第1集 献身慈悲のナインペイン 第4章 トップ・ドッグマウス ー3ー
夕食を食べ終わった後、私は改めてフィーヴィーの状況確認に取り掛かった。
ベッドの上に体を寝かせ…
まずはフィーヴィーの服を一枚一枚脱がせていくことにした…
昨日行ったナインペインのメンテナンスの時と違い、今のフィーヴィーは動くことができないので、私が脱がせるしかなかった。
それにしても、動けないのにどうやって着たのかと思ったけど…
体を修復する時に服も一緒に修復したからこうなったのか。
人形とは言っても、全裸で出てきても困るからなあ。
どうせなら先に壊れた駆動部分を直して、動けるようになったところで誰かに助けを求めることもできただろうに……
あえて長い年月をかけて外見から修復した。
そんな、彼女の効率よりも見た目を重視するという行為に、人工物ではなく人間臭くて乙女なところを感じずにはいられなかった。
「それじゃあフィーヴィー…脱がすよ?」
「はい……ご主人様に服を脱がされるなんて……なんだかドキドキします……」
そんな風に言われると変に意識してしまうから困る。
上に袖のように羽織っていた白のストールを外して…
次は白のワンピースを脱がせば下着…か…
そもそも人形が下着を着ているのだろうか?
ナインペインが脱いだ時は…
あまりよく見ていなかったから思い出せないな。
などと考えながら、上からゆっくりとワンピースを脱がしていき、すると乳房があらわになってきた。
もしかすると穿いていないんじゃないか!?
とドキドキしながら更に下の方まで脱がしていくと…
黒のパンツを穿いていることを確認できた。
上に身にまとっているものは白で統一されているのに下着は黒か…
などと自分でも頭悪いなあと自覚することを思いながらワンピースを脱がせ終える。
次は、いよいよパンツ……か……
人間で言う股関節周辺の状況を確認するためにも、やはり脱がせて確認する必要があり、避けられなかった。
何だかイケナイ事をしているみたいだなあ、と思いながらパンツを脱がせ…
いよいよ全裸のフィーヴィーとご対面する。
服の上からではよくわからなかった内部の損傷が、接合部からうっすらとではあるが視認できる。
そこから五十年前、自動修復機能が稼働する直前はどれだけ損傷していたかを察する事ができた。
こんな損傷から五十年かけたとは言え、よくここまで修復できたなあ…
と改めてリビングドールに仕込まれている技術力に驚く。
「どう…ですか…?本来ならば核心以外の部品を全部新しいものに取り替えた方が早かったのですが、五十年の間に外側は治しちゃいましたので、中の部品だけ取り替えれば動けるようになると思うのですが?」
「……えっ!?ああ、うん。そうだね。外側は大丈夫そうだから次はパーツ毎に内部を確認しようか。」
そうだった、色々と観察したくはあるけれど、まずは修理を優先しなくちゃ。
関節部分は破損で外れているも同然だし、中を開くだけで簡単に確認できそうだなあ…
そこだけは新しくしなきゃ、買い物リストにメモらないと。
購入リストに関節パーツの記述を加え、まずは右手部分からと調べてみて早速驚いた。
内部が自動人形レベルで複雑だ…
先日、ナインペインのメンテナンスを行った時に見たリビングドールの内部構造は、もっと単純だった。
あれの場合、関節部分以外は殆ど空洞で、僅かに核心からの魔法伝達による制御が通りやすい程度の加工しかされていなかった。
だがしかし、フィーヴィーの場合は違った。
内部に事細かな機巧が施されていて、より繊細な動作が可能になっている。
だからこそ、フィーヴィーが修理に人形技師の手を必要としていた事を改めて実感する。
それにしても同じリビングドールなのにどうしてこうも違うのか?
一瞬そう疑問に思ったけど、構造を見るとすぐにわかった。
開けてびっくり仰天、色んな武器が仕込まれているじゃないか。
銃…剣…槍…矢…ナイフ…ハンマー…斧…
他にも色々あってアーミーナイフならぬアーミードール状態だった。
成る程、完全漆黒と戦うために作られたリビングドール…そういう事なのか。
あまり高度な命令を実行できない自動人形では動かせないレベルの機巧で、自動修復装置と同じく自分で考える事のできるリビングドール独自のものだと思う。
思っていたよりもはるかに複雑だ…
だけど人形技師としてはそれだけやり甲斐のある仕事でもある。
これを修理して体得できれば人形技師として更なる高みに到達できるんではないかと思った。
しかし、これを一度に全部直すには凄く時間がかかるし…
今の手持ちのお金じゃあ、そこまでパーツが買えないや。
「ねえフィーヴィー。内部の修理なんだけど、まずはできるだけ早く最低限動けるようにすることを重視して、武装部分は後回しにしようと思うんだけどいいかな?動けないとフィーヴィーも色々と不便だろうし。」
「はい、それがいいです。武器が使えないとご主人様をお守りできなくて辛いですけど、早く私を動けるようにしたいというご主人様の心遣いが…私、とっても嬉しですっ。」
そんな風に言われると、なんだか照れてしまう…
ともあれ、右手を動かすために最低限修理しなきゃいけないところを探して…
それから買わなきゃいけない部品の見当をつけて…
この作業を他のパーツでもやらなきゃいけない…か…
今夜中に終わるかなあ?
でも、フィーヴィーが期待してくれているし、私も頑張らなきゃな。