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-BLOOM-  作者: すいかばきばき
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拾三花- Pappet songs Ⅱ

銀髪の少年は七花で出てきた子です。

 シャワーを浴びると下着を着け、壁に掛けてあるコキュートスの白い制服を着る。上着のボタンを下から締めていくが胸元で止まる。私にこの制服の大きさはあっていない。

 私の事を悪魔憑きと嫌っていた仕立屋は私の体に合わせた服を用意しなかった。階級の上がった今なら頼めばオーダーメイドで作ってくれるのだろうが、癪に触るのでそんなことはしない。

「だけど…そろそろ変えた方がいいかしらね。流石に最近窮屈だわ…」

 タブレットの電源を入れ、時間を確認すると見るとちょうど六時を指していた。とりあえず時間は大丈夫だ。

 私は身支度を整えると、部屋を出る。

 『B250』幹部達の住まうこのフロアには豪華な赤い絨毯の敷かれていていたり、他のフロアよりも高級に作られている。

 長い廊下を歩くと、すぐに目的のエレベーターが見えた。ギラギラと金色に下品に輝くこの静かな空間には合わない扉をしている。これは天武の使役するセツの趣味だ。

 私は乗り込むと、周りのグラナを操りのボタンを押す。

 ゆっくりとエレベーターは下ったり横に移動したりする。

 このエレベーターの動きは乗る度に同じ目的地であっても必ず違う動きをする。なんとか院の人間がこの建物の構造を把握しないためだ。

『たとえ仲間であってもいつ裏切るかはわからない』

 天武はこれを作る時に遠い目をしながらそう言っていたのはよく記憶に残っている。

 チンという音ともにエレベーターの扉が開く。

 扉の外には美しい和の風景が広がっていた。

 数あるフロアでも和のテイストはここだけだ。元々ヨーロッパ発祥の機関であるなんとか院には和というものはあまり重視されなかったらしい。

 廊下を暫く歩くと、ある場所へと立ち寄る。その部屋の前には紫色の禍々しい魔素を放つ札が貼られていた。

 この札は何人もこの部屋への侵入を許さない。逆も然りだ。そのために幾重にも複雑な守備魔素を重ねてある。

「万象なるグラナ、汝の守るもの、破滅の子、我は今、そのものへの面会を願う、光と共にその鎖を解け」

 私がそう唱えると、札に描かれた模様が消え、札は効力を失いヒラヒラと床に落ちた。

 私はそれを拾い上げホルダーへとしまう。

 この札はまだグラナが残っている。今日中に練り直してまた夜に使おう。

「さて――」

 言って立ち去ろうとしたが、つい魔が指し、襖を開け中を覗いてしまう。

「おじゃましま〜す」

 小声でそう言いながら部屋へと入る。

 広い部屋の真ん中に布団を敷いて、小さな寝息を立てながら門音燈利は静かに寝ていた。

「こんな天武と歳も変わらない子が…最恐のルクシアなんだものね…」

 私は門音くんの横へ座ると、そっと頭を撫でる。

「いつか…いつか門音くんなら私達を変えてくれると、信じているわ」

 門音くんの話によれば、もうあと二時間もすれば華輦が起こしに来るそうだ。

「華輦を、よろしくね」

 私は立ち上がると、襖を閉めまた長い廊下を進む。何本もの分かれ道、何度も見た景色。来るものを拒むために幻術をかけるこの道を進めるものはなんとか院の中でも限られた物しか知らされていない。

 二十分ほど歩くと漸く目的の場所へと辿り着く。その部屋の襖の前には『テンムーちゃんの部屋♡』と書かれた看板が掲げてある。

 嫌だ、と強く言っていた天武を言いくるめこの看板を飾ることを許させたセツは本当にすごいの一言だ。彼女は戦闘力よりも話術の方がスキルが高いルクシアなのかもしれない。

 襖を開けると真ん中に蝋燭が一本だけ頼りなく日を灯す蝋燭のある部屋に入る。

 本来なら規定の手順を踏まないと見つけられない扉なのだが、私を含め三人だけは時間省略のために簡単な道を知っている。

 蝋燭の前に立ち、三十三歩西側へ進むと見えない壁にぶつかる。私はペタペタとその壁を触り中央の窪みへと手を突っ込むと、その壁を横に開く。開いた壁から光が漏れ、空間が広がる。

「きたか…」

 部屋の奥で数メートルも積み重なっている本に囲まれながら、天武がこちらへ振り向く。

「定時連絡、本日もこの部屋への幻術もちゃんと機能してたわ」

 私がそう報告すると、天武はいつもと変わらないトーンで「そうか」とだけ言った。

「《狂乱の堕天使》の方は、どうだった?」

 天武は鋭い視線をこちらへ向ける。この話だけは彼はいつもシリアスだ。

「いつもと変わりないわ、封印のグラナはちゃんと機能していたし、誰かにいじられた痕跡もなかった」

 そういった後、私は付け加える。

「そろそろ、彼の部屋の封印を解いてあげてもいいんじゃないかしら?門音くんはちゃんと自分の力を制御出来ているわ」

「俺もそうしてやりたいとは思ってる。けど下の連中がうるさくてな。それにあの《狂乱の天使》の魂が取り憑いてる人間だ。もう少し様子を見ておきたい」

 そう言うと大きくため息をつく。

 日の当たらないこの部屋に一日中いるというのは肉体はもちろん、精神的にも不健康である。

「昨日はちゃんと野菜食べたの?一日中そんな事務仕事ばかりだといつか倒れるわよ」

「それは心配することない。ちゃんと私が用意してテンムーに食べさせといたさ」

 辺りに紅葉を舞い散らせながら何処からともなく現れたセツが、豊満な胸を天武の頭に乗せてそう答える。

「そう、それなら良かったわ。セツが見ててくれるなら安心ね」

「テンムの事よりあんた自身の体を心配したらどうだい?毎日栄養ゼリーなんて、今時のカブトムシだってしないんじゃないかい?」

「しょうがないのよ。他の食べ物は食感があまり良くないから…味のわからない私にとっては口に含んでいて唯の気持ち悪い物体でしかないのよ」

「それはそうなのかもしれないが…」

 顔をしかめるセツを横目に見ながら私はタブレットの画面を見る。

 時刻は六時近くになっていた。そろそろここを出ないと″彼″との約束に遅れてしまう。

「じゃあ私は次の用があるからもう行くわね」

 そう言って出て行こうとした私の背中で、天武がポツリと呟いた。

「それでも…ちゃんと食事はとれよ。お前はいつも無理をするから、心配だ」

 斉明様が亡くなってから天武は口数が少なり、仕事をこなしとても立派な人間になった。

 けれど彼は、今でも″斉明様の息子の天武″だ。

「えぇ、わかってるわ。ありがとう」

 私はそう言って笑った後、部屋を出た。

 扉を開き漆黒の空間へと戻る。

 帰りは簡単だ。空間の中には蝋燭の他に白い襖が浮かんでいる。歩数を数える必要なんてない。

 私は蝋燭を横切り、襖を開け外へ出ると何かにぶつかる。

「わっ⁉︎…とと…あっ」

 襖から出ると、ちょうどこちらへ入ろうとしていた銀髪の青年と鉢合わせた。

「ちょうど天武に報告が終わって、あなたの所へ向かおうと思っていたところだったの。会えて良かったわ」

「そうですか、俺も天武に呼ばれていたからちょうど良いと思ってここに向かってたんです。すれ違いにならなくてよかった」

 そう言って肩まで伸びた綺麗な銀髪を揺らしながら彼――ヒカリは私に微笑む。


 ヒカリはコキュートスの中で一番特殊な階級である《七戴天》という″実力者のみ″で構成され、天武と同じ権力を与えられている階級に属している一人だ。

 《七戴天》はその名の通り7人の人間が座しており、それぞれの人間に個別に《二つ名》を与えられる。

 彼はその中の一つ《ルシフェル》という二つ名を与えられている。

 この名を与えられる事はとても名誉な事で、普通は好んで自分をそう呼ぶのだが、彼は二つ名で呼ばれる事をあまり好いてないらしく、二つ名で呼ばれる事をとても嫌う。

 性格、知能数を無視し″強さ″だけで選ばれたので《七戴天》は曲者揃いだ。会話のドッジボールという言葉がよく似合う。

 だからヒカリは話の通じる珍しい存在だ。

 《七戴天》は特定の支部に属したりはせず、呼ばれた場所へ頼まれた分のみ――いやそれ以上の事をやってのける。いわゆる便利屋の様な存在なのだが、ヒカリは日本支部(ここ)が気に入っているらしく、本部から呼び出されない限りはここを寝床にしている。


「いつも悪いけど、コレよろしく頼むわね」

 私はホルダーから模様の掠れた札を取り出すとヒカリに手渡す。

「はい、任せてください。反射のグラナを共鳴(レゾナンス)させるのは俺の得意分野ですから」

 そう言って笑顔で引き受けてくれる彼に私はお礼をすると、次の話へと進める。

 私がそう言うと顔を上げ、とても嬉しそうにする。

 子供っぽいというか裏がないというか、本当に話しやすい。すべての七戴天がヒカリぐらい素直な子であれば東京――いや、世界からルクシアを消し去るなんてことは半日あれば容易な話だろう。

「そういえば燈利の体調はどうですか?たしか昨日が華蓮と組む初の任務でしたよね?」

「あら、よく知ってるわね。途中政府との接触があったみたいだけど、その彼らと協力して七地区の《ターウース》を討伐してきたから戦士として、とても優秀になったと思うわ」

 こうして人に話してみると改めて彼らは本当に凄いことを成し遂げたなと感心する。近所のおつかいぐらいの簡単な任務だったつもけだったけど、彼らは金塊を抱えて帰ってきた。

「それはすごいな、さすが燈利だ!」

 ヒカリはまるで自分が褒められているかのように喜んだ。

「それにしても何故そんなに門音くんの事を知りたがるの?彼を七戴天の一人に加える気?」

 この質問は今回で三度目だ。

「それは前も言ったじゃないですか」

 前回と同じ受け答えだ。

「彼が緋桐の殺した《狂乱の堕天使》の写し鏡だからです。それ以上の理由はありません」

 緋桐――緋桐・ホーリーライトニング・アレクサンドルス三世。

 先代の《ルシフェル》であり、彼の師でもあった女性。

 どう考えても偽名としか思えない名だが、その真偽はわからない。

 彼女は人とは関わりを持たず、世界各国をその足で歩き、長年ルクシアを一人で倒していた。なので彼女の事をよく知るものは、彼女が亡くなる少し前に弟子に取ったヒカリしか知らない。

 彼女は《狂乱の天使》と相打ちになり、いつの間にかなくなってしまっていた。

 七戴天の階級に相応しい変人であったと思う。

「本当にそれだけなの?実はお師匠様の仇をとろうとか考えてるんじゃないか、と私は思っているわ」

 前回よりも少ししつこく質問してみる。

 私がそういうと首を横に振りヒカリは子どもっぽく笑う。

「ははっ、本当にそんな気はないんですよ。あの師匠を倒したほどの強力な力をその身に宿す少年。その彼がどういう風にこの先歩んでいくのかっていうのが気になるだけなんです」

「本当は?」

「本当は――いやいや本当なんですってば!」

 ひどいなー、と言ってヒカリはしかめっ面をする。

「ごめんなさいね、ついからかいたくなっちゃって」

 私がそういうと「はぁ…」とヒカリはため息をついた。

「でも――俺が燈利を心から心配しているのは本当です。燈利の身に何かあるというのなら、その障害は全て俺が消し去ります」

 ヒカリは真剣な顔つきでそう口にする。

「燈利は緋桐の遺してくれた唯一のモノですから」

 その言葉だけは、何故か小さくポツリと口にした。

 なんとなく、これ以上は聞いてはいけない気がした。

「そう…わかったわ。ごめんなさいね!変な事訊いて」

 私がそう言って謝ると「大丈夫ですよ」と言ってヒカリは笑った。

「じゃあそろそろ行かないと天武が怒るんで、行きますね」

「うん、じゃあまた後で」

「はい、ちゃんと札は作っておきます!」

 そう言って明るく手を振るヒカリを横目で見ながら、私は彼に背を向けまた長い廊下を歩く。

更新が遅れて本当にすいませんでした(;_;)

次からはちゃんと活動報告使います:;(∩´﹏`∩);:

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