00. 起床と茫然
まどろみの中、自分の体の感覚が戻ってくる。
頬が冷たい何かに接している。左手にはひんやりとした平らな感触。右手は何かを握りしめている。膝が熱と共に痛みを感じている。どこかにぶつけたのだろうか。
頭が痛い。全身が起き上がることを拒否している。まだ寝ていたい。しかし、頭の中では分かっている。ここは寝る場所ではないと。頬が、左手が、膝が、体がそう言っている。
辛うじて目を開けると、真っ白な床が目の前にあった。予想に反した視野情報に驚き、反射的に腕に力を入れ、半身を起こす。
床にうつ伏せに倒れていた。いや、床で寝ていたのだ。慌てて立ち上がり周囲を見渡すと、ここが自分の家では無いことが分かった。ひとまず、屋内にいるようだ。床は黒ずんだ白色のタイルで埋め尽くされている。その黒ずみは汚れというよりも、使い古されたことで着いた色に近い。幸い、タイルは白色灯に照らされ、幾分か清潔感を醸し出していた。正面の壁には、視界に収まり切らないほど大きく、横長のポスターが貼られている。ポスターには整った顔立ちの女性の顔が描かれている。化粧によって目元や顔立ちが強調された顔に満面の笑みを浮かべており、横には『買わないの?』と書いてある。ここまで大きく顔が印刷されると不気味さが際立つが、ついつい見てしまうというのは事実だろう。印象にも強く残る。
すぐ横を人が通り過ぎた。茫然とその人を目で追った。その人は機械の間を通り抜け、視界から消えて行った。そして、正面に見えるその機械が自動改札機であることを理解した。
ここは駅だ。
ここはどこだ?
どこの、駅なんだ。