよホント…」
燈利は足元のラファエルの左腕に視線を落とす。
でも俺が吸収の能力を持っているのは本当だ。敵ではあるがラファエルが嘘をつく奴にはあまり見えない。
「なら、やるしかないか」
燈利は意を決してラファエルの左腕を拾い上げる。するとラファエルの左腕は眩い光となり、燈利の体へ吸収された。
ラファエルのソウルを変換した炎のグラナは燈利のソウルと融合し、燈利にリューネ以上の炎の使役を可能にした。
「なんだか、熱い――」
この熱さは体験したことがある。ウォーミングアップして体が温まった時と同じ感じだ。
体に留まり切らないグラナが燈利の手にする剣にも流れ、その刀身は赤く輝き周りに炎を纏った。
「イイね、やっぱこうじゃねぇと面白くない」
ラファエルはそう言って笑うと、剣を構え燈利と同じ炎をその剣に纏わせる。
体の奥から力が溢れて止まらない、これなら――
燈利も炎を纏った灰色の剣を構える。
「いくぜぇっっ!」
ラファエルはその叫び声と共に、さっきと同じ技で燈利に一気に間合いを詰める。
鈍い金属音と男の刀身部分が爆ぜ、熱風が舞い上がる。だが先程とは違い、燈利はそれを難なく受け止めた。
「ハンデ、あげすぎだったんじゃねぇか?」
「はっ、こんぐらいで丁度いいんだよ」
ラファエルはそう言って笑うと、跳躍し燈利と距離をとる。
「これならどうだ?」
ラファエルはそう言うと剣から荒々しい炎の球を無数に射出した。
「すげぇ、まるで止まってるみたいだ」
燈利は向かってくる炎の玉を全て剣で真っ二つに引き裂くと、勢いの無くなった炎の残骸に触れ、そのグラナをすべて吸収し更に強い炎を灰色の剣に纏わせる。
「まだなんかくれんのか?」
「はっ、流石にここまでされるとは予想外だ」
そう言って笑うラファエルの顔には、一瞬だけ焦りの表情が浮かぶ。
「今度はこっちからいくぜ!」
燈利は剣を構えると一気に男との距離を詰める。ラファエルの放ったものと同じ技だ。
「魅せるじゃねえかガキンチョ」
ラファエルはその攻撃を難なく受け止めるとそう言って笑う。
「はあぁぁ‼︎」
ラファエルは高速の斬撃を振るい、燈利はそれをすべていなす。爆発音と金属音とが大気に響き渡る。
「そこだぁ‼︎」
燈利はラファエルの隙を見抜くと、渾身の一撃でラファエルを後方に吹き飛ばした。
ラファエルは空中で体勢を立て直し華麗に着地したが、その顔には明らかに焦りの色が見えていた。
「前言撤回だ。どうやらガキンチョ、お前の言った通りハンデをあげ過ぎちまったらしい」
ラファエルは深く息を吸いこむ。
「だから…こんぐらいは許せよ!」
周りのグラナが嵐の様にラファエルの体に集まり、ラファエルを覆い尽くす。
「な、何が起こってる――」
次にラファエルの姿が見えた時、もはやそれは人の形をしていなかった。肌は黒い鱗のようなモノに変わっており、背中からは紅い翼、頭の上に赤黒い色をした天使の輪が付いていた。
「なんだよ、それがお前の本来の姿か。随分とらしくなったな。それの方が似合ってると思うぜ」
「それはありがてぇ、なら存分に奮わせてもらおうか!」
そう言ってラファエルが剣を構えると共鳴したグラナがその剣を炎で覆う。
「死にな」
地を蹴りラファエルが攻撃しようとした刹那、巨大な氷の刃がそれを制止させる。
「おっと…新たな客人が来ちまったか」
ラファエルは残念そうに顔を歪ませそう言った。
燈利の背後には、扉から出てきた九条と華輦が息を切らしながら現れていた。
「ラファエル!」
九条は叫ぶと、無数の氷の刃を射出する。だが氷の刃はラファエルの周りにあるグラナにより全て溶かされる。
「くそ!でもまだっ‼︎」
九条がホルダーから札を取り出そうとすると、それをラファエルが叫んで止める。
「やめろやめろ、なぁんか興が削がれちまった…んなことしなくても俺はもう帰るさ」
そう言って大きなため息をつくと「やれやれ」と言って首を振ると燈利たちに背を向けた。
「じゃ、またなガキンチョ!今度会うときはハンデなしでやり合えるぐらいになっとけよ!」
そう言うとラファエルは黒い渦を巻くゲートを出現させる。
「逃げるのか!」
そう言って燈利はラファエルを追おうとする。
「門音くん!」
九条は両手で燈利の肩を押さえつける。
「今は…退くのが正解よ」
そう言う九条の顔には異常なほど汗が出ていた。
「はっ!賢明な判断だなぁ、流石コキュートスの元エリートちゃんだ!」
そう言ってラファエルは楽しそうに笑う。
「そうだ!いい子のお前達にはご褒美としてここのルクシアは俺が殺しといてやるよ」
ラファエルはそう言うと何もない壁に向かって斬撃を振るう。
「Gaaaaa‼︎」
悲痛の叫び声をあげながら、巨大な虫のような形をしたルクシアが姿を現わすと地面へと落下する。
「イっちまいな!」
「GaaaAAA‼︎」
悲痛の叫びをあげるルクシアに対してラファエルは容赦なく炎の追撃を加え続ける。
「仲間じゃ、なかったのかよ!」
苦しそうにのたうちまわるルクシアを見て燈利はそう叫んだ。
「はっ!残念ながらそんな醜い姿をしてんのが仲間とは俺はとても思えないね」
ラファエルは笑った声でそう言うと、動かなくなったルクシアをゴミのように見つめる。
「それじゃ、今度こそじゃあな!」
ラファエルはそう言うとゲートの中に姿を消した。
「ごdzjMbNNgzさdxgI…GO…Me……」
ラファエルの炎にソウルを焼かれたルクシアは、最後に何か擬音を発すると雪の様に溶けて消えていった――
ゴゴゴゴゴ
「な、なんだ――」
そのルクシアが消えた刹那、グラナで形成されたこの《天界》は徐々に形を崩し崩壊していく。
「これは――学校か?」
天井は大きく壊れてしまってたが、崩れたバスケットゴール、床に引いてあるいくつもの白と赤の線から、ここが何処かの学校の体育館であるという事はわかった。
「あの――」
振り返って口を開こうとした燈利の体を、九条は唐突に強く抱きしめる
「無事で――無事で、本当に良かった」
九条の頬を温かい涙が伝う。
「よかった、私も、すごい、しんぱいした」
言うと華輦も燈利へと抱きつく。
「く…苦しいのですが…」
そう言って燈利が二人の腕を叩くと九条はパッと離れた。
「ごめんなさいね、つい…でも本当無事で良かったわ」
「そんな心配しなくても大丈夫ですよ。ほら傷もなくてピンピンです!」
そう言って袖をまくり筋肉拳を作る。細い燈利の腕には大して盛り上がらなかった。
「あかり、鍛えた方がいい」
「そんな!酷いな華輦」
燈利がそう言うと華輦は「じじつ」と呟いた。
「いやこれでもちゃんと強かったんだぜ⁉︎」
「うそ、私が来た時、しにそうだった」
「くそぅ…それは…でも来る前はちゃんとなぁ――」
言い合う二人を見て九条は燈利達に背中を向け、静かに「良かった」と微笑み、涙を流す。
「そういえば――」
先程止められてしまった話を燈利は今度こそちゃんと言った。
「九条さんさっきあいつの事をラファエルって呼んでましたけど知り合いなんですか?」
「まぁ簡単にいうと腐れ縁みたいなものね」
遠い目をしながら九条は続ける。
「まだ私が前線にいた頃からしょっちゅう色々なところに現れては場を荒らしていく厄介な奴なのよ」
「九条さんの前線にいた頃って何年前ですか?」
燈利がそう聞くと九条は引きつった笑みを浮かべる。
「そんな昔に見えるかしら?」
九条のソウルと共鳴したグラナにより空間がビリビリと震えだす。
「ご…ごめんなさいぃぃ…」
その後、燈利だけはゲートを使わず歩いてコキュートスに帰るハメになった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございましな。