拾花-Queen of desert Ⅱ
今回は戦闘メインです。
「ここが、本当に日本だっていうのかよ…」
七地区は地理的に言えば埼玉県辺りだが、いま燈利の目の前に広がる景色は終わりの見えない砂漠だった。
《天界》の状態にある地区にはこれまで何度か行ったことがあるがいつもは狭い部屋の事が多いからここまで広いのは初めてだ。
「あかり、だいじょうぶ?」
燈利の隣にいる華輦がそう言って少し心配そうな顔をする。
これまでは無表情の華輦だったが、燈利と出会ってからのこの一ヶ月の間に表情の変化が豊かになった。
「あぁ、大丈夫だ。少し呆気にとられちゃってな」
「ん、なら、あんしん」と華輦はゆっくり言う。
「そうだ、そうい――」
ゴオオオォ
華輦が何かを口にしようとしな刹那、突然砂嵐が吹き荒れ燈利と華輦は遠くへ吹き飛ばされた。
「……っっ」
燈利は腰を抑えながらゆっくりと起き上がると辺りを見渡す。
だが辺りは砂嵐が吹き荒れていて1m先の景色すら見ることができない。
「まいったな…これじゃ華輦を探せねぇ…」
んー、と首を傾げ悩む燈利の耳にビリビリとルクシアの輪っかが出現する時の音が響く。
「はぁ…こんな時にか…」
空中に出現した複数の金色に輝く輪から、両手が刃の形をしたルクシアが産み落とされる。
「一、二、三、四…五体か。まぁこんぐらいならの数ならどうにかなるな」
燈利は冷静に砂嵐の中で輝く輪っかの数を数え、ルクシアの数を推測すると、ホルダーから『氷』と書かれた札を二枚取り出し、そこに封じられているグラナを吸収する。
「コキュートス、九宮華輦のパートナー門音燈利としてのお前らが最初の相手だ。その目に俺の最初の晴れ姿、ちゃんと焼き付けておけよ!」
燈利はそう叫ぶとソウルとネモのグラナとを共鳴させ灰色の剣を出現させる。
先程吸収した氷のグラナの影響を受け、ソキウスの脈打つ紅い線はいつもとは違い空色に輝き、刀身は氷の粒が纏っていた。
「Seeee‼︎」
叫びながらルクシアの内の一体が燈利へと刃を振りかかり、攻撃する。
「遅いな!」
燈利はルクシアが刃を振り下ろすより前に、灰色の剣をルクシアの胸へ突き立てる。
「Sy⁉︎」
刺された箇所からルクシアの体を形成するグラナが氷へと変化していき、徐々に全身が凍っていく。
「Sii…」
燈利は全身が氷となったルクシアの体から剣を抜くと、肢部分ででルクシアの頭部をコツンと叩く。すると氷となったルクシアの体はバラバラとソウルごと崩れ落ちた。
「まとめてかかってきたらどうだ?一体じゃ今の俺は簡単に倒せないぜ?」
ニヤリと笑った燈利がそう言って挑発する。
「Syaaa‼︎」
怒り狂ったルクシアたちは雄叫びをあげながら燈利へと一斉に斬りかかる。
「そうこなくっちゃな!」
燈利は剣を構えると、跳躍し一気にルクシアの群れへと飛び込む。
「Syaaaaa‼︎」
奇声と共に振り下ろされるルクシアの刃を、燈利は身体を捻って避けると、灰色の剣を振り上げルクシアの身体を下から一気に真っ二つに引き裂く。
「Si…i…」
そしてすぐに姿勢を低くすると次のルクシアへと斬りこみ、重い一太刀を入れルクシアのソウルごと体を引き裂いた。
「Giiiyy‼︎」
直後、燈利の背後から二体のルクシアが襲いかかる。
「見えてるぞ!」
燈利は勢いよく振り返り、遠心力を加えながら剣を振るう。
「氷よ!貫け!」
その声に呼応して氷の刃が燈利の剣の軌跡をなぞりながら二体のルクシアの体を同時に貫く。貫かれたルクシアの体は氷塊となり、地面に当たるとバラバラと砕け散った。
「ふぅ…とりあえずこれで全部かな」
燈利の体内から氷のグラナは消えると、灰色の剣は空色の線が徐々に薄れていき、見慣れた紅い血のような色の脈が浮かび出た。
「取り敢えず、華輦探さないとっ――」
ヒュン
という風を切る音が燈利の耳に届いた刹那、燈利の背中を鋭い刃の付いた弾丸が貫く。
刃は燈利の体を抉り、胸部分を貫通すると、それでもなお勢いが衰えず地面の砂をも抉った。
「ぐはっ――⁉︎」
んだよ…これ⁉︎
燈利は痛みが全身に回る前に咄嗟に腕を動かしホルダーから『癒』と書かれた札を取り出しそのグラナを吸収する。
癒しのグラナは共鳴すると瞬時に燈利の治癒力を倍増させ傷を癒した。
「どこだ――どこからやられた⁉︎」
燈利は立ち上がり辺りを見渡す。しかし砂嵐がひどく1m先ですらあまり見えない。
ヒュン、とまた風を切りながら弾丸が発射され燈利の胸を貫いた。
敵は、この砂嵐が吹き荒れる状況の中からも正確に燈利の胸を狙い撃つことが可能であった。
「――くそ‼︎」
燈利は咄嗟に体を逸らし急所に当たることは避けたが、完全には避けきれず燈利の体を鋭い弾丸が貫いた。
「こんな…」
燈利の身体にまだ残っていた癒しのグラナにより傷はすぐに塞っていく。
「今の内に――早くしないと次が来る」
燈利はホルダーから『剛』と書かれた札を取り出しそのグラナを吸収する。硬化のグラナにより燈利の皮膚が徐々に銀色に染まり始める。
ヒュン――
砂嵐を切り裂きながら再び弾丸が燈利に高速で飛んでくる。
だがその鋭い刃のついた弾丸はカキンッという鈍い金属音と共に、鋼の様に硬化した燈利の体に弾き返される。
これでしばらくは持つ…。
「その間にどうにかしねぇと!」
思考する燈利の身体を、青い影がその手についた鋭い爪で背後から引き裂く。
「なっ――⁉︎」
硬化のおかげで体を抉られることはなかったが、その鋭い一撃により上空へ吹き飛ばされる。
空中へと投げ出された燈利の正面に朱色の影が姿を表す。
また別なのがいんのかよっ⁉︎
その影は両手に持ったダガーで燈利を地面へと叩きつける。
「がはっ⁉︎」
地面に当てられた衝撃で肺の空気が一気に無くなる。
攻撃の連打によりグラナでコーティングした皮膚は予想より早く剝がれ落ち、元の肌色へと戻る。
地面へ落下した燈利は無理矢理体を起こし体制を整える。しかしすぐに先程の鋭い爪を持った青い影が砂埃を立てながら高速で襲いかかってくる。
「なんなんだよお前ら!」
そう叫びながら燈利はうちに眠るラファエルのグラナを共鳴させ真紅の炎の玉を無数に出現させ応戦する。
ラファエルの炎は他のグラナとは違い、あれ以降消えることなく燈利の身体に残っていた。
「……」
青い影はその攻撃を華麗に避けると、砂嵐の中に身を投げ、燈利の前から姿を消した。
「どこに――」
突然、燈利の背後で土煙が上がると鋭い爪が燈利に向かって突きつけられる。
「しまっ――」
ガキン‼︎
という鈍い音と共にその鋭い爪による攻撃は済んでのところで二本の巨大な腕によって防がれた。
だが敵の攻撃は、突然砂嵐の中から現れた二本の黒い腕によって防がれる。
「やっと、みつけた」
黒い手に遅れて砂嵐の中から華蓮の姿が現れる。
「私のパートナー、いじめないで」
華輦は二本の腕を巧みに操り、その鋭い爪から繰り出される連撃を全ていなす。
「あまい」
そして青い影の隙をつくと、重い一撃を腹部に喰らわせる。
「ぐっ――⁉︎」
唸り声を上げながら青い影は後方へと吹き飛ばられる。だが青い影は空中で体勢を整えると、また燈利へと襲い掛かる姿勢を見せる。
「まったく、めんどう、なやつら」
華輦はそう小さく言うと、すーっと大きく息を吸いこみ、これまで訊いたことのないような大声を出す。
「私たちは!コキュートスのものである!これ以上こうげきをつづけるというのなら、せんせんふこくとみなし、ほんぶへれんらくする!」
燈利は思わず目を丸くして華輦の隣で腰を抜かして驚いていた。
だがその声に驚いたのは燈利だけではなかった。敵も攻撃の手を止め、静止していた。
しばらくの沈黙の後、砂嵐の中から深緑色のロボスーツに身を包んだ男が現れる。
「いやぁ〜すまねぇ」
ヘルメットの中のマイクを通して男の声が辺りに響く。
「悪気があったわけじゃねぇんだ」
言うと男はヘルメットを外し素顔を露わにする。
ヘルメットの中に押し込められていた長い金髪がフワリと流れ出て、砂と汗によりキラキラと輝く。
「こっちも仕事なもんでな」
ルクシアに対抗するため、日本政府が極秘裏にコキュートスの研究機関と繋がり、試行錯誤の末に生み出された対ゼシウス特化システムスーツ――通称《REVERSE》
第1段階としてルクシアと同じ様にグラナの鎧を作る事に成功した日本政府は、第2段階としてその鎧に科学技術を駆使し、人間に最適化に成功。
そして肩部分に取り付けた多種多様なグラナを詰め込んだカプセルをスーツに注射することで、状況に応じてスーツの性能を自由自在に変異させることが可能となっている。
「俺はディベロ・イレネオ。日本特殊戦略機構――そこの第三隊の隊長をやらせてもらってる」
ディベロ・イレネオ――彼は抜群のグラナへの適合能力、そして卓越したREVERSEの操縦技術により、弱冠三十歳という異例の若さで隊長を任されている人物である。
「立てるかい?」
そう言って燈利に手を差し出しと手を差し伸べる。
「おかげさまでちょっと無理かな」
言って燈利が苦笑いすると、イレネオはスーツの肩部分に装着されているチューブを無理矢理引っこ抜く。切れたチューブの先からは黄緑色の液体状のグラナがダラリと流れ出た。
「ほんとは直接体に注入するものなんだが、まぁ大丈夫だろ」
そう言ってイレネオはそのグラナを足にかける。
「冷たっ――」
冷んやりとした感触の後、グラナが傷口に入り燈利の治癒力を促進させ瞬時に傷を癒した。魔素が直接傷つけられた部分の代わりをするコキュートスの札に封じられているグラナとは少し違う。
「おぉ、治った!」
「コキュートス様のとこの人間だとは思わなくてよ。だってあんたらめっちゃゼシウスのセンサーが反応してるしさ」
そう言うとイレネオは腕についているモニターを見せる。中央の矢印の前にルクシアを現す赤い点が二つ点滅していた。
「わたしたち、悪魔憑き、だから」
華輦がそう言うと「あぁ、なるほどねぇ〜」とイレネオは然程興味なさそうに呟いた。
「ほら、お前たちもこっちきて謝っとけ。上に報告されたら減給どころじゃ済まないぜ」
イレネオがそう言うと、後ろにいた《REVERSE》に身を包んだ二人が燈利達の前へと出た。
「ご、ごめんなさい!悪気はなかったんです!僕たちも必死でして…ほんとうにごめんなさい!」
赤いREVERSEに身を包んだ少年――トオル・ヴァルヒェットはヘルメットを脱ぐとおどおどとしながら頭を下げる。
「ふん、俺は勝手にここに入ったこいつらにも非があると思うがな」
青いREVERSEに身を包んだ青年――ディベロ・アマーリアはヘルメットの下でそう言って舌打ちをする。
「お、おい!何言ってんだお前は⁉︎」
慌ててイレネオはアマーリアのヘルメットの口元を塞ぐ。
「後できつーく言っとくんで、な?許してくれ」
「やめろ!俺の言っている事は間違っていない!」
アマーリアははそう叫びイレネオの腕を振りほどく。
「だってそうだろ!あそこは俺らの担当区域でコキュートスの奴らは立ち入りが禁止されていたはずだろ‼︎」
「そ、そうかもしれんが…」
アマーリアの怒号にイレネオは下を向いてそう小さく呟いた。
「あの〜さ」
燈利が申し訳なさそうな声を出す。
「話の途中申し訳ないんだけど、あんた達、なんで喧嘩してるわけ?」
燈利のその質問にイレネオは小首を傾げる。
「ん?お前、俺達の事知らない感じか?」
「ん、あかりは、きょうが、はじめて」
燈利の代わりに華輦がそう答えるとイレネオが「なるほどなぁ」と言って頷く。
「んじゃ改めてだな。さっきも言ったとおり俺は日本特殊戦略機構っていうとこのメンバーなんだ。んで、そこがど〜もあんたらと協力するのを嫌うみたいでよ、だから手柄を取られないようにあんたらが入れない区域を設定してるわけよ」
それでだ、と言ってイレネオは話を続ける。
「俺達からすればコキュートスの人間が入ってくるなんて思ってねぇからよ、レーダーがルクシアだと反応しちまったし攻撃しちまったって訳なのよ。すまんな」
なるほど、だからあの茶髪の男は謝ろうとしなかったのか、納得した。
「というか、話聞いてる限りだとさ、もしかして悪いの、俺?」
燈利がそう言うと、華輦は「ん、そう」と頷いた。
でも先に手出しちまったのはこっちだ。そこは間違ってない」
イレネオはそう言った後アマーリアの方へと視線を向ける。
「そうだよな?リア?」
イレネオにそう言われ渋々と納得したアマーリアはヘルメットを外す。
ボサボサの茶髪が太陽光に照らされキラキラと煌めいた。
「……すまなかった」
アマーリアは悩んだ末、燈利達に頭を深く下げて謝罪した。
「ほんとすまなかったな。危うく人を殺めちまうところだった」
ははっ、と軽い調子でイレネオは笑う。
「まぁ元を辿れば俺がお前らの領域に入ったのが原因だったらしいさ、俺も悪かったよ」
そう言って燈利も「ごめ〜ん」と軽い調子で謝罪した。
「よっしゃ!じゃあお互い様ってことで!」
イレネオのその言葉に、燈利は「異議なし!」と答えた。
「それじゃあ悪りぃが俺達も向かう場所があるんでな」
イレネオはそう言うとヘルメットを装着する。
「上に報告だけはマジ勘弁な!」
ヘルメットの下でイレネオはそう言って笑うと背中のバックパックからグラナを勢いよく噴射し宙へ浮き、高速で砂嵐の中へと飛んで消えていった。
「ふん、もう紛らわしい事はするなよ」
「で、では、本当にごめんなさい!」
言ってアマーリアとトオルもヘルメットを装着すると、踵部分からグラナを噴射し高速で地面を走りイレネオの後を追って砂嵐に消えていった。
「すごいな、グラナってあんな使い方出来るんだな」
そう言って感心する燈利に華輦が「いつでも、けん出せるほうが、すごいと思う」と言った。
「じゃあ、わたしたちも、いこう」
そう言って華輦は燈利がもう離れないようきつく手を握る。
更新遅れて申し訳ございませんでしたm(_ _)m




