その三
美術の課題で屋上に行くことにした四人。
「みんなは何描いてるの?」
何を描けばいいのか決まってない承芽。
「私は『学校と泉』と題して、学校から見える晴沢の泉を描いてるけど」
瑞葉が描きながら答える。
「なるほど、結菜は?」
「私はほとんど空ね、下に出入口が少し見えるだけ。私も瑞葉に習って、題名は『学校と空』にしようかな」
「ふーん、生実は?」
「学校から見える晴山を描いてるから、題名は『学校と山』だね」
「じゃあ、私は森と学校に……ちょっと見えづらいかな、私はあっちで描くね」
承芽は席を離れ、渡り廊下側に並ぶテーブルに移動した。
しばらくして、下書きを終えた承芽が戻ってくる。
「あとは自分の感性に任せるとしよう」
そう言って長椅子に座る。
四人は黙々と筆を動かし、鐘が鳴っても作業を続ける。
「私達以外、誰も来ないねぇ」
結菜が呟く。
「屋上に来ても何もないからね」
生実が反応する。
無言で作業を続けていると、承芽は何となく空を見上げる。すると承芽は、いくつもの白い物体に気づく。
「何あれ、雲ではないような……」
晴山の東の方角を見上げる承芽の目線の先に三人も目線を移す。
「ああ、新しく発売した卵型飛行機ね。あれは園児用の小さい型。うちの会社の印が見えるでしょ?」
生実は『ひ』の字の欠けた所を上に向け、左右対称にした丸い形の金色の紋章を指摘する。
「こっちに近づいてくるよ」
音もなく近づいてくる飛行機に瑞葉が手を振ると三人も手を振り、園児達も手を振って答える。園児の操る十六機の飛行機は校舎の上空を通りすぎると、方向を変えて晴山の東方向へ戻っていった。
「できた」
二時間目の半ばで瑞葉が言う。少し経ち、結菜、生実、承芽と完成させていく。
「じゃあ、少し早いけど戻ろっか」
承芽が席を立って言うと、四人は屋上を後にする。
四人が美術室へ戻ると、他の生徒はまだ帰っておらず、深沢先生が教卓で絵を描いている。
「先生、何描いてるの?」
瑞葉が話しかける。
「なんだろう、何も考えずに描いたから。多分、さくら草かな」
「さくら草かぁ」
瑞葉は桜なのに赤い野であることを不思議に感じる。
「瑞葉は芸術祭りに出展する絵は順調?」
「うん、ほとんど完成したよ」
「早いねぇ、まだ時間はあるんだから急がなくていいからね」
「うん、急いでは描いてないよ」
四時間目の国語が終わる。四人は西側から中棟に移動し階段を下りて食堂に入り列に並ぶ。中棟の一階と地下は全て食堂となっている。木製のおぼんに一皿ずつ順に取っていく。
「ほう、今日はブリのみりん漬けか」
承芽は皿を盆に載せる。全ての皿を載せると、教室と同じ並びで四人掛けの四角いテーブルに向かい合って座る。
「花かぁ、光り石の力を与えれば、すぐに散ってしまう桜の花は咲きつづけることができるだろうか」
承芽はそう言うと、牛乳パックにストローを刺す。
「どうかなぁ、咲いてる期間を伸ばしたり、雨風や病気に強くすることはできるかもしれないけど」
生実は答えと、味噌汁の若芽を摘まむ。
「一応訊くけど、乗り物に意思を持たせて話すことは?」
「いやもう、世界が違いすぎるでしょ」
生実は承芽の質問に全て答えて、やっと若芽を食べられた。
「私は、夢の世界が本当にあるような気がしたりするの」
瑞葉は少し真面目な表情で言う。
「確かに、夢は他人の夢と繋がっているともいわれてるわね」
結菜は古い言い伝えを例に挙げる。
四人は給食を食べ終えると、移動シンクの槽の中に皿を重ねる。
「それじゃあ、図書室行こう」
四人は東側の階段から四階に向かう。
食堂
中棟の一階と地下は全て食堂。調理室は西側にある。