勝者なき戦い
前回までのあらすじ:
俺は異世界人の元勇者が転生した存在で、警官の名前は本田隼人。
俺は異世界から来たパシリから逃亡を図るも追いつかれた。
「ゼーハゼーハー…逃がさないわよ。」
アスファルトに座り込みながらも、セフィリアの眼光を鋭い。そして俺の服の裾を掴んで決して離そうとしなかった。
「なんで…、おえ…俺を追いかけてくるんだよ?」
電柱にもたれながら、俺はセフィリアに尋ねる。走りすぎて気持ちが悪い。何かが口から産まれそうだ。
「私一人じゃ心細いじゃない!こんな右も左もわからない世界で、いったいどーすればいいのよ!私はアンタをちゃっちゃっと抹殺して、さっさと帰るつもりだったのに…。魔法が使えないなんて、そんなこと聞いてないわよ!」
セフィリアはゆらりと立ち上がると、俺の襟首をつかみ激しく揺すりながら訴えかけてくる。
「まて、あんまり揺するな。気分が…。」
「アンタのことなんてどうでもいいわよ!どうせ、治療魔法をかけながら、足から摩り下ろしてやるつもりだったし。」
「…予想外にグロい方法を取るんだな、オマエ。ちょっと引くわ。つうかいい加減離せ。逃げないから。」
「信じられないわよ!どうせ離したとたんにすぐに逃げるんでしょ!」
「逃げねえよ…よく考えたら、オマエをこのまま放置したら誰かに不審者と通報されるだろうし、そうなったらあの警官が俺に連絡を取るばずだし。」
「誰が不審者よ!」
「そのカッコじゃな…この世界じゃ、頭おかしい服装だぞ?」
よく言ってマントを羽織ったレースクイーンといったところか?ただし、禍々しい指輪や、腰の悲痛な表情を浮かべている奇妙な物体のせいで怪しさは加減はマックスを突きぬけている。こんな姿の通行人に遭遇したら、一般人なら逃げるコマンドから通報一択だ。会話を選ぶのはよほどの勇者ぐらいだろう。
俺の指摘を受けたセフィリアは、途端に不安になったのか、しきりに自分の姿を見返し始めた。
「…この格好ってそんなにおかしいの?」
「お前の世界では、一般人はそんなカッコしているのか?おそらくだけど、違うだろ?」
「…ううう。で、でも私、邪竜王四天王の一人なわけで、超偉いのよ!だったらそれにふさわしいカッコを…。」
「それが偉い人間のする格好かどうかは、まあ…おいておくとして、お前この世界じゃ、底辺もいいところだぞ?」
「て、底辺…そうなの?」
「住所不定の無職で国籍なし。この国じゃ生きていくのもつらい立場なんだぞ?」
「住所不定の無職!?こ、国籍はよく分からないけど…待って!住所不定はそうかもしれないけど、無職じゃないわ、私は魔法使い…。」
「この世界で魔法使えないのに?」
「うう…、ま、まだよ。確かに魔法使いではないのかもしれないけど、私はそう邪竜王様の直属の部下!四天王なのよ!」
「悪いがその邪竜王様の威光はこの世界まで届いてないぞ。邪竜王なんて単語だしても、誰も恐れ敬うどころが、頭がおかしい女の妄想だとしか思われないぞ。」
「ううう…。そんな。」
俺の言葉にショックを受けたのか、セフィリアは足元から崩れ落ちるとそのまま、うなだれる。打ちひしがれるセフィリア。空しい勝利だ。
そうやって、セフィリアは暫く打ちひしがれていたが、突然、笑いだすと立ち上がり、俺を指差してきた。壊れちゃったのか?
「聞きなさい勇者カイン!不本意ながら貴様の討伐は、しばしの間見送ってやろう!だから…お願いです。私を助けてください。養ってください。」
あまりにも情けない様子に、俺は何も言えない。さすがにこの状態の人間を見捨てるほど俺は非常にはなれなかった、
「…とりあえず、続きは俺の部屋で話そうか…。そろそろ人が出てくる時間だし…。余計なトラブルは避けたいんだが、それでいいか?」
無言でうなづくセフィリアを確認した俺は静かに歩き出す。セフィリアもおとなしくついてきた。朝日の元、虚ろな表情のまま連れ立って俺たち。この先、一体どうなるんだ?