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-BLOOM-  作者: すいかばきばき
5/19

五花-Battle with the variant

人物紹介が欲しい、という要望がありましたので後書きに書いて見ました。良ければ拝見して下さい。

 「じゃあ、そろそろ時間ね」

 そう言うと九条は操作していたタブレットを机に置くと、ソファーから立ち上がる。

「華蓮、門音くん、準備はいいわね?」

 はい、と二人は同時に返事をする。

「いい返事ね。じゃあ二人とも着いてきて」

 三人は黄金のエレベーターに乗りこむと、九条が『B22』と書かれたボタンを押す。

 扉が閉まると、ゴウンという音とエレベーターはゆっくりと不規則な移動を始める。

「あかり、私がいるから、安心して、ほしい」

 華蓮が燈利の服の袖を引っ張りそう口を開いた。

 自分では気づいていなかったがこんな小さな子に気づかれてしまう程には険しい顔をしてたのだらしい。

「ありがとな、じゃあお言葉に甘えさせてもらって華蓮を頼らせてもらうよ」

 そう笑いかけると「いい返事だ」と言って華蓮は少しだけ口角を上げた。

「ふふっ、華輦は良い上司になれるわね」

 一連の様子を見て九条は微笑ましげに笑った。

 チンという音ともにエレベーターは止まり、扉が開く。

「着いたわ、ここが《ステーション》と呼ばれていて、地下にあるこのコキュートスと地上とを結ぶ場所よ」

 燈利は説明を聞きながらそのフロアを見渡す。

 フロアは大きなドーム型の部屋になっており、白いコキュートスの戦闘服に身を包んだ人々でごった返していた。

「門音くん、あれを見て」

 九条が指差した方では、コキュートスの人達が白い渦の中に吸い込まれるようにして消えていっていた。

「あの白い渦が場所と場所とを繋げてくれてるの。途中で空間の狭間に落ちるなんて事故は稀にしかないから、安心して大丈夫よ」

 稀にはあるのか…。

 そう心でツッコミをいれる燈利に何者かが声をかける。

「おぉ〜今日は華蓮だけじゃないんだね〜、なんなのであるかお前は、新人くんなのか?」

 燈利は声の主を探して辺りを見渡すが、九条と華輦の他には燈利の周囲には誰もいない。

「くんかくんか…くんかくんか…うーーん…てかやばめじゃないか?いやヤバイよなオマエ!危険な香りがチョチョチョ凄いんですけどぅ⁉︎」

 どうやら気のせいではない、完璧に誰かから話しかけられいる。しかも凄い至近距離で。

 そう思い再度キョロキョロと辺りを見回す燈利の目の前に光の玉が現れる。

「いやいや新人くんよ、あたいはここだ。妖精タイプのルクシアは初めて見るのかい?てか初めてだよな!絶対ですね。にしてもよぉこんな『修羅場くぐり抜けてきました』みたいな香りだしまくってんのにさ〜あ。謎めいたやつだなぁ」

 燈利が光の球を目を凝らしてよく見ると、蝶々のような美しい羽根を持った小人がいることがわかった。

 腰にまである綺麗に手入れした長い黒髪と白く透き通った肌、それに服は紅い着物でとても上品な風貌――小人であるということよりも見た目と言動とのギャップに燈利は驚いた。

「アイルにはまだ紹介してなかったわね、この子は門音燈利くん。今度から華蓮のパートナーになる子よ。やさしくしてあげてね」

 九条がそう小人――アイルに告げると、アイルは羽根をバタつかせ空中をバタバタと高速で移動して慌てふためいた。

「ぼへえぇ⁉︎こんな危険臭プンプンボーイに華蓮任せちゃうの⁉︎大丈夫かよ、こいつ大人しそうなフリして二人っきりになったら狼になるタイプの人間だぜぇ!きっと!」

「むっ、アイル、そんなことない。あかりは、狼じゃなくて犬」

 華蓮のその物言いで、九条は「たしかに、彼は犬だわ」と言ってクスクスと笑った。

「まぁ大丈夫よアイル、この子が戦闘に慣れるまでは私も一緒についていくし、それにこの子は華蓮の良いパートナーになると私は思うわね」

「う〜〜ん、まぁカイ姉様がそう言うならいいですけど〜、でもぅでも!あたいはまだ完璧に信用した訳じゃないかんな!そこは覚えておくように!人狼!」

 そう言ってキッと睨んでくるアイルに燈利は苦笑いをする。

 どうやら俺の匂いは彼女には相当キツイらしい…最近流行りの半身浴でもやれば匂いは取れるだろうか。

「ま、いいわ!で!どぇ!今日はカイ姉様どこに行くの〜?今日は気分が良いからセールスデイって事でぇ、この男は嫌いだけど安値で繋げてあげるぅ〜」

「あらそれはありがたいわ。今日は《六地区》に飛ばしてもらいたいのだけれど、割引ならクッキーは一枚でいいかしらね」

「えぇ⁉︎ろくぅぅー⁉︎六地区⁉︎遠いよぅ…遠くなぁい⁉︎遠いよねぇ?うん遠いわ、そうだ遠いわ、やっぱなし!全然なし!六地区は割引対象外です!」

 アイルはブンブンと羽根を激しくバタつかせながら飛び回り九条に抗議する。

「はいはい、そう言うと思って元々三枚用意しておいたわ」

 はいどうぞ、と言って九条は三枚のクッキーを手渡した。

「おおぅおおぅおぅ!流石カイ姉様だぜぇ嬉し味のキィワミ〜‼︎」

 アイルは自分の体と同じぐらいの大きさもあるクッキーを受け取ると、それを三枚全て器用に頭の上に乗せた。

「うーん!ありがとう!これで今日のノルマは達成できちゃったぁ!ていぅかぁノルマなんてないんだけどな‼︎いや、実はあるかも…ないこのかな!でもまぁいいや‼︎じゃあ今繋げるからな!」

 アイルは燈里達に背を向けると指をパチンと鳴らす。

 キィィンという甲高い音と共に白い渦(ゲート)が出現した。

 遠いとか駄々こねてた割にめっちゃ繋げるの簡単じゃねぇか!

 燈利は思わず心の中でツッコミをいれる。

「私、いちばん」

 華蓮がテクテクと歩いて意気揚々とゲートに飛び込んで消えていった。

「本当にこれに入るのかよ」

 そう言って未知への恐怖に身構えている燈利をアイルは叱咤する。

「おい人狼!外でレディーを待たせるなんて最低だぞ!はよ飛び込んどけや!私の作ったゲートは安心設計だゴラァ!」

 言いながらアイルは燈利の背中に突進し、燈里はゲートに無理矢理ねじ込んだ。

「ちょ、待っ――」

 一瞬、燈利の視界が閉ざされ、何も見えなくなったが、次の瞬間には華蓮の顔が燈利の瞳には映った。

「うわっ⁉︎ごめん華蓮」

 燈利は飛び退いて華蓮の膝から頭を離す。

「途中で落ちなくて、良かった。悪い子はゲートから落ちるって、カイねぇが言ってたから、少し、心配してた」

「そんなどこぞの雲みたいな機能があるのか、まぁ取り敢えず地面にキスしなくて済んだよ。ありがとな、華蓮」

「うん、ゆーわーうぇるかむ」

「それにしても、ここは――」

 燈里の出た場所は何処かの公園だった。

 遠方に見える半分に折れたスカイツリーから東京の何処かであろう事が伺える。

 中天に浮かぶ赤い月がルクシアにの襲撃により半壊した街を照らし、燈利の心に″普通の生活は終わってしまった″という事を深く痛感させた――

「二人とも無事についたようね」

 ゲートから九条が出てくると出現した時の同じ様にキィィンという甲高い音を立ててゲートは消えていった。

「これで無事故ニ日目を更新できたわ。良かった良かった」

 九条のその言葉に燈利は目を丸くして驚いた。

 えっ⁉︎稀じゃないじゃん!二日前に人落ちてんじゃん!あのアイルとかいうルクシア、ほんと大丈夫なのか…。

「ははっ、冗談よ冗談、あまり本気にしないで」

 そう言って九条は微笑んだあと、神妙な顔つきにで華輦と燈利を見る。

「では華蓮、門音くん。戦闘の準備を、すぐにルクシアが私達を嗅ぎつけるわ」

「ん、わかった」

 ゆっくり頷くと、華蓮は今朝見た黒い腕を腰から出現させる。人と同じ形をしているが爪が獣のように伸びていて禍々しい雰囲気を出していた。

「そうだよな、あの化物と闘うんだよな…」

 華輦達に訊かれないよう燈利は小声でそう呟いた。

 ルクシアに体を貫かれた光景がフラッシュバックし吐きそうになるのを燈利は済んでのところで堪えた。

「大丈夫だ、俺なら出来る。絶対出来る!」

 燈利は自分にそう言い聞かせると、大気に散らばるグラナと内に秘めるルクシアのソウルを共鳴(レゾナンス)させ灰色の剣(ソキウス)を出現させる。

 その剣は、昨日と変わらず赤い線がドクンドクンと脈を打ってまるで生きているかのようだった。

「じゃあ私は上から援護するわ。あくまで今回の主役はあなた達だからね」

 そう言うと九条は軽やかに跳躍し、一飛びで五メートル程ある電柱の上にフワリと降り立った。

「あかり、かまえて」

 華蓮がそう言ったのと同時に、突然バチバチと電撃音を立てながら目の前の空間が光り始める。そして出現した三つの輝く輪っかの中から白い羽根と共にルクシアが地面に産み落とされた。

 そのルクシアの全身は白く、口はない。大きな紅い目は爛々と獲物である燈利達だけを映していた。

「Syaaaaa‼︎」

 ルクシアは金切り声をあげながら燈里達の方へ両手から生えている白い大剣を引きずりながら近づいて行く。

「くそ…こいつ俺の事刺した奴とよく似てやがる」

 燈里は剣を構え、自己流の迎撃態勢をとる。

「燈里は右の、やって、私が、残りはやっておく」

 緊張で震える燈利に華輦はそう指示を出すと、二体並んでいるルクシアの方へと突っ込んでいく。

「やるしか、ないよな!」

 燈利は姿勢を低くして向かって来るルクシアに対して身構える。

「Syaaaaa‼︎」

 ルクシアは燈利の目の前までくると、金切り声をあげ、両腕から生えた剣を燈利へと振り下ろす。

『大丈夫、ネモちゃんがサポートしますよ〜』

 燈利の頭の中に直接その声が響くと、手にしていた灰色の剣(ソキウス)が勝手に動き、そのルクシアの攻撃をいなした。

「今のは――」

『ネモですよ〜』

 また燈利の頭の中で女性の声が響く。

「ネモって…たしか今日夢で見た――」

『そうですよ〜そのネモちゃんです。今回だけ特別に手助けに来ました』

 灰色の剣(ソキウス)はまた勝手に動くと、ルクシアのグラナで出来た体に斜めに斬り込んだ。

「Gyyyy⁉︎」

 悲鳴と共にルクシアの体から黒い色をしたソウルが大量に噴出する。

「GG…Syaaaaa‼︎」

 ルクシアは周りのグラナで傷口を修復すると、まだ戦闘継続の意思を表す雄叫びをあげる。

『では、ネモちゃん忙しいので帰りますね〜頑張って』

「お、おい!まだ倒せてないぞ!」

 燈利はそう叫んだが、もうネモの声は頭に響くことはなかった。

「Syaaaaa!」

 ルクシアは右手の剣を振り下ろす。

「くそ!」

 燈利が横へと避けようとしたが、反応が遅れ服が切り裂かれた。

「せっかくの服を傷つけるんじゃあ…ねぇ‼︎」

 燈利は恐怖を押し殺し、剣を振るうとルクシアの体を真っ二つに引き裂いた。

「Gii…」

 血飛沫のように黒いソウルが噴出し、ソウルが粉々になったルクシアはグラナで出来た体を維持することができなくなり、雪のように溶けて無くなった。

「や…やった!倒せた!」

 よっしゃー!と言って喜ぶ華輦の視線の先では、華蓮が巨大な腕で複数のルクシアを同時に握りつぶし粉微塵にしていた。

「す、すごいな…もう朝はちゃんと起きるようにしよう…」

 胸をなでおろし油断している燈利の背後から金切り声をあげながらルクシアが襲いかかる。

「Syaaaaa‼︎‼︎」

 しまっ――

 避けるのは不可能と判断し、目を瞑った燈利の耳に、ポロンと心地の良い音色が辺りに響くと、背後にいたルクシアは突然内側から弾け飛んだ。

「門音くん、集中!」

 漆黒の様に黒いヴァイオリンを手にした九条が電柱の上から燈里へ叱咤する。

 今の現象は、九条の攻撃によるものだった。

「まだ来るわ、気を引き締めていきなさい」

 九条がそう言い終わると同時に、バチバチという電撃音を立てながらまた光の輪が宙に数個出現すると、白い羽根と共に数体のルクシアを産み落とした。

「まだくるのかよ」

 今度のルクシア達は両腕に巨大な剣は付いてなく、その代わり顎が異常に発達して狂気的な牙を持つタイプだった。

「むぅ、しつこい奴ら」

 華蓮は腰から生えた巨大な腕をゴムのように伸ばすと、出現したばかりのルクシアの群れを拳で一気に叩き潰した。

「ggg――‼︎」

 残った二体のルクシアは不快な奇声をあげると華蓮から距離をとり、狙いを燈里へと変え襲いかかる。

「ははっ、随分と姑息な奴らだな」

 さっき一体倒したんだ。二体だって大差ないさ。

 そう言い聞かせながら剣を構えた燈利に一つのアイデアが浮かんだ。

「そうだ!そういえば()()を使えるはずだ!」

 出撃する少し前、燈利は念のために札から炎のグラナを吸収しておいていた。

「喰らっとけー‼︎」

 両手を向かってくるルクシアの方へ向けた燈利の左腕から炎の球が発射されると、その炎の球は二体のルクシアを同時に焼き消した。

「エクセレント!素晴らしいわ門音くん!」

 地面へと降りた九条が燈利にパチパチと拍手を送りながらそう声をかけた。

「取り敢えずここら辺のルクシアはこれで終わりみたいね。二人とも、ご苦労様!」

 そう言って九条は胸ポケットから綺麗な包み紙に包まれたアメを取り出すと、燈利と華蓮へあげた。

「うん、燈利、いい動きだった。だから私から、これをあげましょう」

 そう言って華輦はドヤ顔と無表情の中間の様な顔をすると、胸ポケットからくしゃくしゃに萎れた包み紙に包まれたアメを燈利に渡した。

「おぉ!これはこれは、わざわざありがとな。嬉しいよ」

 きっと今日のためにわざわざ用意してくれていたであろうそのアメを燈利は口に放り込む、イチゴ味だ。

「うんうん、この調子ならとても良いコンビになれると思うわ。華蓮にも責任感が芽生えたみたいだし本当にあなた達が組んで良かっ――」

 大きな地響きと共に、会話している三人に突然何か巨大な物体が高速で突進をした。

「げほっ…なんだ…一体…」

 土ボコリが収まり徐々に燈利の視界が開ける。

「これは――」

 目を開けた燈利達の目の前に映ったのは、巨大な蛇のルクシアがこちらに何度も突進している姿だった。

「くっ…まさかこの場所にこんなルクシアがいるなんて…予想外だったわ」

 九条はこのルクシアを目で捉えた時、咄嗟にグラナのバリアを張ることでルクシアの攻撃を防いだ。

「ぐっ…流石に簡易的なものだし…辛いわね…」

 額に玉の様な汗を流す九条の遠く前方で誰かが叫び声をあげる。

「いた‼︎クリル!こっちにいたわ‼︎九条さんと華蓮…あと新人くんも一緒よ!」

 公園の入口の方で叫ぶ声に、燈利は顔を向ける。

 ルクシアとバリアとの衝突による激しい揺れの中でも、美しいブランドのツインテールを見てその人物の正体はすぐにわかった。

 その女性は昨日の装いとは違い、白い生地に自己流の赤い刺繍をしてアレンジアレンジしたコキュートスの戦闘服を身に纏い、手には紅い剣が握られていた。

「リューネ!」

 燈利が叫ぶとリューネは「昨日ぶり!」と言って燈利に笑って見せた。

「さて――」

 リューネは燈利達から視線をはずすと、キッとルクシアの方を睨みつける。

「こっち無視して――」

 リューネは地面を蹴り空高く跳躍する。

「新たな相手見つけてんじゃないわよこの三股野郎!」

 そのまま全体重を乗せてルクシアの脳天へと紅い剣(レッドベリル)を突き刺した。

 リューネの魂術によりマグマほどの熱を持った紅い剣(レッドベリル)は蛇ルクシアの固い鱗を溶かし、内部のソウルを貫いた。

「gaaaa‼︎」

 ルクシアは悲痛の叫びを上げながら体をくねらせリューネを振り落とすと燈利達の元から後退する。

「ちょっとリューネちゃん…これは、どういうことかしら…?」

 急なソウルとグラナとの共鳴(レゾナンス)により体力を著しく消耗した九条は、肩で息をしながらリューネにそう問うた。

「申し訳ございません!戦闘からこのルクシアがいきなり逃走してしまって…鱗が硬かったため遠距離の攻撃も通じず、この有様です…」

 リューネは深く頭を下げ九条に状況を説明した。

「わかった。まぁ今のところ負傷者も出ていないし、門音くんにこういうタイプのルクシアがいるってことも見せられたしチャラって事にしてあげるわ」

「ありがとうございます!この恩義、深く胸に刻みます!」

 リューネはそう言うと、体制を整えまたこちらへ攻撃の姿勢を取るルクシアへと向き直る。

「俺も――」

 リューネに加勢しようとする燈利を九条が静止した。

「門音くんにはまだ早いわ。ああいう大型のルクシアはまた今度ね」

「でも、リューネ一人じゃ…」

「それなら大丈夫よ。彼女は戦闘能力だけならコキュートスの中でもトップクラスだわ」

 燈利にそう言って微笑んだあと、小声で付け加える。

「それに、彼女は一人じゃない」

 九条のその言葉と同時に、黒い髪をした女性が入り口の方に現れた。

「ごめん、遅れた!」

 その女は息を切らしながら燈利たちの方へと駆け寄ってくる。

「もー、クリル!遅いじゃない!私一人で倒しちゃおうかと思った」

「ごめん…途中やたらとルクシアに道を阻まれて…」

 夜の底の様に長い黒髪、コキュートスの戦闘服に自己流の改造を施し青い刺繍が美しい服を見に纏う彼女――クリル・リギーニは目の前のルクシアには目もくれず、汗と風により乱れた髪をゴムで一つに結わえながらリューネに謝罪する。

「いや〜こんな疲れたの初任務の時以来な気がするよ」

 ふぅ、と言いながら髪を結き終えると、クリルは魂術を使い、葵い剣(ブルーローズ)を出現させる。

 ブルーローズにはワニの歯のようなギザギザとした刃が無数にあり、禍々しい雰囲気を醸し出していた。

「ふん、戦闘中に逃げて違う相手を見つけるとは中々根性の座った奴だな。二度と逃げらんないようにテメェのソウルは一欠片も残さねぇで粉微塵にしてやるよ」

 意地悪そうな笑みを浮かべクリルがそう挑発すると、ルクシアは激昂しクリルへと突進する。

「なんだよ、さっきと変わんないな!」

 クリルは跳躍し、軽々とその攻撃を避ける。

「今度はアタシの番だ!」

 クリルはルクシアの体に葵い剣(ブルーローズ)の刃を突き立てるが、その攻撃は固いルクシアの鱗を削る程度にしか至らなかった。

「いいディフェンスしてんじゃん!」

 顔に笑みを浮かべながらクリルはバックステップしルクシアから距離をとる。

「私のこの一撃を耐えられたら本物の硬さと賞賛してやってもいいぜ!」

 クリルはそう言うと、自身の中に眠るルクシアのソウル(フェンリル)と深く繋がるための詠唱を始める。

「怨念よ…この世に残る哀しみのグラナよ…彼らを救うため、今…私のこの剣へと集え‼︎」

 クリルが葵い剣(ブルーローズ)を天へと掲げると、無数の真珠のように光るグラナが刀身に集まる。

「お前の哀しみは、私が木っ端微塵に消してやる――トリースティティア・レムレース‼︎」

 グラナが葵い剣(ブルーローズ)を纏い禍々しく輝き、その刀身から葵い衝撃波が放たれ、悍ましい音を上げながらルクシアの鱗を貫通し内部のソウルごと削り去っていく。

「Ndaaaゼgvdz‼︎」

 絶叫しながらもルクシアはよろよろと体を起こすと、まだ燈利達の方へと向かおうとする。

「ハハッ!この一撃でも倒れないなんて流石中々根性あるじゃんか!」

「もう!褒めてどうするのよ!倒せなかっただけじゃない!」

 そう言ってリューネはクリルの頭をポカンと叩く。

「あはは〜、ごめんごめん」

「はぁ…もういいわ。あとは私がやる」

 リューネはそう言うとルクシアに向けて紅い剣(レッドベリル)を構え、内に眠るルクシアのソウル(イフリート)と繋がるための詠唱を始める。

「太陽のグラナよ!目の前のこの愚かな者の悲しみを、その輝きの光で鎮め給え!」

 紅く輝くグラナが集まり刀身に吸収されていくと、紅い剣(レッドベリル)は金色に輝く焔を纏った。

「エゴー・テー・アモー‼︎」

 紅い剣(レッドベリル)から放たれた斬撃は、強烈な爆撃音と共にその焔でルクシアの全身を焼き焦がした。

「Aa‼︎Aaaa――‼︎」

 ルクシアの体からはソウルが滝のように流れ出る。

「zxfワ…ワxdtタ…bdHa…Mzダdd」

 ソウルの崩壊によりグラナの体が維持できなくなりながらなお、そのルクシアは攻撃の姿勢をやめない。

「っ…!なんなの!いくらなんでもしぶと過ぎる」

 狼狽するリューネの肩にそっとクリルが手を置き、後ろへ行くように促す。

「全く…そんな傷で立ち上がっても辛いだけだろうに…私がすぐ楽にしてやるから…」

 クリルは剣を構え、再度詠唱を始める。

「bdha…Mzだx‼︎」

 突然、ルクシアは首を空へ向け口を大きく開く。

「な、何を――‼︎」

 ルクシアは大きく息をすうと、一気に自身のソウルを天高く射出し、戦線を離脱した。

「なんつー執念だよ…」

 コアであるソウルを無くしたルクシアの蛇のような体は、雪の様に溶けて無くなった。

「はぁ…だが、逃げたってお前の運命には死しか待っていないんだぜ…哀しい奴だよ」

「なに黄昏てんの!逃しちゃったんだから反省でしょ!馬鹿クリル!」

 リューネはクリルの頭をさっきより強めに叩くと、九条に向かって頭を下げた。

「ごめんなさい!九条さん!こちらに被害を及ぼしただけでなく、取り逃がしてしまいました!」

 リューネが深く九条に頭を下げると「申し訳ございませんでした…」とクリルも九条の元へ駆け寄り深々と頭を下げる。

 華蓮はクリルが近づいてくるとササッと九条の背後へと隠れた。

「まぁまぁ二人とも、頭を上げてちょうだい。魂をあそこまで削ったのだしきっとあのルクシアはもう長くないわ、討伐完了みたいなものよ。だからそんな気にしないで!」

 言って九条はリューネ達にウィンクをする。

「ありがとうございます。次はこのようなヘマはしたりしないよう、深く胸に刻んでおきます!」

「リューネ刻みすぎてもう削る場所無いんじゃないの?」

 ニヤニヤと笑うクリルの脳天にリューネは無言で拳をお見舞いする。

「いてっ!そんな怒ることないじゃんか!」

「クリルが余計なこと言うからでしょ、もう」

 楽しそうな二人を見て九条がフフッと笑う。

「門音くんと華蓮もこの二人みたいになれると良いわね」

 その言葉を燈利は首を横に振って否定する。

 いや、こんなコンビよりもっと格好の良いコンビを見習っていきたい、仲が良いのは良いと思うけれど。

「そういえば華蓮ちゃんは何処ですか?」

 クリルは頭をさすりながらキョロキョロと辺りを見渡す。

「華蓮なら私の後ろに――あっ」

 しまった!と言う表情を九条は浮かべる。

 華蓮を見つけたクリルは満面の笑みを浮かべると華蓮へと抱きついた。

「華蓮ちゃん華蓮ちゃん華蓮ちゃーん!会いたかったよぅ!怪我は?なかった?お姉ちゃんが治してあげるからなんでも言ってね!」

 クリルに抱き締められながら色々と言われる華蓮に「ごめんなさいね」と九条は謝る。

「リューネがそっちに華蓮ちゃんがいるっていうから私心配で心配ででもそう言う時に限って私って運が悪くてルクシアめっちゃ引き寄せちゃったみたいで全然こっちに辿り着けなくて着いてみたらあのルクシア華蓮ちゃんの方見てるしほーんと華蓮ちゃん心配してたんだからね!うわーん!華蓮ちゃーん!会えて嬉しいよぉ!」

 泣き叫ぶクリルの頭に俺はチョップをかます。

「も〜、今日初めて華蓮ちゃんに会えたんだから良いじゃんか〜」

 頭を上げてクリルは燈利を見ると「だれ⁉︎」という驚愕の表情を浮かべる。

「俺は門音燈利、華蓮の新しいパートナーだ」

 燈利から口にされた『華輦のパートナー』という言葉にクリルは激しく動揺する。

「えっ⁉︎パートナー⁉︎華蓮ちゃんに⁉︎こんな…こんな…えっ⁉︎こんな危険な匂いプンプンするやつに華蓮ちゃんが⁉︎」

 燈利は襟ををめくって自分の匂いを嗅ぐ。

 うん、自分で言うのもなんだが普通に良い匂いだ。でも本日二度目ということは相当な匂いがするんだろうな。

「そうよ、この子が今日から華蓮のパートナーになった門音燈利くん。私の目標としてはあなた達二人を超える人材にするつもりだから」

 覚悟しておきなさいね!と言ってウィンクする。

「そんな…私の…私の華輦ちゃんが…」

「ははっ、それはとても楽しみだわ!改めてよろしくね、燈利くん」

 そう言って手を差し出すリューネと燈利は手を交わす。

「なぁ俺って匂うか?」

 ふと思い立ちそう言った燈利のその質問に、リューネは歯を見せて眩い笑顔で答える。

「うん!けっこードギツイレベルだね!」

 うーん…強力洗剤使えば落ちるのかな…。

門音 燈利

年齢:18歳

誕生日:9月15日

好き:日の出、日の入を見ること

嫌い:特になし

契約/憑き物:???

ルクシアに瀕死の攻撃を受けた事で、うちに眠っていたルクシアのソウルが覚醒。

あらゆるソウルを強制的にグラナへと昇華させ、自分のソウルと融合する能力を持つが、その能力が20年前に消滅させたはずの《狂乱の堕天使》と称され恐れられていた強力なルクシアと類似するため、特別監察対象とされている。

武器はネモと名乗る少女のグラナを変換した灰色の剣--ソキウス


久宮 華輦

年齢:9歳

好き:燈利、花の図鑑を見ること

嫌い:野菜全般

契約/憑き物:???(華輦はモリーと呼んでいる)

5年前、ルクシアにソウルを壊されたことにより精神が崩壊、しかし奇跡的に少量のソウルが残ったことでルクシアに体を乗っ取られることは無かったいわゆる《悪魔憑き》

コキュートスに保護され、いつ取り憑いているルクシアのソウルが暴走するかわからないため観察対象。

武器は取り憑いているルクシアの腕、大抵のルクシアであれば一撃でソウルごと粉微塵になる。


ネモ!本名はネモ・スカヴィオラっていいます!

年齢:永遠の18歳です!

誕生日:1月1日!ハッピーニューイヤー!

好き:それはもちろんクロムでしょ!あとは〜燈利と…いや燈利は好きとは違うのかな。ええっと〜うーん…まぁ人間全員ってことで!

嫌い:いませんよ!ネモちゃんは全てを愛しています!

契約/憑き物:燈利です!まぁ正確にはネモちゃんじゃないですけどねぇ〜

説明…?えっ、ネモちゃんの事を知りたいんですか⁉︎えっとですね…それ以上でもそれ以下でもなく、ネモはネモ。ただそれだけですよ。

アカリのソウルに住み着いて早18年、やっと存在に気づいてくれてネモちゃんは今とっても嬉しいよ。

ちなみに武器はこの可愛いお顔です‼︎


リューネ・サラボトニック

年齢:18歳

誕生日:5月4日

好き:クリル、華輦ちゃん

嫌い:友人を傷付けるモノ全て、赤身肉

契約/憑き物:イフリート

グラナを炎に変換し何人もの人間を焼き殺し《イフリート》と称され恐れられたルクシアのソウルを使うことで、周りのグラナを炎などに自由自在に変換出来る、元コキュートス=イタリア支部のエリート。

人員強化のためクリルと共に去年からコキュートス=日本支部へ移動した。

武器は触れるだけでルクシアのグラナを昇華させる高温のグラナで出来た剣--レッドベリル

ルクシアの世界一斉襲撃の時は、日本でクリルと一緒に撮った写真の整理をしていた。


クリル・リギーニ

年齢:18歳

誕生日:4月5日

好き:華輦ちゃん、リューネ

嫌い:曲がった事、理不尽な現実

契約/憑き者:フェンリル

鋭い牙で何人もの人間を食い殺し《フェンリル》と称され恐れられたルクシアのソウルを使うことで、有象無象に関わらず全てを削り取る能力を持つ。が、制御できないため火力は控えめ。

幼馴染のリューネとコンビを組み、元コキュートス=イタリア支部のエリート。人員強化のためリューネと共に日本支部へ移動した。

武器は狼の姿を模し、鋭い刃が無数についた剣--ブルーローズ

ルクシアの世界一斉襲撃の時は、この一年で撮った八千枚ある華輦の写真を整理していた。

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