拾四花- Pappet Songs Ⅲ
これで九条傀音視点は終わりです。
あとがきは銀髪の青年ーーヒカリです。
ピピッとタブレットのアラームが鳴り、私に午後4時――華輦達が任務へと出発する時刻を知らせた。
「じゃあ、今度は政府の任務領域に入らないように注意するのよ」
「はい!任せてください九条さん!」
私の呼び掛けに門音くんは元気に返事をし、華輦はいつもと同じ気怠げな声で「うん」と返事をする。
「華蓮、今日はモリーの調子はどう?」
「ん、三本いじょうは、でてこない」
言うと華輦は腰から自身のソウルに潜むルクシア――モリーの腕を小さく三本腰から生やした。
「よしよし、じゃあ大丈夫ね。三本以上はモリーがあなたのソウルを喰べてしまっている証拠だから気をつけるのよ」
「ん、わかってるから、のーぷろぐれむ」
そう言って華輦は私にサムズアップする。
これは昔、私が良くやっていた癖だ。今は華輦に移ってしまった。
「ふふっ、じゃあ気をつけて」
私はそう言って華輦の小さな頭を撫でてやる。
サラサラの黒髪は私の指に絡まる事なく、するすると指の間から抜けていく。
「ん、カイねぇ、とっても、はずかしい」
言うと華蓮は私の手を両手で掴むと、そっとどかす。
「わたしも、もう、りっぱなこきゅーとすの、せんしです」
言って華輦は門音くんの手を握った。
慣れたものなのか門音くんは華輦に手を握られても微動だにしない。
「そうよね、ごめんなさい。また私ったらこんなことを…いい加減卒業しないとね」
「ん、でも、カイねぇのきもち、わかる、わたしも、さいきん、あかりにそのきもち、なるもん」
「えっ⁉︎そこで俺かよ‼︎」
まぁ…そうだよな〜、と言って門音くんは項垂れる。
「ん、しんぱいされないよう、きょうは、まいごにならないでください」
「はい!もちろんわかっております華輦殿!この門音、不束者ではありますが全力で望む所存であります!」
そう言ってビシッと敬礼をする門音くんに対して華輦は「ん、よろしい」と言って満足そうに少し口角を上げた。
「カイねぇ、こんどこそ、いってきます」
華輦はそう言うと私に小さく手を振って燈利と一緒にゲートへと消えていった。
「ほんとうに…気を付けて…」
ゲートへと消えていく華輦達の背中に、小さくそう呟いた。
「おいオイ甥‼︎いくらなんでも気にしすぎだっちゅうね。人狼達ももう立派な戦士さぁ。そだろ?ガチのマジでさ」
私の呟きを訊き取ったアイルがそう言って励ましてくれた。
「でも、私と同じ悪魔憑きである華蓮達にはどこかシンパシーを感じてしまってね…つい、特別な感情を抱いてしまうのよ」
「まぁそのきもーちももちーろんわかるーんだけどなー」
そう言って話している私達の耳に届く大声で、遠くにいた二人組の男女が喋り出した。
「あーあ、やっと行きやがったかあの化物コンビ、ほんといつまで待たせんだよいい加減どけって感じだな」
「ひゃ〜怖かった!あんな化物がコキュートスにいると思うとさ!怖くてろくに寝れなかったよ」
「ははっ!同意見だよみっちゃん!俺もあの化物がいるストレスのせいで最近はみたらし団子ばっか食う偏った生活になっちまってさ…ほらこの通り、少し腹が出た」
「ぎゃははは!なにそれ〜ユウ君ちゃんとパンケーキとか健康な物も食べないとダメだよ〜」
「いや、パンケーキもみたらし団子もそんな変わらない気が……ていうかよ〜みっちゃん、ま〜だ化物1匹残ってんだぜ?」
「あっ!そういえばそうじゃん!どおりで気分悪いわけだよね〜おぇ〜」
一頻り口に溜まった泥を吐いた後、満足したのか二人組は話すのをやめ、私を見ながら意地悪く冷笑する。
「まぁいいか、おーいアイルちゃん!今日は九地区に送ってくれよ。今日はコキュートス特製限定イチゴビスケット持ってきたよ〜」
男の方がそう言ってビスケットをひらひらとぶらつかせながらアイルを呼んだ。
「お!まじでじまじで⁉︎うれしさの極み節〜」
アイルは私との会話をやめると、嬉々としながら二人組の方へ行くと、そのビスケットを受け取った。
「おぉ〜こいつぁたまげた‼︎上物じゃあねぇか!いいぜいいぜぇ‼︎超ベリバリ最強ティックに繋いでやんよ!」
言うとパチンと指を鳴らしアイルはゲートを開いた。
「おぉー流石仕事が早い。ナイスだ!アイちゃん!」
「ナイスだ!アイちゃん!」
二人組はそう言ってアイルに敬礼し、ゲートへと入っていった。
「ふんふふ〜んイチゴッ♪の〜ビ〜スケット〜♪」
上機嫌に鼻歌を歌いながらアイルは私の元へと帰ってくる。
「でも――私、このビスケット嫌いなんだよな…」
アイルが冷たい声でそう呟いた直後、ゲートの中から悲鳴が聞こえてきた。
「うわあああああ⁉︎なんだよこれ⁉︎ルクシアばかりじゃねぇか!おーーい‼︎だれかぁ!助けてくれーー‼︎」
「ぎゃあああああ⁉︎なにこれーー⁉︎私は、私は悪い人間じゃないよーー‼︎助けてーー‼︎」
その悲鳴は、さっきの二人組たちのものだった。
「どこに繋げたの?」
「化物が嫌いって言うからよ、燈利達がいない幸せなトコに送ってやったさ」
大好物のイチゴビスケットを齧りながらアイルはそう言って笑う。
「ありがとう、私もそれ用意してたの。良かったら受け取って」
私がポケットからビスケットを取り出そうとするとそれをアイルは制止する。
「いいよ、一日に何枚もこんなの食べれないわ。もうお腹爆発圏以内」
笑いながらアイルは服をめくりお腹をポンポンと叩く。
「そうなの、じゃあ明日のために取っておくわ」
「でも明日は腹が超絶な感じに空腹なエクスペクトを感じるからよぉ、そのビスケットあと五枚は必要かな〜」
「なによそれ」
私は腹の奥からくる笑いを堪えることが出来ず、とても久しぶりに、節操もなく大声で笑ってしまった。
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午前2時――ヒカリから札を受け取ろうと燈利の部屋の前に行くと、そこには華輦と談笑するヒカリの姿があった。
「あら華輦、いくらコキュートスの中だからといっても、こんな時間に起きているのは感心しないわね」
「あわ、カイねぇ」
現れた私を見ると、華輦はそそくさとヒカリの背後に隠れてしまった。
「ははっ、そう怒らないであげないでください。華輦を呼んだのは俺ですから」
「本当は?」
「本当は華輦が――いやだから俺が呼んだんですってば!」
からかわないでください!と言ってヒカリは頬を可愛らしく膨らませた。
何故だろう、何故かヒカリと話していると、つい、からかいたくなってしまう。
「ごめんなさいね、でも、どうして華輦を?」
「今日の燈利の様子が知りたいなーと思っていたら、ちょうど食堂から出てくる華輦と出会ったのでココで話していたんですけど、いつのまにかこんな時間に……申し訳ないです」
いつのまにかって……今は午前2時、夜食を終えたのが午後9時だから――5時間近くも話していたって言うの⁉︎それって門音くんが任務をしていた時間の方が長いじゃない!
ヒカリは「えへへ」と凛々しい顔立ちには似合わず、だらしなく笑っていた。
呆れたというか凄いというか….…私の口から出たのは言葉ではなく、大きなため息だった。
やっぱりこの子も七戴天に相応しい変人だわ…。
「はぁ…まあいいわ、取り敢えず華輦は事情は分かったから早く部屋に帰って寝なさい」
「ん、わかった」
言うと華輦はヒカリの背後からヒョイと姿を現した。
「カイねぇは、寝ないの?」
「私ももう少ししたらちゃんと眠るわ。だから安心して」
私はしゃがんで華輦と目線の高さを合わせると「おやすみ」と言って華輦の額にキスをする。
「ん、おやすみ、なさい」
華輦もお返しに私の額にキスをするとエレベーターの方へと歩いて行った。
「さてと――」
私は立ち上がるとヒカリの方を見る。ヒカリももう流石にだらしのない笑みを浮かべてはいなかった。
「ではヒカリくん、札の方は出来たかしら?」
「はい、この通り反射のグラナを封じ込めてあります。並大抵のものでは――例え燈利が触れたとしても扉は開かないはずです」
そう言ってヒカリは私に『封』と描かれた札を手渡してくれた。
「ありがとう、助かるわ」
そう言って私がその札をホルダーにしまおうとすると、ヒカリが口を開いた。
「でも――今日は俺の体調がイマイチ良くなくて、もしかしたらグラナの封印が上手くいってはいないかもしれません。だからもしかしたらこの札は使っても何の役にも立たないかもしれないです、もしかしたら、ですけどね」
そう言ってヒカリはニヤリと笑った。
「あなた、もしかして今日の私と天武の会話を訊いていたの?」
「まさか、そんなことはないですよ。ただ九条さんなら、燈利を信用しない様な行動を取るのは嫌なんじゃないかなと思っただけです」
ヒカリはこういうところに関してはとても勘が鋭い。
「ふふっ、ありがとう。あなたの心遣い、とても嬉しいわ。でもこれも門音くんの為なんでしょう?」
「ははっ、そんなことないですよ。ちゃんと九条さんの為を思ってですよ」
「本当は?」
「本当は燈利の――いやだから九条さんのためですってば!それホントやめてくださいよ、釣られますって…」
そう言ってヒカリはまた頬を可愛らしく膨らませ、いつもの様に私はその姿に微笑んだ。
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午前3時――シャワーを浴びた後、ベッドの上に腰掛ける。
結局門音くんの部屋を今日は封印をしなかった。
あの札が粗悪品であるなら、きっと効力はないだろう。
「これも、しなくてもいいかしら」
左手に持つ手錠を見つめる。
「――もしダメだったら、また付ければいいだけよね」
言って私は手錠をタンスへとしまうと、ベッドへと横になった。
明日の自分を心配するより、今は――明日の自分を信じてみたくなった。
朝になるアラームは、明日も酷く不快な音を奏でるだろう。
だが――今はその音が少し待ち遠しく思う。
「おやすみなさい」
私は目を瞑って、今日の出来事を思い浮かべながら眠りにつく。
ちなみに、明日が良い日なのはもうチェック済みだ――
サンシャイン=ザ・サン・ヒカリ
年齢:23歳
誕生日:12月25日
好き:燈利
嫌い:燈利
契約/憑き者:フェニックス
コキュートス最強の戦士の位である《七戴天》の中で《ルシフェル》の座を持つコキュートス最強の戦士。
その能力は、自身のソウルのカケラを虹色に輝く羽根として空間に出現させ、その羽根の能力を自分のイメージしたモノに変化させるという力。
この力は元々、師匠である緋桐・ホーリーライトニング・アレクサンドルス三世のモノであったが、彼女が亡くなったため、近くにいた弟子のヒカリが引き継いだ。故にこの力に自分は見合っていないと考えているためルシフェルと呼ばれる事を酷く嫌う。
名前は、孤児で名前の無かったヒカリに、師匠が酒で酔っ払いながら適当に考えたものである。
師匠を亡き者にした《狂乱の堕天使》のソウルを持つ燈利の事を、怨みながらも『師匠の形見』として愛している。




