第一話
秋の風が枯葉を転がしていく中を一台の青いワゴン車が通り過ぎていく。その車はやがて、道の突き当たりにある一軒の青い屋根の家の前にたどり着いた。
車の側を三歳になる一頭のゴールデン・レトリバーが尻尾を振りながら左右に走る。薄茶色のその犬は主人の帰りを喜んでいるのだ。
「チッチー今帰ったよー。しばらく私がいなくて寂しかったー?」
後部座席から背が高くてショートヘアの黒髪の女性が降りてきて犬――チッチに話しかける。ピンクのワンピースを身に纏った女性は小さい赤ん坊を抱えていた。
初めて見る物体に興味を示したのか、チッチは立ち上がり赤ん坊の足を嗅ぐ。
「新しい家族だよ、チッチ。名前は清一、男の子だよ」
チッチは尻尾を振りながら赤ん坊――清一の足を舐め始めた。清一の足が激しく上下する。
「こらチッチ、清一がくすぐったがっているでしょ。舐めないの」
女性が優しく諭すとチッチは前足を下ろし伏せの姿勢をとった。残念そうに上目で清一の足を眺める。
「聞き訳がよくてよろしい。チッチはお利口さんね」
飼い犬の態度に満足した女性は清一を抱き抱えながら夫とともに家の中へ入っていった。チッチはその姿を伏せの姿勢のまま、頭だけを動かして追った。
「お義母さん、今帰りました」
女性が玄関から声を上げると、廊下の奥から眼鏡をかけた白髪の女性――「ハツ」――が笑顔で現れた。
「まあまあ雫さん、お帰りなさい。元気そうで安心したよ」
微笑を浮かべながら互いを見つめる二人の間に、穏やかな秋日が差し込む。
「清一です。お義母さん、抱いてください」
雫はハツの胸元に清一を差し出した。義母は愛おしそうに清一を抱きしめる。
「あばば、あばば、いい子だねぇ。賢そうな顔をしているよこの子は。ささ、お祖父ちゃんやご先祖様にご挨拶しましょうね」
ハツは清一を抱きしめながら十畳もあるリビング兼キッチンを抜け、六畳の和室へと入っていった。和室には檜でできた仏壇がその木目の色を見せながら迎えていた。
ハツは仏壇の前に正座すると清一を膝の上に乗せた。そして仏壇を開け、両手を合わせる。
「お祖父さん、ご先祖様、この子が清一でございます。聖司と雫さんの子どもです。これからこの子を見守ってやってください。この子に幸せを与えてください」
清一は不思議そうに仏壇とそこに飾られている数枚の白黒写真を眺めていた。




