その四
給食を終えた四人は、昼休みを図書室で過ごすことに。
昼休みはいつも図書室で過ごす瑞葉達は、中棟東階段を四階まで上がり、真ん中の廊下から図書室に向かう。
図書室に入ると、新しく発売されたばかりの本が立て掛けられていたり平積みに置かれている。台の両側から本棚が並び、途中からは奥まで向かい合わせに並び、壁際と窓際にも並ばれている。一席の広さは奥行き五十センチ、幅一メートルで仕切られているが 、一番奥の長机には仕切りがない。廊下側の本棚と席の間にはお茶とコーヒーのサーバーも用意されている。本の種類は階ごとに分けられ、一階は雑誌、二階は小説、三階は漫画、四階は西が専門書、東は美術本が並ぶ。
瑞葉は新しく発売された美術本を手に取る。
「私達も探してくるね」
承芽が言うと、三人は扉の右側にある階段を降りていく。
瑞葉は本棚を通り抜け、奥にある仕切りのない席に着くと表紙を眺める。
「あれ、なんか眠くなっちゃた……」
瑞葉は急に眠くなって体の力が抜けていく。瑞葉は本の上にうつ伏せになって目を閉じた。
五時間の授業が終わり、東門から瑞葉達が出てくる。森までの草地を歩いていると突然、学校から警報が聞こえてくる。
「緊急事態発生、ただちに避難して下さい」
「え?」
瑞葉は一体何が起こったのか分からず、ただ辺りを見回すが、瑞葉以外は落ち着いた表情でいる。すると突然、少し離れた所の地面から灰色の扉がゆっくりと現れた。扉には何人か入れる程度の奥行きがあり、その先からは斜めに下がっていく造りになっており、コンクリートで造られている。
「大丈夫、あの中から地下に行けるよ」
生実はそう言うと、歩いて扉に近づいていく。結菜と承芽も平然とした面持ちで生実の後を追うと、瑞葉も戸惑いつつ扉に向かう。
「これは?」
瑞葉が生実に尋ねる。
「大昔に作られた設備らしいよ、このパネルに触れれば開くはず」
生実が扉の左隣に設置されている小さなパネルに人差し指を触れると、鍵が解錠される音が鳴る。生実は扉の左側に付いている丸い取っ手を回転させて扉を外側に開けると、暗がりの奥にエスカレーターが見える。壁に埋め込まれた灯りが橙色に光り、エスカレーターが動き出す。
「よし、入ってみよう」
生実が中に入ると、承芽もパネルに指を触れて中に入り、結菜も指を触れてから中に入る。瑞葉もゆっくりと手を伸ばし、戸惑いながらパネルに人差し指を触れる。すると、パネルのインターフォンから女性の声が聞こえる。
「あなたは未契約者です」
「え?」
「もしかして、瑞葉……」
結菜は振り返って言う。
「なんで? まだ契約してなかったの?」
生実は不思議そうに問いかける。
「契約って……なんの?」
瑞葉は状況がまだ理解できない。
「瑞葉は知らなかったのか。とりあえず誰もが契約しておくものなんだよ。契約して月々支払うことで、こういう事態に備えた施設を利用できるんだけど……」
承芽が説明する。
四人の間に沈黙が続く。
「じゃあ、私は学校に戻ってるね」
うつむいて呟く瑞葉を三人はつらい表情で見つめる。すると沈黙を破り、結菜が扉から出てくる。
「私も残るね」
「結菜……でも……」
瑞葉の言葉をさえぎるように承芽と生実も中から出てくる。
「承芽、生実、ありがとう、でもやっぱり……」
その時、インターフォンから女性の声が聴こえる。
「国の特別措置により、未契約者も施設の利用が可能となりました。契約者がこれまで支払われた料金は全額返金いたします」
「おお、気が利く」
承芽が声を上げる。
「まったく、最初からそうすればいいのに」
生実は笑って言う。
「じゃあ、行こっか」
「うん!」
結菜が言うと、瑞葉は笑顔で答える。
四人は扉の中に入っていく。先頭の承芽はエスカレーターの前で足を止めて後ろを振り返ると、また心配そうな表紙をしている。瑞葉に言う。
「なんとかなるって」
承芽がエスカレーターに乗ると、生実、結菜と続き、最後に瑞葉が乗る。橙色に光る点線はエスカレーターの底まで続いている。
「底が見えないね、どこまで続いてるんだろう……」
瑞葉が眺めるその先に、四人は降りていった。
図書室は南棟全てなので、かなり広いです。本棚は真ん中の吹き抜けから西と東に分けられ、両側の真ん中から奥までは机が並ばれ、壁側と窓側にも席が向かって並ばれてます。席は敷居で区切られてますが、一番奥の長机だけは多目的な用途にも対応するために敷居はありません。
吹き抜けには階段とエレベーターがあり、地下から屋上を行き来できます。
本は各階で種類ごとに分けられています。
四階 西 専門書 美術本 東
三階 西 漫画 漫画 東
二階 西 小説 小説 東
一階 西 雑誌 雑誌 東
地下 全て席
土日祝日は一般にも開放されます。