第1集 献身慈悲のナインペイン 第5章 修理 ー2ー
修理を始めてから八日目、この日私とフィーヴィーは初めて二人きりで一緒に街へと出た。
久しぶりの足での歩行にもすっかり慣れた彼女は、もう自由に歩き回れそうなものだけど。
まだ若干不安なのか、私の傍にくっ付いて腕を組んでくる。
人形だと気づかれなければ、仲のいいカップルの様に見えるんだろうなあ……
「えへへっ、こうしてご主人様とデートできるなんて、私今幸せです。」
デートって言っても人形用の部品を売っている店に行くだけなんだけど、本人が喜んでいるならいいのかなあ。
きらびやかな表通りを過ぎて工業用の製品が売っている区画に入り、程なくして店へと着く。
店に入るとフィーヴィーが物珍しそうに周りをキョロキョロしていたけど、相変わらず私の腕にくっ付いたままでいる。
「お客さん、ここ最近連日で結構な量と頻度で部品を買いにくる人だよね?隣につれているのは…ひょっとして人形かい?」
店の店員さんがいきなり話しかけてきた。
まあ、こんな状態で店に入ってくる客だから目立つのは仕方ないにしても…
フィーヴィーを人形だと見破ったのは流石だ。
「ええ、連日この子を修理するために頑張っていたのですが、昨日ようやく歩けるまでになりまして。」
「初めまして。私、フレイムヴィレッジといいます。」
フィーヴィーがお辞儀をして丁寧に挨拶をする。
すると、その人形が生きている様に動く姿に店員さんが一瞬驚いた顔をした。
「ぬわっ!う、動くって事はこいつはもしかしてリビングドールってやつかい?只の自動人形ではこうは動けないし…実物を見るのは初めてだなあ。」
「はい、私も初めて動くものを見てからまだ十日も経っていなくて、最初に見たときは驚きました。」
「そうかあ、そうだよなあ。現存する個体も少ないらしいからなあ。この街じゃあライフィールド様のお屋敷にあるって話は聞いた事はあるが噂だけで実物は見た事無かったからなあ。」
ナインペインの事か…
店員さんの話から察するに、ライフィールド氏はナインペインを普段外に出してはいないようだ。
それでも店員さんがそういった話だけでも知っているのは、人形の部品を扱う商売柄だからだろうか?
それよりも、ナインペインを外に出していない事が意外だった。
あれだけ事業としての自動人形に入れ込んでいる氏ならば、リビングドールももっと表舞台に出して広めようとしてもおかしくないのに。
やはり、人々に黒化現象の恐怖を与えないようにライフィールド氏が自重して、ナインペインを屋敷の外には出さなかったのだろうか?
あるいは、外界のものに触れてナインペインの心が黒化するのを恐れた結果なのかもしれない。
「ところでお客さんはリビングドールの黒化現象ってどう思うよ?うちはライフィールド様の手前、黒化を恐れてリビングドールを忌み嫌うわけにもいかないんだが、こうして動いている実物を見ると黒化現象なんてまやかしなんじゃないと思えてくるんだよなあ。」
「私は実際に黒化したリビングドールを見た事が無いので何とも言えません。ただ、今動いている彼女の姿をみると私も黒化現象はまやかしであって欲しいとは思います。」
「だよなあ、だよなあ。俺も実際に黒化した人形を見た事ないから、誰かがリビングドールを復興させないかと期待しちゃうよ。だがなあ、これまで誰もそれをやっていないってなると黒化現象ってのはそれだけやばいのかもなあ。はあ、複雑……」
そうか……
フィーヴィーもいつかは黒化して暴走する可能性もあるのか……
瓦礫の下から発掘した時や修理している時は夢中ですっかり忘れていたけど…
今になって黒化現象の事を思い出すと私も複雑な気持ちになってきた……
「大丈夫ですよ、ご主人様。私は絶対に黒化はしませんから。」
先ほどの店員さんとの会話から察したのか、フィーヴィーがこんな事を言ってきた。
しかし、黒化現象の明確な原因と対策がない今では……
いや、そうじゃない。
私がそれを…リビングドールの開発者を祖父に持つものとして黒化現象を解明すれば、フィーヴィーの言った言葉も本当になる。
つい十日ほど前まではリビングドールに左程興味を持っていなかった私も、彼女に出会って新たな目標ができてしまったなあ。




