拾七花-Seed I
「あかりー、そろそろ、起きないと」
ゆったりとした可愛らしい声と共に体を揺すられる。
「ん〜…あと50分……」
俺はそう呟くと狸寝入りする。
最近気付いたのだが、無理して体を起こすよりも、タローに振り回して起こしてもらうととても目覚めがいい。どうやら身体がタローにぶん投げられる起こし方に馴染んでしまったようだ。
「もう、おこる、からね」
ムッとそう言う華輦のその声を背後に受け止め、俺は振り回される覚悟を決める。
よし…来い!タロー!
だが、ワクワクと心を踊らせる俺に与えられたのは、予想とは違うに重い一撃であった。
「ごふっ――」
鋭い痛みというよりは、重い鉄球を上空から落とされたような、そんな一撃により床へと体がめり込む。
「おきた?」
華蓮が光一つ反射させない暗い瞳で俺をそう言って睨みつける。
ショックにより言葉を発せない俺はコクコクと首を縦に降って頷くと、華蓮はタローを引っ込めた。
「ねたふり、よくない、です」
「わ…悪かったよ華蓮。つい…つい魔が刺しちゃってな」
あはは〜とそう言ってヘラヘラする俺を怒るでもなく華蓮は「はやく、きがえる」といつものルーティン通り促した。
「はい!了解です!」
俺は布団から飛びのくと、寝巻きを脱いでコキュートスの制服へと着替えていく。その間もいつもと変わらず華蓮はじーっと俺のことを観察する。
「よっしゃ、どうだ?今日は身だしなみ大丈夫そうか?」
ビシッとシワ一本さえない綺麗な制服に着替えた俺は、少しはしゃぎ気分で華輦にそう言って見せる。「ばっちり」
そう言って華輦はいつものようにサムズアップして小さく笑ってくれた。
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「では、今日は二人には五地区に向かってもらうわ」
九条さんに今日の任務の説明を受けた後、俺と華蓮は「はい」と返事をする。
「強力なルクシアであるのは間違いではないけれど、きっとあなた達なら簡単に遂行してくれると思うわ、期待しています」
そうテンプレートな言葉を繋いだあと、一呼吸おいて九条さんは続けた。
「今日はクリルとリューネの方の任務が大変らしくて帰還が遅くなるらしいの。だからね、頑張った二人の労いの品として三人で二人にご馳走でも作りましょう」
「ん、ないすあいでぃあ、だとおもう」
華輦はその案に、うんうんと首を縦に振った。
「それはいいですね。じゃあクリルの喜びそうなステーキでも大量に焼いて用意してやりましょう!リューネにはてんこ盛りの野菜サラダで」
「ふふっ、たしかにそれは二人とも喜びそうね、じゃあ今日はそれを三人で作りましょう!材料、準備して待っているわね!」
「はい!でも出来るだけ早く帰ってきて一緒に材料選びのとこからやりますよ、せっかくですし」
そう言って俺と華輦は九条さんに手を振ってゲートへと体を沈める。
「おぉうぅ気をつけろよなぁ!人狼!華蓮!」
視界がゲートの白い渦に呑まれる中、ブンブンと両手を振るアイルが見えたので、俺は大きく手を振って返した。
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「GGGOGOGOGO‼︎」
俺の剣戟をまともに喰らい、雷撃を纏った角を持ったサイの様な姿をしたその巨大なルクシアの低い絶叫が半壊した住宅街に響き渡る。
「これで、とどめっ」
むんっ!と勢いづけると、華輦は自慢の巨大な拳でルクシアの脳天に重い一撃をくわえる。
「GGOGogogo……」
ルクシアは呻き声をあげると、ズシンッとその巨体を地面へと落とし、雪の様に溶けて無くなった。
「あぁ、痛いよなその攻撃…俺にもわかるよ…同情する」
「ん?あかり、なにかいった?」
俺は華輦のその言葉にあわてて口をふさぐ。
しまった!つい今朝のことを思い出して口走ってしまった!」
だが慌てふためく俺をよそに、華輦は淡々と口を開いた。
「まぁ、よいです。いいから、こきゅーとすに、でんわ」
「あ…あぁそうだったよな!すぐにかけるよ!」
良かった〜どうやら聴こえてはいなかったようだ。それか、もしかしたらスルーしてくれたか、だよな。
「えーっ…と、たしかこの番号だったず」
懐からスマホを取り出すと、俺はコキュートスへと電話をかけた。
「終わったのか」
コール音が三回鳴ると、電話に出たのは天武だった。天武の暗い陰気な感じが電話越しにも伝わってくる。
だが、この声の暗い理由は天武の声質という訳ではなく、たんに疲労によりこうなってしまっているだけたという。本当はもっと明るい艶のかかった声らしい。しんじられないけれど…。
「あぁ、段取りの2倍速で終わらせてやったぜ」
「ふっ、そうか。流石優秀なパートナーがいるチームだけあるな」
「おい、それどういう意味だ?」
「そのままの意味で言ったんだが?」
「なんだとぅ⁉︎俺もこれでも最近じゃ華輦を支えられる部分とかあるしチョー強いんだぜ⁉︎」
「ふっ、わかってる。冗談だ」
そうスカしながら喋る天武に俺も負けじとスカして喋ってみる。
「ふっ、まぁ俺も冗談だと気付いてはいたけどな」
「ふっ、まぁ俺もお前が俺の冗談を冗談だと見破って冗談を言っているということに気付いていたけどな」
そう言った後、最後に「冗談だ」と天武は笑って付け加えた。
「なんだよそれ〜まったくお前も面倒くさいや――」
俺は――会話に夢中になってしまっていたせいで、正面から突進してくるそのルクシアにすぐに気付くことが出来なかった。
『ここは戦場よ、どんな時でも気を抜かないように』
そう九条さんが昔言っていた頭に響いた。
けれど、俺がその言葉を思い出すのが遅すぎた。
眼前に広がるルクシアの巨大な口を目の前にしては、そんなもの、なんの意味にもならなかった――
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