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人形技師ウィル・フォーメン  作者: 敦賀正史
第1集 献身慈悲のナインペイン
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第7章 連続殺人事件


                ─1─


 よくわからないまま、私とフィーヴィーは警察署まで連れて来られた。

「昨日の夜は一体何をしていたんだ?一昨日の夜は?」

「昨日も一昨日も夜はライフィールドさんの屋敷にいました」

 さっきから、このやり取りの繰り返しだ。

 こんな感じでどれくらいの時間が経過したかはわからない。

 けれど、やっとの事で助けが来てくれた。

「(ドンっ♪)これはいったい、どういう事なのですか!?うちのお客様に対して、いったい何をなさっているのですか!?」


 リバス嬢とニーメンだった。

「これはこれは、ライフィールド家のご令嬢。申し訳ないですが今は…」

「申し訳がないのは、うちのお客様に対してです!いきなり、こんなところに閉じ込めて、今すぐ解放してください!」

「そ、そういうわけには……あっ、署長」

「ご令嬢、話なら私が聞きますから、ここは一旦…」

「ウィルさん達を解放してくださるまで、この場を離れるわけにはいきません!」

「行ってこいよ。この場は俺が見張っておくから、署長と話をつけてきてくれ」

「に、ニーメンがそういうなら…」

 いきなり扉を開けて現れたリバス嬢は、ここの署長と思われる人物に連れられて、一旦はここを離れた。

 そして、後に残ったニーメンは事情を説明してくれた。

「なんか、変な事というか…まずい事になったぞ、ウィル」

「おい、容疑者との会話は…」

「どうせ、すぐにリバスさんが署長と話をつけて釈放になりますよ。それに、あなたたちだって多少強引な事をやって後ろめたいでしょうし、この場は大目に見てくれませんか?」

「うっ……まあ、いいだろう」

「それでな、ウィル。実はライフィールドの爺さんが死んだ次の日から、毎日誰かしら年寄りが死んでいてな、お前が殺しまわっているんじゃないかと疑われているんだ」

「ちょ、ちょっと、どういう事ですか!?私は人なんか殺していません」

「そうですよ。ご主人様は人なんて殺していません。私がずっと側にいたからわかります」

「まあ、落ち着け。普通、朝起きたら年寄りが死んでいただけじゃあ殺された痕でも無い限り老衰だと思うのが普通だ。ライフィールドの爺さんもそうだった。でもな、こうも毎日連続して死んでいる上に、場所が屋敷の周辺となると殺人を疑う奴も出てきてな」

「それで、私が疑われていると?」

「まあ、そういう事だ。正確には、その期間内に滞在している余所者がお前しかいなかっただけなんだが」

「そんな理由でご主人様を疑うなんて酷いです!こんな場所からはさっさと抜け出して、街から逃げましょうご主人様」

「だから今リバスさんが署長に抗議しているんだ。落ち着けよ、フレイムヴィレッジ」

「そもそも、殺人と決まったわけじゃあ?」

「それがな、死体を調べたんだよ。そうしたら、どうだ。死体に小さいながら殺しの痕があったんだ。今さっき埋めたばかりのライフィールドの爺さんの遺体にも同じ痕があったんだ」

「そんな、ライフィールドさんが殺されていたなんて…」

「俺もショックだよ。勿論リバスさんもだが、今はそれよりも無実の客人が殺人鬼として疑われている方がショックなようでな、こうして助けに来たわけさ」


 なんて事だ。

 突然、殺人犯だと疑われてしまうなんて。

 しかも身に覚えもないどころか、単なる言いがかりなんて…あんまりじゃないか。

「ニーメンさんは私の事は疑っていないのですか?」

「疑う理由がないしな。ウィル、お前がライフィールドの爺さんだけならまだしも、年寄りを無差別に殺しまわる変態の様には見えない」

「ライフィールドさんの事は疑っているんですか…」

「疑っているというより、あの爺さんがウィルに殺されても仕方ない事をやったと思うだけだ。だがな、動機はあってもお前が人殺しなんてやるような馬鹿には見えないけどな」

 ニーメンには、私が人殺しなんかやっていないって信じてもらえていそうだ。

 こんな時だから、味方が一人でも多くいるのは頼もしい。

「(ドンっ♪)署長と話はつけました。ウィルさん、屋敷に戻りましょう。ニーメンも一緒に来て」


                ─2─


 警察署は出られたけど…

 まさか、あの屋敷にもう一泊する事になるとは…

 しかも、警官を数人引き連れて…

「あなたたちだって、ウィルさんが目の前にいる状態で事件が起きれば、嫌でもウィルさんが犯人じゃないってわかるでしょう?」


 どうやら、私を今夜一晩中見張らせて、翌日また誰かが殺されていたならば犯人じゃないというわけか。

 あの警察署に一晩お世話になるよりかは遥かにましか。

 リバス嬢の計らいには感謝しないとなあ。

「ごめんなさい、ウィルさん。こんな事しかできなくて。不謹慎ではありますけれど、今夜も殺人が行われる事を祈るしかありません」

「いえ、あまりお気になさらず。リバスさんだってお祖父さんの事がありますし、本当は一日も早く犯人が捕まって欲しいはずなのに…」

「全くです。本当は警察の方がちゃんと見回りをして、今夜にでも真犯人を捕まえて欲しいんですけどね」

「わ、我々だって頑張っているんだ。本当なら、こんなところにも人員を割きたくないのに」

「嫌味の一つも言いたくなるのはわかるけど、そんなに警察の連中もいじめてやるなよ。下の人間は上からの命令で動いているだけなんだから」


 結局、私たちは警官二人と屋敷の応接間で一晩過ごす事になりそうだ。

 他に二人の警官が屋敷の外から見張っていて、余程疑われているみたいだった。

「ところで、リバスさんのご両親は?」

「お父様とお母様なら葬儀の後、すぐに帰られてしまいました。あまり長い間、現地を開けておくわけにもいかないらしく、うちに戻ってからも葬儀の準備以外では仕事を片付けていたぐらいですし。ですからお祖父様の事もまだ連絡できずです」

「そうですか。心中お察しします」

「それよりも、ウィルさんのお父様とお祖母様が心配していましたよ」

「父や祖母は、私が捕まった事を知っているのですか?」

「ええ。ウィルさんがいなくなって探していたところを私が見つけまして、一緒になって探していたところで、警察の方が祖父の棺を開けたいと訪ねて来ましたので」

「それで、今は…?」

「私が必ず連れ出すと説得して一度帰ってもらいました。ウィルさんのお父様がお祖母様の体調を気遣ってもいましたし」

「そうですか。それならよかった」

 祖母ももう歳だから、できる事ならあまり長い時間外出するのは疲れるだろうし。

 私を待っていて体調を崩すなんて事があったら嫌だから、帰ってくれてよかった。


「(コンコンコン♪)……皆様、お茶と軽いお食事をお持ちしました」

 ナインペインが、応接間にいる全員にお茶とサンドイッチを出してくれた。

 長い時間捕まっていて何も食べていなかったので、これはありがたい。

 リバス嬢やニーメンもお腹が空いていたのかサンドイッチを結構食べている。

 もしかしたら、私を警察署から出す為に色々手を尽くしていて、その間何も食べられなかったのかもしれない。

 そう思うと何だか申し訳なくなってくる。

 一方の警官二人は、お茶は飲んでいるものの眠くならない様になのか、サンドイッチには手をつけていなかった。

「こうして、ニーメンとウィルさんの三人でサンドイッチを食べていると、フィーヴィーを見つけた日の事を思い出します」

 そう言えば、あの時も三人でサンドイッチを食べていたんだったか。

「あの時、ウィルがいきなり駆け出して地面を掘り始めた時はマジでビビったぜ」

「実はあの時、フィーヴィーの声が聞こえて…それで、言われるがままに向かっていったのですが、お二人には聞こえていなかったみたいで」

「そうだったのか。だったら、もっと早く言ってくれよ」

「ウィルさんにしか聞こえない声…不思議な事もあるんですね」

「はい。あの時、リビングドールの魔力の痕跡のある人形技師の気配を感じ取りましたので、そこに向けて呼びかけてしまい…それが、ご主人様でした」

 今にして思えば、魔法の力で動いているリビングドールなら、周りの存在を感知する魔法や特定の相手にだけ声を届ける魔法も使えるだろうし、納得がいく。

 リビングドールの魔力というのも、前の日にナインペインの核心に触れていた影響だろうなあ。


「でも、あの時ウィルさんに声が届いてよかった。でないと、フィーヴィーは今でも瓦礫の下だったでしょうし」

「私、五十年もの間、あの場所で時が止まっていた様な感じでした。ですから、十日と少しという短い時間ではありますけれど、ご主人様やリバス様、ニーメン様と出会って過ごした時間は凄く大切なんです」

「そっか、フィーヴィーは今の時間が大事なんだね」

「そうですご主人様。だから、こんなところで捕まるなんて終わり方は嫌です」

 私もこんな終わり方は嫌だ。

 フィーヴィーの為にも、何とかしてこの状況を打開しなきゃいけないけれど…

 今は、待つしかできない…のか。


                ─3─


 夜更けも過ぎて、だんだん眠くなってきた。

 私が何かしないか見張っているのは警官だから、いっそ眠ってしまってもいいんだけど…

 あいも変わらず起きて警戒している彼らが気になってしまって、寝る気になれない。

 ふと見ると、リバス嬢とニーメンが仲良くソファーに持たれて眠っている。

 警官の一人が「全くいい気なもんだよ」と愚痴っているけど…

 あんたらの自業自得でこっちは悪くないよと言ってやりたかった。

「お二人共、寝てしまいましたね」

「そうだねフィーヴィー」 

「ご主人様もお休みになられますか?私が膝枕しますので、大丈夫ですよ」

「えっ、流石に誰かに見られながらは恥ずかしいよお」

 部屋にいる警官二人が、こっちを怪訝な目で見てくるのが痛い…

 そんな時だった。


「(ドタドタドタドタ♪)おい!ウィル・フォーメンの奴が屋敷から出ていったぞ。今、相棒が追いかけている。やっぱりあいつが黒だったんだ、ざまあみろってんだ」

 外で見張っていた警官の一人が、いきなり入ってくるなりそう言った。

 私とフィーヴィー、そして部屋にいた警官二人は互いに顔を見合わせ、そして呆れてしまった。

 何を言っているんだ、こいつは?

 今の騒ぎで、リバス嬢とニーメンも目を覚ました。

「ちょっと、何の騒ぎ!?」

「しまった、眠っちまった。ウィルの奴も…目の前にいるし何事もない…よなあ?」

「あっ、ええっ!?ウィル・フォーメンが何でここに!?屋敷から隙を見て出て行ったんじゃあ?」

 さっきの警官が私の姿を見るなり慌てふためいている。

 鬼の首を取ったかの様に騒いでいた自信は何処に行ったんだか。

「残念ながら、俺たちが見張っていたけどずっとここにいたぞ。何かと見間違えたんじゃないのか?」

「たっ、確かに人影だけで姿を見たわけじゃなかったけどさあ」

「猫でも見間違えたんじゃないのか?相棒も間違いに気づいて戻っているだろうから、お前も持ち場に戻れよ」

「いや、あれは確かに人影だった。猫なんかじゃないし、ここには全員いるとなると…いったい誰が出て行ったんだ?」

 こいつ、この場に及んで間違いを認めるどころか、何適当な事言っているんだ?

 私もフィーヴィーも、リバス嬢もニーメンも、そして部屋で見張っていた警官二人もここにいる。

 誰かが屋敷に忍び込んでいて出ていったとかじゃない限り、人影なんて見えるわけが…


 と、ここまで思って気づいてしまった。

 確かに、屋敷内にいた人間はこの場に全員いる。

 けれど…

 リバス嬢も気づいた様子だ。

 何だか悪い予感がする気がした。

 私たちは、この場にいる全員で人影を追いかけた警官の後を追う事にした。


                ─4─


 程なくして、私たちは人影を追いかけた警官と合流した。

「屋敷から出て行った怪しい者は、この家に忍び込みました」

「それは確かに人だったんだな。でもな、ウィル・フォーメンはここにいるんだぞ」

「えっ!?しかし確かに人でしたし、このまま見過ごすわけには…」

 一緒に来た警官の一人が既に応援を呼びに行ったけれど…


 もし人影が今回の殺人事件の真犯人なら、早く突入しないと誰かの命が危ない。

「どうするんですか?人影が犯人なら、早くしないとまた犠牲者が…」

「わかっているが、応援がまだ…あまり先を急ぐと犯人に逃げられる可能性が…」

「そんな悠長な事を言っている場合じゃありません。突撃しましょう」

「わ、わかった。仕方ない、あの家に押し入るぞ」

 私たちは家の玄関前まで行き、一緒にいた警官の一人がドアを叩いた。


「(ドンドンドン♪)警察だ!そこを開けなさい!!」

 夜中の突然の物音に、その家の人間だけでなく付近の住民までもが目を覚まして起きてきた。

「な、何事ですか一体!?こんな夜中に!?」

 家の住民が驚いて出てくる。

 当然の事だった。

 だけど、それだけじゃなかった。


「ギャーーーッ!!」


 その家の一室から悲鳴が聞こえたので、私たちは慌ててそこに駆けつけた。

「な、なんじゃお前は!?儂の寝室で何をしているんじゃ!?」

 部屋に着くと、ベッドで寝ていた老人が、目の前の存在に怯えていた。

 明かりをつけてその正体を見ると、やはり私たちが危惧した存在がそこにいた。

 リビングドール…ナインペインの姿だった。


                ─5─


「こ、こいつは屋敷のメイド!人影の正体はお前だったのか」

「ナインペイン!?どうしてこんなところにいるのですか?説明なさい!」

 悪い予感が的中してしまった。

 応接間には全員が集まっていると思っていたけど、メイドで人形でもあるナインペインだけは昼夜問わず屋敷の中を走り回って働いている。

 だから、屋敷に第三者が潜んでいたのでなければ、出て行った人影はナインペインでしかない。

 できれば、違って欲しかった…

 だけど、現実は残酷だ。

「リバスお嬢様。私はこの方を苦しみから解放する為にここにいます」

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