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ラウン・リシュレの試練?〜大事な事は何かしら?〜

 芽吹いたばかりの緑の中、山の麓へと到着するラウンとリシュレ。

 リシュレの悲鳴や、カエルの命の水騒ぎの為に、

 大目の休憩が余儀なくされていた。


 通常より倍以上の疲労感の為か、ラウンの言葉数も少ない。

 麓の村が近づいているのに、リシュレがまた悲鳴をあげた。


「もう歩けませんわ!

 どうして乗合馬車を見過ごす必要がありまして!?」

「経費節約」

「そんな事どうでもよろしくてよ!」


 近くの大きめな石の上にリシュレがハンカチを敷き、座り込む。

 またか。と、ラウンは溜息を吐き立ち止まった。

「野蛮ですわ。この私をこんなに歩かせるだなんて、

 だから庶民はイヤですのよ」

「庶民関係ないですー。館にいたら皆平等なんですー」


 リシュレは足をさすりながら、ラウンを睨みつける。

「私はあの村で待ってますから、一人で行って来るがいいわ」

「……ディリアズ様の話聞いてた?

 あの箱を手にしたなら、もう誰の手に渡してもいけないんだよ」

「同じお使いですもの、関係ありませんわ」


 誰が監視してる訳でもありませんし。

 とリシュレが呟く。

 それでもラウンは首を振った。

「ダメったら、ダメ。その方があたし的に楽だけどダメ。

 能力で細工がしてあるからこそのセリフだと思うし」


 考えられない話ではない。

 鍛冶屋のアデレに渡した時、もしくは『違う誰か』が触った瞬間、

 何が起こるか分からないのだ。


「あの村まで行ったら、美味しい物食べようよ。

 そろそろお昼だしさ」

「仕方ありませんわね。こんなお使い、受けるべきではありませんでしたわ」

 リシュレは重そうに腰を上げ、渋々歩き出す。


 朝が乾パンだけだったせいか、美味しい物につられたのだろう。

 麓の村は間近である。



  **********



 ラウンとリシュレが、館を出た直後。

 味気ない白壁の先導士室で、留守番三人組が立ち並んでいた。

 まとめて呼び出された為か、緊張の度合いは計り知れない。

 いつも通りのディリアズに、三人とも心なしか青ざめている。


 しかし、このままでは埒があかないと、

 第一声を発したのはカナンであった。

「ディリアズ様。またマーシャが何か事を起こしたんですか?」

 突然の投げ石に、マーシャが愕然とカナンを見つめる。

 スピアですら、マーシャに向かって溜息を吐く。


「ななな何よ、皆して! それって、酷くない!?

 まだ何もしてないじゃない!」

 マーシャの、あまりにもな狼狽振りが怪しさ満点ではあるのだが、

 とりあえずディリアズは『まだ』の部分を聞き流す。


「そうではないのですよ。実は皆さんに頼みたい事があります」


 その柔らかい声に、三人は不思議そうな顔をする。

 我らトラブル五人組、正式な頼み事など初めての事だ。

 その内二人は、すでにお使いに出発している。

「他でもありません。実はラウンさんとリシュレさんに渡した小箱なのですが、

 間違えて渡してしまったので、回収してきて貰いたいのです」


「回収、ですか?」

 カナンは腑に落ちない表情で、聞き返す。

「ええ、といっても交換なのですが」

 ディリアズはそう言って、新たな小箱を二つ机の上に乗せる。


 部屋の中は静まり返り、少し悩んだカナンが二人に目配せした後、

 言いにくそうに口を開いた。

「あの。質問があります」

「どうぞ」

 眼鏡越しだがまっすぐ見つめてくる、紫の瞳。

 更に少しだけためらい、しかし意を決したように問いかける。


「噂なんですけど、教室内で二組に分けて、

 試験を行うそうなんですが、コレですか?」

「……カナンさんは正直ですね。その通りです。

 ではラウンさん達もご存知でしょうね」

 カナンは首を横に振る。

「いえ、知らないと思います。聞いたのは先導士室に来る少し前ですし、

 ラウン達は『ディリアズ様のお使い』だと言ってましたから」


 それを聞き、ディリアズが微笑した。

「いいでしょう。では言葉を変えましょうか」


 先程の小箱を机の上で滑らせ、三人の方へ寄せる。

「これと同じ箱を二人は持っています。

 どんな手を使っても構いません、

 交換して私に持って来る事が出来たら……」


 笑顔を崩さず、人差し指で眼鏡を少し持ち上げ直す。


「あなた達の勝ち。試験は合格です」


 スピアが、小さな声で尋ねた。

「……ラウン達は、どうなるの?」

「もちろん不合格で、結果に沿った補習を行うだけですよ」


 部屋に冷気が充満する。

 マーシャの目が輝き、意欲に燃えている証拠だ。

 二人は彼女から離れ、小箱を受け取った。

「ラウンに腹いせするチャンスだわ!」

「心の声が出ていますよ、マーシャさん。

 あなただけ謹慎でもいいんですよ」


 ガッツポーズのまま、文字通り凍り付く。

 カナンが頭をこつんと叩き、表面の氷を落としてやった。


 ディリアズが、ラウン達と同じように金の入った皮袋を、

 カナンに手渡す。

「これは当座の旅費です。余ったら三人で分けて良いですよ。

 彼女達は山向こうの町、ファーカスに向かっています。

 その町に着く前に交換して下さい」

「分かりました。もう陽も暮れてますし、明日早くに出発します」


 ラウンとリシュレが大騒ぎして出て行ったのは、ついさっき。

 今から出た所で、闇の森をスピアが歩くのは危険だろう。

 ディリアズは快く承諾する。


 どうであれ、ファーカスに着く前に交換出来れば良いのだ。


 先導士室から出てすぐに、マーシャが抗議する。

「どうしてすぐに出発しないの! 追いつけなくなるわよ!」

「あの二人なら、下の町に絶対宿取るで大丈夫だわ」


 カナンの言葉に、マーシャは地団駄を踏む。

「そうじゃなかったらどうするの!?」

「そんなら聞くけど。あのリシュレが宿取らんと思うの?」

「……思わない」


 口論はすぐに決着がつく。

 黙らずを得ないマーシャを放っておいて、カナンはディリアズの言葉を、

 心の中で反芻させていた。


 違和感はずっと残っているが、それを隅に追いやって、

 陽が昇ると同時に出発する。

 万が一にも、間に合わなくなったら意味がない。


「ねぇ、カナン。やっぱり夜の内に出ないと間に合わなかったんじゃない?」

「何言っとるの! 安全第一!

 そんな心配なら、先に行って馬車でも捕まえといてくれん?」

「……マーシャ、ごめんね」

 半分も下っていないが、すでにスピアの息があがっている。


 スピアの謝罪に、カナンは無言でマーシャに圧力をかけた。

 あからさまに、失敗した。とマーシャが顔色を変える。

「違うの、違うのよ! スピア! 私はただ……」

「馬車の確保」

「了解です!」


 身振りも激しく説明しかけたマーシャだったが、

 カナンの厳しい一言に、踵を返して緩やかな勾配の森を

 駆け足で下っていった。


「……カナンも、ごめんね?」

「スピアが気にする事ないの! 使えるモンは、何でも使えってね。

 スピアも覚えときんよ」

「……うん」


 カナンのとんでもない言葉を、スピアは素直に頷き微笑する。

 それに気を良くしたカナンは頷き返し、

 スピアの速度に合わせて歩き始めた。


 途中で走り疲れたマーシャを拾う事になるだろうと思っていたカナンだったが、

 良い意味で期待は裏切られる。

 マーシャは、なんとか馬車の都合を付ける事に成功していたのだ。


「どう? 私だって、やる時はやるんだから!」

 馬車の前でふんぞり返っているマーシャ。

 実際、さほど時間も違わなかったのだが、

「マーシャ偉い! まさか出来ると思わんかったで、

 ちょっと感動?」

「……マーシャ、すごい! ありがとう」


 礼を言われたり、褒めそやされたりするなんて館に入って、

 初めての事ではないだろうか。

「嬉しいと……本当に涙が出てくるんだね」

 マーシャは溢れてくるものを、しきりに拭い続ける。


 それを気にも止めない様子で、二人は先に馬車へと乗り込んだ。

「おい、嬢ちゃん!出発するぞい!」

 御者さんが、さすがに痺れを切らして声をかける。

 泣きじゃくり、見えづらくなった目をこすりながら

 馬車に乗り込むマーシャ。


 カナンは少し後悔していた。

 そこまで感激してくれるとは思わなかったのだ。


 もし馬車を確保してもしなくても、盛大に褒めそやしてやれば、

 また頼み事したいときに、気前よくやってくれるからね。

 と、スピアにも教えておいたのだが……

 二人とも気まずい思いで、正面に座ったマーシャから目をそらした。


 馬車はのんびりと山の麓へと走る。

 運が良いのか悪いのか、休憩中の二人を追い抜いて。


 三人とも朝が早く、疲労もあってか眠ってしまっていた。

 乗るつもりのなかったラウンと、馬車を呼び止めようとするリシュレ。

 二人で力比べをしていた為、馬車に誰が乗ってるかまで気にする暇はない。


 唯一、安全な場所に避難したカエルのみ、

 初めて見る大きな動く物体をしげしげと眺めたくらいか。



  **********




 山の麓にある村にしては、活気がある。

 お昼時な為か、そこかしこからする良い匂いに誘われ、

 リシュレの荒んだ口調が和らいだ。


「アレあるかな! アレ!」

「絶対ありますわよ! 見つかりましたら、休憩はそこで決定ですわね」

 目を輝かせる少女二人。

 疲れた身体を押してでも、食べ物屋をくまなく覗く。


 一軒、『アレ』を置いてある店があるにはあった。

 白い壁に、間口の広いオープンテラス。

 ピンクと白で縞に塗られた日よけに、テーブルクロスもピンク一色。

 その上には細く白い一輪差しが置かれ、中の花もピンクだ。

 結構流行ってはいるようなのだが……


「目が覚めるようなお店ですわね」

「でも、アレはここにしかないみたいだよ?」

 いくら女の子でも、殺風景な館に慣れてしまった感覚は、

 少なからずも拒否反応を示す。


「あら〜お客さ〜ん? いらっしゃ〜い!」

 語尾の長く背も高いオネーサンが、

 恐る恐る近付いて来る二人を見つけてしまった。

「あの、はい。出来れば目立たない場所は空いてませんか?」

 逃げられないようにか、痛いくらい二人の腕を掴んで、

 引っ張り込まれる。

 ラウンは、とりあえずオネーサンに悪気はない事を読み取り、

 店の奥にある席に案内してくれた事に安堵した。


 ピンクの髪をしているオネーサンを、見て見ぬ振りをし、

 ラウンは目当ての物を注文する。

「えと、スペシャルフルーツパフェと、チキンとラズベリーのサンド!」

「私もパフェとサンド同じ物を。後でふわふわショコラケーキのフルコース盛り、

 それに、ミルクティーのお砂糖多めでお願い出来ます?」


 リシュレの頼み方に、ラウンが皮袋を握りしめた。

 文句を言おうと口を開くよりも早く、カエルがポケットから飛び出し、

 大きな目をキラキラさせながら叫ぶ。


「命の水〜!たくさん〜たく……」

 ラウンは慌てて、カエルを掴みポケットに押し込んだ。


 オネーサンと二人の間に、気まずい空気が流れる。

 他の客はとりあえず気がつかなかったようだ。

 オネーサンがキッチンの方を確認し、店長が気付かなかった事に安堵する。

「ホントはね〜ペット持込禁止なんだけどぉ〜

 その子、紅人でしょ? カエルだけど〜」

「すみません! 絶対にポケットから出しませんし、

 あたし達教会の者が監視しますので。お許し願えませんでしょうか?」


 目を大きくして一瞬黙るオネーサン。

 しかし、二人に顔を寄せパッチンと色っぽくウインクした。

「大丈夫よぉ〜? だってワタシも、紅人だもん!

 黙っててあ・げ・る!」


 色っぽいし、その仕草もとても似合ってはいるのだが……


 ラウンが同じように小声で疑問を投げかける。

「なんで、分かったんですか? ほぼ教会と同じ修道服着ているのに」

「何言ってるの〜! ワタシもぉ、館で育ってるのよぉ?

 修道着を見間違うワケ、な・い・の!」


「失礼を承知で伺いますけど、あなた男ですわよね?」


 ラウンが敢えて聞かないでおいた事を、脈絡もなくリシュレは普通の声で聞いた。

 突然の事にラウンは飛び上がるほど驚き、信じられないモノを見る目でリシュレを射抜く。

 リシュレはこちらの事など、見てもいなかったが。


 しかし、オネーサンは肯定も否定もせず、ただ朗らかに笑った。

「あなたじゃなくて、シュガーちゃんって呼・ん・で?」

 シュガーと名乗ったオネ……ニーサンが、

 ちょんと人差し指でリシュレの鼻を触る。


 触られてもいないラウンまでもが、鳥肌に苦しむ。

「二人とも、スペシャルフルーツパフェとチキン・ラズベリー。

 ミルクティー砂糖多めでお願いします」

 話を逸らすかのように、ラウンが注文をまとめた。

 それに対して、リシュレが猛反論を始める。


「ショコラ盛り合わせが足りなくてよ」

「お金がないんで、それだけで」

「先程の馬車代分があるでしょう」

 相手にしないラウンに、怒りを露にするリシュレ。


 二人とも、ここは譲れない。

 ポケットからも、モゴモゴとアピールしている。


 結局は、ラウンが折れる事にはなった。

 宿が浮いた分もあるが、自分もミルクティーが飲みたかったのもある。

 リシュレが注文した事で、自分も便乗した事を言い返せなかった。


「……は〜い! お待ちくださ〜い」

 なにやらメモし、お尻をフリフリ歩いていく。

 ピンクの衣装で、丈は短い。


 見た目はナイスバディ&美人さんな分、勿体ない気がする。

 甘い物メインで売ってる為か、ピンクに彩られているせいか、

 男性客は見当たらない。


 シュガーちゃんが、すぐにキッチンから出てきて、

 サービスよ。と、水と魚の切れ端をカエル用に置いていってくれた。


 とても気が利く彼女(?)だ。

 男なのが、やっぱり勿体ない。


 


 しばらく辺りを伺っていると、見覚えのある雰囲気の三人組が目に入る。

 自分達は奥の席にいる為、相手は気付いていないようだ。

「リシュレ、絶対振り向いちゃダメだよ? カナン達が外にいる」

「何仰ってますの? いるわけがないでしょう?」


 遠慮なく振り返るリシュレ。

 大慌てで諌めようとしたが、遅かった。

 いくらなんでも、こんな格好した者が大きく動けば、目に付きやすい。


 案の定、カナンが気付いたようだ。

 何事か二人に話し、意を決したようにピンクの店に踏み込んできた。

「甘い物につられるら〜って話しとったら、大正解じゃん」

 三人は、隣の席に陣取りメニューを広げだす。


「ラウン達って、何頼んだの?別の頼むから、分けっこしようよ!」

 マーシャがメニューを広げたまま、ラウンに押し付けてくる。

 それを軽く追い返してから、ラウンが警戒心を露に聞く。


「何でここにいるの?」

「ディリアズ様に頼まれたんだわ。

 あんたらに渡した箱が間違ってたで、交換してきてくれって」


 店内は騒々しいほどであったが、この空間だけ異空間に放り込まれたのではないか?

 と思うほどの沈黙がおりた。

 その中で、リシュレが最初に口を開く。

「残念ですけど、間違いであれ渡すわけにはいきませんわ。

 誰にも触れさせるなと、厳命されてますもの」


 シュガーちゃんが、再度注文を聞きに来てくれ、

 彼女(?)が立ち去った後、カナンが顔を寄せ小声で話そうとする。

「あの方は、男性ですわよ」

 先手を打って、リシュレが勝ち誇ったように胸を張り、宣言した。

 カナンは二度まばたきをして、呆れた声を出す。

 何か違和感あると思ったら、左まつげが黒く塗られてるせいか。

 と、ラウンは納得したが。

「どう見てもそうだら。そんなのどうでもええわ」


 ラウンは彼女達が本物である事には、看破済みである。

 だとしたら、この状況はどうなのだ?

 ディリアズ様からの緊急の用なのではないか?

 考えの中、違和感が侵食していく。


「いいで、聞きや〜。私らは『この箱』を交換する様に言われとるんだわ」

 ラウン達が持っている物と、寸分違わない作りの小箱を机に乗せる。

 さすがにスピアが息を飲み、マーシャが声を荒げた。


「ちょっと! それじゃ試験にならないじゃない!」

「……なに、それ。試験って何?」

 ラウンが聞き漏ら巣事なく問い返し、マーシャに視線が集まる。

 真っ青になって、うつむいてしまうマーシャ。

 カナンが溜息を吐いて、話を続ける。


「まぁええて。喋っちゃかんって言われとるわけじゃないし。

 よく聞きんよ? これは試験なんだわ。

 あんたら二人が、無事送り届けられるか。

 もしくは、私らが交換できるか」

「じゃあ、カナン達は敵っていう事?」

 ラウンが立ち上がる事なく、つり目を更にきつくする。


 立ち上がって逃げるべきか。とも思ったのだが、まだ何も食べていないのだ。

 リシュレも同じ理由だった。別の理由では、まだ足が痛い。


「そう思ってたんだけど、違和感が拭えんのだわ。

 だで、あんたらが聞いた話を聞かせてくれん?」

「そっちが先に言えば?スピアには悪いけど、

 あたし達はまだ皆を信用出来てない」


 カナンは、至極もっともだと頷き、話し始めた。

 それを聞き、ラウンもディリアズの言葉を間違えないように繰り返す。

 二人で話をすり合わせていき、最終的には納得のいく物が出来上がった。


 その間にも、料理がぞくぞくと運ばれてきては、残り三人がたいらげていく。

 悪巧みは、二人に任せておけば後のフォローも安心なのだ。

「……そうだね。とにかく、それしか手はないわけだ」

「こんな簡単でいいのか正直不安だけど。最良だと思うわ」

「じゃあ、イレギュラーがあった場合は、その都度対応という事で」


 二人はがっちりと手を組み、はたと気がついた。

 頼んだ料理はほぼ完食状態。

 ラスト運ばれてきたミルクティー。

 カップが皆の分あるという事は、同じように頼んだのだろう。


 さすがに怒りが込み上げてくる。

 金を払うのは、誰だと思っているのだ!

 チキン・ラズベリーサンドのみ残っている。


「甘くない。全然、甘くない」

「足らないのでしたら、注文したらいかが?」

 ラウンとカナンで半分ずつ分けて食べる事にしたのだが、

 ラウンの呻き声に、リシュレは満足そうに答えた。

「そうそう! 今食べておかなくて、いつ食べれるの?」

 マーシャまで冷たいミルクティーを堪能しながら、口を挟む。


 カナンがマーシャに告げた。

「マーシャ。あんたが食べた私の分、自腹でよろしくね」

「ええ!? お金持ってきてないもん!」

「じゃあ、後払いで。断固として取り立てるから」


 小さな悲鳴は雑踏に消える。


「リシュレ。あたし、お金ないって言ったよね?

 今後、帰るまで乾パンと水だけだから」

「なっ!? 横暴ですわ! 食事は早い者勝ちと決まってるではありませんか!」

 ラウンがにっこりと笑う。

「そうだね。でも、その考え方ってば庶民だよ?

 良かったね。庶民に浸れて」


 リシュレは、耳まで真っ赤にし大声で叫ぶ。

「侮辱ですわ! そんなにお金が大事でしたら、

 帰ってからいくらでも払って差し上げますわよ!」

「絶対に払って貰うからね!」

「貴族に二言はなくてよ!」


 一番質素なのは、カエルなのだが恍惚と机の影で水浴びをしていた。

 文句が出なかった分、誰かに気付かれもしなかったが。


 さあ、腹ごしらえもそこそこに最後の関門である山登りが始まる。

あと少しでラストです。

もうひと頑張り!

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