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05 賽の目の心


 「ネクロマンサーだと!」


 警備兵からの連絡に、腹の出た監獄長は椅子から勢い良く立ち上がり、それと同時に頭にあったカツラが地面に落ち、頭部が無くなった髪が露わになる。

 しかし、それを気にする暇は、監獄長にも、警備兵にもありはしなかった。

 警備兵は、緊張によりガチガチに固まりながらも報告を上げていく。

 

 「はい! 現在、そのネクロマンサーと、第三門の警備兵が交戦中ですが、抜かれるのも時間の問題です!」

 「馬鹿な……奴が来たとでもいうのか……あの悪魔がぁ……」


 倒れるように椅子に腰を下ろし、頭を抱え込む監獄長。

 4年前の悪夢が脳裏を埋め尽くし、頭痛と吐き気と胃痛が、監獄長を襲う。


 「ぐぅ……そ、そいつの特徴は! どんな容姿だ!」

 「は、はい! 魔導具【鷹の眼筒イーグル・アイ】で確認した所、背は高く、髪は黒、瞳は赤く、黒いローブを羽織り、骸骨型のアンデットを数十体使役しております! これは、4年前、ここを襲った――」

 「4年前の事は言うな! 監獄にぶち込むぞ貴様ぁぁぁ!!」

 「は、はい! 申し訳ありません!」


 4年前、それを聞くだけで、監獄長は唾を飛ばしながら怒鳴り散らす。

 そして、監獄長の髪の残量が減り、胃に穴が空く。


 「うぐぅ……ひ、被害はどうなっとる!」

 「ひ、被害は、第一門の10名が死亡。第一門の異常を察知した第二門の者が、後退しながらも応戦、第三門の者と合流。現在、20名の兵士が、第三門でネクロマンサーと交戦中です!」

 「10名死亡……」


 顔を青くしながら、監獄長は目の前の警備兵の報告を聞く。

 そして、すぐさま監獄長は、命令を下した。


 「いいか! 厳命させろ! 絶対に死ぬな! もし死んだ者が居れば、必ず湖に沈めろ! 分かったか!」

 「監獄長! それは、戦った仲間の死体を湖に捨てろと言っているのですか!」

 「そうだ! 奴の手に渡ってみろ! その死体は、アンデットとして奴の手駒にされるのだぞ!」

 「し、しかし――」


 警備兵が、監獄長の言葉に逡巡したその時、勢いよく扉が開かれ、別の警備兵が勢いよく入って来た。


 「申し上げます! 第三門突破されました! 死傷者は死者が7名、重軽症者8名です! アンデットの中に、第一門で警備にあたっていた者達の姿が確認されています!」

 「そ、そんな……」

 「分ったか! ネクロマンサーを、あの悪魔を相手にするという事は、こういう事だ!」


 机をバンバンと叩きながら、監獄長は部下を叱責する。

 そして、鼻から大きく息を吐き出した後、目の前の警備兵たちに命令を下した。


 「即刻、水門を開き、職員全てを船に乗せ、この監獄島から脱出するぞ!」

 「囚人達はどうされるのですか!」

 「放って置け! どうせ終身刑、重犯罪者の奴らだ! 死んでも世間は何も言わん!」

 「「りょ、了解しました!」」


 息を荒げながら、懐から取り出した胃薬を噛み砕き、コップの水で一気にそれを流し込むと、監獄長は一息つく。


 「大丈夫ですか? 監獄長?」


 その様子を、隣にいた監獄長とは違う形、M字型に髪が禿げた副監獄長が心配する。


 「私の事はどうでもいい! それよりも、逃げる準備が整う前に、聖王国の騎士団に連絡を取るぞ!」

 「もう繋げております」

 「よし、代われ!」


 監獄長は、副監獄長から魔導念話機をひったくる様に取ると、耳に当てると、受話器から、厳つい声が聞こえ始めた。


 『現状は? メメン湖監獄島、監獄長よ』

 「は、はい。現在、第三門が破られた事により、魔導船での緊急避難を行うべく、職員に呼びかけを行った所です。ハイ~」

 『監獄島を襲っているのは、あの・・ネクロマンサーなのだな?』

 「部下の報告からでは、特徴は一致しているように思います! ハイ!」

 『私は、どうなのかと聞いたんだが?』

 「し、失礼しました! おい、どうなんだ!」

 「前に警備を行っていた生き残りの者が、ネクロマンサーを鷹の眼筒イーグル・アイで確認したところ、泡を吹いて気絶したそうですので、まず間違いないかと……」

 「間違いないそうです! ハイ」

 『そうか。ならば即刻、監獄島に向け、聖獣騎兵隊を派遣する』

 「聖獣騎兵隊を!」

 『そうせねば間に合わんだろう?』

 「おっしゃる通りです。ハイ!」

 『では、時間を稼げ。監獄長。あの日から、何かしら策は容易しているのだろう?』

 「用意しております!」

 『よし、聖獣騎兵隊は10時間後にそちらに付く。それまで、監獄島から奴を出すな』

 「分っております。ハイ!」

 『では、切るぞ』

 ――ブツン……


 念話が切られ、監獄長は呆然としながら、自分が何を言ってしまったのかを、今更ながらに後悔した。


 「…………10時間」

 「どうされました? 監獄長? 顔色がまた悪いですが……」

 「10時間など無理だ……」

 「10時間? なんの事ですか! 監獄長! 監獄長!」


 放心しかけた監獄長の肩を、副監獄長は何度も揺らす。

 揺らすたびに、ストレスで髪が落ちる監獄長。

 何度も揺らされたことで、現世に戻って来た監獄長は、事の顛末を副監獄長に伝えると、副監獄長は、唸りながら解決方法を模索し始める。


 「橋を落とし、時間を稼いだとしても、甘く見積もって1時間……」

 「それでも残り9時間あるぞ!? 門の警備兵では人数も足りておらん! 人手が足りんのだ! 人手が…………人手?」

 「監獄長、まさか……」

 「これしかあるまい! 最初から残していこうと思っていた奴らだ! 有効活用せんとな……はは、ははははは!」

 「……では、直ぐに準備をいたします」

 「頼んだぞ、副監獄長」

 「……分りました」


 足早に部屋から出て行く副監獄長を横目に確認し、部屋から誰も居なくなったのを確認した監獄長は、魔導念話機を手に取り、どこかに連絡を取り始める。


 『何だ。もうアレの値上げは出来んぞ? 業突張りな監獄長』

 「そういう事ではない。お前たちの所為で、此方はそれ以上の被害を受けているのだ! 貴様、こうなる事が分かっていたな!」

 『……なんの話だ?』

 「惚けおって! もうその手には乗らん! 今後一切、お前らとの交渉はすることは無い! 覚えておけ!」

 『まて! なにを言って――』

 ――ガチャン!


 歯ぎしりをしながら、監獄長は魔導念話機を放り投げる。

 音を立てながら、バラバラになった魔導念話機を、これでもかと踏みつけ、やっと落ち着いた監獄長は、監獄島から逃げる準備を始めるのだった。




 ◇――――◇◇――――◇◇――――◇◇――――◇――――◇




 「骨ッカッカッカッカッ!」

 「うわぁぁぁぁぁ! 助けてくれ! 助け――」

 ――ザシュ!

 「リック! 畜生ぉ! 畜生おぉぉ! よくもやり――」

 ――グサッ!

 「アルトぉぉ! よくも俺の親友を――」

 ――ズパッ!

 「ジーク! この骨やろぉぉぉ! 絶対許さ――」

 ――ガブッ!

 「「「マルコぉぉぉ!」」」


 アルスの目の前で、警備兵の命が無残に散っていく。

 その光景を、否、その向こう側を、まるで透視するかのように見つめていた。

 口は絶えず上がっており、眼はまるで、おもちゃを買って貰う子供の様に輝かせていた。


 『あるじよ、ここに居るのですね?』

 「あぁ、ここに居る。感じるんだ。大きな魔力の渦を……」

 『凄いわね。これが、【祝福の子供達】の魔力……なんて、綺麗なのかしら』

 『ガウガ? バウバウ! ワオォォン!』


 アルスの頭の中で、二人と三匹が、感嘆と驚きの声を上げる。

 それと同時に、第四門に居た警備兵たちの動きが慌ただしくなってきた。 


 「撤退だ! 準備が出来た! 撤退しろぉぉ!」


 監獄島から聞こえる伝令に、第四門に居た警備兵達が、一斉に監獄島の方に全速力で走って行く。


 『何でしょうか? 先程と様子が違いますわね?』

 「そうか? 逃げているのは変わらんだろ」

 『いえ、主よ。どうにも雰囲気が違います。何かする気ですな』

 『ガウ! バウ! ワンワンワン!』

 「ん? どうした? アールエムエル」

 『橋の下に、魔方陣と言ってますね』

 「魔方陣……成る程、そういう事か」

 『小賢しいですなぁ。しかし、策を弄するのは良い事です。少々見直しましたよ』

 『どうされます? アルス様』

 「そうだな。俺は今、機嫌が良い。少しは希望を持たせてやろう」


 そう言って、アルスは優しい笑みを見せるのだった。



 「監獄長! 作戦班以外、全て魔導船に乗り込みました!」

 「よし、出るぞ! 作戦班は途中、小舟を使い、本船と合流せよ!」

 「「「ハッ!」」」

 「よし! では、戦略的撤退を開始する!」


 魔導船の汽笛がなり、職員を乗せた魔導船が、監獄島から高速で離れていく。

 それと同時に、橋に設置されていた魔方陣が、一斉に爆発し、橋を湖に落としていく。


 「よしよしよぉぉぉし! よくやった、作戦班!」


 その様子を、鼻息を荒くしながら船の特等席で見る監獄長。


 「やったか!」「ざまぁ見ろ、ネクロマンサー!」「友の敵だ!」


 船外では、監獄職員と警備班の者達が、体を乗り出し騒いでいた。

 皆一様に、煙の上がる橋に居るだろうアルスに向かって、罵詈雑言を浴びせ続ける。


 「おい、小舟がこっちに来るぞ! 英雄のご帰還だ!」

 「おーい! よくやってくれた! お前たちは英雄だぞ!」


 警備兵の一人が、監獄島からやって来る小舟を見つけ手を振りだし、他の者達が呼び駆けを行う。

 小さな点だった英雄の乗った小舟が、魔導船にどんどん近づ居ていく。


 「ん? 何だアレは? 小舟の上に、タコ?」


 最初に異変に気付いたのは、鷹の眼筒イーグル・アイで小舟を確認していた、警備兵だった。


 「どうした?」

 「いや、何か、小舟の上に触手が……」

 「触手? 何言ってんだ? 貸してみろ」


 隣にいた警備兵が、鷹の眼筒イーグル・アイを受け取り、小舟を除いてみる。

 すると、小舟が先程よりも近づいていた事で、何が乗っていたのかを確認する事が出来た。


 「な、なんだアレは!」


 小舟の上には、何かが乗っていた。

 それは、人の形をしている物の、腹からは幾本の触手をのたうち回せ、それをオールの様に使って小船を動かしていた。


 「ヒィィィィ!」


 それを見た瞬間、警備兵は驚きと恐怖で、鷹の眼筒イーグル・アイを地面に落とし、全力疾走で監獄長の元に走るのだった。




 『おや? 船の者達は見逃すのですか?』

 「脅かすだけだ。……言っておくが、俺は無差別に誰でも殺す訳じゃない。ちゃんと選んで殺してる」

 『未だに私も、その指標が分からないのよねぇ……カルマ値が高い者達は殺してる事は分かるんだけど、今回はどうして逃がしたの?』

 「……気分じゃなかった」

 『結局はその時の気分なのね……』

 『主が言いたいのは、自分の行う事、全が指標。そういう事では?』

 『どこかの独裁者見たいね、それ』

 「その言い方は酷いんじゃないか? ノブレス。ベール」

 『ガウ? バウ? ワウ?』


 煙が立ち込める元、橋の上で、アルスは空中に浮いていた。

 しかし、浮いている訳では無い。それは浮いているように見えて、実際は、見えない程の細い糸の上に立って居た。


 「ベール」

 『分かりましたわ。アルス様』


 アルスがベールの名を呼ぶと、まるで滑る様に空中をアルスは移動し、監獄島の入り口に足を付く。

 監獄島の入り口の門は、分厚い鋼鉄を網目上に組んだ構造であり、剣や魔法ではびくともしないであろう事が、見るだけで理解できた。


 「邪魔だな。斬れ、ノブレス」

 ――パチン!

 『ハッ!』


 しかし、アルスが指を鳴らすと、アルスの影から現れたノブレスが、一瞬にして鋼鉄の門は斬り裂き、影に戻る。その一連の動作は、達人でも目で追う事は出来ないだろう。

 影に戻る一瞬、カチンと剣を収める音が響き、激しい金属音を鳴らしながら、バラバラと門だった鋼鉄の塊が地面に散らばる。


 「ふぅ、一瞬とはいえ、流石にノブレスの使役は体に堪える」

 『申し訳ありません』

 「いや、いい。今日までの我慢だ。そう、今日までの……クククッ」


 アルスが独りでに笑っていると、何やら先程斬り開いた門の向こう側から、黒白のボロ服を纏った十数人の男達が、音を聞きつけて現れた。


 「おい、門が開いてやがる!」

 「やったぜ! これで自由だぁ!」

 「しかし、何で急に俺達の檻の扉が開いたんだ? 魔導具でロックされてたはずだろ? それに、警備兵も監獄員も見当たらねぇ……何か不気味じゃねぇか?」

 「別にどうでもよくねぇか? 今は自由になった事を喜ぼうぜ?」

 「ん? おい、門の前に誰かいるぞ!」


 男達は、檻から解放された極悪な囚人達だった。

 今がどれだけ最悪な状況か知らされずに解き放たれた囚人たちは、これ幸いと外に出ようと考えていたが、それが叶う事は無かった。

 男達を、怪しく光る眼でアルスが見ていたからだ。


 「おや? カルマ値も高い、素材も妥協点を付けれれる。中々いいね、君たち」

 「何だぁ、お前? 殺されてぇのか?」

 「脳は使えないみたいだな。まぁ、別に要らないが……」

 「馬鹿にしてんのか?」

 「話す時間が惜しい。もう死んでいいぞ。アールエムエル!」

 「「「あ?」」」


 アルスがその名を呼ぶと、アルスの目の前に20メートル程の巨大な赤い魔方陣が現れた。


 「餌の時間だ」


 アルスがそう言った瞬間、赤い光が一層激しくなり、巨大な犬の頭が三つ、魔方陣から現れた。

 次に、巨大な腕を使って、這い出る様に魔方陣から体を抜け出し、最後に三本の尻尾を抜き出すと、アルスの前でお座りをする。

 現れたのは、全長20メートルを超えた、頭を三つ持つ、継接ぎだらけの巨大な一匹の犬だった。


 「け、ケルベロス!」

 「おい! 逃げるぞ!」

 「逃げるったって、何処にだよ!」

 「いいから獄内にだ! 走れ!」


 囚人達は、その姿を見た瞬間、我先にと獄内へと走って行く。

 その光景をアールエムエルは、うずうずしながらもお座りしていた。


 「よしよし、いい子だ」

 「ガウ! バウ! ワン!」


 アルスはまず、右側の犬の顔、【アール】を撫でる。

 銀の毛並みをしており、銀色の目が四つ並ぶ。その眼が、頭を撫でられる度に心地よさそうに目を瞑る。

 次に、真ん中の犬の顔、【エム】をアルスは撫でる。

 黒い毛並みに、首元まで避けた巨大な口を持ち、顎を撫でられる度に、喜びで涎を垂らしながら舌をだらしなく下げていた。

 最後に、左の犬の顔、【エル】をアルスは撫でる。

 金の毛並みに、大きく垂れた耳を持つ。耳の後ろを撫でられる度に、垂れた耳がパタパタと開閉した。

 最後に、アルスは金銀黒の皮が継接ぎされた毛並みを一撫でして、三頭・・に指示をする。


 「さて、この監獄島に居る囚人たちだが、仲良く囚人一人ずつ食っていいぞ! 計3人だな」

 「ガウゥ……! バウゥ……! ワオォン……!」

 「足りない? そうだな……6人でどうだ?」

 「ガウガウ! バウバウ! ワンワン!」

 「もう一声? 仕方ない、9人だ。これ以上は駄目だからな」

 「ガオォォォン! バオォォォン! ワオォォォン!」

 ――ブンブンブン!


 9人と言う言葉に、三頭は喜びながら尻尾を大きく振る。

 それによって、辺りに突風が巻き起こる。


 「交渉成立だな。だから尻尾を振るな! 後、少し小さくなれ。それじゃあ、監獄の中に入れないぞ?」

 「ガウ! バウ! ワン!」


 アルスがそう言い、アールエムエルがそろって吠えると、アールエムエルの体が光り輝き、見る見るうちに小さくなっていく。

 光が収まると、そこには、背丈が3m程になったアールエムエルの姿があった。


 「そうだな。それなら通れるだろう。では、食ってきていいぞ。言っておくが、好きにしていいのは9人だ。それ以外は喰わずに殺し、ここに積み上げるんだぞ? あと、子供は殺すな。いいな?」

 「ガオォォォン! バオォォォン! ワオォォォン!」

 「よし、では行って来い」

 ――シュダッ!


 疾風のようにいなくなったアールエムエルを見送った後、アルスは薄ら笑いを浮かべながら、監獄の中に入って行く。

 監獄内からは、絶えず絶叫と遠吠えが響き渡っていた。

 

消しカスくらいどうでもいい設定。(=×ω×)ノ

リック 明日、結婚式だった。

アルト リック夫妻の為に、高い祝い酒を買っていた。

ジーク リックとジークに明日、賭けの付けを払うはずだった。

マルコ 最近、彼女が出来た。

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