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-BLOOM-  作者: すいかばきばき
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四花-hated Person

『こんにちは』

 俺の目の前には幼い顔立ちの女性が俺の顔をじーっと見ながら微笑んでいた。

 真っ白なこの空間ではその女性の黒髪は際立っていて、より一層その黒さが増していた。

 ――あんた、だれ?

『私はネモ、君とは昨日会ってるよ』

 そう言われて思い出す。どこかで聞き覚えのある柔らかい声だと思った。

 あの剣を出現させる時に語りかけてきた声と一緒だ。

 ――あんたがあの声の主だったのか

『うん、あの時の声の主にして、あの時出現した剣の正体であるのがこの私、ネモちゃんなのです』

 ニヤリとその女性――ネモは自慢気に笑った。

 ――なるほどな、その節はどうも。ネモちゃんのおかげで助かったよ。

 俺がそう言うとその女性は『ネモでいいよ』と口を開き、話を続けた。

「本当だよ。私がいなかったらアカリ、多分――ううん、二億パーセント死んでたよ。アカリの周りコキュートスの奴らだらけだったもん』

 やっぱりそうだったのか。通りで視線が痛かったわけだ。

 ――で、コキュートスとかを知ってるネモは何者なわけ?

『ネモちゃんはアカリのソウルを守る番人です。コキュートスとかの事はアカリのソウルを通して見たから知ってるだけ』

 ――ソウルの、番人?

 俺はそう言って首を傾げた。

『そのままの意味だよ。アカリのソウルがルクシアに飲まれない様にずーっと長い間ここでアカリの事を見てきたの』

 ずっと――十数年間もこんな何もない空間でネモは一人でいたっていうのか。

 俺はそんなネモを少し不憫に思った。

『いやいや、一人じゃないよ。二人ほどいます』

 俺の心の中を見透かした様にネモはそう口を開いた。

 エスパーとかなのかもしれない。

『いやいや、そんなのじゃなくてさ、ここアカリの心の中だから普通に聞こえてるだけ』

 ――えっ、マジで?

『うん、マジ』

 ほんとに?

『ほんとに』

 ほんとだ

『ほんとでしょ?』

 これはすごい、心に思い浮かべただけで人と会話が出来るなんて。

 もう少し試してみようと心に言葉を描こうとする俺の思想を突然、バリンッというガラスの割れる様な音が邪魔をした。

『おっと、そろそろ時間みたいだね。じゃあネモちゃんは持ち場に戻るよ』

 白い空間にはいくつもの黒いヒビが入っていきグラグラと地響きを立てながら崩壊していく。

 ――何が起こってるんだ?

『君が目を覚まそうとしてるだけだよ』

 そう言ってふふっとネモは笑った。

 ――ネモとは、もう会えないのか?

『そんな事ないよ。ソウルはアカリの思考が深層に来るほど繋がりやすくなる。まぁ簡単に言っちゃえば、会おうと思えばネモちゃんとは夢の中でいくらでも会えます』

 にひひ〜と歯を見せてネモは楽しそうに笑う。

『じゃあ、またいつかね!」

 ネモがそう言って手を振るのを最後に、俺の意識は途切れた――


 xxx


「あかり、もう、起きる時間」

 体を揺すられて俺の意識は少し覚醒する。

「カイ姉が、待ってるから、起きる」

 このゆっくりとした声は華輦か…なんだろう起こされているはずなのに逆に眠くなってくる。

「あと、一週間ほど…寝させて…くれ」

 寝ぼけてそう夕が言うと「むー」と唸った声が訊こえる。

「もう、本当、怒るから」

 そう言うと真智は揺するのをやめ静かになった。

 どうやら本当に怒ってしまったらしい。真智ぐらいの女の子の怒るというモノはどういうものだろうか。頭をポカポカ叩いてくるとかそういう可愛いモノに違いな――

 瞬間何かに体を掴まれ、布団ごと空中に放り出された。、

「うおおおお!ちょ…えっ!なんだよこれ⁉︎」

 長い間振り回される中で自分の体を掴む正体を突き止めた。

 それは巨大な黒い腕だった。華輦の腰辺りからその腕だけが伸びていて俺を乱暴に振り回していた。

「起きた?」

「起きた!起きたから‼︎お願いします止めてください‼︎」

 必死にそう頼むと「うん」と華輦は頷き、俺を床へとそっと下ろしてくれた。

「わ、悪かった…次からは起きます…」

「ちこく、だめ、ぜったい」

 華輦は黒い腕を尻尾のように左右に振りながらそう俺を嗜めた。

「それが、華輦の使い魔?」

 俺がそう質問すると華輦は「う〜ん」と少し唸った。

「私のは、使い魔とは、違う」

「どういうことだ?」

 華輦は俺のその質問に答えることなく「いいから、したくする」と言って俺に白い服を手渡した。

「それが、こきゅーとすの、せんとうふく、着てみて」

 華輦に促され、俺はその白い戦闘服へと着替えた。戦闘服とは言っていたが見た目はパーカーと普通のボトムスといった感じであまり特別な能力があるようには見えない。

「うん、とってもにあっています、べりぐー、です」

 そう言って華輦はサムズアップした。

「ははっ、ありがとな」

 俺が華輦の頭を撫でてやると「んー」と華輦は心地好さそうに唸った。

「では、いこうか、こっち」

 俺は華輦に手を引かれ部屋から出ると、天武の部屋とは逆方向の廊下の方を歩かされる。

 しばらくすると和風な廊下にいきなり下品な黄金の扉で装飾されたエレベーターの前に着いた。

「これに、乗ります」

 エレベーターはすべての壁が黄金に包まれていて目がチカチカした。扉の横には無数のボタンが付いていて、華輦はその中の『B150』と書かれたボタンを押す。

 扉が閉まるとゴウンと機械的な音を立てながらエレベーターはゆっくり降下し始めた――かとおもえば今度は横に平行移動したり、いつのまにか上昇していたりする。

 だがしばらくするとチン!というベルの音と共に扉が開いた。どうやら目的の場所にはつけたらしい。

「カイねぇー、連れてきたー」

 そのフロアに着くと華輦は小走りで《カイねぇ》と呼ばれるその女性の元へ駆け寄り飛びついた。

 女性は真智を地べたに下ろすと「よしよし、いい子いい子」と頭を撫で、屈んで目線を華輦へと合わせ、ポケットから綺麗な包装紙に包まれたキャンディーを取り出し華蓮に与えた。

「随分と華輦に懐かれてるんですね」

 俺がそう言うとその女性は視線を俺へと向けた。

「やぁ期待の新星、門音燈利くん。今朝はちゃんと起きれたかな?」

 女性は立ち上がると俺よりも身長が高く、つり上がった目尻、ハッキリとした顔立ち、綺麗に整えられた赤い長髪から少し尻込みしそうになってしまう。

 180cm以上はあるだろうか、男でも滅多に出会えない。

「朝から空中を振り回されたおかげで目覚めはバッチリです」

 俺がそう返答すると「入団初日から熱い激励だねぇ」と言って女性は笑った。

「私は九条 傀音(くじょう かいね)。名目上は上官に当たるわけだけど、そういう堅苦しいものはあまり好きじゃないの。だから九条さんでもカイねぇでも、門音くんの好きなように呼んでくれていいわ」

 戦闘服のジッパーは胸のてっぺんで止まっていて、胸元ははだけていた。だが逆にその乱れた服装から小慣れているんだなという雰囲気を感じ取った。

「俺は、門音燈利です。宜しくお願い致します、九条さん」

 流石に年上の女性に初っ端から《カイねぇ》と呼ぶ勇気は俺にはない。

「うんうん、よろしくよろしく」

 九条さんは満足そうに微笑むと話を切り出した。

「じゃあさっそくだけど門音くん、まずはルクシアについての理解を深めるところから始めていきましょうか」

「えっ、そういうのやるんですか…」

 俺があからさまにテンションが下がったのを見て九条さんは慌てて付け加える。

「だ、大丈夫よ!ちゃんと視覚的に楽しめるよう、この日のために私すごい絵の勉強してきたから!」

 九条はタブレット用のペンを取り出すと『楽しいお絵かき』と書かれたアプリの画面を俺に見せた。

 わざわざ俺のために練習してくれたというんだし、無碍(むげ)にもできないよな…。

 俺が承諾すると九条さんは

「まず人は死ぬと体からソウルが分離するの――」

「あ、そこらへんはもうリューネに訊きました」

「あら、そうなのね。じゃあ私達――コキュートスに協力してくれているルクシアの話をしようかしら。いわゆる《使い魔》と呼ばれるモノたちね」

 言いながら九条さんは物凄い早さでセツと天武を描きあげた。しかも恐ろしい程上手い。

「ソウルの成れの果て――グラナはとても神秘的存在なのだけれど、存在自体が弱々しくて私達人間に干渉することは出来ないの」

 サラサラと黒い人魂の形をしたソウルと、白い胞子(多分グラナ)だろうを九条さんは綺麗に描いていく。

「ルクシアたちはそのグラナを可視出来る程に一箇所に集めて自分達のソウルを入れる器としているの。弱くても元々神秘的存在であるグラナは集めると銃や剣といった物では傷一つ付けることが出来ないの」

 塵も積もれば山となるってやつね、と九条さんは付け加える。

「このままでは如何あってもいつか人間側は滅びてしまう。そこで二千年前のコキュートス創設者――ヨシュア・マホメッドはルクシアとの対話を試みたの。紆余曲折あって、最終的に彼はそのルクシアと『自分の三代先までの子孫のソウルを全てそのルクシアに喰わせる』という条件でそのルクシアのソウルと自分のソウルとを融合させてルクシアを倒せる力を会得したの」

 九条さんは白いページにヨシュアと思われる白髪で髭面のお爺さんの肖像画を描く。美術館に飾られてても不思議ではないほどの出来だ。

「ソウルってあげてしまったらどうなるんですか?」

「ソウルは人の精神の柱みたいな物だから、それをあげてしまえばその人間は何も思考できなくなって、ただの生ける屍となるでしょうね」

「そうなんですか…」

 表の世界を守る為に、裏の世界ではそんなに犠牲を払ってくれていたんだな…少し心が痛い。

「それにしてもルクシアはソウルなんて貰ってどうするんですか?」

 俺のその質問に九条さんは苦い顔をする。

「傷ついたルクシアが自分のソウルを修復するために生きている人間のソウルを喰べるという事自体はよくある話だわ。だけど、人間と契約なんてする奇特な奴等の考えていることは″ただ人間が絶望する様を見たい″だけの興味本位でしかないのよ」

「でもセツは、話しやすくて、そんなに悪い奴には見えなかったんですけど…」

「あぁ、セツは特例中の特例だからね。彼女は天武と契約する時に求めたのは″私が死ねというまで死ぬな″ということだけだからね」

 そうだったのか、というかなんだその契約内容は…ラブコメか何かなのか?

 そんな事を考えながら、ふと横を見るとまだ九条さんから貰ったマカロンをゆっくりゆっくりと食べている華輦の姿が目に入った。

「そういえば華輦も何かと契約してるって事なんですか?」

 今朝は明らかに人とは思えない力を持っていたしそうとしか考えられない。

「…華輦――それと門音くんは事情が少し普通の人とは違うの…」

 神妙な顔つきで九条さんはそう尻すぼみに口を開いた。

「あなた達のソウルは直接ルクシアそのもののソウルと融合してしまっている、ここでは《悪魔憑き》と呼ばれ()(うと)われている存在なの」

 九条は深く息を吸うと、言葉を続ける。

「傷付いたソウルを修復するために人間のソウルを喰べるルクシアがいるっていうのはさっき話したわよね?大抵の人間はその時に意識が崩壊してしまうのだけれど、あなたと華輦はその中でも自我を保てている極めて稀な例なの」

「じゃあ、そんなレアなケースなら俺たちはなんで嫌われなきゃいけないんですか?逆にもっと大切に扱われる存在なんじゃないですか?」

 俺がそう反論すると九条さんは更に苦しそうな顔をする。

「悪魔憑きはさっきも言った通りソウルが直接ルクシアと融合してしまっている状態なの。いつ融合しているルクシアが暴走を始めるかわからない。だからコキュートスでは――」

 そこで九条さんは言葉を詰まらせた。そして深呼吸するとまた口を開く。

「だからコキュートスでは悪魔憑きが生まれてしまった場合()()されることになっているの」

「そんな――」

「今のところルクシアのソウルを切り離すという事は不可能とされているわ。だから…それがコキュートスとしては普通の行為なの…」

「じゃ、じゃあ俺も――」

 九条さんの言うことが本当であるのなら、俺は()()されるということになる。

 狼狽する俺を九条さんは優しくなだめた。

「大丈夫、だけどこの日本支部だけは違うわ。ここの主である天武が『悪魔憑きは戦力になる』と主張することによって例外的にここでは悪魔憑きは処分されることなく観察対象とされるわ」

 そう言った後九条さんは付け加える。

「けれどあくまで()()()()、不審な動きがあれば天武の意向を無視してあなた達を手にかかる人がいるだろうし、悲しい事だけれど…やっぱり悪魔憑きという事だけであなた達に敵意を向けてくる人はここにもたくさんいるわ…」

「そうなん…ですか…」

 俺の中にルクシアとかいう化物がいる、にわかには信じ難いことだが俺は昨日、何もない空間から剣を出現させるという行動により、自ら″自分は普通の人間ではない″ということを証明したばかりだ。受け入れるしかしょうがない。

「そんな気負わなくても大丈夫よ。あなたには私と天武、それに華輦も付いているわ。告げ口さえしてくれればそいつらなんて何人だって左遷(させん)してあげるわ」

 そう言って九条さんは微笑む。とても優しい人なんだな、と思った。

「さて…予定より長くなってしまったけれど、そろそろ今日の本題《共鳴(レゾナンス)》の教授に移りましょうか」

「レゾ…ナンス?」

「詳しいことは練習場の方で教えるわ、付いて着て」

 そう言って歩き出す九条さんの背中にぴったりとくっついて俺は付いていく。

「その前に――ちょっと待っててね」

 九条さんはそう言うと華輦の元へと駆け寄り「すぐ戻ってくるから、いい子にしてたね」と優しく声をかけた。その光景はまるで子供と話す親子のように見えた。

「じゃあ、行きましょうか」

「はい」

 俺と九条さんは金色のエレベーターへと乗ると、九条さんは『B157』と書かれたボタンを押した。

 ゴウンと音を立てるとエレベーターはさっきと同じようにまた不可思議な動きを繰り返しながら目的地へと向かっていき、目的地に到着するとチン!というベルの音ともに金色の扉を開けた。

「ここが練習場よ、好き放題壊していいわ。なるべくならあの的だけにお願いね」

 そう言って遠くの的を指差しながら九条さんは俺にウィンクをした。

 このフロアには奥に五つの丸い的が設置してあり、弓道場のような場所だった。

「では――」

 横にいた九条がコホンと咳払いをするとタブレットの電源を付け、その画面に映っている文字を読み始める

「第一にレゾナンスというのは憎き天使、ルクシアと契約を行うことにより再現可能となる――」

 ポカーンとしてる俺の顔を見て、九条はタブレットを脇にやると話を続ける。

「まぁ、いいわ。端的に説明するとソウルと周りのグラナとを混ぜ合わせてファンタスティックな事をしましょう!ってことです」

「は、はぁ」

 わかったようなわからないような…。

 俺のその様子を見て九条さんが口を開く。

「まずは見てもらったほうが早いわね」

 九条さんは目を瞑ると何かの呪文を唱え始めた。

「万象なる火のグラナ…今、我の元へと集まり敵を灼きつくし給へ‼︎」

 そう唱えると、的の方へと向けた九条さんの右手が煌めき、火の玉が放たれる。

 火の玉は的に当たると強烈な爆発音と共に弾け飛び、的を粉微塵にした。

「…すげぇ!ま、まじで魔法じゃん!やべぇ!めっちゃやべぇ!なんかこう、えっと…すごい!」

 目の前で見せられた非現実的な光景に俺は興奮を抑えられず、同じ言葉を連呼した。

 その俺の様子を見て九条さんは得意げに笑う。

「今のは私のソウルの波長を私と契約しているルクシアに合わせることで、周りにあるグラナを変化させて炎を起こしたの。これが共鳴(レゾナンス)

 ふっふっふーと鼻高々に九条さんは笑う。

「でも融合したルクシアの能力がまだあまりわからない門音くんだと波長をどうすれば炎を出せるとかを見つけるのはすごい時間がかかってしまうし――」

 言いながら九条さんは白色の細長いホルダーから一枚の札を取り出す。

「真面目に練習すると実用までには最短でも一年は要してしまうので門音くんにはこれを使ってもらいます」

 そう言って九条さんの見せてくれた札にはカッコイイ感じの文字が沢山書き込まれており、真ん中の円の内側には赤い文字で『炎』と書かれていた。厨二心をとてもくすぐるデザインだ。

「この札には前もって炎のソウルと共鳴させたグラナが封じてあるの。だから手に持って目標に向かって振りかざすだけで擬似的なレゾナンスが発動するわ。現代技術の賜物ね」

 はいどうぞ、と手渡されたそれを受け取ると、突然札が朱色に輝き始める。その輝きは分裂し、光の粒になると、札を持つ俺の右腕へと吸収されていった。

 そして札はタダの白い紙となった。

「あら、グラナの封じ込みが上手くいってなかったのかしら。じゃあ新しいのを」

 九条さんはホルダーから新しい札を取り出すと俺に手渡した。

 だがその紙も俺の手に触れた途端、眩い天色の鮮やかな光を発すると、俺の右腕へと吸収されていった。

「うーん、これは――」

 一連の様子を見て、九条さんは唸りながら考えたあと「もしかして」と小さく呟いた。

「ねぇ門音くん、あなたいま、熱くないかしら?」

 言われてみれば先程から体が何時間も運動した後のように熱い。

「若干ですが熱いですね」

 俺がそう言うと、九条は「やっぱり」と何か頭の中で理解したようだ。

「門音くん、その熱を体から放出するイメージをしてみて、例えば自分の体を炎が包むなんていうのはイメージしやすいんじゃないかしら」

 炎をイメージ、ねぇ…あまりに今までの生活とかけ離れていて想像し難いがやるしかないか。

 すると体が急激に熱くなった。だが瞬間、その熱は体から抜け出て夕を囲む炎の渦になった。

 うわっ、驚いて思わず声が出たがその炎は全く熱くはなかった。

「やっぱりあなたソウルを吸収してしまうようね。中々面白い能力だわ」

 九条さんはうんうんと頷きながら一歩下がる。

 どうやら九条さんにはこの炎は熱いようだ。

「本当はその札を使ってあの的に当てて欲しかったのだけれど…出来るかしら?」

 九条はホルダーから次は『氷』と書かれた札を取り出し俺に手渡しそうとした。だが炎の渦が近づく九条の手を拒み激しく燃え上がる。

「流石二枚分のソウルを吸収しただけあって強力ね…まぁ消えるまで気長に待ちましょうか」


 五分ほど経つと炎の渦は徐々に勢いを弱め、溶けて無くなっていった。

「よし、じゃあ改めてよろしくするわ」

 手渡された札に俺が触れると、札は天色の光を発し、さっきと同じ様に俺の右腕へと吸収された。

 冷んやりとした冷たい冷気が身体の奥から感じる。

「氷の塊が手のひらから出るイメージをすれば大丈夫よ」

「はい、やってみます」

 じわじわと体の奥から凍える様な冷たさが広がってくる――その冷気が右手に集めることに集中する。

 キンッという高音と共に一瞬の強烈な冷たさが俺の腕に流れると、鋭く尖った氷柱が俺の右腕から的に向かって放たれた。

 的を貫いた氷柱は空色に煌めくと内側から無数の氷の棘を発生させ、内側からも的を貫き粉々にした。

 その一連の様子を見て九条は「エレガント」と言って俺を讃えた。

「当初の予定とは扱い方が違うけれど、素晴らしいものであったと思うわ」

「ははっ、ありがとうございます」

 報酬にお菓子をあげましょう、と九条さんは言うと俺に綺麗な包み紙で包まれたキャンティーを手渡した。

「じゃあそろそろ華蓮の所へ戻りましょうか。あとは実戦で慣れてもらうわ」

「実戦って――もうルクシアと戦うんですか?」

「ごめんなさいね…でもさっきも言ったように悪魔憑きであるあなたを好ましく思わない人は多いの。だからその人達に――組織にあなたは必要だと証明するためには成果を上げないといけない。そうしないとあなたに居場所を作ってあげられないの…わかってね」

 九条はそう言うと、ポンッと俺の頭に優しく手を乗せ、撫でてくれた。

「でもそんな心配しなくて大丈夫よ。今日は私も着いているし、何と言ってもあなたのパートナーの華蓮は私の一番弟子だからそう簡単にルクシアなんかに負けたりしないわ」

 そう言って九条さんはやさしく笑いかける。

 他の連中の考えがあまりわからない今、一番信用できるのはこの人だ。だから――

 はい、と俺は九条さんに笑い返した。

乱文の中、ここまで読んで下さり本当にありがとうございます。また明日更新いたします。2018/05/12

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