拾六花-Bloom Ⅱ
「ところで華輦ちゃん、ブランコって素人の私たちでも作れるものなの?」
先に華輦と庭で待っていたリューネがそう口を開いた。
「このさくらのえだに、ひもで、つるせば、すぐ、できる」
「へぇ〜そんな簡単に出来ちゃう物なんだねぇ」
そう感心するリューネの横で、クリルが嬉々として華輦に話しかける。
「じゃあ指示は作り方を知ってる華蓮ちゃんに任せるって事でいいのかな⁉︎」
「ん、まかせて」
華輦はサムズアップして応えた。
「じゃあ、まずは、木をつかって、ブランコのいすと、それを掛けるための、あしを作ります」
「なるほど、だから木持って来いって燈利に頼まれたのか」
クリルが自分の足元にある数多の巨大な丸太に視線を下ろす。
たしかに昨日、俺は『ブランコを作るために木を使うから何個か持ってきてくれ』とは言ったが、加工してある木材の事を言ったつもりだった。
木を丸ごと何本も持ってくるとは思わなかったよ。クリル、恐ろしい子。
「では、みんな、がんばっていきま、しょう」
「何してるんだ?」
作り始めてから30分ほどしたところで、庭の前を通りかかった天武が俺たちにそう声を掛けた。
「ブランコ、つくってる」
華蓮がそう言うと天武は少し驚いた様子を見せる。
「ブランコ――そうか、それは良かったな」
だが天武はそれだけ言うと立ち去ろうとする。
「おーい、お前はやんないのか?」
「あぁ、俺はこういうのはいいさ」
まぁ天武はこういう賑やかなの嫌いそうだもんな、仕方ないか…。
そう諦めようとした俺の後方で、華輦が珍しく大きな声で叫ぶ。
「主様も!いっしょに…つくりませんか!」
驚いた、こんな風に大声を出す華輦はイレネオの時以来だから――2ヶ月ぶりぐらいか。
驚いたのは俺だけでは無いようで、天武も目を丸くして立ち止まっていた。
しかしすぐに我に帰ると「いや、悪いが」と言って立ち去ろうとする。
「こんな小さな子が頼んでくれてるんだ。無下に断るってのはコキュートスの主としては相応しくないんじゃないかい?」
紅葉を舞い散らせながら何処からともなく現れたセツがそう言って天武を引き止めた。
「だがな…俺には仕事が…」
そう言って渋る天武にリューネが呼びかける。
「いやいや主様、部下と親交を深めるっていうのも立派な主としての務めなはずだよ!」
リューネにそう言われた天武は「わかったよ…」と不服そうに返事をした。
だが言葉とは裏腹に、天武の口調は少し嬉しそうだった。
「ほいじゃ、行ってこい」
トン、とセツに背中を押され天武が階段から降りて俺の前にやってくる。
「それで?俺は何をしたらいいんだ?」
「う〜ん……」
呼び掛けてみたもののよく考えたら手は足りてるし何にも仕事が……いや、そういえばアレがあったな。
「よし!じゃあ天武にはこの仕事を頼む」
俺はソウルを共鳴させると槍を出現させ、それを天武に手渡した。
「これで華蓮が喜びそうな絵を何かこの板に彫ってくれないか?」
「わかった。だが俺はあまり絵心がある方じゃないからな、あんまり期待はしないでくれよ」
尻すぼみにそう言いながら天武は俺から槍を受け取ると、地面にしゃがみこみしばらく考えた込んだ後、槍を器用に使いガリガリと板に模様を掘っていく。
「ちなみに、何を描くつもりなんだ?」
「金盞花を彫ってみようかなと思う、華蓮が好きなんだ」
「へぇー、それは初耳だ。パートナーの俺でも知らなかったよ」
かれこれ華蓮と組んでもう三ヶ月経つがそんな事は聞いたことがなかった。
「嫉妬したか?」
「ははっ、正直少しだけ、な」
「ふっ、お前は素直で良いな。お前ぐらい気持ちに正直に生きてたら俺もお前みたいに沢山の仲間に囲まれていたのかな」
そう言って自嘲的に笑った。
「おいおい、それだとまるで俺がなんも考えないで生きてるみたいじゃないか」
俺がそう言うと「そのつもりでいったんだが?」と笑い混じりにそういう。
「なんだと⁉︎俺だってこう見えてけっこー考えてんだぜ?」
「わかってるさ。冗談だ」
「こら、ふたりとも、おしゃべりしてないで、しごとする」
ムッと頬を膨らませながら華蓮はこちらへやってくると、俺と天武をピシャリと叱った。
「はっ!申し訳ありませんでした司令殿!」
「うむ、つぎからは、きをつけるように」
満足そうにそう言うと、華輦はクリル達の方へと戻って行った。
「ははっ、華蓮があんな風に怒るようになるとはな」
そう言って笑う天武の口元が、一瞬だが襟の隙間から見えた。
なんだ、ちゃんと笑ってたんだな。
目つきは悪いし、声は暗いし、さらにテンションも低いの陰気臭さ三拍子揃ってて冷たい奴なのかと思っていたけど、もしかしたら、俺がが思ってるより普通な奴なのかもしれない。
「俺は知ってたぜ」
俺はそう言ってニヤリと笑う。
「嫉妬した」
そう言って天武もニヤリと笑った。
xxx
「よっしゃーー!出来たー‼︎」
目の前にはDIYのプロが作ったのではないかというぐらい立派なブランコが出来た。
風貌は華蓮の『普通のが良い』を反映して一般的なブランコだ。本当はライトアップしてみたりしたかったんだがなぁ…。
「うんうん、上出来だね。クリル良くやったよ」
「ふっふーん、そ〜だろ〜!まさか私の剣がこんな風に華蓮ちゃんの役に立てる日が来るとは思わなかったけどな!」
そう鼻高々に言うクリルの服の袖をチョンチョン、と華輦が引っ張る。
「………クリル……お姉…ちゃん、ありがとう」
かなり名前との間に長い間があったが、華輦は″お姉ちゃん″とたしかにクリルに対して言った。
「あわわわわわわ」
クリルは直立したまま失神して地面へと勢いよく倒れた。
「ク、クリル⁉︎」
倒れたクリルにリューネがすぐに駆け寄る。
「お…おねぇ…ちゃん…私が、お姉ちゃん…え、えへ、えへへへへ」
失神しながらもクリルは気持ち悪い笑顔を浮かべて喋っていた。
はぁ、どうやら相当幸せそうだ。
「クリル、もう……でも良かったねぇ、一年間ずっとそう呼ばれるの待ってたもんね」
そう言って温かい目でリューネはクリルを見つめた。
「リューねぇも、ありがとう」
「うんうん、どういたしまして」
ニコッとリューネは慣れた様子で笑う。流石だな。
「あかり、ぬしさまも、ありがとう、おかげでこんかい、私の、いめーじした通りの、物ができあがりました」
華輦のその声はとても弾んでいた。
「はい!華蓮教官のご指示のおかげでもあると思います。ありがとうございます!」
ビシッとテレビでみた海軍の真似をする。
「あら、公園にあるのより良いのが作れたんじゃないかしら」
後方からからの声に振り向くと、背後に九条さんが立っていた。
「中庭を使わせて欲しいって言うから何かと思ったらこんな素敵なものを作ってるなんて、良かったわね!華蓮」
そう言って九条さんは華蓮の頭を優しく撫でる。
「でも俺たちを指揮してくれたのは華蓮なんですよ」
「あら、華蓮が?」
「はい、ずっとみんなに指示してくれていました」
「うん、カイねぇの真似して、頑張った」
「ふふっ、それは嬉しいわ。でも、私の真似じゃあまりみんなついてきてくれなかったんじゃない?」
頭に乗せられた九条の手を強く華輦は小さな両手で握る。
「そんなことない、カイねぇのまねしたから、みんな、言うこと聞いてくれた」
一瞬、九条さんは目を丸くしたあと瞳を潤ませる。
「ありがとう、華蓮」
優しく、そう言葉にした。
「ていうかそんなこと言うなんて、まるで私達が傀音さんの言う事聞いてないみたいじゃないですか」
「そうですよ九条さん、俺の憧れは九条さんですよ」
俺とクリルがそう言うと、泣き顔を見られないよう顔をそらした。
「ふふっ、そのつもりでいったのだけれど」
「えー⁉︎こんなに模範生なのにぃ⁉︎酷いですよ傀音さん!」
九条は袖で涙を拭うと「冗談」と言って笑った。
「良い部下を持ったな。傀音」
天武がそう九条さんに囁く。
「ふふっ、あなたの部下でしょ」
九条のその返しにふっと天武は笑う。
「そうだったな」
「なんだ、さっきより顔が増えてるじゃないかい」
またいつのまにか現れたセツが廊下からそう呼びかけた。
「おぉ〜、よく出来てるねぇ。あれだけの時間でこんな大層なもの作れるようになるとは人間も随分と進歩したねぇ」
何上から物を言ってるんだ
とその言葉を飲み込む。そういえばセツは人間じゃなかったな、自称人間の上に立つルクシアだ。
「そういえば九条さんたちには使い魔いないんですか?」
急に気になりそう質問してみる。
そういえば戦っている時も使い魔の姿を見たことがなかった。
「あら、知らなかったの?私は悪魔憑きよ?」
九条さんはさらりとそう口にした。
「ちなみに、私も悪魔憑きだぞ」
「私も、悪魔憑き」
クリルとリューネも当然の様にそう口にする。
「えっ…えーー、まじか…悪魔憑きってけっこー多いんだな」
陰口とかけっこー言われたし珍しい存在なのかと思ってたけどこんなに近くに三人もいたのか。
「【九条班は悪魔の班】ってけっこー有名なんだけどねぇ〜」
リューネにそう言われ思い出す。
そういえばそんな陰口を言われていたな、でもあれは俺と華蓮の事を言ってるのかと思っていた。
「でもさ、悪魔って私的にはそんなに悪い言葉には聞こえないんだよねぇ」
そう言うリューネの話にクリルが乗っかる。
「そうそう、だってコキュートスの強い奴らってベリアルとか悪魔の名前を与えられるんだぜ。だから悪魔って呼ばれる私たちは、逆に言えば強いってことなんだぜ」
クリルはそう言って無邪気に笑う。
「そうよ、実力のあるものは『七戴天』という位に就いて、名誉として悪魔の名を与えられるの。その中には悪魔憑きも何名かいるわ」
「へぇ、そうなんですか」
「うん、ひかりおにぃも、そうだって言ってた」
「ひかりおにぃ?」
その質問には九条さんが答えてくれた。
「ヒカリ君は綺麗な銀髪の背の高い男の子のことなんだけど、見たことないかしら?」
あぁそういえばここに来た頃にそんな奴と出会ったことがあるな、そんなに凄いやつだったのか。
サインでも貰っておけばよかったか、あの時以来すれ違うこともないしな。
「あぁ、だから悪魔憑きだからってそんな気にすることないさ。なんなら九条班全員で七戴天の座を奪い取っちまおうか」
「お!面白いこと言うね〜クリル、それには賛成するわ」
そう言ってリューネが笑う。
「ふふっ、確かに面白そう。ねぇ天武、この子達が七戴天になったら上官として私のお給料今の七倍にしてくれても良いわよね?」
九条さんのその問いにふっと天武は笑う。
「七千倍でも構わないぞ」
そう言うとセツが「太っ腹だね〜」とおちょくる。
「うぉー!なんか燃えてきた!なぁ円陣組もうぜ!」
「円陣?」
聞き慣れない言葉にクリルは小首を傾げる。
「そう!みんなで手を重ねて『ファイトだ!』って一斉に叫ぶやつ」
「ふーん、いいな!そういうの嫌いじゃない!」
「ははっ!何その掛け声、変なの〜」
そう言って俺の手の上にクリルとリューネの手が重なる。
「私も、やる」
「あぁ、もちろんやってもらわなくちゃな」
華蓮の身長に合わせて姿勢を低くすると、華蓮の手も上に重なる。
「円陣なんて生まれて初めて、ふふっ、初めてこんな青春みたいなのするわ」
そう言って九条さんのスラリと伸びた綺麗な手が重なる。
「天武、お前も早くやろうぜ」
俺がそう言うと天武は恥ずかしそうに目をそらす。
「いや…おれはあまりそういうのは…というか、傀音の班じゃないしな、おれ」
そうまごつく天武を隣にいたセツが叱咤する。
「何言ってんだい!誘ってもらってんだ、このノリでやらないのは大罪だぞ!」
そう言ってセツにドン!と背中を押された天武は、手の汗を拭うと、その手を上に重ねた。
「セツもだぞ」
俺がそう言うと意外そうな顔をして笑った。
「悪魔張本人のあたいも入れてくれるとはねぇ、変なやつだ」
そう言いながらも、セツは嬉しそうに手を重ねた。
「よしっ!じゃあこれで全員だよな――じゃあいくぜ!せーの‼︎」
「「ファイトー!!」」
そう言って叫ぶと、みんなで手を天に向けた。
頭上には幻術で生み出された太陽がキラキラと光を俺たちに照らしていた。
偽りだとわかっていても、その光はとても眩しく、輝いて感じられた。
「ん、あかり、私、ブランコ乗りたい」
華蓮が俺の裾をチョンチョンと引っ張る。
「ごめん華蓮!そうだよな、なんか満足して忘れてた…」
「おぉそうだった!ごめんねぇ華蓮ちゃん!お姉ちゃんとしたことが!大事なことをすっかり忘れていたよ」
みんながそう口々に謝ると、華輦は「よいでしょう」と言って笑った。
「ありがとな、じゃあほら、ぜひこの出来立ての椅子に座ってくれ」
「これが、ブランコ――」
華輦はゴクリと喉を鳴らすと、恐る恐るブランコの椅子へと座った。
「どうだ?座り心地は」
「すごく、すごく、いいです!」
「ははっ、それなら良かったよ」
華輦が満足してくれたなら何よりだ。
「じゃあ後は押すだけなんだけど…クリル、やるか?」
俺のその言葉にクリルは首を横に振る。
「流石にここででしゃばる私じゃないさ。これは燈利が企画したもんだろ。燈利がやるといいさ」
クリルのその言葉に「偉い子になったね〜」と言ってリューネが笑う。
「じゃあ俺が押すみたいだから、それでいいか?」
「ん、まかせた、あかり」
「あぁ、じゃあしっかり掴まってるんだぞ」
俺は椅子を少し引くと、勢いよく押した。
「すごい!とんでる、みたい!」
椅子に座った華蓮から楽しそうな声が響く。
天武に嫉妬させられる事がもう一個増えた。
ストーリーは次回から動きます。読んで下さり本当にありがとうございます(╹◡╹)




