勇者の帰還
前回までのあらすじ:
書くほどの内容がなかった…。
俺たちは、俺が住んでいるアパートに帰ってきていた。
「まあ、これでも飲んで落ち着けよ。」
「…ありがとう。」
俺がコーヒーを差し出すと、セフィリアは礼を言って受け取った。
セフィリアはコーヒーの匂いをクンクンと嗅いだ後、恐る恐るといった様子で口をつけるが、すぐに顏しかめる。
「苦かったか?これでも入れろよ。」
適当に砂糖とミルクを渡してやる。セフィリアはどこか訝しげな表情を浮かべながらも、それらをコーヒーに投入し、再び口をつける。どうやら今度は口に合ったようで満面の笑みを浮かべるのだった。
「甘い!これ、おいしいわ!香りをすごくいいし。これはきっと高級品ね!」
「別にそう高いもんじゃない。その辺の人間でも日常的に飲めるレベルだ。」
「あら、そうなの?それにしては美味しいじゃない。この世界の食文化は発展してるのかしら?まあ、そんななことはどうでもいいわ。それでこんなボロっちい部屋に案内してどういうつもりかしら?こんな狭苦しい場所では息が詰まるわ。敵である私を警戒して、自宅に案内できないのはわかるけど、もう少しまともな場所はなかったの?」
コーヒーを飲んで上機嫌になったセフィリア。そんな彼女の何気ない一言が俺を傷つける。
無自覚の悪意ってホント堪えるよね!
「自宅なんだ…ここが。」
セフィリアは目が点になり、一瞬動きが止まる。そしてどこか焦ったように話しかけてきた。
「も、もう冗談ばっかり、そんな真剣な表情で言われたら信じちゃうじゃない…。う、嘘よね!?私を騙そうとしているだけよ、ねえそうでしょ?ここは実際は住んでるわけじゃなくて、隠れ家の一つに案内したとか、ねえそうなんでしょ?そうだと言ってよ!」
セフィリアの必死の形相で俺を問い詰める。俺は何も言い返すことができなかった。
「そんな…嘘でしょ!?私たちをあれだけ苦しめた勇者が、こんな豚小屋みたいなところに住んでるなんて。」
「豚小屋で悪かったな!俺が何処に住もうとお前には関係ないだろ。」
「あるわよ!あなたがこんな貧乏ったらしい生活をしていては、あなたに負けた私たちまで軽く見られちゃうじゃない。もっと勇者らしい生活をしてよ。」
「勇者らしい生活って何だよ!あれか?人のうちに勝手に上がりこんでタンスを漁ったり、壷を割ったりすればいいのか?なんならその辺歩いている通行人に殴りかかって金を巻き上げるぞ。」
「どこの世界にそんなならず者みたいな勇者がいるのよ!」
「この世界の勇者像はそんな感じだ。」
「嘘でしょ!?」
「嘘じゃない。この世界でもいちおう勇者はやったことがあるからな。」
「あなた、この世界でも勇者だったの!?」
俺の言葉に同様を隠せないセフィリア。明らかになんか勘違いしているが面白いからこのまま続行だ。
「ああ、魔王と名乗るやつはこれまでに20くらいは倒している。」
「魔王を20人も…」
セフィリアは言葉を失う。やったぜ、話を逸らせたぞ。
「さ、さすがね。腐ってもわたしたちを倒した元勇者ということかしら?でも、この世界でも勇者の割にはなんでそんなに貧しい暮らしをしているのよ。」
くそ、なんで話題をまた俺の生活レベルの話に戻すんだよ。
「…この世界じゃ魔王を倒すなんて大したことないんだよ。俺以上に魔王を倒してるやつもいれば、暇をもてあました連中が魔王を討伐するまで時間を競う競技(RTA)もあったりするくらいだ。」
「な、なんて荒んだ世界なの。邪竜王様に伝えないと!この世界には、強力で野蛮な勇者たちが群れているから進出はあきらめようって。」
セフィリアは青白い顔でそんなことつぶやく。図らずも、俺の活躍によって邪竜王の魔の手からこの世界を救うことができそうだ。
まあ、それにはセフィリアを元の世界に戻さないといけないんだけどな。