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その二

登校。

 森を西に二五十百メートルほど進んで森を出ると、草地を五十メートルほど挟んだ先に、生実の祖父が田の字に設計した四階建ての校舎が見える。

 誰も見当たらない校内に入り、南棟の端にある北向きの扉から入る。二階に上がって中棟を通り過ぎ、教室がある北棟に入る。一年三組の教室に着くと、瑞葉が後ろ扉を開ける。壁に設置された端末に人差し指を触れて出席を取る。四人には早く登校する日がよくあった。

 入学したばかりの頃、席は自由に決めることになり、承芽が遠慮なしにいち速く窓際の一番後ろに四角く陣取る形で、深緑のボードに四人の名前を書いた席に向かう。窓際の一番後ろの席に瑞葉、隣に結菜が座り、瑞葉の前の席の承芽と隣の生実は椅子を後ろに向けて座る。

「それにしても、国からの支給金を有効活用するには、やっぱり趣味に使うのが一番だよねぇ」

 承芽が話題を振る。

「趣味を仕事にしたい人が楽しく生きられる世の中が理想的だもんね。儲けを気にする必要もないし」

 生実も主張する。

「働いていない子供にとっても助かるよね」

 結菜も同意する。

「そうそう」

 共感する瑞葉。


 天原の人々は国からの十分な支給を得て生活をしている。店や会社を開くための資金は全額が支援され、競争より共存が尊重される。スポーツなどは厳しい競争があるが、下位リーグが充実しているため、十分な技術があればプロ選手になれる可能性が高い。


「そういえば、瑞葉の両親はまた幽霊大陸探しに行ったんでしょ?」

 承芽が話題を変える。

「うん、四月三十日に」

「響人さんと鈴葉さん、すごく仲いいよね」

 結菜は二人の間柄を微笑ましく思う。

「まぁ、小学生からの同級生だし」

「最近は長期間になる人も多いからね。噂によると、飛行機からは見つけられないらしから、船から探さなければならないからね」

 承芽は最近の探索事情を言う。

「蜃気楼大陸とも呼ばれる由縁だね」

 生実は謎の大陸に対するもう一つの呼び名を言う。

「探索というより、旅行に近いかな。探索してる人達に会ったり、新原に行ったりするみたいだし」

「海に浮かぶ街、新原かぁ。生実の飛行機で行ってみようよ」

 承芽は目を輝かせて生実に頼み込む。

「今造ってる飛行機があるから、完成したらね。古い話だから、全て作り話だったのではとも言われてるし、本気で探してる人はあまりいないんじゃないかな?」

 生実は、飽くまで陸地探しはお遊びという観点も否めない事を主張する。

「でも、陸地の発見は夢じゃないと思うなぁ。天原には猫神様がいるんだし」

 神話を根拠にする瑞葉。


 七五年前に一隻の小型船が、天原の南西で幅一キロの陸地を見つける。テレビなどで大々的に取り上げられ、国の会見での「新しい陸地がありました」の一言で、大勢の人々が訪れたが、一週間後に、誰も見ぬうちに消えてしまう。オカルト学者はこの現象を神話と結び付け、企業や個人による陸地探しが流行りだし、新しい陸地への夢を実現させようと、海に浮かぶ街も建造された。瑞葉の両親も、そんな夢を抱き続ける二人で、これまでも何度か海に旅立ってる。


 教室に少しずつ生徒が増え始め、朝の会が始まる。

「それじゃあ、一、二時間目は美術だから遅れないようにね」

 担任であり、美術教師の深沢彩子先生は、最後にそう言うと教室から出ていく。

「それじゃあ、行くとするか」

 承芽が言うと、四人はすぐに美術室へ向かう。

 四人は東側の階段を四階まで上がって中棟に渡り、東端にある第二美術室の後ろから入ると、四人は教室と同じように、窓際の後ろを四角く陣取る。

 鐘が鳴り、深沢先生が準備室から出てくる。

「今日は校内を自由に移動して構わないので、学校を題材にして絵を描いてください」

 生徒達は、準備室の棚に並べてある自分の画材を取り出すと、教室から散らばっていく。

「どこに行こっか?」

 承芽が尋ねる。

「屋上は?」

 瑞葉が提案する。

「いいねぇ、行こう」

 承芽が言うと、四人は南棟に移動して屋上に上がっていった。

 瑞葉が屋上の扉を開けると、雲一つない青空の下に穏やかな風が吹き、肩まである瑞葉の髪がなびく。

 屋上には、向かい合って座る四人掛けの木造テーブルと背もたれ付きの長椅子が、南棟中央階段を挟んで奥まで並ばれている。東側の真ん中の席に着くと、教室と同じ位置に座る。

「あと、水ね」

 瑞葉が言うと、四人は白い筆洗器を持って中央の階段脇にある流し台に水を汲みに行き、戻るとスケッチブックを開く。

「そういえば、何もない……」

 瑞葉は描き始めようとしたが、何を描けば良いのか迷う。

「学校からの風景ということでいいんじゃない?」

「そっか」

 結菜の言葉で考えがまとまった瑞葉は、テーブルより少し高い手すりの向こうに見える泉を眺め、五色の絵の具を使って色を作り始める。

「猫神様はなんで神様なのかな……」

 瑞葉は筆を動かしながら言う。

「一説によると、より大きく関わった人があっちの世界に逝くと、一緒にいなくなってしまうとか」

 結菜が描きながら言う。

「神隠しってやつか」

 承芽が反応する。

「神隠しはともかく、確かに生きてるところしか見ないよね。生活を支える光石には無限の力があると言われてるけど、動物の体内にもあるとかないとか」

 様々な製品に使われる光石に詳しい生実が説明する。

「永久機関ってやつだね」

 承芽は生実の説明に付け足す。

「猫神様が願ったんだよ」

 瑞葉は自分なりに答えを導きだす。

光石/ひかりいし

透明な鉱石。無限の力を作り出すといわる。天原に住む人々の生活を支える。


晴山中学校の校舎

生実の祖父が設計。田の字の形をしている。北棟、中棟、南棟と分かれる。北棟は主に普通教室、中棟は特別教室、南棟は全て図書室で放課後と休日は、夜まで一般にも開放される。棟の幅は長さと幅を統一させようとしたため、普通教室がある北棟の廊下は教室一室分、棟を繋ぐ渡り廊下は教室二室分と広い。


藺山響人、藺山鈴葉/瑞葉の親。


深沢彩子先生

瑞葉達の担任教師。美術教師。

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