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その二

校庭でサッカー!

 四人は昨日と同じく、四階の東奥の席に着いて本を開く。

「動けないなら、瑞葉は中盤でパスを受けて、私に繋げる役割を任せるわね、守りに関しては無理しなくていいから」

「わかった」

 承芽は瑞葉にサッカーでの役割を説明する。

「結菜と生実を中心に守りを固めて、結菜は攻めも積極的に参加するのよ」

「いいわよ」

「任せといて」

 結菜と生実は自分の役割に自信を持って応える。


「さて、着替えもあるし、そろそろ行こうか」

 午後の授業の十五分前になって承芽がそう言うと、四人はいつもより早めに図書室を出て、北棟の地下にある更衣室に入る。青いジャージ姿に体育用の靴に履き替えた瑞葉達が更衣室から出ると、校舎の西に位置する校庭に向かった。

 授業が始まり、通常のサッカー場の広さを半分にして二面に分けて校舎側を女子が使う形で、既に設置されている高さ2メートルに幅2.5メートルのゴールを使っての4対4が始まる。

 承芽がじゃんけんで勝つとキックオフを取り軽くボールを蹴ると、ボールは瑞葉の足元に転がってくる。ボールの扱いにまだ慣れてない瑞葉は、遠くにいる承芽にパスを繋げる自信がなく、とりあえずドリブルをしてみる。

「瑞葉ー、こっちー」

 ゴール近くで陣取っている承芽が瑞葉にパスを促す。

「よし……」

 瑞葉は心を決めると、承芽めがけてボールを高く蹴り、ボールはゴール前の承芽の所に飛んでくる。

「よっと」

 棒立ちで待っていた承芽が頭を軽く捻ると、ボールはゴールに向かって飛んでいく。

「あぁ……」

 ゴール前を守っていた光々(みみ)は何もできずに立ち尽くす。

 ゴールネットが揺れ、承芽のヘディングシュートが決まった。

「瑞葉うまーい」

 瑞葉の後ろから結菜が声をかける。脇で観ている女子からもどよめきが起きる。

「やるじゃん!」

 後ろから見ていた生実も、承芽のヘディングシュートより、瑞葉のパスに驚く。

「いやー、まぐれまぐれ」

 瑞葉は振り替えると、照れながら苦笑いを見せる。

「その調子ー」

 承芽がゴール前から大きな声を出して自陣に戻ったところで試合が再開すると、愛々(めめ)がドリブルで承芽の前まで進んでくる。

「さすがに承芽は厳しいわね」

 ドリブルにそこそこ自信がある愛々はドリブル突破を諦め、右側いる最々(もも)に繋げる。最々は対峙する瑞葉を左右に揺さぶると、右方向へ一気に振り切ろうとするが、最々の動きに釣られない瑞葉は最々をサイドラインに追い詰める。

「瑞葉、かなりうまくなったみたいね」

「いやー、まだまだ……」

 最々は顔を上げて瑞葉に話しかけると、ドリブルでの突破をやめて愛々にパスをする。「最々ー!」

 ゴール前にいる弓々(ゆゆ)が声をあげると、愛々は強めにボールを蹴ってゴール前に走り込もうとする弓々にスルーパスを通そうとするが、生実が足を出してボールが溢れる。瑞葉が拾い、横に広がって攻撃体制に入る結菜にパスをすると、弓々はすかさず結菜に寄ってくる。結菜を孤立させないために瑞葉は縦に走ってパスを貰おうとする。

「結菜!」

 結菜は瑞葉に向かって蹴る。しかし、ボールは弓々の伸ばした足に当たってサイドラインを割る。瑞葉がボールを拾い、腹の辺りから両手でボールを押すように投げる。ボールは結菜に渡ると、承芽にパスを繋げ、ドリブルで突き進む。

「通さないわよ」

 光々が最後の砦となってかたくなに粘る。

「承芽、こっち!」

 承芽が振り向くと後ろに結菜が見える。承芽はボールを結菜に下げると、すぐにゴール前に走り込み、下がってきた最々が承芽に張り付く。結菜はそれに合わせて高く蹴りあげる。しかし、光々がパスコースを塞いだことで、ボールは承芽に合わず、最々の頭に当たって、左のゴールラインを割る。

「行くよっ」

 承芽がコーナーキックを蹴ると、ボールは瑞葉に飛んでくる。

「えっえっ!」

 慌てる瑞葉の前に愛々が頭を出してクリアーする。

 生実がクリアーボールを拾い、右サイドにいる結菜に送ると、結菜はすぐに承芽へセンタリングをしようとするが、弓々が詰め寄ってくる。しかし、結菜は蹴る直前に蹴る方向を左に変えて瑞葉に繋げる。

「承芽!」

 承芽が右から左に走り込んだ所に瑞葉がスルーパスを送る。伸ばた最々の足を通り越え、承芽がゴールに押し込んだ。

「よし、2点目!」

 承芽が声を出すと、観ている女子からも歓声が上がる。

「届いた……」

 瑞葉は自分でも驚いて、ただ目線を承芽に向ける。

「瑞葉は上達が早いね」

「そうかなー……」

 結菜の言葉に実感が湧かない瑞葉。すぐにボールがセンターラインに戻されて試合が再開すると、相手は数で攻撃に厚みを加えようと四人で速いパス回しをして攻め込んでくる。数で不利な状況にさせないために承芽も下がって守りを固める。結菜がゴール前へのパスコースを消すと、これまで守りに徹していた光々が逆サイドに展開し、そこにパスが届く。承芽が近づこうとするが、すぐにゴール前への走り込みに合わせパスを送る。パスが通ると、生実はシュートをさせないように張り付くと、弓々はヒールパスでボールを後ろに流し、それを最々がダイレクトで蹴る。

「危ない!」

 瑞葉はなんとか足を伸ばしてシュートを止める。ボールは瑞葉の足元にこぼれると、取られないようにボールを運ぼうとするが、二人に挟まれて身動きが取れない。

「瑞葉、こっち!」

 ゴール前にいる生実が声を掛けると、瑞葉は後ろにボールを蹴るが、愛々の足が届いてパスが阻まれ、愛々はこぼれ球を押し込もうとする。

「させない!」

 ゴール前にいた結菜がシュートを止める。

「結菜ー!」

 いつの間にか相手のゴール前に上がっていた承芽が声を出すと、結菜のグラウンダーのパスが通り、承芽は誰もいないゴールにサイドキックで流し込んだ。

 試合が再開されると、瑞葉達は全員で守りを固め、相手の攻撃を止め続けたところでブザーが鳴り、10分間の試合が終わって瑞葉達は決勝に進出した。

「瑞葉にやられちゃったなー、次も楽しみにしてるね」

「うん、ありがとー」

 戻り際に光々が瑞葉に話しかける。


「瑞葉のパスが上手いおかげで、シュートも簡単に決められて助かるよ」

 休憩中に入り、承芽が瑞葉に声を掛ける。

「たまたまだと思うけど……」

「そんなことないって」

 結菜が勇気づける。

「ちょっと前に比べたら格段に上手くなったよね」

 生実は瑞葉の上達の早さに感心する。

「うーん、でも、ドリブルはあまり上手くなってないかな……相手が近くにいると足元がおぼつかなくて……」

「まず、体を上手く使うんだよ。相手とボールの間に体を挟む形でいれば、特別なドリブルの技術はなくてもやっていけるって。それと、パスを貰いに動き廻って、場合によってはシュートも狙ってみてもいいのよ」

 承芽は具体的に助言をする。

「う……うん、わかった」


 準決勝と三位決定戦が終わり、瑞葉達の決定戦が始まる。承芽がまたじゃんけんでキックオフを取ると、瑞葉に向かってボールを蹴る。

「そう簡単には通させないわよ」

 梨々(なな)が承芽を通りすぎて瑞葉に近づいてくると、瑞葉は左側にいる結菜にパスをしようとするが、音々(ねね)がパスコースを塞ぎ、ボールの扱いに慣れてない瑞葉を孤立させる。

「取っちゃうよ!」

 音々が足を出すと、瑞葉は左足でボールを右に移動させて右方向にドリブルをする。

「よし、体を壁にしてと……」

 瑞葉は承芽に言われた通りに、左肩を梨々に向けて、右足でボールを運ぶ。瑞葉は顔を少し上げると、先に承芽が見え、すぐにパスを送る。

「なんとか取られずに済んだ……」

 ボールの扱いに慣れている承芽にボールが渡り、一気に右コーナーまで進む。

「どうする?」

 すぐに乃々(のの)が寄ってきて、進路を塞ぐ。

「承芽、後ろ!」

 瑞葉が承芽の後ろを回り込んで縦に走る。

「よしっ」

 瑞葉はボールを貰うと、ゴールに向かって走る結菜が見える。

「みんな、下がって!」

 ゴール前で結菜から離れられない子々(ここ)が声を出す。

「よし、ここは……」

 2対1で有利になった瑞葉はゴールに近づくと、思い切りボールを蹴り、ボールはゴール右上に突き刺さり、ネットが大きく揺れた。

「入った!」

 瑞葉は思わず声を出す。

「瑞葉、先制ゴール!」

 結菜が近づいて声をかける。

「いいねぇ、その調子」

「うんっ」

 試合が再開し、瑞葉達は四人で守りを固める。乃々が瑞葉を僅かに振り切り、ゴール前にいる梨々にセンタリングをする。梨々はセンタリングに合わせようとするが、結菜と生実が立ち塞がり、生実がヘディングでクリアーする。こぼれ球を乃々が拾うが、承芽が立ち塞がる。

「多すぎる……」

 乃々は狭いゴールの前にいる人数を分散させようと、後ろにいる子々にボールを戻してからサイドに広がると、すぐに瑞葉が子々に近づこうとする。

「瑞葉、行かなくていいよ」

「え? うん……」

 承芽が瑞葉を止める。

(こっちのパス能力を試してるな……でも、どっちにしろ狭いゴールの近くに大勢いたら、下からは通すのは厳しい……)

 子々はゴール前にいる梨々にセンタリングを試みる。しかし、上手く合わず、生実にヘディングで返される。更にこぼれ球を音々が拾い、サイドにいる乃々に送ると、音々もゴール前に近づく。

「もう一度……」

 乃々はゴール右にいる音々にセンタリングをするが、結菜にヘディングで返される。こぼれ球を瑞葉が拾い前を見ると、既に承芽がセンターラインを越えているのが見える。瑞葉は迷わず承芽に向かってグラウンダーのパスを送ると、承芽は子々が近づく前にボールをゴール強く転がせて流し込み、2点目を決めた。

 ボールが真ん中に戻され試合が再開する。またしても瑞葉達は四人で守りを固め、あらゆる攻撃を耐え続ける。終了間際に乃々が梨々センタリングを通そうとするが、結菜がヘディングで返し、ゴール右にこぼれる。それを生実が思い切り蹴り、ボールが高く上がってセンターラインを越えて何度か跳ねて転がっていったところでブザーがなった。


 全ての試合が終わり、生徒達でゴールを片付けて更衣室に向かう途中で梨々が承芽に尋ねる。

「なんで急に強くなっちゃったの?」

「別に練習とかしてたわけじゃないけど、瑞葉が真の力に目覚めたみたいね」

 更衣室に戻る一団の後方では光々が瑞葉に話しかける。

「瑞葉のパスが上手すぎるんだもん、何もできなかったわ」

「確かにちょっと上手くなったかもしれないけど、ボールの扱いが全然おぼつかなくて……」

「いやいや、一番重要なのはパスだよ、あそこまで正確に通されたらどうしようもできないからね」

「ははは……」

 瑞葉は照れると校舎の中に入っていった。

スローインは自由に投げられます。

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