その六
「あれ、誰もいない……」
いつの間にか寝ていた結菜は店の中を見渡す。
「みんな~どこ~」
外へ出てみる。
「え?」
結菜は外を見渡すと、緑だけが広がっている。
「旅というか大冒険かい……」
いても立ってもいられない結菜は歩きだす。
「まあ、この際だし、何もない晴山を散策するか」
坂を降りてまた坂を上り、町を一周して西の丘の先。
「本当に何も無いし、何も起きない。オープンワールドにも程があるでしょ……」
引き返す結菜。
「あっ、狸」
一匹の狸が木々の中から結菜を見つめる。
「この辺りは狸がいたっけ。瑞葉と承芽と生実もどこかにいるかな? そっか、さっきまで三人といたんだった。探してみよう」
来た道を戻ると、開けた空間に人影が見える。
「瑞葉、ここにいたのね」
「あっ、結菜、どこにいたの?」
「瑞葉こそ」
「私はずっとここに……」
「さっきは誰もいなかったはずだけど……」
「とりあえず、承芽と生実も探してみよう」
森を歩いていく結菜と瑞葉。
「どこにいるんだろう」
何も思い出せない瑞葉。
「山猫屋は?」
結菜は思い出す。
「山猫屋? そっか、行ってみよう」
「あれ、でも、山猫屋は無かったはず……」
森の先に山猫屋が見える。
「あれ……、さっきは無かったはず……」
瑞葉が先に入っていき、結菜も入る。左側を探してから、右側も探すが誰も見当たらない。
「どこにいると思う?」
何も思い付かない瑞葉。
「とりあえず、坂を下りてみよう」
開けた空間に人影。
「承芽だ」
瑞葉が承芽を見つけると、承芽は二人に気づいて振り返る。
「おお、瑞葉と結菜、どこにいたんだよ、生実は?」
「まだ見つかってないから探してみよう」結菜
開けた空間の北側の崖を登ると人影。
「生実だ」
瑞葉の声に気づいて生実が振り返る。
「みんな、どこいいたんだよ」
「まあ、それはあとにして、まず、この世界はどうなったんの?」承芽
「もう一度見て回ろう」結菜
やっぱり何も無い。
「はあ、疲れちゃった。帰りたいなぁ……」
途方に暮れる瑞葉。
「瑞葉の家ならあるみたいだよ」承芽
瑞葉がいた所に瑞葉の家がある。
「本当だ、なんで気づかなかったんだろう」
「よし、もう一度見て回ろう。商店街とか公園とか畑とか」
森を抜けて坂を下りると商店街が坂の上まで続いている。
「あるじゃん」承芽
「道を間違えたかな?」生実
「でも、こういう谷はこの近くには他に無いと思うけど」結菜
「どういうこと」瑞葉
「…………これは、まさか、記憶の世界!?」結菜
「なにそれ」承芽
「つまり、誰かの記憶の中に閉じ込められる現象」結菜
「四人の中の誰かの記憶ってこと?」承芽
「私ではないかな。よく思い出せないし」生実
「私もさっぱり」承芽
「私も、結菜は?」瑞葉
「振り替えってみると、まず、私が瑞葉を瑞葉の家の所で見つけて、次に承芽を晴山公園で見つけて次に生実を見つけて……」
「じゃあ、私達は結菜の記憶の世界にいるのね?」瑞葉
「どうなんだろう」結菜
「それなら、結菜が色々思い出せば世界が完成するってことなんじゃない?」生実
「それじゃあ、思い出してみて」瑞葉
思い出そうとする結菜。
少し経ち。
「なんか変わったかな……」瑞葉
「とりあえず商店街に行ってみよう」承芽
商店街。
「誰もいなかったのに、何事も無かったように人がいる」生実
「まあいいや、なんかお腹が空いたし、カップポテトでも食べたいかな」承芽
コンビニの前。
「森生夫じゃん」承芽
コンビニで芸能人を発見。
「私なんかは都会育ちですから、カップポテトなんかだけを買って軽やかに町を歩いたりするんですよ。それじゃあ、カップポテトを一つ」
「自分で撮ってるよ……」承芽
「注文はセルフ方式に変わりまして……」
「ですよね~、最近はドーナッツ屋もそれですもんね。まあ、ちょっといつもの癖でね、へへ。てか半額じゃないの」
カップポテトを手に出入口に向かって来る。
「また会いましたね」承芽
「駄菓子屋のお嬢さん達じゃないの」
「カップポテトでも買おうかなって」生実
「なんだ、私もちょうど食べたくなっちゃったんだよね」
「あっ、半額だ」瑞葉
「50円だから25円か」
ぶつ切りポテトを買って外へ。
「私は少し前まで森で狸を探してたんだけど、本当にいるんですか?」
「いますよ、ね」承芽
「うん、割りとよく見かけるけど」瑞葉
「おかしいなぁ、じゃあ、もう一度探してみます」
見送る四人。
「森の方に行ったね」瑞葉
「生配信」結菜
「とりあえず山猫屋に戻るか」承芽
山猫屋。
「いつもの猫達だ」瑞葉
「四匹供、仲良いなぁ」
「狸見つけたかな?」生実
「どこかにいると思うけど」結菜
「さて、私はですね、また晴山の森に来ております。どうにか見つけてやろうと個人的に来てるのですが、どこにいるんでしょうか」
小型のビデオカメラを付けたセルフィーを片手に狸を探し回る森生夫。
「あっ! なんかいますね、そっと近づいてみましょう」
近寄ってみる。
「なんだ猫か。しかも四匹いますよ。よしよし」
撫でてみる。
「それじゃあ、私は狸を探さなくてはならないので」
歩きだす。
「あっ! 今度こそ狸じゃないなんですか!?」
近寄ってみる。
「ついに見つけました! 狸を見つけましたよ!」




