斉藤、召喚される。
前回までのあらすじ:
俺の名前は斉藤喜一。年齢20歳のイケメン。同僚の吉永さんにロッカールームで股間を蹴り上がられ、俺宛の電話を受け取った。正直、吐きそう。終わり。
「はい、斉藤ですが…。」
「あ、もしもし、やっと繋がった。僕ですよ僕。ヤッホー、元気ですか?僕は元気です。なーんちゃ…。」
俺は電話を切る。何かおかしなことでもありましたか?
…ないですよね。くそうざい電話は初手ぶっちぎるのは社会人の常識です。迂闊に受け答えなんてしようものなら、保険の話やら土地販売やらエンドレスで話し始めるぞ。おかしな電話即切る。社会人の必須スキルだ。
そうして黙らせた電話だったが、間をおかずに再びけたたましい音を鳴り響かせる。
嫌な予感はするが出ないわけにもいかず、俺は仕方なく電話に出るのであった。
「はい、横島タクシー小田原営業所です。」
「あ、ひどいじゃないですか斉藤さん。いきなり切るなんて。あ、また切ろうとしてるでしょ?ちょっと待ってくださいよ。僕です、さっき現場検証で会った警官ですよ。」
「警官?」
「そうです。斉藤さんが起こした事故の現場検証をした警官です。」
あの時の警官だったのか、そう言えば声に聴き覚えがあるのような…。
「はあ、それでどうしたんですか?まさか俺が撥ねた爺さんが見つかったんですか?」
いきなり飛び出してきたと思ったら、天に昇っていた迷惑なクソじじい。言葉にすると俺の頭がおかしくなったように思われるかもしれないが、ありのままの事実なのだから、手に負えない。
あの様子で生きてたのか?
「いやーそれの件はまだ見つかってないですか。」
なんだ見つかってないのか。もし見つかったのなら、クルマの修理費3万円をむしり取ってやろうと思ったんだが…
「実は、その後にコンビニで騒ぎを起こした外国人?らしき人を保護しましてね。」
俺は心当たりがあった。というか、間違いなくアイツだ。だがここで正直それを告げれば何を言われるか分からない。ここはしらばっくれよう。
「はあ、それは大変でしたね。」
「いやーほんと大変でしたよ。なんかよくわからないこと言いながら大変暴れまわってくれましてね、魔法とか召喚獣とかなんとか?なんかのアニメのコスプレみたいなカッコして、いい大人が恥ずかしくないんですかね。」
その意見には同意だが、言葉にするわけにはいかない。これ以上厄介ごとに首を突っ込むほど、俺は暇ではない。
「それで、その頭のおかしな女が私に何の関係があるですか?」
「いえですね。それがその女を取り押さえたところ、泣き出してしまいまして。それで叫ぶんですよ。斉藤喜一、斉藤喜一と。」
あの女なんで俺の名前を知っているんだ!?
「いやーこれって偶然ですかね?前の事件の加害者の名前を叫ぶ。これは何か関係があるのかとつい疑っていますね。警官として。」
「私には関係ありませんので、これで失礼します。」
俺は会話を一方的に打ち切ると、電話を切る。
すると再び鳴り出す電話に俺は苛立ち紛れに怒鳴り散らすのだった。
「だから俺には関係ないと言ってるだろうが!このくそ警官!!!」
「えーと、斉藤喜一。公務執行妨害と警察官への侮辱罪。あ、未解決の強盗殺人と80歳の老婆への結婚詐欺をオマケして指名手配っと。」
「今すぐそちらに伺いますので、お待ちいただいてもよろしいでしょうか!?」
「あ、そうですか?いやー良かった僕も良心が痛まずに済んでホッとしていますよ。それじゃ、交番でお待ちしてまーす。なるはやでお願いしますよ?…あ、やべボタン押しちゃったこれじゃホントに指名手配に…」
「くそ野郎!!!」
俺は電話を床に叩きつけると、交番へ急ぐのだった。