初めての敗北
「それでですね、おじいさんが飛び出してきた訳ですが、被害者がいないという訳で人身事故扱いにはならなかったんですよ。」
「そうなんですか、それは何と言っていいか…不幸中の幸い…では少し不謹慎な気がしますしね。」
「そうですよね。…それでタクシーのフロントが凹んでしまったのですが、」
「ああ、それなら安心してください。3万円程度で直るらしいですよ。」
「そうなんですか…それでその支払いは…。」
「わかってますよ。今苦しいんでしょ?月末の給料日まで待ってあげますから。」
「その…ありがとうございます?…やっぱり、私が払うんですか…。」
「うん、何か言いましたか?」
「いえ、なんでもないです。」
「斉藤君これからは安全運転でお願いしますよ。それで今日はもう帰るんでしょ?おつかれさま。気を付けてね」
「…おつかれさまです。お先に失礼します。」
俺はにこやかにほほ笑む所長に頭を下げると、制服を着替えるため更衣室にへと向かう。
一人きりになったとたん、俺は所長との会話の中で感じていた内心の憤りがつい抑えられくなり、思わず更衣室のロッカーを蹴り上げるのだった。
「くそ、なんで俺が修理代を払わなきゃいけないんだよ!」
業務中の事故なんだから、普通会社が払うべきなんじゃないのか?なんで、俺持ちなんだよふざけんな。
俺の月給を知っているのか?ガソリン代やら何やら差し引かれると月10万いくかだぞ?
ここから3万引くとか、どれだけ残酷な方程式が完成すると思っているんだ。
今でさえ。ここ一週間もやしともやしの煮汁しか口にしてないんだぞ。あれか?もやしが入っていた袋を食えってか?
そりゃ、盲点だったわ。食わずに捨てるとかもったいないってか?
死ねよ、もう死ね。みんな死ね。お礼状に幸福な奴はみんな死んで俺に謝れ。
「斉藤さん、どうしたんですか?」
俺はいきなり声をかけられ驚き固まる。この可愛らしいお声は聞き覚えがあったから。
「吉永さん!?…もしかして見ていた?」
吉永さゆり。この掃き溜めのようなタクシー営業所に舞い降りた美しい鶴。俺がひそかに思いを寄せる憧れの人。憧れと言っても年下だけどね。
「はい見ていました。斉藤さんが物言わぬロッカー相手に、激しくシャウトして、強引にファックする斉藤さんの勇士を。」
まあ、俺があこがれているのは顏とその体だけなんで、性格はこのざまだけどね。
「そうだったか、普段俺が見せない荒々しい側面を見せてしまって、驚かせしまったかな?」
「そうですね、驚きました!普段はバッタみたいにへこへこしてるくせに、相手が何もできないとデクの坊相手だと突端に強気になるんですね!私なら耐えられませんよ、男して生まれながらそのざまなんて。私なら喉を掻っ切って、こんなゴミクズに育ったことを両親に謝罪するレベルですね。」
ちくしょう。つらい。何がつらいって?言い返せないことがだよ。
「そうかい…。それで、その今夜なんだが、できれば一緒に食事でも一緒にしないか?安心して、俺が奢るからさ。」
「ごめんなさい、斉藤さん。私にも選ぶ権利が…金の匂いどころか、もやし臭い男の人を選ぶほど私相手に困っていませんし。」
「どういう意味だ、このアマ!」
俺は吉永に下着姿のまま飛び掛かる。もう我慢ならん。ここまで言われて黙ってられるか。このまま押し倒してやる。
読者の皆様、これ以降は、とてもハードなプレイが展開されるため、18歳以下の方はチューペットでもしゃぶって寝てろ、このマセガキが!
「ハッ、クズが調子こいてんじゃねえぞ。」
吉永様は私の子孫を残すための器官を右足で蹴り上げると、私に唾をおかけになりあそばせました。
…痛いより、先に吐き気を感じるってヤバくない?俺のムスコは一体どんな状態なんだ?
…怖くて確かめられない。いや、それ以上に呼吸ができない。
「あ、いけなーい。私いつまでもこんなクズにかまってる暇はないんでした。おい、ゴミ虫、お前宛に電話だ。ありがたく受け取れ。」
そう言って、吉永は俺の頭に電話を投げつけると、そのまま去っていく。
クソ、なんて仕打ちだ!こんな…こんなことで、…興奮なんかしないんだから!