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その六

ボードゲームを終えて、四人は気晴らしに外へ出る。

 ボードゲームを終えた四人は、庭の物置からソリを一人ずつ取り出して庭先から出ると、公園の東側の斜面を登っていくと、左から瑞葉、結菜、生実、承芽と並ぶ。

「準備はいい?」

 承芽が呼び掛ける。

「いつでもいいよ」

 瑞葉は脚を前に曲げて出してソリに座って体制を整える。

「じゃあ、二本先取ね」

 前屈みの姿勢で足を地面に着けて生実が言う。

「よし、せーのっ!」

 承芽の掛け声で、一斉に四つのソリが9メートルの高さから滑っていくと、承芽と生実はソリに飛び込んで乗り込み、勢いをつけて滑り出すと、生実が頭ひとつ飛び出し、承芽がすぐ後ろに付いていく。瑞葉と結菜は遅れて飛び出し、楽しそうに声をあげながら、上手く滑ることに努める。

「また生実に負けたー、じゃあもう一本」

 承芽がそう言って四人が上に戻ると、二本目を始める前に承芽が言う。

「瑞葉と結菜も、ただ滑るんじゃなくて、私達みたいに勢いを付けて滑ってよ」

「えー、普通に滑るだけでやっとだけど……」

 躊躇する瑞葉。

「分かったわ」

「えー、結菜、一緒に滑ろうよー」

「大丈夫。怖がらないで思いっきりやれば瑞葉にもやれるわ」

「うん、分かった、やってみる」

 瑞葉は決心を決める。

「たかがソリ滑りと侮っちゃだめよ」

 承芽は真面目な表情でソリに向き合う。

「じゃあ、二本目いくよ、せーのっ!」

 承芽が気づいた頃には、視界に瑞葉の背中が見えるのが分かった。一瞬遅れた承芽のソリは、生実に続いて三着で斜面を降りて止まった。承芽は、30メートル先の一車線を挟んで広がる草地の先の木々を見つめる。

「…………侮ってたのは私ね、三本目いくよ!」

 承芽はそう言って素早く立ち上がり、地面を踏み締めて登っていく。

「すごーい瑞葉、あっという間に先に行っちゃうんだもん」

 四着で下りた結菜が隣の瑞葉に声をかける。

「先に動いちゃたのかと思ったけど、私が一番なの?」

「問題ないわよ、瑞葉が速かっただけ」

 結菜の隣の生実が言う。

「何やってんの、上がってきて」

 上から承芽が呼び掛けると、下の三人も上がってくる。

「いくよ、せーのっ!」

 三本目は承芽が速く飛び出し、一着に承芽、二着に生実、三着に結菜、少し戸惑いが残る瑞葉が四着と続いた。

「瑞葉、さっきの勢いはどうしたの? 四本目いくよ」

 承芽はそう言って登っていく。

「瑞葉、考えなくていいのよ、直感でいくの」

「直感かぁ、よし、やってみる」

 四人が一列に並び、承芽が合図する。

「せーのっ!」

 一斉に走り出すと、瑞葉と承芽が少し飛び出る。その後に僅かな差で生実、結菜と続き、瑞葉と承芽が同時に降りた。

「ありがとう瑞葉、今まで以上にソリと向き合うことができたわ」

「私こそ、ソリの奥深さが分かって楽しかったよ」

 二人はお互いに健闘を称える。

「みんなー」

 上から声が聞こえる。

「あ、お母さん」

「相菜さん、こんにちはー」

 瑞葉が挨拶する。

 結菜の母親の相菜に気づくと、四人は上に登っていく。

「新しいコーヒーがあるんだけど、みんなもどう?」

「おお、ぜひぜひ」

 承芽が反応する。四人は家に戻っていった。


 相菜は休憩に四人を誘うと、盆を持って台所から居間に入ってくる。大きめのフィルターに五人分の豆を容器に入れて、ハンドドリップで細い注ぎ口からお湯を注いでいく。

「炭焼かぁ。まずはそのままだね」

 承芽に勧められて、四人は砂糖を入れずに飲む。

「あれ? 紅茶の味がする」

 意外な味に瑞葉が声をもらすと、次に砂糖を入れて飲んでみる。

「やっぱり紅茶の味がする。これなら牛乳なしでも全部飲めそう」

 瑞葉は小さな容器からミルクを入れる。

「うーん、まさかミルクか砂糖だけかで迷うとは……」

 瑞葉はミルクを入れて飲んでみたが、答えが決まらない。


「そういえば、今日は夜7時から光の星使いが放送するわね」

 結菜が話題を振る。

「もちろん、毎週見てるよ。私は蠍座だから、蠍座の針尾咲子の出番が楽しみすぎるんだよねー」

 瑞葉が反応する。

「そうそう、だから私は獅子座の平野百子を特に応援しちゃうなぁ」

 承芽が同じ意見を言う。

「だよね、私は天秤座だから、重盛心羽(ここは)

 生実も同じ星座に惹かれる。

「私は乙女座だから月野愛生(まな)がお気に入りね。みんなはカード集めてる?」

 結菜も同じ星座に興味を示す。

「集めてるよ、もう少しで全て揃うんたとけど……」

 瑞葉も集めている光の星使いのトレーディングカードは第一弾が発売されたばかり。

「私は全て集めたよ」

「どれどれ見せて」

 四人は結菜の部屋に戻る。

「おお、二十五枚揃ってる!」


「ところで、明日は星物語十一の発売日だけど、今、一作目のリメイクをやり直してるの」

「よし、四人でやろう」

 承芽はそう言ってコントローラーを四つ準備する。

「ほう、ここかぁ」


 進めていくと、天の民である主人公の光人(みひと)によく似た魔の民が現れる。

「お前は……」

「さあ、構えろ」

 光人はが願うと、首に掛けた透明な石が光り、光の刀が出現する。

「フッ、ではこちらも」

 魔の民は右手に刀の様に帯びた黒い物体を出現させると、一気に詰め寄って刀を振り下ろす。光人は刀で振り払うが、魔の民は目が追い付けない速さで何度も切りつける。

「しまった!」

 魔の民の連撃に耐えかねて、刀が手から離れて飛ばされてしまった。魔の民は間髪入れずに詰め寄り、光人の心臓に刀を突き刺す。光人は意識が遠退いていった。

 三人の仲間が悲しんでいると、光人は目を開ける。

「俺は……確か……」

「えっ?」

 座り込んで下を向いていた女忍者は顔を上げて光人の顔を見つめる。その側で魔の民が言う。

「光の命と闇の命がぶつかり合うと聖の命が生まれ、星の命となる。命が奪われた場合は、奪った者の命が分け与えられる。聖の力によって痛みはない」

「確かに、意識はなくなったけど、痛みはなかった……」

「これからは、魔の民として生きてゆくがいい」

「俺が、魔の民……」

「魔の民なら魔法も使うようになれるが……」

「魔法!?」

 魔法に憧れて魔法使いの格好をした武闘派の女が反応する。

「つまり……」

「天の民に相対する者として、我ら魔の民と共に戦うのだ」

「そんな……」

「嫌と言うなら、光の命を取り戻す方法もあるが」

「お祓いね」

 薬使いの女が言う。

「そうだ」

「待って、魔法が使えるんだよ! もったいないじゃん」

 魔法使いの格好をした武闘家の女は目を輝かせる。

「でもやっぱり、天の民に戻りたい……」

「私も天の民が操る製法という技術に興味がある。製法を我ら天の民に教えるのなら、代わりに魔法の使い方を教えよう」

 魔の民は刀を一瞥してから言う。

「魔法!?」

 四人は声を揃えて驚く。

「魔の民だけが編み出せるといわれる、あの魔法を天の民も扱えるってこと?」

 薬使いの女が尋ねる。

「我ら魔の民なら自らの力で魔法を扱える様になれるが、天の民にはもちろん不可能。だが、魔法の力を芽生えさせるきっかけを与えれば可能かもしれぬ。直接魔力を体内に送り込む方法もあるが、一人一人に時間を掛ける暇など私にはない。そこで……」

「魔法の薬を作ればいいんだね」

「そうだ」

 薬使いが答える。

「なるほど、これは新しい商売になるかもしれないよ! よし、とりあえず街に戻ろう!」

 魔法使いの格好をした女が言うと、一向は故郷の街に向かいだした。

「ところで、聖の樹という大樹を知っているか?」

 闇の民が尋ねる。

「聖の樹?」

 光人が反応する。

「この世を支える樹のことだ。この樹に聖の命が送られることでこの星は在りつづけられる」

「それがどうかしたの?」

 魔法使いの格好をした女が尋ねる。

「お前達はなぜ旅をしている」

「なぜって、世界を見てこいって……」

 光人は任せられた使命を思い返す。

「気づかぬのか、この星に起こっている異変に」

「異変って、いったい……」

 光人は実感が沸かず、疑問を感じる。

「聖の樹に行けば分かるさ」

 魔の民はそれ以上を語らずに先を歩く。

「そういえば、また天の刀の形が変わってたよね」

 忍の女が光人に尋ねる。

「そうだったっけ?」

 光人はよく思い出せない。

「最初はただの棒だったもんね」

 魔法使いの女が旅立った頃を思い出す。

「その天の刀という木刀は、聖の樹から作られた刀だろう。天の民にしか扱うことはできないはずだ」

 魔の民が前を向きながら後ろに話しかける。

「そうなのか。それならちょっと持ってみてよ」

 魔の民が歩みを止めて振り替えると、光人は逆手に持った光の刀を投げ、魔の民は右手に光の刀を横にした状態で柄を握り締める。その先に、魔の民の鋭い眼差しが光人を見据える。魔の民に握られた光の刀は光を放ちながら消えてしまった。

「なるほどね」

 天の刀が消えて光人は納得する。一行はまた歩き始めた。

「そういえば、来る途中で狂暴な犬みたいな獣に襲われたんだけど、あれは魔の民と関係があるのか?」

 魔の民は振り返らずに話し始めた。

「その昔、天の神々と魔の神々との戦いで、魔の神々が作り出した人形の生き残りだろう。感情などなく、今でも使命を果たそうと生き続けている。そもそも動物は、全て魔の神々が作り出した生き物。やがて神々の戦いが終わり、動物の多くは使命を忘れると、天の民にも飼われ始めた」


「さて、どうする? 神社に行って光の命を取り戻すか、代わりに与えられた闇の命で進めるか」

 承芽が結菜に問いただす。

「このまま闇の命で進めて魔法に目覚めるの良いかな」

「それはそうと、光の星使いが始まるよ」

 瑞葉に言われ、結菜は時間が夜七時になろうとしていることに気づくと画面を切り替える。毎週視てるアニメが始まり話が進んでいくと、十二人いる星使いから選ばれた四人が敵の前に現れる。

「おっ、蠍座きたー!」

 瑞葉は自分と同じ星座の少女が選ばれて声を上げる。

「私の乙女座も!」

 結菜も同じ星座に喜ぶ。

「私の天秤座もだ!」

 生実の天秤座も選ばれる。

「獅子座じゃん!」

 承芽の獅子座も選ばれて四人の星座が揃う。

「私達にとっては特別に凄い回になったね」

 瑞葉は嬉しそうに言う。

 最後は四人の力を合わせ、操っていた闇の星使いを体から遠くの空に吹き飛ばした。


「今日はコーヒーありがとうございました」

 玄関先で瑞葉が言う。

「瑞葉、忘れ物、優勝トロフィー」

「これは、さっきの……」

「選ばれし商人の瑞葉にあげるわ」

「でも、一個しか……」

「大丈夫、別売が用意してるから」

「そっかぁ、じゃあ、記念に貰っておくね」

「それじゃあ、明日はアマネシホシの発売日だから、十時前に私の店に来てね」

「そっか、分かったわ」

「それじゃあ、明日ね」

 生実はそう言って扉を開ける。

「また明日ね」

 瑞葉は最後の言葉を交わす。

「うん、明日」


 三人家から出ると、隣に住んでいる承芽が別れ際に言う。

「じゃあ、十時前に来てね」

「うん、買いに行くね」

 瑞葉はそう言って西に歩きだす。

「それじゃ、明日」

 生実も最後の言葉を交わし、承芽と生実は商店街の西へ歩いていく。

「十時前ギリギリでも買えるかなぁ。でも、発売日は早めに行くものだよね」

 瑞葉は売り切れ以外の事も気にかける。

「多分、大丈夫だろうけど、確かにそれだと物足りないかもね」

 二人は坂を登って森沿いを北に進む。

「それじゃ瑞葉、明日の十時前に」

「うん、とりあえず早めね」

 瑞葉は家に着き、自分の部屋に入ると、結菜から貰った結晶のトロフィーを棚に飾った。

天の民は武器などを作る『製法』が得意で、魔の民は『魔法』が得意。

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