第六章三
アルカナを討伐し、セフィロトを離れたマァイ・ヴァジャノーイは、アニタたちとともにサイトロンドームに向っていた。針葉樹林を抜け飛行編隊をとった。途中何匹かの飛行タイプの蓋外性生物に遭遇し撃ち落としていた。安全より今は時間が重視されていた。
アルカナのシステムダウンを合図に、メインドームではマリーナが元老院を掌握し、新しい国家の設立を宣言しているだろう。メインドームから迎えの合流部隊がサイトロンドームに向っているはずだった。
アルカナが最後に語ったこと。セフィロトの地下にあったもの。
自分たちに進化をもたらす〝異性〟は、マァイが考えているものではなかった。ただ遺伝子を取り出す為だけの醜く矮小な存在だった。アルカナは〝男〟の性に、それ以外の存在価値を見出していなかった。
――だからあんな醜い姿で。
バイオ溶液につかった〝男〟は、遺伝子を取り出すために、生殖器だけが成長した醜悪な姿をしていた。
――あれは人間なんかじゃない。
〝異性〟の存在に期待したマァイは、裏切られた気持ちになっていた。ただアルカナの選別によって〝男〟から必要な遺伝子が取り出され、コールドスリープした女に機械で注入されていただけだった。自分の身体の中にもあのおぞましいものの血が流れているのかと身震いする。
飛行速度を上げると、スイードの塵がバイザーにまとわりつき視界をさえぎった。
――だが……。ただ一人だけ〝男〟として成長したあいつならもしかして……。
スイードの濃度が徐々に薄くなり視界が鮮明になる。不毛の荒野にぽつんと建つ目標の建造物の異変にマァイは気がついた。
「なぜ? 開いている」
すかさず後方を飛ぶアニタから通信が入る。
「妙な反応があるね。何十体も一箇所にかたまっている反応。けけけ」
ダアトのインセクトサーチは、サイトロンドーム内の一点で、蓋外性生物が複数集中して存在していることを検知していた。マァイは全員の降下を指示した。アルカナが無力化され蓋外性生物に襲われたのだろうが、なぜドームの天井が開かれているのだろう。
「アニタ。様子がおかしいわ。ドームに着く前に合流部隊へ行って。あそこに近づかないほうがいいわ」
「あんたはどうする?」
「生き残って賛同するものがいないか探す」
「なんでぇ? 生き残ってたとしても、あいつらどうせみんな怪物になるか食い破られて死ぬんやろ? アルカナも言っとったやろ。食事にパラサイトを混ぜてたって。けけけ」
マァイはゆっくり降下するアニタらを見送りながら通信を送った。
「本当に怪物になったかこの目で見たいの」
マァイはひとりサイトロンドームの外壁に沿って歩いていた。ダアトのインセクトサーチによると、何十体も重なった蓋外生物の反応が、一体となってドーム内を激しく動いていた。マァイは戦闘に備えヘリオスーツの装備を念入りに確認し、非常入場口よりサイトロンドームに侵入した。
サイトロンドーム内の空気は、重苦しく湿っていた。開いた天井から間断なくスイードが降り注ぎ重苦しさに拍車をかけた。
マァイは通信機材のコンテナの影から、恐る恐る顔をのぞかせた。
「何……? 人間??」
立ち尽くすエイル・アシュナージの頭に、振り下ろされようとした巨大な鉄槌を、飛び出したゴアテアが防いだ。蓋外性生物の死骸は、巨大な肉の人型を形作りエイルたちに襲い掛かった。寸でのところでゴアテアが、人型の片腕に取り付き防いだ。ゴアテアの巨躯をもってしても彼が子供に見えるくらい人型は大きく、力比べに押されジリジリと後退する。両腕に渾身の力を込めるゴアテアが、人型の左腕一本に身体を沈めさせられている。顔にあたる部分の表情はなく、ただ人型の身体じゅうにあるコックローチやマンティスの死骸の眼が全てエイルを見ていた。
――自分が狙われている。
「アン! アレフさんを連れて離れろ!」
「あぇ……。う、うん」
エイルの言葉に反応し、アンがアレフを抱えてドームの端の方へ走った。同時に、硬いものがひしゃげるような衝撃音が響き、ゴアテアの巨体が弾かれたように飛ぶ。重力を無視し、ゴアテアの身体が水平に飛びドームの壁に激突する。人型の右腕が、ハエたたきのように平手で造作なく巨体を飛ばし排除した。
人型の身体中の眼がエイルを見ている。感じることができる。全て同じ意識を持っている。真っ黒に染まった人間の原始的な感情。全ての眼は仲間を見つけたように、エイルに視線をつきたてた。
――わたしにもわかる! ああ!
エイルは目を閉じた。まるで頭から触角が伸びたかのように、敏感な感覚がその感情とシンクロする。人型の頭の中に脳幹のような形になってストローイの感情が収まっている。
――か弱き人間ども!
目を開けると、人型が両手を組んで頭上に振り上げていた。
エイルは自分の太ももに意識を集中した。まるで自分の身長の何倍でも跳ねる、バッタのような力がみなぎるのを感じた。力を解放した瞬間、身体はドームの天井にぶつかりそうなくらい飛翔し身体を反転させ足をついた。はるか眼下で、人型の巨大な拳が地面を打ちつける。
天井に足をつけたエイルは、つま先に力を入れた。鋭利な感覚が足先に走り、カナブンの足のように伸びた爪が鉤爪となりドームの天井を捉えた。そうしてエイルは天井にぶら下がりながら、頭部から伸びた触角のような感覚でストローイの気配を探った。
――人間をくらえ!
無防備にさらされた人型の頭部の中に、スロトーイの身体は赤子のように丸まっていた。
エイルはドームの天井から足を離した。身体を伸ばすと、まるで背中に蝶の羽が生えたようにゆっくりと宙を滑空する。人型が上空のエイルに気づき顔を上げた。
エイルは右手に力をこめた。その手刀はスズメバチの毒針のように鋭く硬度をもち、一気に人型の額をめがけ急行下した。頭部に着弾する前に、人型は右腕をかざしそれを防ぐ。エイルの手刀は、人型の二の腕あたりに深々と突き刺さった。
人型が右腕を水平に振りかぶると、エイルの手は抜け、ドームの壁に向って一直線に向って飛ばされた。
全身に力を入れたエイルの身体は、クロカタゾウムシのような硬度を手に入れた。エイルの身体はぶちあたったドームの壁にヒビをいれ、直下にあったコンテナを潰し瓦礫の山に変えた。もうもうと立ち込める粉塵の中、何事もなかったようにエイルは立ち上がった。
――どうしたの?? わたしの身体……。
エイルはまじまじと両手のひらを眺めた。ずっと見ていると自分の身体でないかのような感覚が湧くが、肌色の五本の指は変わっていない。これだけの衝撃を受けたのに痛みを感じない。まるで思った通り、エイルの意思を受け身体の各部分が役割を変えているようだ。だけど今、手も足も、胸も……そのほのかな膨らみを失った以外は、上半身がボロボロにはだけたインナースーツで露出した 身体は、なんら変化していることはなかった。
身体は。エイルは目をつむり自分の心のなかに意識を向けた。
――わたしは人間……。なの?
超空間通信機の陰までアレフを担ぎ、ほっとしたアン・コモリは、額に流れる汗をぬぐおうとして自分がヘルメットを装着していることに気づいた。
口調は乱暴であったが大人になって初めてエイルは自分の名前をちゃんと呼んでくれた。
胸の奥がジンと熱を帯び、ずっと暖をとっていたくなるような愛おしさが身体の中にしっかりと存在感を持つ。
アレフを安全なところに横たわらせる。さっきエイルは、このインセクターを「お父さん」と言った。
エイルの母カトレアがずっと片親だった。
カトレアがアンの母親たちに内緒だと言いながら、自分はキベルの第一期生だったと語っていた。
一筆書きの絵がアンの中で繋がりそうで繋がらない。
――あたし考えるの苦手だし。
アンの思考を完全にストップさせる光景が展開されていた。巨大な肉の人型に向って、エイルの頭から触角が伸びた。人型の拳を避け、エイルの脚は伸び曲がり、膂力を地面にぶつけ天井まで飛び上がった。天井にぶら下がったと思うと、突然背中から一対の鮮やかな羽が現われ滑空する。右腕がひじから先が巨大な針になり、注射針のように人型の腕に突き刺さった。最後、吹っ飛ばされたエイルは、壁にぶつかり、つぶれるどころかむしろドームの壁を壊した。
そして今、平然と瓦礫の埃を払いながら立ち上がる。その姿は何も変わらないエイル。
いや……違う……。いつも間にか胸のふくらみはなくなり、曲線のないその身体はまるで本当のアイン・ソフ神のよう。あっけにとられるアンの傍ら、アレフが身体を起こした。
「我々は、長い時間をかけてそれぞれ昆虫に身体を擬態させた……。それが彼は自分の意思で自在に必要なときだけ瞬時に擬態できるとは……。受け継いだものが、新しく入ってきたパラサイトを統率しているのか」
アレフの言う意味をアンは理解した。
――エイルはもしかして、私たちよりこの人に近いのかもしれない……でも。
エイルの姿に、アンの胸の奥の愛おしさは優しい暖かさから煮えたぎる炎に成長し身体を焦がした。
止まらない汗、うずく全身。それがエイルに対するあふれる愛おしさなのか、それとも別の何かなのか。アンは必死にエイルの姿を追い続けた。
――どんな姿になってもエイル。あたしも。
マァイ・ヴァジャノーイは二つの人型を見た。ひとつは蓋外性生物の死体が集まって形作られた巨大は人型。頭と両足と両腕を持つが、それは数十のコックローチとマンティスの死骸が集まったぐちゃぐちゃの身体が、肉団子のように集まっているだけだ。ダアトのインセクトサーチによると、死骸を無数のパラサイトが結合子となって結び付けており、それを操っている念波が人型の頭部から検出されていた。
そしてもう一つの人型は、マァイと等身大の身体で巨人に立ち向かっていた。その頭からは、探るような触角が伸び、強靭に発達した脚は重力をまるで無視し、背中に現われた羽は空中を優雅に滑空し、突き出した右腕は鋭い針になった。瓦礫を掻き分け立ち上がった姿は、何事もなかったような人間の姿だった。だが、自分たちとは違う。身体には動きを邪魔するような丸みはなく、隆々とした無駄のない筋肉の鎧を身に着けた姿だ。
「エイル……」
マァイはヘリオスーツのヘルメットの中、忌々しげに呟いた。アルカナが言っていた通り、もうその姿は……。インセクトサーチで解析すると、エイルの身体の中には大小様々なパラサイトが存在していた。
もともと遺伝的に持っていた多能性をもったあのパラサイトが統率する形になり、後天的に獲得したパラサイト――おそらくキベルの食事に混入されていたもの――とともに細胞を瞬時に変化させ、身体を望む昆虫の一部に変えていた。だが役割を終えるとそれらは直ぐ人間のそれに戻った。人型に対峙するその凛々しい姿は……。
その姿にマァイの心には、惹かれる想いが瞬時に燃え上がり火炎を生じた。だがだんだんとその火炎が、燃料を失いくすぶるように鎮火した。
――やっぱり〝男〟など……。あれはもう、人間じゃない……。
身体に起こった異変を、じっくり確認することもできず、エイル・アシュナージは脚力を使い飛翔した。先ほどの針の一撃で、損傷した右腕を引きちぎり、人型が投げつけてくるのをかわす。失った右腕も、直ぐに足元にある蓋外性生物の死骸から部材を補充し修復される。何度か急降下攻撃を繰り返すも、頭部は守られ再生可能な身体を傷つけるだけ。暴れ周りながら人型は、だんだんサンディたちが避難したシェルターに近づいている。
――きりがない……何とか一瞬でも隙があれば……。
エイルは、当たり前のように蝶の羽をひらめかせ、人型の上空を漂っていた。
アン・コモリは、うめきながら立ち上がろうとしたアレフの身体を支えた。肩からとめどなく流れる血は止まらず、赤い血は自分たちと同じ。
「ゴアテアは……?」
エイルは先ほどから上空を漂い、人型の隙をうかがっていた。
ドームの反対方向の壁に目を向けると、うずくまった黒い塊がもぞもぞと動いているようだ。
「大丈夫。ゴアテアさん。何とか動けそぉ」
そう言って再びアレフを寝かせた。
「エイル……何とか援護しなきゃぁ」
もどかしげな上下の動きでエイルが焦っているのがわかる。アンはヘリオスーツの機能を確認した。
アルカナは反応せず、兵装もガス切れで使い物にならない。それよりもあちこちガタがきていて、さっきアラート音がうるさいから切ったのだった。
でも、早く寄り添いたい。あのエイルの身体に一刻も早く。身体を焦がす炎がエネルギーを供給し、心臓がトクン、トクンと早鐘を鳴らせた。
――でもだめ。スーツが……。いえ……。
アンは激しいめまいを感じ、うずくまる。ヘルメットのバイザーを、曇らす激しい呼気が打ち付けた。気持ちばかりが、離れたがって身体が動かない。
――あたしの身体は……だめみたい……。せっかくミロが助けてくれたのに……。
アンはアドナイが大事にしていたうさぎを思い出した。
――あたし、あのうさぎみたいになりたかった。
そうしたらエイルみたいな身体になって、いつまでも寄り添っていられるのに。
アンは混濁する意識のなかで、離れていくエイルの身体を追った。
マァイ・ヴァジャノーイはセルフェスで時刻を確認した。メインドームからの合流部隊がそろそろ到着する時間だ。アニタを先に行かせ、合流地点を変えたのは正解だ。こんな怪物たちに関わる必要ない。マァイは踵を返し合流地点に向おうと視線を切った。視界の端に、羽を生やし上空をただようエイルの異形の姿を捉えた。
――あいつはもう人間じゃない。
マァイはそう思いながらも、一歩を踏み出せないでいた。心の奥にくすぶる燃えカスがわずかに熱を持っていた。
――あの、凛々しい姿。
「……思い出した。そう言えば、あいつとの約束あったんだ」
マァイはわざと自分に言い聞かすようにひとりごちた。踏み出そうとしていた足を反対に向け、暴れる回る人型にレーザプロセスの照準を合わせた。ダアトのインセクトサーチで人型から発する念波を分析しながら、焦点をあわせる。その時、インセクトサーチが人型の中に見覚えのある反応を捉えた。
「これ……? 何? ……なるほどね」
マァイは構えていたレーザプロセスを降ろして、セルフェスから浮かび上がった起動ボタンに軽く触れた。
投げつけられる瓦礫や死骸の破片をかわしながら、エイル・アシュナージは飛翔した。
上方からは人型にスキがないのと、ドームへの損傷を心配したエイルは地面に降り立ち人型と対峙した。
人型の無数の眼がエイルを凝視する。
何百という感情が空気を響かせエイルの耳朶を打つ。
――苦しい、妬ましい、憎い、人間……。
――弱い、弱い人間をくらう!!!!
人型は両手を上げ、エイルを捉えようと飛び掛った。人型の頭の一点に意識を集中する。右腕をスズメバチの針に変え、目をつむり向ってくるどす黒い意識の中心に向って、跳躍しようとしたその時。
刹那、空気に波が走った。
どす黒い意識が、ガラスにヒビが入るごとく細かく別れる。目を開けると人型が脚をもつれさせこちらに倒れてくる。いや、脚がもつれているのではなく、脚がなくなっているのだ。死骸のつながりが解除され人型の身体全体が崩れる。だがついた勢いはそのまま、雪崩のようにエイルにおおいかぶさってくる。
何百体の蓋外生物の身体の質量がエイルにふりそそいだ。うつぶせに倒れた上に、どんどん圧し掛かる重みに身体がうごかせない。息もできない。戦闘でおった体中の傷が押し広げられるように痛む。息苦しさと激しい痛みに意識が揺らぎ遠のく。
――わたし、死ぬかも。
「おきるんだ。エールよ」
思い頭を持ち上げ、声のほうに顔を上げると暗闇にむこう三人の人影がみえた。中央にいる白衣を着た人物が呼んでいる。
「あなたは……誰?」
「君のお仲間の頭のなかにいた者だ。それよりお前に紹介したい者がいる」
白衣の人物の両側にいた人影が一歩前に進み出た。白衣の人物は背の低い人影の肩に右手をおいた。それはキベルに捕虜とされていた、コックローチ型のインセクターだった。
「彼は幼いころ人間にさらわれ、実験体にされようとしていた。助け出されたてあともその時の恐怖と苦しみから、人間を憎しむようになっていた」
白衣の男は左手を背の高い細身の人影の肩に置いた。先ほどまでエイルが戦っていた、ストローイと呼ばれるマンティス型のインセクターだ。
「彼は狩猟が得意で、一族を率いる自信があった。だが一族の長に軽率な行動をとがめられ、長を恨むようになった。理不尽におさえつけられた恨み、それが長の大事にする人間への敵意に昇華していった」
白衣の人物は二体のインセクターの肩を押した。
エイルに向ってゆっくり歩き出した二体は、混ざり合うように一つの人影になった。這いつくばるエイルの前にたった人影は自分と同じ顔をしていた。
「やっと会えたな」
「あなたは誰?」
「お前はおれだ」
「わたし?」
人影は漆黒で筋肉につつまれたしなやかな体をしていた。自分と同じ顔をした人影は続けた。
「そうだ。おれはお前が自分でおさえつけていたお前だ。チビだといじめられた憎しみと母におさえつけらえた恨みのかたまり。それで無理やり女として育てられたのがお前だ」
人影に差し出された手をつかんでエイルは立ち上がった。
手を触れてわかった。
これはわたしだ。
姿だけみて『片親チビ』とはやし立ててくる人間たち。
折に触れ干渉し偽りでおさえつけ理不尽を押し付け続けた母。
人影がにやりとわらった。
――わたし、こんなにいやらしく笑うんだ。
漆黒の人影がだんだんうすくなる。触れ合う手から真っ黒の感情が流れ込んでくる。
「エール! それがお前だ!」
白衣の人物が高らかに嗤う。
澄んだ水面におとされた墨汁のように漆黒の感情が広がる。
――わたしは……おれは……。
――わたしは人間じゃないの?
――おれは人間を超えた。
「不完全な人間にとってかわり、この星の支配種となるのだ。エールよ」
白衣の人物は背をむけかき消えた。
全身の傷口からどんどん注ぎこまれ、全身が真っ黒に塗られているようだ。
――わたしが消えて行く。
肉塊の海の中、必死に身体を動かす。
伸ばした右手が温かい何かに触れた。そこにある小さな感情に手を伸ばした。
――そこに誰かいるの?
右手の針はいつしか手のひらにかわり、何かをつかもうと伸ばした。
『わたしたちは同じ』
確かにそれをつかんだエイルは、肉塊をかきわけ立ち上がった。
――わたしも同じだよ。