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-BLOOM-  作者: すいかばきばき
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三花-Awaken power Ⅱ



 《ルクシア》それが今、この世界を壊滅させている化物の名称らしい――

 人は死ぬと、肉体から魂――ソウルが分離する。

 ソウルは時間が経つと徐々にその形を保てなくなり、グラナという細かな粒子となり大気に溶けて消えてしまう。

 しかし、″生きること″への執着心を強力に願って死んでいったもののソウルのみ、グラナへと形を崩すこと無く、逆に周りグラナを吸収し、それを新たな器とすることで現世へと介入する力を持つ化物――ルクシアとなる。

 そして新たな生物となったルクシアは自分が人間の時に願った生への執着心を満たすまで動き続ける。何百年も何千年も、その憎悪が消えるまで――


「ペガサスって知ってる」

「知ってる、羽の生えた馬だろ?」

「じゃあドラゴン」

「もちろん知ってる。多分知らない人間の方が珍しいだろ」

「でもそいつらがルクシアだったという事実を知る者は世界に限られた数しかいない」

「でもドラゴンとかは伝説の生き物だって」

「誰かがドラゴンに似たルクシアを昔見てしまったんでしょうね。けれどそのルクシアはもう私達(コキュートス)によって討伐されてしまっているから、その話だけが続いてしまって伝説になったってとこでしょう」

 さっきより暗いトーンでリューネはそう言った。

「ルクシア達は何千年も昔からこの世に存在してる。けれどそんな化物がこの世に存在しているという事が知り渡れば人々はパニックになって″普通の生活″というのを送れなくなる」

 コホンと可愛らしく咳払いすると、リューネはキメ顔をする。

「そこで長い間秘密裏にルクシアを処理してきたのが私達コキュートスの戦士なのです!」

「おぉ〜なんか響きがかっこいい〜」

 俺がパチパチと拍手するとリューネはとても満足気な顔を浮かべる。

「でもその立派なコキュートスの戦士さんたちは、なんで今回世界にそんな大量のルクシアが出現するのを防げなかったんだ?」

 俺がそう問うとリューネは「や、やっぱそこ聞いてくるよね…」と苦笑いを浮かべた。

「えーっと、今回のは本当に特例中の特例でね。こんなに大量のルクシアが一斉に現れるっていうのは今までの歴史を見てもなくて、だから――だからごめんなさい。あなたの友達を私達は救えなかった」

 そう言うと床に額を付けてリューネは土下座をした。

 そのリューネの姿を真似て隣にいた華蓮も「ごめん、なさい」と言って土下座をした。

 俺は慌てて二人に頭を上げるように言う。

「でも、本当に私達は何も出来なかった。わたしがもっと強ければ――助けられたかもしれないのに!」

 リューネは頭を下げたまま煮え切らない想いを叫んでいた。

「それはリューネだけが背負う事じゃないよ。俺だって強ければ他の人を救う人ができたかもしれない。それはみんなそうだ」

 一呼吸おく。

「だから、リューネ一人が苦しむ事はないよ」

 俺がそう言うと、顔を上げたリューネは充血した目を丸くさせ驚いた顔をしていた。

「燈利くん、心理士の資格とか持ってる人?」

「いや、そんなことはない。これは俺の好きな漫画の主人公の受け売りだ」

 そう言って俺が笑うと「なんだ〜」と言ってリューネも笑った。

「でもありがとね、今の言葉は深く胸に刻んでおくよ!」

「リューねぇ、そろそろ、じかん」

 華蓮がそう言ってリューネの服の袖を引っ張る。

 リューネは手首につけた腕時計で時間を確認すると「ありがとう」と言って華蓮の頭を撫でた。

「燈利、今から私達と一緒についてきてくれる?」

「何処へ行くんだ?俺はもう少しだけこの天国タイムを楽しんでいたいんだけれど」

「すぐ終わるから大丈夫。主様の所に行ってちょちょいってお話しされておしまい」

 主様――さっきの目つきの悪い男の事か…。

「え〜俺あんまりアイツ好きじゃないんだが…」

「う〜ん、でも行ったら楽しい事いっぱいあると思うなぁ。燈利の中のルクシアの力目覚めさせてくれて自由に手から炎とか出せるようになると思うよ」

 もったいないな〜、とチラチラ俺の方を見ながらリューネはそう誘いを出す。

 まぁたしかに俺の中に本当にそのルクシアとかいう化物がいるなら大事件だし、そんな炎が出せるとか言われたら元厨二病患者としては行かないわけにはいかない。

「わかったわかった。是非行かせて下さい」

 俺がそう言うと華蓮が「ないす判断、です」と俺にサムズアップした。


「まぶしっ――」

 暗かった部屋からいきなり出たせいで眩しい太陽の光に思わず顔を隠す。

「そういえばここは何処なんだ?」

 空は蒼く澄み渡っており、太陽は眩い光を受け、目の前の中庭にある池はキラキラと輝いていた。

 塀の奥に見える家々には洗濯物が干してありとても生活感が感じられた。

 世界が滅茶苦茶と言っていたリューネの言葉が本当だとするならば、ここは一体何処なのだろうと疑問に思った。

「えっ?コキュートスだけど」

 俺の質問の意図を理解してもらえなかったようでリューネはキョトンとした顔をする。

「何処っていうのはそっちの方じゃなくて――」

「ここは、東京の、地下」

 俺の思考を読んだように華蓮がそう答えてくれた。

 その華蓮の返答を訊いて「あっ、そっちか」と言ってリューネはポンと手を叩く。

「そうそう、ここは華蓮ちゃんの言う通り東京の地下だよ。太陽の光とか見えると思うけどそれぜーんぶ幻術だから」

 淡々とそう言うリューネに「幻術?」と聞き返す。

「うん、幻術。それで太陽とかを錯覚させるようにしてるの。さっき言ったみたいに地上はもう今はぐちゃぐちゃだからさ…帰ってきても暗い空間だったら嫌じゃない?だからこのフロア全体には擬似太陽とかを見せているの」

「マジでか?」とまだ半信半疑でいる俺の目を、華蓮が急に後ろから飛びついてきて隠した。

「じゃあ、見せてあげる…」

 背後で華輦の何かブツブツと唱える言葉が聞こえた後、瞬間視界が暗闇に包まれ何も見えなくなる。

「なっ--」

だが、すぐにその暗闇は晴れると目の前には暗い石の壁で囲まれた空間が広がっていた。

「これは--」

建物はさっきまでと同じ様に建ってはいるが、太陽はなくなり、その代わりに妖しげな光を放つ札が一枚貼ってあった。

さっきまで綺麗な池があった場所にも同じ札が妖しく光っていただけだった。

「あかりが、こっちの方が、良いなら、こっちにする」

 ゆっくりそう言う華輦のその誘いを俺は首を横に振って断る。たしかにずっとこの薄暗い景色を見続けるというのは気が滅入る…。

「ん、じゃあ、もどす」

 そう言って華輦がまた何かの呪文を唱えると、瞬間視界が真っ暗になった後にさっきまでと同じ桜が舞う美しい景色が広がった。

「それじゃ、行こうか」

 そう言って先行して歩くリューネに俺と華輦はついていく。


 えらく長い距離の廊下を歩かされると『☆テンムーの間☆勝手に入っちゃだめだぞ♡』と書かれた額縁が掛けてある部屋の前でリューネは足を止めた。

ピンク色に装飾された襖からはこの上なく妖しいオーラを放っていた。

 まさか、ここが主様のいるところじゃないよな…あぁそうさ、落ち着け俺…さっき会った時は無口なやつだったじゃないか。こんな所が主様って奴の場所なわけ――

「ここが主様の部屋だよ!」

 やっぱそうなのかーーー‼︎

 和かに言うリューネに対し、心の中で思わず絶叫する。

「まぁとりあえず入っちゃいな〜」

 ほれほれ〜、と言ってリューネは俺の背中を押して部屋の中へと入れた。

「なんだ――ここは」

 襖の奥の部屋は漆黒が広がる空間だった。その空間には小さな蝋燭が弱々しい炎を灯しながらちょこんと置いてあるだけだった。

「やぁ眠り姫様、もう寝なくてもいいのかい?」

「ひゃっ⁉︎」

 突然背後から話しかけられ、素っ頓狂な声をあげながら思わず俺は飛びのいた。

 振り向くと、白い着物を身につけ、尖った狐の様な耳と、黄色いふわふわとした尻尾をつけているコスプレしたお姉さんがいた。

「随分と肝っ玉の小さい坊やだねぇ、とてもアイツが取り憑いてるとは思えないよ」

 そう言って獣人のコスプレをした女性は着物の袖で口元を隠しながら上品に笑った。

「そりゃ誰だって後ろからいきなり話しかけられたらビビるわ」

 顔を少ししかめてそう言う俺に女は「悪い悪い」と笑い混じりに詫びた。

「いや別にいいけどさ…てかあんたは?俺、主様って奴に会いに来たんだけど」

 この猫耳とキツネの尻尾のコスプレはそう簡単には忘れられない。さっき主様の隣にいた奴だ。

 女はコホンと咳払いをすると(ようや)く真面目な顔つきとなった。

「私はセツだ。テンム――お前達の言うところの主様の使い魔だ」

「使い魔?」

 そう首を傾げる俺に、セツは説明した。

「使い魔っていうのは対価の引換に人間の元につくことを契約したアンヘルの事だよ」

「てことは、あんた…」

「あぁそうさ、私はお前さん達の敵であるアンヘルってことさ。というかこの耳と尻尾を見れば人間じゃないのはすぐわかるだろう」

 まさか仮装だとでも思ってたのかい?とフワンは見透かしたように笑った。

「いいかい、自分の中の常識を世界の常識と思うのはこれから先通用しない。全く予想してなかった0.1%のことが起こる、お前さんの踏み入れた場所はそういう世界なんだ。気をつけなよ」

「ありがと、胸に刻んでおくよ」

 俺がそう言うと「ふふっ、リューネみたいだな」と言ってセツは着物の袖で口元を隠しながら優雅に笑った。

「足を止めてしまって悪かったな。さっ、早くテンムの所にいってやってくれ。きっとお前と話すのを相当楽しみにしているはずだ」

「天武って、主様って呼ばれてるあの男だろ。あんまり俺を好意的に見てくれている様には見えないけどな…」

「ふふっ、まぁテンムは今の時代の言葉を使えば《ツンデレ》ってやつだからね。言葉とは裏腹なのさ」

 ツンデレ…このセツって奴が本当のことを言ってるのかは分からないけど、まぁ前向きに考えた方が良いよな。

「そっか、ならその主様に会うとするかな」

「あぁ、それがいい。テンムの部屋に繋がる扉はそこの蝋燭の前に立って東に200歩。次に南に256歩、更に西に63歩、そしたら壁にぶつかる。そこがテンムの部屋への扉だ」

 セツは蝋燭の方を指差しながらそう言う。

「東に二百、南に二百――ごめん、忘れた…」

 メモを取ろうにも今はスマホも紙も何もないしな…。

「そうか、ならこれをやろう」

 言うとセツは空間に三つの火の玉を出現させると、それを俺へと渡した。

 火の玉の中にはそれぞれさっきセツが言っていた歩数が浮かんでいた。

「お前の動きに合わせて数字が減る様にしてある。それを目印にして進むといいさ」

「これはまた随分と便利な能力持ってるんだな」

 俺がそう言うと、セツは「お前ほどじゃないさ」と言って妖しく笑った。

「まぁ色々あるだろうが気楽にいきな。お前とまた会える事を楽しみにしているよ」

 セツはそう言うと背を向け闇の中へと消えて行った。

 使い魔、か…コスプレをした人間とあまり姿は変わらないけれど、あれもルクシアなんだよな――

 そんな事を考えながら俺は火の玉カウンターを頼りに暗闇を進んだ。


「…来たか」

 扉を開けると、広い和室の奥の方で大量の書類の要塞に囲まれた男が一人、座っていた。

「あんたが主様か?」

 その男は書類に目を通しながらコクリと少しだけ頷いた。

「あんたが俺の事ここまで運んできてくれたらしいな」

「あぁ、そうだ」

 男は書類に目を向けたままそう答える。

「飯まで出してくれてさ、ありがとな。おかげで助かった」

「…別に礼はいらない。俺はお前を利用するために拾った。それだけだ」

「利用するって言っても、俺があんな化物と急に戦えっていわれても正直戦力になるの当分先の話になると思うぞ」

「そんなことはない。お前の中にはルクシアが眠っている。それも()()な奴がな、そいつを上手く操る事が出来たならお前はこのコキュートスでも上位の戦士になれるだろうと俺は考えている」

「リューネもそう言っていたけど、俺は本当にそんなのはない。そんな強いのがいるんなら俺の体育の成績はきっと相当優秀だったはずだしな」

 そう言う俺を一瞬たりとも見る事なく男は台本に書かれている事を読んでいるかの様に淡々と話を続ける。

「そうだな、ならまずは何か武器を握るイメージをしてみろ」

「なんだよそれ、何かのゲームか?」

「いいから、やってみろ。やらなければお前の命は無いものと思え」

「なんだよそれ…」

 抗議しようとする俺の首筋を何か細い糸のような物が斬り裂き傷口からジワリと血が滲み出た。

「これは――」

「次はない、いいから俺の言う通りにしてくれ」

 そう言って男は書類から目を外すと、初めて俺の方を向いた。黒い瞳が真っ直ぐに俺を見つめてくる。

 まぁ…それで納得させられるなら、取り敢えずやってみるか――

 俺は静かに目を閉じると右手に意識を集中させる――頭の中には槍や斧など色々なイメージが現れる。だがそのイメージは黒い(もや)がかかりすぐ消えてしまい上手くハッキリとしたイメージを創り上げることができない。また新しいイメージが出てきてもそれも黒い靄がかかり思考の闇の渦へと消えて行ってしまう――

「やっぱ何も――」

 俺は目を開けると、諦めの言葉を口にしようとした。しかしその言葉を済んでのところで止める。

 男はこちらに威圧の眼差しを向けて俺の事を睨みつけていた。それだけではない、似たような視線を横、後ろ、そこら中から感じた。まるで何人もの人に覗かれているようだった。

『次はない』という男の言葉が頭に響く。さっきのは失敗という事自体が許されないという意味だったというわけか。

 やるしかない…よな

 俺は再び目を閉じると、また意識を右手に集中させる――

 だがさっきと変わらず武器のイメージは現れるも黒く塗りつぶされて消えていってしまう。

『こっちだよ』

 突然、頭の中で誰かの声がした。その声は温かくて、初めて聞くはずなのに何故か懐かしい感じのする声だった――

 暗闇の中で、ぼんやりと女性のイメージが浮かんでくる。

『君は?』

『それは今度ゆっくり話しましょう。今の君に必要なのは″力を証明すること″でしょ?』

「あぁ、話が早くて助かるよ」

 影であるその子の顔を伺う事は出来ないが、笑っているんだなと言う事はわかった。

『君は、私を強く想ってくれれば大丈夫」

『君を想うって言われても…何も知らないしな…名前だって』

 そう俺が語りかけると、彼女の影を淡い光が包み、輝き始めた。

『言ったでしょ、想うだけでいいって。私の事を考えてくれるだけで、それでいいの』

 光は次第に輝きを増していくと形を変え、一つの武器となった。

 それは月のようになだらかな曲線を描いた、美しい剣の形をしていた――

「なんだ…これ?」

 突然右手に感じた重みに驚き、目を開けると俺の手の中には灰色の剣が握られていた。

「それが、お前がルクシアと重なっている証だ」

 天武はまた書類に目をやりながら俺を見る事なくそう淡々と答えた。

「重なってるって――」

 戸惑う俺を他所に男は話を続ける。

「恩を感じていると言うのなら、ここで働いてくれ」

「そんなこといわれても――」

 そう断ろうとすると、周囲から殺気立った視線がいくつも俺に向けられるのを感じた。

 なるほど、断るのは許さないってか…。

「…まぁ、いいか――」

 俺は大きはため息を吐く。きっとこれが、表の世界で吐く最後のため息だ。

「オーケー、ここで恩返しに働かせていただきます。不束者ですがよろしくお願いたしますね、主様」

「そうか、承諾してくれて良かったよ。無駄な犠牲が出なくて嬉しい」

 長い襟で口元が隠れてるため男が本当に喜んでいるのかは俺にはわからない。

「それと、天武で良い。主様というのは、あまり好きな呼ばれ方でもないしな」

 尻すぼみにそう言うったあと、天武は咳払いをして話を続ける。

「じゃあ今日はもう戻っていい。詳しい話は明日、九条という奴がやってくれることになってる。それまでは自由に過ごすといい」

 よく寝とけよ眠り姫、と嘲笑気味にそう言うと天武は俺に背を向け、また書類を読み始める。

 天武が俺に背を向けるのと同時に、無数に向けられていた嫌な視線も消えた。

「では主様がキスで目覚めさせて下さるのを心よりお待ちしております」

 負けじと言い返し、俺はその部屋を後にした。

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