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君姿ーkimisugataー

作者: 香月雪音

久しぶりの投稿!


読み返して、いいなって思う作品があったので、これにしました。

やっぱり自分の話より、人の恋バナのほうがわくわくするので!


では、お楽しみください♪

心臓の音が、誰かに聞こえないか。

わけもなく不安になる。



今日は、我がざき放送部の大仕事、 番組制作のための日。


番組は、秋の文化祭で放映される。


毎年みんな力を入れている番組制作。

これは、放送部をいい意味で「すごい」と言わせしめる唯一の武器。


・・・うちの部活、弱いから。

地区大会さえ勝ち抜けないような、弱小放送部。



そんな部活の部長である私、田宮たみや はなが、今立っているのは、体育館の入り口。

体育館では、男子バスケ部が練習中だ。


男バスは、今年の高体連で、見事に全国大会出場を果たした。

地元のテレビ局でも報道されている。


2回戦で敗退しているが、なかなか見応えのある試合だったと。


そこに目をつけたのが、うちの放送部の香月かつき 雪音ゆきね立花たちばな 涼花すずかだ。



『今年の番組は、全国大会出場の男バスのドキュメンタリーにしよう』

『男バスは、人気もあるし』

『絶対盛り上がるよ』



その熱意に押され、放送部のみんなも承諾。

で、私は、この体育館で、男バス相手にインタビューをするはめになったってワケ。



「さぁ、華ぁ。やってみせなよぉ」

横でニヤニヤしてる雪音。


「早くぅ」

同じくにやつきながら急かす、涼花。




こいつら・・・絶対おもしろがってる。









雪音と涼花が、こんなにも、にやけてるワケ。





その理由って言うのは・・・



「おい、ドリブルは必要以上に焦るなって言っただろうが!」



大きな声で後輩を指導しているあいつ。

バスケのユニフォームが誰より似合うあいつ。



同じクラスの野宮のみや 誓司ちかしだ。

ちかい、つかさどる”と書いて、ちかし。


めずらしい読み方だけど、素敵な名前だ。



その誓司は、バスケ部のエース。

顔はそんなにかっこよくないのに、バスケにいそしむ姿は誰より男らしい。



そして・・・






あいつは、現在進行中で、私の片想いの相手。





私の静かな片想いは、2年生に入ったばかりの4月に始まった。




同じクラスになって。

同じ班になって。




隣の席は誰だろうとドキドキしていたら、声が落ちてきた。






『お、田宮じゃん』




特徴的な短髪に、快活な笑顔も一緒に。





『田宮と1年間一緒かぁ』


にかっと笑って、誓司が呟いた。


『超嬉しいぜ!絶対楽しくなるからな!』





・・・・なんてバカなヤツだろうと思った。

こんな、なんの取り柄もない私に、何を期待しているのか、と。




でも。





その誓司のバカさ加減に、心が揺れたのも事実だった。




バスケのコートの中を走り回る誓司。


その背中には、大きく華やかに“HANOZAKI”の文字。

そして、背番号の7。



どうしても目で追ってしまう。

もう見慣れた背中。



どうしても真正面から向き合えなくて、つい見慣れてしまった精悍な背中。






汗を流しながら駆ける誓司を、私は言葉の無いまま、見つめる。




誓司を見てると、体温が上がっていく。

恋の不思議な発熱反応。





そうこうしていると、バスケ部で一番女子に人気がある岡田おかだがこっちに来た。



「えー、何?撮影?」

「そう。ちょっと撮らせて」


この体温の上昇を悟られていないか、どぎまぎしながら答える。



「うん、全然いいんだけどさ、どんなの撮るの?」

「えーっとね・・・」



どう説明しようか、ちょっと困った。



「男バスのドキュメンタリードラマ」



言ってから、少しまた体温が上がった。




「練習中の様子とか、撮らせてほしい。あと、インタビューとかも」



その瞬間、岡田の顔が輝いた。



「それなら、がんがん撮っていけよ!俺たちの格好いいところ、撮りまくって、見せまくって・・・」

「おい、このアホ。ふざけるな」



冷静な突っ込みが入ってきた。




その声の持ち主は、間違えるはずもない。


「誓司・・・」

「よ、田宮。何だ、香月に立花もいるのか。悪りぃが、ここはテニス部じゃねえぞ」



にへらっと笑う誓司。

軽口を叩きながらも、その表情に悪意はない。


テニス部、っていうのは、そのまま男子テニス部所属の2人の同級生を指している。

灰原はいばら 弘毅こうきに、郷田ごうだ 健一けんいち

ダブルスでペアを組む2人は、それぞれ雪音と涼花の想い人。


あ、雪音と灰原は、ちゃんと恋人同士に昇格した。

それなりに、カレカノらしくがんばっているらしい。





誓司と私が仲良くなったのも、たぶん、雪音たちが原因。



誓司は、灰原のクラスメイトで。

灰原は、雪音の恋の相手で。

雪音は、私の部活仲間で。




しゃべる機会は、それなりにあった。




“友達の好きな人の友達”

ただそれだけだったのに・・・




ぎゅっと胸の奥が痛む。


その痛みに気づかず、雪音と涼花は誓司に向かって笑いかける。




「今日は、放送部として来たのよ。弘毅の恋人としてじゃないわ」

「それに、あたしにはテニス部の彼氏なんていませーん」



雪音と涼花の苦笑に、また誓司は笑う。


「はいはい、分かりました。で、撮影だっけ?」

「う、うん。ちょっと練習風景撮らせて」



胸の鼓動が早くなる。



「じゃ、まずは俺の美しすぎるダンクシュートから・・・」

「あ、このアホは撮らなくていいから」

「おい!誓司ぃ・・・!」



半泣きの岡田に対し、軽やかに笑いながら、誓司はコートに向かって呼びかける。


「よっしゃ、お前ら!最高のバスケ、放送部に見せつけてやれ!」



カメラ担当は、私。

インタビュー担当は、雪音。

音声担当は、涼花。



かっちりと担当の役割を決めた上で、バスケ部の面々に声をかける。



「じゃ、撮影開始しまーす!」





『突っ込んでいけー!』

『おい、フリースロー、フリースロー!』

『スピードあげてけよー!』




「さすが、全国大会出場チーム。練習にも熱が入っていますね」



マイクを持った雪音が、コメントを入れていく。




選手たちをアップにしていく。

画面に映し出される、必死な姿。








まるで命を懸けるみたいに、ボールを投げ、打ちつけ、走り抜く。



汗にまみれ、声をからし、それでも追いかける。

ただ一つ、勝利という名の光を。







私たちの使命を実感した。






一瞬の、輝く光をのこすこと。

誰かの懸命さを、ここに映し出すこと。



そして・・・他の誰かに伝えること。








カメラの画面に映し出される、バスケ部たちの姿。

その中で、絶対に見失うことのない、雄々しい背中。



(・・・誓司)



その姿が、心に突き刺さる。







バスケに対して、限りなくひたむきな姿。






勉強はおろそかにするくせに、 放課後になると、真っ先に体育館に走る。


私のことなんか、振り向きもしないで。




悔しくなかったかと言われれば、悔しい。

悔しかったし、淋しかったし、面白くなかった。



でも、今は思う。

彼の好きなものを好きになりたい、って。





灰原は、いつもテニスに励んでいる。

放課後は、誰より早くテニスコートに行き、何度も、何度も、素振りの練習。

朝にも、昼休みにも、その姿はある。



時には、大事な試合のせいで、雪音のわがままに付き合えない日だってある。



だけど、雪音は怒らない。

少しふくれっ面を見せるだけ。


そして、「結果出してこないと、怒るから」と、灰原の額を小突く。



それはたぶん・・・ほんとに、灰原のことを考えてのこと。




好きな人の好きなものを、好きになること。

それは、時にひどく難しい。



でも、成し遂げられるということは、それほどの深い想いがあってこそ。



私も・・・誓司のこと・・・ほんとの意味で好きになっていけてる・・・?





「よし、1回カットしよっか」


雪音の指示で、映像はいったんカット。


次は、インタビュー。

これこそ、放送部の腕の見せ所。



いかに、相手を相手らしく撮るか。

その手腕を発揮する最大のチャンスだ。




「じゃ、頼むかな」


雪音は、何気なさそうに、岡田を呼ぶ。


「岡田クン、誰がこのチームのエースなの?」

「エース?そりゃ、分かりきってるだろ。もちろんこの岡田 智也ともやサマ・・・」

「却下」

「すげねえなぁ、香月は・・・」


雪音の冷淡な態度に、岡田は眉をしかめる


「んー、まあ、誓司だろうなぁ、やっぱり。県の強化選手にも選ばれてたし」



岡田のコトバに、つい身を乗り出す。



「け、県の強化選手・・・!?」

「あぁ、うん。でも、断ってたし」

「何で・・・」

「うーん、何かよく分かんねえけど、学校での活動を優先したいからって。せっかくのチャンスだったのになぁ」



惜しそうな顔の岡田。


・・・知らなかった。

彼のそんな強さ。

そんな・・・秘密・・・。




「誓司ぃ、インタビュー」


岡田が、誓司に声をかける。


流れる汗をぬぐいながら、こちらへやってくる誓司の強い眼差し。



強い・・・光・・・





単純なバスケバカだと思っていた。

でも・・・もしかしたら・・・



誓司は、それだけの人じゃないかもしれない。




「えー、俺ー?」

「お願い!放送部を救うと思って!」



涼花が、誓司を拝み倒す。



「・・・仕方ないな」



ため息交じりに誓司が答えた。




「誰を見りゃいいんだ?」

「一応、最初は私を。自然に目をそらしてもかまわないけど」



雪音が説明すると、誓司はほっとしたようにうなずいた。



「分かった」










「3,2,1,アクション!」


        ・

        ・

        ・



「今回の高体連で、全国大会に出場した男子バスケットボール部。その中でも先鋭と言われる、野々宮誓司選手にお話を伺いました」




雪音のアナウンス。

いい声だ。





「県の強化選手に選ばれたそうですが」

「努力が認められるのは嬉しいです」

「でも、辞退なさった」

「この学校でやるバスケが好きで。それが僕にとってのバスケです」



格好つけちゃって。

いつもは『僕』なんて言わないくせに。




「なるほど。自分のバスケの形を追っていると」




雪音が食らいついた。

インタビュアとしての性だろうか。



【僕にとってのバスケ】



このセリフは鍵になる。





「格好良く言えばそうなんですけどね。単純に、部活に手を抜くと、軽蔑されるってことです」

「軽蔑。誰にでしょうか?」




雪音の目がきらっとした。

誓司の口元がふいに優しく緩む。



「大切な人にです」




心臓が、どくんと音を立てた。



「大切な・・・人ですか?」

「あ、これ、放送されるんだっけ」


急に誓司が目を丸くした。

意識しての言葉じゃなかったらしい。


雪音はちょっと笑った。



「まあ、カットするよ」

「じゃ、一瞬の幻と言うことで。・・・俺には、好きなヤツがいる」




今日はずいぶん、新しい君に会う日。

びっくりするようなことばかり知る日。


   

「そいつは、すっげえ頑張り屋だから、俺が力抜いたら絶対軽蔑する」




頑張り屋?


・・・そういう人が好きなの?

私とは正反対なのね。




   

「俺ががんばれるのは、バスケだけだって知ってるから、あいつ」





あなたにそんなに大切な人がいたの?

そんなに近いところにいる人が?




・・・誰のことを言ってるの。



腹立たしいのか、それとも悲しいのか。

自分の気持ちが、全然分からない。



でも、しなきゃいけないことは分かってる。

ただ、放送部員として、誓司を撮ること。



その使命を全うするのみ。



あたしのことを言ってるなんて。

そんな甘ったるいこと、思わない。


くだらない幻影だって知ってるから。

それくらい、分かるから。






でも、誓司が好き。

誓司の好きなバスケが好き。



だから、撮るの。

あなたの輝く姿を。





それは、あたしにとって、 何より揺るぎない確かな真実だから。





放送部員としてでなく、ただの田宮華として見つけた真実。



それを守り抜くことが、あたしの恋。

大切なあたしの恋。





・・・・・・・・・・・・・・・・・ズームする。

アップになる、誓司の生真面目な表情。



好き。

誰にも気づかれなくても、叶わなくても、あなたが好き。





想いを込めて、カメラに触れる。


君の姿を映すために。





君を想って。






いかがでしたか?


いいですよね、バスケ。

私は、テニスのほうが好きですが(笑)


ま、幸せそうでよかったです。


続編もお楽しみに♪

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