プロローグ~道化師の願い~
「あれ程に人を殺した事、大量殺戮の罪許し難し事、よって、地獄で責苦を味わうがいい」
流石、神の見離した国、地獄の戦場からやって来た
「地獄の道化師」
天で裁かれる時も、神の加護は無かった
眩しい光の球体が10程浮かぶ真っ白な空間
その場所で下された審判は冷酷無慈悲だった
光の球体曰く、それら、全てが神らしい
あの、独裁者の屋敷で死んだ後
そこに辿り着いた彼に対し
白亜の空間に浮かぶ球体達は淡々と告げた
謎の発光体達に自ら神だと名乗られた道化師
(神か…いたんだぁ…)
紛争国家で産まれ、地獄の様な戦場で育った彼は、
神に対し、その程度の印象しか抱けなかった
むしろ、神という存在に対して思う事が無かった
神と名乗る球体の一存で
後に某国の救世主
「赤き涙の英雄」
と呼ばれる事になる道化師の定めは決まった
地獄行きである
(前と何がかわるだろ…?)
元々地獄と変わらぬ場所で生まれ、地獄の戦場で育ってた道化師
にとって、今更地獄に落とされても別段変わるような事は無い
そのままの自然体で神と名乗った者達の審判を受け入れたると
そのまま、あっさりと地獄に落とされたのだった
そして、今、道化師は地獄の主と呼ばれる人物の前に立っていた
「愚かな者共!自分達が救えぬ命を救った者を大量殺戮者と呼ぶか!!」
その人物は、顔を合わした時からだいぶ御立腹だった
道化師に地獄行きの烙印を押し
神と名乗った存在に対して、先程から暴言を吐いている
「魁獅・G・クラウンよ!そなたは悔しくないのか!!」
道化師を、本名で呼ぶ地獄の主
その姿を見て、魁獅は少し微笑んでいた
何処か、元の世界に置いてきてしまった兄に似た雰囲気を醸す地獄の主
圧政に憤慨し、抑圧された国の人を思い、胸を痛めた彼の兄
その姿がどことなく重なる地獄の主を、魁獅は少し好ましく思う
「俺は、自分の生きた場所、道に後悔はしていません…
だから…良かったと思う…
それに…
地獄と呼ばれた場所から本物の地獄に、来ただけでしょ?
なにも、かわりませんよ…」
そう言うと、地獄の主に魁獅は微笑んで見せた
「いかん!許さん!許されん!
それでは!私の心は満たされない!
確かに!お前は産まれてから18年の歳月で、何百の生命を奪った!
それは罪かもしれん!!
しかしだ!そのお陰で!
何千!何万の命が救われたと思っている!?
それを、あの老いぼれ共は見ようともせんのだ!
そんなもの!許せる訳がなかろうが!
この私が、天界に喧嘩を売ったの正義の為だ!
そして、堕天して!地獄に来たのも!その!正義の為だ!!
そして!お前の成した正義は評価されるべきものなのだ!
それをあの老害共は!!
許さん!!
よいか!魁獅!
天界なんぞ知ったものか!
ここは地獄!
私の支配下の地!
なら私の一存でどうにでもなる!
褒美をとらす!
天界行き以外ならなんでもいい!
願ってみよ!!
むしろ!天界がごちゃごちゃ抜かしたら!
このルシファーの名にかけて!
あの!老害共を滅してやる!」
堕天使ルシファーを名乗る地獄の主は
天界の神を罵りながら地獄の道化師と呼ばれた男に褒美を問うた
いきなりの申し出だったが、道化師は考えた
自分の願いは何なのか
ただ、兄が理想とした夢を追い
兄の夢を叶える為に駆け抜けた戦場
何かを願う事なんて無かった
ただ、生きる為に必死だった現世
欲なんてなかった、ただ兄の為だけに
兄の夢の為だけに生きた
自分が願いを持つ事などなかった…
そこまで考えて、道化師はハタときずく…
「そうか、俺の夢でもあったのか…」
戦場に、おいて、死の道化師と呼ばれた悪魔の化身
彼の願いはただ一つ
死の道化師は微笑んで
地獄の主に願いを呟いた…
「皆が、全ての民が、笑える世界を、作りたい」
そう、兄が願った世界…
それが、死の道化師の願いであり…
道化師の夢でもあったのだ
「ふむ…また、同じ事を望むとゆうのか…」
魁獅の願いを聴いた地獄の主は、不思議そうに首を傾げながらも
少し嬉しいそうに微笑んでいた
「はい」
ハッキリとした返事がルシファーに返される
「宜しい!
しかし、お主の肉体はもう死んでおる現世にもう一度戻すの無理な事…
なので、異なる世界、すなわち異世界!
そこに転生する事なら可能…
そして、よいか?魁獅、お前が願う事は…
とても難しい夢なのだ…
それも、今度は一人で行わないといけない…
それでも行くか?」
やはり、元の世界に戻る事は難しいらしい
しかし、魁獅はそれでもいいと思った
(夢の最後を見る事は叶わなかった…
兄貴と共に進む事は出来ず…
袂を分かつ事になった…
しかし、進む道も…
願う夢も一緒…
なら、それでいい)
「それでかまいません!」
ルシファーを見つめる目に迷いなど無かった
「宜しい!なら!行くがいい!
新たな世界で、新たな願いを!
新たなる夢を叶えるがいい!」
厳かにルシファーが、宣言する
これで、魁獅2度目の定めが決まる
「異世界転生」
異なる世界で、また戦いの日々が始まる
「地獄の道化師」
と呼ばれた彼が、異世界で
「英雄」
と呼ばれるまでの物語
永遠に語り継がれる英雄譚の主人公
赤き涙の英雄「赤涙の道化師」のサーガは今紡がれる