第6章 異変
─1─
朝、ここ最近見慣れたベッドで目を覚ました。
「あっ、ご主人様。おはようございます」
ベッドから起き上がった私にフィーヴィーが挨拶してくれる…
ここ最近いつもの事だ。
「(コンコンコン♪)……フォーメン様、朝食をお持ちしました」
目覚めてから程なくしてナインペインが朝食を部屋まで運んで来てくれた。
これも、ここ最近いつもの事だ。
朝食を食べ終え、今日何をするか考える。
フィーヴィーの足の不具合は昨日の内に直したけれど…
今日も同じ事が起こらない様、細かい調整を念入りに行うか。
ライフィールド氏は部品をツケで買える様に手配してくれるとは言っていたけど、店側まで話が伝わるまでに時間がかかるだろうし…
買い物に出かけるとしても明日かな。
そんなわけでフィーヴィーの調整に取り掛かる。
「今日も関節部分の調整ですかご主人様?そこだけは新しいものに換装しましたし、馴染ませるのには時間がかかりそうですね」
これも、ここ最近の修理生活の事を考えるといつもの事か。
そんないつも通りと言えなくもない日常が今日も流れていた。
が、そんな日常にも思わぬ形で転機が訪れた……
「ウィルさん大変!!お祖父様が……お祖父様が……」
─2─
医者が到着し、ライフィールド氏の死亡が正式に確認されたのは昼頃だった。
孫のリバス嬢が食事に出て来ない氏の事を奇妙に思い、部屋まで尋ねてみたそうだ。
そして、ベッドに寝たまま冷たくなっているライフィールド氏を発見して今に至る。
「ニーメン、どうしよう…?お祖父様のお葬式も開かなきゃいけないし、お父様やお母様にも連絡しなきゃいけないし、前にお祖母様が亡くなった時はお祖父様が全部やってくださったけど、私一人じゃあ…」
「お、落ち着けよ。まずは親に連絡して葬式とか後の事は全部任せようぜ」
「う、うん。そうだね。今は離れたところにいるけれど、私にはまだお父様やお母様もいるものね」
ライフィールド氏が亡くなって取り乱しているリバス嬢を駆けつけたニーメンがなだめている。
ニーメンの言う通り、後の事はリバス嬢のご両親に任せた方がいいと思う。
だけど、それでも葬儀にまで事が運ぶまでの間、残された遺族であるリバス嬢の不安を受け止める誰かが必要だ。
とは言え、そんな役は今リバス嬢をなだめているニーメン以外にいないだろうし、この場は彼に任せる他ない…か…
十日ぐらい前に唐突に客人として現れた私なんかは邪魔でしかないだろうしなあ。
それに、出会ってからの日も浅いからライフィールド氏が亡くなったところで気の毒には思えても、何の思い入れもない。
悲しいとか感傷に浸れないよ。
フィーヴィーも一応は動けるし、彼女を連れてこのまま自分の家まで帰った方がいいのかな?
そんな風に考えて今後の身の振りに悩んでいると、この家にいるリビングドールであるナインペインの姿が視界に入った。
主人が亡くなったと言うのに彼女は相変わらず屋敷内でいつも通りに働いている。
今は掃除の時間なのか何事も無かった様に掃除を行うナインペインの姿に、生きていると言っても所詮は人形なのかと悲しくなった。
「ご主人様。そんなに、あっちの彼女が気になりますか?」
「気になるって程じゃないよ。ただナインペインの主人の死に対するあまりの無関心さが人間の私は悲しいと思っただけだよ。私が死んでもフィーヴィーはやっぱり悲しいとか感じないのかい?」
「そんな事はないです。ご主人様を失ったら、私悲しいです」
「そう言ってくれると私もちょっと嬉しいかな」
「もう…ご主人様ったら……それよりもリバスさんが心配です。ですからそっちを気にしてください。今ご主人様が遠慮してここを離れたら、リバスさんが一人になってしまいます」
「でも、彼女にはニーメンさんもいるし部外者の私たちがいても…」
「ニーメンさんは気を利かせてリバスさんを支えられる程器用には見えません。ですから、せめてご主人様だけでも一緒にいてあげてください。一人はやっぱり寂しいです」
一人はやっぱり寂しいです…か…
考えたら、フィーヴィーも五十年もの間あの瓦礫の下に埋もれて一人だったんだよなあ…
だから、彼女なりに思うところがあるのだと、そう思った。
─3─
夕食は私とリバス嬢に加えてニーメンの三人でという事になった。
「ウィルの提案だからな、今日いっぱいぐらいは付き合ってやるよ」
「別にニーメンがウィルさんの提案に乗る義理も無いと思うけど。素直に私の事が心配だからって言いなさいよ」
「う、うるさいな。ウィルの奴と二人っていうのが心配なだけだよ」
「もう…素直じゃないんだから…」
ライフィールド氏が亡くなってリバス嬢も随分と落ち込んでいるかと思ったけど…この調子なら大丈夫かな?
「ご主人様、ナイスフォローです」
「私に今出来る事なんて、リバス嬢が一人にならない様に二人を繋ぎ止めるきっかけを作る事ぐらいだから…」
「はい、今出来る事を実行するからこそ流石なのですよ、ご主人様」
そんな風に褒められてもなあ…
「お夕食をお持ち致しました」
ナインペインが夕食を運んで来たので、私たち三人は席についた。
「思えば、ウィルさんとこうして一緒に夕食をいただくのは、いらっしゃった最初の日の夜以来ですか」
「そうですね。フィーヴィーの修理でずっと部屋に篭っていましたので、夕食も部屋まで運んでもらっていましたし」
思えば、このメンバーでの夕食も最初の日の夜以来か…
あの日はライフィールド氏がいて、会話の中心になってくれていたけど、今日はいない…
「お父様たちには連絡がつきました。忙しい様ですが、事が事ですので頑張って明日には戻って来るとの事です」
「じゃあ、明日までの辛抱だな」
「ニーメンの言う通り、明日お父様が帰って来たら全て任せようと思います」
「では、私は明日にでも出て行った方がいいでしょうか?いつまでもここに滞在していてもお邪魔でしょうし」
「いえ、その点はお気になさらず、できればウィルさんにも私の祖父ウィロー・ライフィールドの葬儀に出席して頂きたく思いますので、それまではうちにお泊まりください」
そうか、葬式があるなら私も出席しなければいけないのか…
今この場に私がいる事も含めて多少なりともお世話にはなっているし、個人的に思い入れは無くても出席しないのは不義理か。
それに、先のドッグマウス氏の葬儀の様子からして、私の祖母も出席するかもしれないし。
二人共高齢だったとは言え、葬式が続くなあ。
「でさあ、ウィルはこれからどうするんだ?」
「リバスさんのお言葉に甘えまして、葬儀まではここに滞在しようかと思います…が、その後は自分の家に帰ってフィーヴィーの修理の続きをやろうかと思います。後半日もあればフィーヴィーが外で多少激しく動いても大丈夫なぐらいになって、長距離の移動にも耐えられますので」
「ウィルさんが出て行ってしまうと寂しくなりますが、いつまでも引き止めておくわけにも行きませんし」
「リバスさんはご両親とは一緒に暮らさないのですか?」
「一緒には暮らしたいのですが、お父様とお母様は今の仕事が片付くまではここに戻れませんし、お祖父様が亡くなってしまった今、屋敷を無人にするわけにもいかないので。ですから私がここに残って当主の代理としてこの屋敷を守らなければいけません」
「なるほど、色々と継ぐものがあると大変ですね」
「ウィルさんだって、リビングドールの知識を継いでいるじゃないですか。私がお祖父様の代から継がれた屋敷を守ると決めた様に、ウィルさんも何か行わないのですか?」
「当面はフィーヴィーの修理を行うつもりですけど、それが終わった時の事はまだ……」
「フィーヴィーの言っている完全漆黒を倒すというのはどうなんでしょう?彼女も修理が終われば完全漆黒を倒すために旅立ってしまうでしょうし、一緒についていってあげるというのは?」
「はい。私もご主人様と一緒に旅がしたいです」
会話に突然フィーヴィーが割り込んで来た。
この場にいて食事をしているのは三人だけど…
リビングドールであるフィーヴィーもずっと私のそばにいるのだから、会話に入ってくることもあるのは当然…か…
「是非ご主人様も一緒に旅をしましょう。この前みたいに旅先で賞金首を倒せばお金にも困りませんし、修理してくれるご主人様が一緒なら私も多少の無茶もできますし…何より私が…その…幸せです!」
事実上の賞金稼ぎの旅…か……
特にこれと言ってやる事もないならそれもいいのかもなあ…
どの道、お金は稼がなくちゃいけないし。
それに、完全漆黒を倒すというのも一応は祖父から継いだものと言うか使命だから…
「そうですね。修理が終わって何もする事がなければ旅にでるのも悪くないと思います」
「よかったじゃないフィーヴィー。ウィルさんが一緒に旅してくれるって」
「はい。ご主人様が一緒に来てくれるなら、修理が終わった後も寂しい思いをしなくて大丈夫です」
何と言うか唐突に大事な事を決めてしまった気もするけど大丈夫…かなあ?
……いざとなったら、修理が終わった時に改めて考えればいっか。
「へえーウィルは旅に出るのか。それも楽しそうだな。俺もやってみようかな?」
「ちょっ、ニーメンが旅に出てどうするの!?特にやる事なんて無いじゃない」
「そうですよ、ニーメンさんにはリバスさんがいるのですから、側にいてあげないと」
「って、フィーヴィーったら何言ってんの!!」
やれやれ、この二人は…
それにしてもフィーヴィーも言うもんだなあ。
「お嬢様は幼少の頃からずっとセーブル様とご一緒でしたし、離れ離れになるのは私もよろしくないと思います」
「ナインペインまで…もう、からかわないでよ」
「何だよ、俺が悪者かよ。それに俺だっていつまでも一緒にいるわけにいかないだろうに。リバスさんだって、その内誰かと結婚してしまうわけだし」
「…………ばか」
─4─
「ニーメンさんの鈍感さにも困ったものです。あんな事を言わなくてもいいのにです。リバスさんが可哀想です」
フィーヴィーが怒るのも無理ないか。
ニーメンの一言でリバス嬢もすっかり機嫌を損ねてしまって、その後の食事も終始無言のまま終わっちゃったしなあ。
こうして今は逃げる様に部屋まで戻ったものの…
これからどうしよう?
リバス嬢の事も心配だけど、そもそもニーメンとのあの二人ってどういう関係なんだろう?
ニーメン本人やナインペインの話から察するに、どうも幼馴染なんじゃないかとは思うけど。
「(コンコンコン♪)……フォーメン様、お茶をお持ちしました」
ナインペインが食後のお茶とお菓子を持ってきてくれた。
さっきは、それどころじゃなかったからなあ…
そうだ、あの二人の関係についてナインペインなら何か知っているかもしれない。
「ねえ、ナインペイン。リバスさんとニーメンさんってどういう関係なの?」
「そうですねえ…元々はリバスお嬢様のライフィールド家とニーメン・セーブル様のセーブル家との交友関係の一環で、それ故にリバスお嬢様もセーブル様も小さい頃から仲良くしていらっしゃいます」
「そうなんだ。二人共歳が近そうだし、単純に幼馴染の関係でいいのかな?」
「リバスお嬢様の方がセーブル様より一つ年上ですから、フォーメン様の仰る通りかと思います」
ニーメンよりもリバス嬢の方が年長なのか…
今日まで見てきた二人は仲睦まじかったし、端から見ればニーメンの方もリバス嬢の事は気になっている様には見える。
けれど、幼少の頃なら兎も角として今のニーメンはリバス嬢との身分差も年齢差も自覚しているはずだ。
ニーメンが時よりリバス嬢を突き放す様な素振りを見せていたのも照れ隠しだとばかり思っていた。
けれど、自分から距離をとるための行動だったのかもしれない。
さっきのニーメンの発言も、そういった事情からなんだろうなあ。
「そっか、二人が仲良さそうに見えて何となく複雑そうに見えた理由がわかったよ、ありがとう」
「いえ、お役に立てたなら何よりです」
「ところで、リバスさんはあれからどうしていますか?」
「部屋に篭って一人で泣いていらっしゃいます」
「そうですか……」
って、それ正直に言っちゃうの!?
「リバスさんを泣かせるなんてニーメンさんも酷い男です。これは、おしおきが必要です」
「まあまあ、フィーヴィー落ち着いて。ニーメンさんにも色々と事情がありそうだし、そう単純に判断しちゃいけないよ」
「ううっ、ご主人様がそう言うなら…」
「それに、今日はライフィールドさんが亡くなったりと、リバスさんには色々と辛い事が続いただろうし、泣きたくなる時もあるよ」
「ご主人様がお亡くなりになられた事は、辛い事なのでしょうか?」
唐突にナインペインが変な事を聞いてきた。
一瞬「何を言っているんだこいつは…?」と思ったものの、所詮は人形故に疎いところがあるのもしれない。
「うーん、人間っていうのは大切な人が死ぬと辛いし悲しいものなんだよ」
「そういうものなのですか……死んで苦しみから解放された事を素直に喜べないとなると、人間はそれだけ複雑で大変なのですね……」
前向き過ぎる考え方でついていけなかった。
確かに死んだ本人が言うならまだしも、残された者が死んだ人についてあれこれ思うのは身勝手なのかもしれない。
けれど、人間の感情って言うのは身勝手なものだと思う。
人が…特に親しい人が死んだ時に辛いと思ったり悲しいと感じたりする事は仕方のない事だ。
これも、人間とリビングドールとの差異による感情の違い…なんだろうな。
「そうか…ナインペインは自分の主人が亡くなっても悲しくはないんだね…」
「はい。ご主人様は年老いるに連れて悩みが増すばかりのご様子でした。ご主人様ご自身の努力でも私の力でも解決できない悩み…ですが、死によってその呪縛から解放されたならば喜ばしい事です」
「私、私は…っ、ご主人様が死んだら悲しいですよ!」
私とナインペインとの会話に半ば強引にフィーヴィーが割り込んできた。
「私はっ、私は瓦礫の下からご主人様に助け出してもらえてからっ、今日までご主人様と過ごした時間が幸せでしたし、これからもそういう時間をずっと過ごしたいですっ!だから…だから…っ、ご主人様には死んでほしくないです!」
そう言って感極まったのか、フィーヴィーは私を抱きしめてきた…
正直、ちょっと苦しい…けど、悪い気はしないか…
「…って、やだっ、私としたことが…ご主人様ごめんなさい、大丈夫ですか?」
「う、うん。何とか…」
平静を取り戻したフィーヴィーから解放される。
けれど、さっきからの流れを終始無言で見つめているナインペインの視線が何だか痛い…
「…他に何もなければ、私はこれで失礼致します」
「えっ!?あ、うん。ありがとう」
お茶を持ってきてくれたナインペインが部屋を出ていった。
何となく会話の途中だった気もするけれど、さっきので途切れちゃったなあ。
─5─
次の日の昼頃、何やら騒がしいと思ったら…
ライフィールド氏の息子夫婦…もといリバス嬢の両親が屋敷に帰ってきていた。
「お父様…お母様…お久しぶりです…」
「ただいま、りーちゃん。一人で心細かっただろうに…だが、もう大丈夫だ」
「りーちゃん、一人でよく頑張りました。えらいえらい」
フィーヴィーと一緒に様子を覗きに行ってみると、リバス嬢がご両親と丁度感動の再会を果たしているところだった。
「一人じゃなかったですよ、お父様・お母様。ニーメンが一緒にいてくれました。それに、ここ最近はお祖父様のお客様がずっと滞在していますので…」
「ん?お祖父様のお客様って、父に…おじいちゃんに客人が訪ねてきていたのかい?」
「はい、そうです。お祖父様の依頼を受けてウィル・フォーメン様が訪ねて…あっ、丁度よかった。こちらが、そのお客様です」
私に気づいたリバス嬢がこちらに視線を向けてきた。
「あっ、初めまして。ウィル・フォーメンです。人形技師をやっています」
「父の客人にしては随分若いねえ。人形技師ウィル・フォーメン…初めて聞く名前だ」
あからさまに怪しまれてしまったけれど無理もないか。
「お父様。ウィルさんはナインペインを作成した人形技師モールス・フォーメンさんのお孫さんなんですよ」
「リビングドールの開発者の孫!?……失礼、そういう事なら合点がいったよ」
「本来はお祖父様がナインペインのメンテナンスを依頼していたのですけれど、まあ色々とありまして。ですが、それを話すと長くなってしまいますので…」
「詳しく話を聞きたいが、今はおじいちゃんの葬儀が優先だからな。それで、おじいちゃんの遺体は?」
「昨日、死亡を確認したお医者様に葬儀屋さんを紹介してもらったのでそちらに」
「そうか、ちゃんとできたんだね。よくやったぞ、りーちゃん」
「まあ、りーちゃん。暫く見ない間にしっかりして…お母さんは嬉しいですよ」
「とりあえず、父さんたちは部屋に荷物を置いたら葬儀屋まで行くよ。遺体の確認もそうだけど葬儀の打ち合わせなんかもしなくちゃいけないし」
─6─
ライフィールド氏の息子夫妻もといリバス嬢の両親が帰ってきてから三日後。
遂に葬儀が執り行われた。
少し前にあったドッグマウス氏の葬儀と同様、フォーマルな式典が行われた後は、同窓会の様な顔合わせの場になっていた。
そして、参列者の中には私の祖母に付き添いの父の姿もあった。
「おばあちゃん、お父さん、お久しぶりです」
「ウィル、元気にしていたのか。長い間家に帰ってこないから父さんも、家で留守番をしている母さんも心配していたぞ」
「まあまあ、ウィルもいい歳なんだからそんなに心配することないじゃない。便りがないのは元気な証拠と昔から言うでしょうに。もっと自分の息子の事を信じなさい」
両親には心配をかけてしまった様だけど、祖母は相変わらずだなあ。
まあ、祖母はライフィールド氏の事を知っているからってのもあるんだろうけど。
「ところで、ウィル。一緒にいるお嬢さんは誰だい?」
「えっとね、おばあちゃん。おじいちゃんが作ったリビングドールを偶然見つけたんだ。見つけた時は体が壊れていたんだけど、それを修理したのがこの娘なんだ」
「初めまして。私、名前はフレイムヴィレッジといいます」
「まあ、あの人が作った人形なの!?そうね、昔のあの人…ウィルのお祖父さんもね、こんな風に完成した人形を私に見せてくれたのよ」
珍しく祖母が祖父との思い出を話してくれた。
私が生まれる前から、うちでは祖父の話はこれまで何となく避けられていたし、こういう話は初めて聞くなあ。
「ねえ、ウィル。あなたがウィローさんのところでお祖父さんの作った人形を見せてもらったり、お祖父さんの作った人形をこうして修理したって事は、やっぱりお祖父さんの技術を次いで、いづれはリビングドールを作るのね、きっと」
多分、祖母の言う通りだと思った。
ライフィールド氏の屋敷でナインペインと出会い…
瓦礫の下から掘り起こしたフレイムヴィレッジを修理し…
私のリビングドールへの興味が、着実に強くなってきているのは自覚している。
だから、今はフィーヴィーの修理の方に興味が向いている私でも、いつかはリビングドールを作る方に興味が向くと思う。
「でもね、ウィル。おばあちゃんは心配なの。ウィルやあなたのお父さんをリビングドールに触れさせたくなかったのはね、あなたのお祖父さんの様になってほしくなかったから。だからね、ウィル。強くなりなさい。あなたがいづれ、お祖父さんと同じ問題に直面した時に乗り越えられるように」
そうか…祖母は祖父が失踪した本当の理由を知らないんだった。
でも、強くならなきゃいけない事には変わりはないか。
祖父は完全漆黒に殺されてしまったけれど…
私もフィーヴィーも強くなっていつか戦うかもしれないその時に備えなければいけない。
「ところで、生前のウィローさんはどうだったかい?この前、おばあちゃんが五十年ぶりぐらいに話した時にね、何か悩んでいるようにも見えたし、覚悟を決めて話しかけにきたようにも見えたから、亡くなる前に悩みが解決していて思い残す事がなかったのならいいのだけど」
「大丈夫だよ、おばあちゃん。私がライフィールドさんのところに行った事で、その悩みも解決したと思うから」
「そう…それならよかった。ウィルも他人の役に立てるまでに成長したのね」
─7─
葬儀も終わり、参列していた面々も次々と帰っていく。
私もこのまま祖母や父と一緒に帰ろうかと思っていた矢先の事だった。
街の警察が三人ぐらい私とフィーヴィーのところにやってきた。
「ウィル・フォーメンだな。悪いが大人しく署まで来てもらうぞ」