第1集 献身慈悲のナインペイン 人形章 リビングドール・ナインペイン
リビングドールとして生まれ、純白清廉の心とナインペインの名を与えられた私は、ライフィールド家の屋敷での仕事を任されました。
ライフィールド家の当主であるウィロー・ライフィールド様が私の主で御座います。
ご主人様に命じられ、私はメイドとして屋敷内で働いています。
メイドと言いましても、最初の内はお客様との会話が仕事でした。
お客様は人形である私と話せる事を喜んでいます。
人の役に立てていると実感しました。
人の役に立つ事が私の人形のとしての存在意義です。
その存在意義が満たされる事で私は幸せを感じます。
お客様の前に出ることが少なくなりました。
会話も今ではご主人様と奥方様、お坊っちゃまとのものが中心です。
ですが、人間のメイドの方達を観察して、今度は掃除や洗濯、料理なんかの仕事もできる様になりました。
人間の何倍もの速さで仕事をこなせる私は、とても重宝されています。
人の役に立てていると実感しました。
お坊っちゃまが大きくなり、結婚し、ご主人様のお孫様が誕生しました。
お孫様は女の子で、名前はリバスです。
ご主人様は、私にリバスお嬢様のお世話を命じられました。
リバスお嬢様は、すくすくと成長なされています。
人の役に立てていると実感しました。
ご主人様が稼業をご子息様に譲り、自身は半隠居状態になりました。
この頃から新しい街を作るため、仕事の拠点を現地へ移す話が進んでいます。
今までは来客が多かったこの屋敷でしたが、人手が要らなくなりました。
ですので、使用人はメイドの私一人で十分との事です。
人の役に立てていると実感しました。
ご主人様や奥方様はお年を召されていましたが、それに連れて悩みも増えて苦しんでいる様でした。
私はご主人様や奥方様の会話相手ではありましたが、どうする事もできません。
そして、奥方様が亡くなりました。
ご主人様は悲しんでおられます。
そして、ますます悩み苦しむ様になりました。
ご主人様の…人の役に立てない私の心は、徐々に何かに蝕まれている感覚に襲われています。
人形技師のウィル・フォーメン様に検査してもらいました。
体や核心に異常は無いそうです。
心が蝕まれる感覚も気のせいなのですね。
亡くなったご主人様をベッドに寝かせています。
全ての悩みや苦しみから解放されたご主人様は、何処か安らかに見えました。
どうやら人間の解決できない悩みは、死なせる事で解放させる事ができる様です。
ウィル・フォーメン様と会話を致しました。
人間は自分以外の誰かが死ぬと悲しむそうです。
私はリビングドール・ナインペイン。
人形としての存在意義は人の役に立つ事です。
自身の幸福のため…自身の存在意義を保つため…
私は今日も人の役に立つために働きます。
ご主人様以外にも、お年を召されて悩み苦しんでいる方はいらっしゃいます。
そのような方々も死ねばその苦しみの呪縛から解放されます。
ですが、人間はその解決を拒みます。
何故なら、誰かが死ぬと悲しいからです。
だから、私が死なせました。
人間の誰にも見つからない様…誰かが死ぬところを見て人間が悲しまない様…
悩み苦しむ人間を呪縛から解放させたのです。
人の役に立てていると実感しました。